エピローグ
車窓から見える緑豊かな田舎の風景よりも、亜理沙の興味は窓際の簡易テーブルに広げた弁当にのみ集中していた。
「おいしそー、やっぱ旅の醍醐味といえば駅弁だよねー」
誰に言うでもなく呟き、おかずの煮物に箸を伸ばそうとしたとき、亜理沙のスマホから鳥の鳴き声が聞こえた。亜理沙が気に入って設定しているLINEの通知音だ。
いそいそとバッグからスマホを取り出すが、相手を確認した途端、がっかりした様子で溜め息を吐く。
メッセージを送ってきたのは亜理沙が期待した人ではなく、母の美沙。今どの辺りにいるのか、迷ってはいないかと、娘の一人旅を心配する内容だった。
面倒だが、亜理沙には去年の夏休みに置き手紙一つ残して飛び出した前科がある。あのときはスマホをサイレントモードにしたままで、着信を確かめる余裕もなかったため、相当に気を揉ませてしまったようで、自宅に戻るなり泣かれてしまった。億劫でも既読スルーというわけにはいかず、渋々ながら返信する。
改めて弁当に箸を伸ばし、舌鼓を打ち始めたところで、再び鳴った通知音。
今度は画面を見るなり目を輝かせ、箸をくわえたまま猛スピードで指先を走らせた。
その後も、亜理沙は弁当を食べつつ同時にLINEのやり取りを続けた。器用なものである。
電車から乗り換えたバスの車内でも、嬉々としてスマホをいじりっぱなし。あわや乗り過ごすところだった。
「降ります! 降りまーす!」
亜理沙は大慌てで叫びながら乗降口に走って、運転手に注意されてしまい、ばつが悪そうに謝りながら目的地のバス停に降り立つ。
すると、
「亜理沙さん!」
つい先程までLINEでメッセージを送り合っていた相手が、満面の笑みで亜理沙を待ちかまえていた。
「フィリー!」
嬉しさを抑えきれずフィリーに飛びつき、彼女の身体を軸にグルリと一回転。
「家にいたんじゃなかったの?」
「亜理沙さんを驚かせたくて、走ってきちゃいました」
二人はしばらく抱き合ったままで幸せそうに語らい、それから、緩やかに指を絡めて手を繋ぎ自然あふれる田舎道を歩き始めた。




