再会
高校に入学して最初の夏休みがやってきた。
亜理沙はクーラーをガンガンきかせた部屋でほとんど下着に近い格好をして寝そべり、アイスをかじりつつ、友人たちとLINEでお喋りに没頭していた。
とりたてて意味のない、どうでもいいような話で盛り上がる亜理沙の傍に、掃除機を持った母・美沙がやってくる。
「だらしないわねぇ、いくら暑いからって」
呆れ果てる美沙の言葉にも、亜理沙は全く動じず、ひたすらスマホをいじっている。
「小さい頃はあんなに素直でおとなしくて可愛い子だったのに、なんでこうなっちゃったのかしら」
「うるさいなぁ」
亜理沙は食べ終えたアイスの棒を部屋の隅のゴミ箱に向かって投げるが、縁に当たって跳ね返り、床に落ちてしまった。
「ゴミくらいちゃんと捨てなさい!」
母の叱責も聞こえないふり。図々しくなったものである。
「まったくもう、羽奈ちゃんが遊びにくるっていうのに、こんなんじゃ愛想つかされちゃうわよ」
ぼやきながら、美沙は落ちたアイスの棒を拾いゴミ箱に捨てる。
「今、なんて言った!?」
亜理沙はコメツキムシのごとく跳ね起き、美沙に詰め寄る。
「あら? 言ってなかったかしら。羽奈ちゃん、覚えてる? 昔、遊びに行ったでしょ。今年はうちに遊びに来るって……」
「覚えてるよ! ってか聞いてないし!」
幼稚園最後の夏休みに出会った少女、羽奈。忘れるわけがない。何せ亜理沙の初恋の相手なのだから。
あれ以来、機会がなくて会えないまま、およそ十年の時が流れた。
その羽奈が、亜理沙の家にやってくる──
「いつ!? いつ来るの!?」
「今日」
「マジで!? やっべ、何も準備してない!」
「何を準備するのよ」
「いろいろ!」
羽奈にまた会えると思うと、ソワソワしてとてもじっとしていられない。
美沙から到着予定の時刻を聞き出してみれば、あと十五分ほどで最寄りのバス停に着くはずだという。大急ぎで服を着て髪も整え、メイクもばっちりで外へ飛び出した。
バス停で今か今かと待ちかまえながら、亜理沙は妄想にふける。
羽奈はいったいどんなふうに成長しているだろうか。
子供の頃のボーイッシュな印象のまま、王子様のようなイケメン女子になっているかもしれない。凛々しくも美しいクールビューティーになっているかもしれない。
羽奈が乗っているはずのバスが到着し、乗降口が開く。
たとえどんな姿になっていても、羽奈だとわかる自信がある。
一人、二人、乗客が降りてくる。
違う。羽奈じゃない。
三人目。
白いノースリーブのフリルブラウス。淡い色合いの花柄スカートの裾にもフリルがたっぷり。二つ分けに結わえたカフェオレ色の長い髪を揺らし、飴色の瞳で亜理沙を見て、その少女は微笑んだ。
間違いない。羽奈だ。
「ガーリッシュ! 予想外! でも嬉しい誤算!!」
──メチャクチャ可愛くなってるーっ!!
頂点まで上がりきったテンションをなんとか抑え込み、羽奈に向き直る。
「羽奈ちゃん」
良い意味で変貌した姿に取り乱した照れくささを隠して呼び掛け、羽奈の第一声を待つ。
「お久しぶりです、亜理沙さん」
「え?」
──亜理沙“さん”?