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第4話 動き出す

 東京の千代田区。

そこにある雑居ビルの一室に、雪路は居た。



「では、雪路君への説明は終わったので、次は皆さんの進捗しんちょくうかがいますね。皆さん、仕鬼神は強くなりましたか?」



 雪路が頭を抱えて悩んでいる中、不健康そうな前田は本来の目的に話を移していた。



「は~い!アタシはこの雪路をめっちゃ強くしたよ。もうそこら辺の野良鬼や雑魚プレイヤーの仕鬼神は相手にならないね!」



未来は元気良くセンベイを食べながら言った。

センベイは半分に減っている。



「そうですか、未来さんは順調そうですね。そのまま雪路君を大切に育ててください。何かあればすぐに私へ連絡を。地獄化まで時間はあまりありませんから、少しでも強くなっていないといけません」



「了解っす!」



未来は親指を立てて、雪路にウィンクをしながら言った。



「さて、在須ありすちゃんはどうですか?」



「殺すゾ?」



「殺せるものなら、どうぞ」



タバコを吹かしている在須は前田を睨みつけ、しばらくするとため息と煙を出した。



「仕鬼神はまだいねぇ。つーか、俺自身を自分の仕鬼神にした。俺は俺がいれば十分だ」



「はあ?また器用な事をしましたね。『自分自身』を仕鬼神に・・・。理論上は出来ますが、自分で鬼や仕鬼神と戦おうとは普通は考えませんよ。それに日常生活にも支障が出ているのでは?」



「関係ないね。むしろ血生臭い日常だ。人間の枠を超えられて、大いに役立ってる」



チンピラ風の格好をした在須はニヤつきながら言った。



「ニュースとかにならないで下さいよ?」



「そりゃ約束できんなぁ」



在須はそう不敵に笑った。



「・・・。では、皆川さんはどうですか?」



前田は、怪しい本を睨みつけて読んでいる皆川に話を振った。



「・・・私か。一応、仕鬼神は仲間にした。・・・が、少々問題もある」



皆川は本を置くと、ケータイを取り出して操作を始めた。



「・・・こいつなんだが―」



皆川のケータイから光と共に、1人の仕鬼神が現れた。






 まばゆい光と共に現れた仕鬼神は、古風なはかまを着たの女の子だった。なぜか頭には獣の耳を付け、臀部でんぶにはフワフワの尻尾を生やしていた。



「ふっふっふ。やっとワチを呼んだか!遅い、遅すぎるぞ!!」



出てきたヘンテコな仕鬼神はテーブルの上に乗り、ポーズを決めながら喋り始めた。



「だがっ!主役は遅れて登場するもの。ならば、いたかたない」



出てきた仕鬼神を、前田や在須は不審な目で見つめ、未来は目を輝かして見つめた。

そして、主の皆川は恥ずかしそうに目頭を抑えていた。



周囲が沈黙していると、袴のヘンテコな仕鬼神は咳払いをすると叫び出した。



「やあーやあーやあー!我こそは、宇迦之御魂神うかのみたまのかみであるぞ!!こうべれよ人間の子らよ。ワチがあの宇迦之御魂神うかのみたまのかみじゃぞ!!はっはっはあ!サインが欲しいなら事務所を通せ!!」



高らかに笑う仕鬼神に、周りの者は生暖かい視線を送った。



「いや、誰だよっ!」



未来は思わずそう言った。



「えっ!?ワチだよワチ!宇迦之御魂神うかのみたまのかみ様だよ!?」



「誰だよ!?」



未来の突っ込みに、宇迦之御魂神はずっこけた。



「いやいや!ワチを知らないとか!みんなのアイドルなんですけど?」



「知らない知らない」



「しらねぇな~」



「あ~、僕も知らないです」



「・・・はぁ~」



一同は宇迦之御魂神にそう冷たく言い放ち、皆川は大きなため息をついた。



「あ、ありえん!ワチを知らない!?まさか、そんな事が・・・」



ワナワナと震える宇迦之御魂神に、不健康そうな前田は言った。



「あー、私は知ってますよ。宇迦之御魂神さまを―」



「本当か!?ほれ見ろ、このすっとこどっこい共!知っている者が居るではないか。というか、知らない奴が世間知らずというか、情報弱者というか。ワチの事知らなくて恥ずかしくないの?ねぇ、恥ずかしくないのぉ!?」



宇迦之御魂神は前田の発言で、また元気になった。が―



「ちょっとよろしいですか。私の知る『宇迦之御魂神』は、貴女あなたのような容姿でもなければ、そのような態度を取るお方でもありません。自称・宇迦之御魂神、あまり虚言きょげんを言うのは罰当たりですよ。今すぐに、発言を取り消し、天に向かって深く謝罪をオススメします」



前田は冷静に、テーブルの上ではしゃぐ自称・宇迦之御魂神に言った。



「な、な、なんだってー!?ワチが偽者というか!・・・あかん、こりゃあかんは。どいつもこいつも、ボンクラばっかりや・・・。あー、これワチの力を見せ付けるしかないわ~、見せ付けちゃうしかないわ~」



宇迦之御魂神は顔に汗をかきながらも、強気な態度でそう言った。

そしておもむろに、手を動かし始めた。



「・・・あっ!おいやめろ!」



何かに気が付いた、主である皆川は、宇迦之御魂神を止めようとした。



しかし、時すでに遅く、宇迦之御魂神の手から眩い光が煌々(こうこう)と輝く。



すぐに前田はその莫大なエネルギーに気付き身構える。


在須はその巨大な力に驚いて、サングラスが斜めになった。


未来と雪路は、あまりの眩しさに目を瞑るしかなかった。



そして、皆川は儚い笑みを浮かべながら、諦めていた。






 眩しい光がおさまると、テーブルの上に居る頭に獣の耳を付け、臀部に尻尾を付けた、古風な袴を着た仕鬼神は満足そうにしていた。



「どうじゃ!」



そう言って、自称・宇迦之御魂神はてのひらに乗る、一貫いっかんの『イナリ寿司』を皆に見せ付けた。



未来と雪路はただ唖然とし、在須は馬鹿馬鹿しいと言わんばかりにサングラスを直しタバコを吸い始めた。



『ゴトン!!』



―と、ヘンテコリンな仕鬼神の主である皆川が、テーブルへ頭から豪快にした。



「ちょ、皆川さん大丈夫!?」



「・・・うぐぅ~・・・」



そして、不健康そうな前田が今度はワナワナと震えていた。



「ま、まさか!」



「どうしたんですか前田さん」



「まさか!なにもない『無」から、イナリ寿司を作り出すなんて!?そんな力が・・・。まさか、本当に『宇迦之御魂神うかのみたまのかみ』さまだと言うのですか!」



前田は尻餅を付いて、テーブルで自慢げにイナリ寿司を掲げる『宇迦之御魂神うかのみたまのかみ』に聞いた。



「そうである!はっはっは!」



「『無』から『有』を作るなんて・・・。宇宙創造レベルの力で、イナリ寿司を創造するとは。なんて無駄に壮大で無駄に凄い無駄な事を・・・。やはりあなたは―」



前田が驚愕していると、突っ伏していた皆川が弱弱しく頭を上げた。



「・・・あ、あれほど、イナリ寿司を生成するなと言っていたのに・・・。私に物凄く負担がかかると、言っているだろう・・・馬鹿野郎・・・」



皆川は消え入りそうな声で、テーブルの上で満足気な自分の仕鬼神に言った。



「案ずるな!貴様の寿命が2、30年縮んだだけだ!はっはっは」



「・・・ふ、ふざけるなよ・・・この偽女狐・・・ごはぁっ!?」

『ゴツン!!』



「み、皆川さぁーん!!」



皆川は吐血しながら、またテーブルに突っ伏した。





 

 一通り全員の進捗を確認した前田は、今日の会合をお開きにすると伝えた。



「皆さん、なかなか成長しているようで安心しました」



前田がそう言うと、皆が口々に喋り始める。



「任せてよ!バッチコーイ」



「何か色々と不安だなあ~」



未来と雪路はまったく逆の反応をする。



「けっ。油断してると死ぬぞ」



在須はタバコを吸いながら、大きな態度でそう言った。



「はっはっは!ワチはみんなのアイドルじゃからのう。イナリ寿司が食いたくなったらワチに言え!いくらでも創造してやろう!!」



「・・・ばか、やめろ!死んでしまう・・・」



元気な宇迦之御魂神と、死にそうな皆川はそう言った。



「では、今日はコレでお開きに致します。また、進捗を聞くために集まっていただきますので、皆さんはそれまで、より強くたくましくなってください」



前田はそう言うと、全員立ち上がり部屋を出て行った。






 一人一人部屋を出て行くなか、最後に部屋を出ようとした雪路はある事に気が付いた。

センベイを食べていたのは、たしか未来だけだった。

だが、テーブルにあるセンベイはもう2枚しかなかった。



明らかにセンベイの数が、未来が食べたよりも少なくなっていた。



「あれ、センベイが異様に少ないような・・・」



雪路がそう思ったとき、何処からとも無く小さな手が現れ、センベイを1枚取った。



「え?」



雪路が気が付くと、ソファにはいつの間にか『おかっぱに和服姿の少女』が座ってセンベイを食べていた。



「ま、前田さん!見知らぬ少女が・・・センベイを食べてる!?」



「えっ!?・・・。ああ、気にしないで下さい。彼女も貴方と同じ『仕鬼神』です。同じ仲間ですから・・・」



前田は眉間にシワを寄せながら、雪路に言った。



「仲間ですか・・・。前田さんの仕鬼神ですか?」



「・・・。そんなとろこです」



間を空けて前田は答えた。

雪路は何か引っかかる感じがしたが、おいしそうにセンベイを食べる仕鬼神の少女が、害を成す者には見えなかった。



「・・・じゃあ、僕も未来と買い物いかなくちゃいけないので。それじゃまた」



「ええ、未来さんをよろしくお願いいたします。彼女はあまり強くないですから。守って上げて下さい」



「はい」






雪路が部屋を出て行くと、少女がセンベイを食べる音だけが響いた。



『バリバリ、ボリボリ』



不健康そうな前田が、頭を掻きながらテーブルに向かって喋った。



「この仕鬼神がいると言う事は・・・。団長、いつからそこに居たんですか?」



すると大きなテーブルの下から、黒尽くめ男が颯爽さっそうと姿を現した。



「さすがだな、俺様の存在に気付くとは。感じるんだな・・・“サムシングのエルス”を―」



黒尽くめの男は含みのある言い方をしながら、ソファでセンベイを食べる少女の隣に座った。



「いや全然感じません。団長は、いつからテーブルの下にいたんですか?」



「昨日の《夜》からだ。みんなを驚かせようと思ってな。だが、しかし―」



黒尽くめの団長は、天を仰ぎ、悲痛な顔をしながら呟いた。



「―いつの間にか・・・“寝てた”。気が付いたら出て行くタイミングを逃してな。どうしようっかなぁ~って思ってたら、終わっちゃった・・・」



団長を無視して前田は帰り支度を済ませると、1人で黄昏たそがれている黒尽くめの団長を置いて部屋を出て行った。



部屋には、センベイを食べる和服の少女と黒尽くめの怪しい男だけになり、ただセンベイを食べる音だけが響く。



『バリバリ』



「フフっ、計画通りに事は進んでいる。だが、今のままでは『地獄』では生き残れないぞ諸君。もっと強く成れ、もっと残酷に成れ!地獄とはそう言う所だ―。フフ、フハハハハハ!アーハッハッハッハァ!」



『ぼりぼり』



「ハァーハッハッハッハ!一体、何人が俺様のいきまで辿り着けるか―。待っているぞ諸君!!だが『鬼』と戦う者は、その過程で自分自身も『鬼』になってしまう事に気をつけなければならない!気をつけろ諸君、いまも深淵に覗かれているぞ、ウハハハハハハハ!!」



「うるさい」



センベイを食べるおかっぱ頭の和服姿の少女は、黒尽くめの男に冷たくそう言った。



「あ、ごめん」



『バリバリ』







 千代田区での会合の翌朝。



 未来と雪路はいつも通りに朝の情報番組を見ていた。



『痛ましい事件が起きてしまいました。警察によりますと昨日、夜8時ごろに新宿駅周辺で通り魔による連続殺傷事件が発生し――』



 テレビには沢山の警察や野次馬、生々しい血痕けっこんの跡、進入禁止のテープに何台ものパトカー

が映し出されていた。



『現在、身元が分かっている被害者は以上です―』



ニュース原稿を淡々と読むキャスターと、映し出される見覚えのある顔。



『前田賢治さん、23歳―』



未来と雪路は、写真でも不健康そうな前田の顔を見ながら、固まった。












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