第2話 ゾンビとして
意識のハッキリした雪路に、少女は嬉しそうに驚いていた。
「すごい!意思疎通できるの?」
雪路は嬉しそうにする少女を背中に担ぎ、とりあえず半裸のバケモノへの馬乗りをやめる。
少女の重さは感じられず、簡単に立ち上がる事が出来た。
雪路は改めて自身の体と観察した。
腕や足、体中に包帯が巻かれている。
その包帯の上に、S高校の制服を身に纏っている。
顔を摩ると、目と口以外の部分に包帯が巻かれているのが分かった。
「一体・・・何が起こってるんだ?・・・僕は死んだはずじゃ?」
雪路がそう呟くと、背中に抱きついている少女が答えた。
「死んでるよ。あなたは『ゾンビ』で私の『仕鬼神』!」
雪路が少女の家へ着くと、色々と話してくれた。
自分は死んだ後、『仕鬼神システム』というケータイアプリで『ゾンビ』として使役されたらしい。
そして、今まで少女の『仕鬼神』としてバケモノ相手に戦っていた。
「ねぇ!『あ~』とか『う~』とか言ってる時も、アタシの声は聞こえてたの?」
雪路は自分の主である少女の部屋で、話しかけられた。
その部屋は、アイドルのポスターが張ってあったり、可愛らしい人形が置いてあったり、お洒落な家具が置いてある部屋だった。
欠点を言えば、少々ゴミなどが散乱しており、汚い事ぐらいだろう。
「うっすらと、声は聞こえてた。姿も、ボンヤリだけど見覚えあるかも・・・」
雪路はそう、少女に言った。
「そうなんだ~。じゃあレベルアップして、より精神が強化された結果、人間っぽくなったんだね!」
主である少女は、嬉しそうに言った。
彼女は幼く、雪路より年下に見えた。
肩まで伸びた黒髪、活発そうな喋り方、学校指定と思われる制服を着ていた。
よくて中学生、下手をすれば指定制服がある私立の小学生かもしれない。
「レベル・・・アップ?ゲームの話でもしてるの?」
「そうそう!『仕鬼神システム』ってケータイゲーム。これで『鬼』を捕まえて、戦わせたり、ペットみたいに飼ったりするゲーム。さっき言ったじゃん」
少女はそう言いながら、馴れ馴れしく雪路の頭を叩いた。
「うお!?」
すると雪路の目玉が、ポロッと落ちた。
「あーごめんごめん!」
「えぇ~っ!!」
雪路は自分の目玉が落ちたことに物凄く驚いた。
が、少女は慣れた手付きで目玉を拾うと、包帯が巻かれた雪路の顔にある穴に目玉を入れた。
「はい、これで良し!」
「いやいやいや!!おかしいおかしい!落ちたよ!今、目玉が落ちたよ!!」
「いっつも落としてるから、大丈夫だって。『ゾンビ』なんだから普通じゃん?」
「ええ~っ!!」
少女の名前は、『兵藤未来』。
父親は仕事が忙しく、あまり家には帰って来ず。
母親も仕事で、いつも帰りが遅かった。
別段、金持ちというわけでは無いが、両親が共働きのため、不自由の無い生活を送っている。
通っているのは私立の中学校。もちろん塾にも行っている。
ほしいと言えば何でも買ってもらえるが、家族との時間だけは無理。
ごくありふれた少女の1人だった。
1ヵ月後。
雪路は、夜な夜なバケモノと戦っていた。
ゾンビである雪路の体は強靭で、痛みを感じず、筋肉の制御も箍が外れていた。
その力はコンクリートをぶち抜き、バケモノの体を容易に破壊した。
ただ、意識を取り戻した雪路は、バケモノ相手にも情けを掛けるようになっていた。
「うぅ・・・頼む、たすけて・・・」
「はあ・・・はあ・・・」
瀕死のバケモノを目の前に、佇むだけの雪路。
相手の返り血で真っ赤になった雪路に、主である未来は叫んだ。
「雪路っ!油断しないで、さっさとトドメをさして!」
「・・・でも」
そんな情け深い雪路に、瀕死だったバケモノは好機とばかりに喉元に噛み付いた。
「うお!?」
「言わんこっちゃ無い!」
バケモノは雪路の喉元を噛み千切ろうと暴れる。
雪路はすぐにバケモノの頭を両手で鷲掴みにすると、力の限り握りつぶそうとした。
辺りに破裂音と血しぶきが広がり、雪路に大量の血液が付着する。
「はあ・・・」
血が体に染み込んで行くのがわかった。
雪路の体に力が沸いてくる。
より強靭に、より力強くなったと感じる。
「ここ1ヵ月、あぶなっかしい戦いばっかり。雪路、アンタ強くなってんのか弱くなったのか、よく分かんないわね?」
「・・・なんで、こんな事してるの、未来」
雪路は頭のないバケモノの死体を見ながら、未来に聞いた。
「はあ?なんでって、そういうゲームだからでしょ」
「・・・ゲーム」
「まあ、アタシも最初はグロくてキモかったけど。でも慣れたら平気だし、その内楽しくなるって!」
「・・・」
「どうしたのよ?」
「・・・そんな幼稚な考えで、僕にこんな事を―」
雪路が全て言う前に、未来は指を立てて話を遮った。
「あっ!もしかして、雪路はアタシが『鬼』を倒すのが楽しくてこんな事してると思ってんの?」
「違うの?」
「まさか!そこらのストレス発散のためのプレイヤーと一緒にしないでよ。ちゃんとおっきい目標があるってば」
未来は嬉しそうに言った。
「目標?」
「そう!アタシはね、東京の『地獄門』を開いて、東京を地獄にする事が目標なの!」
少女はまるで夢を語るように、雪路にそう言った。