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第十三魔導武装学院  作者: 黒姫
第一章 学内順位戦編
9/35

刹那と兄達

登場人物紹介


黒神刹那くろがみ せつな

 黒髪の青年で戦闘能力は高いが、魔法を数回放っただけで倒れるほど魔法適性値が低い。心優しく優柔不断な面と残忍でさっぱりとした面を併せ持つ二重人格者。八型一刀流の使い手だが、戦闘で中途半端に優しさを出すからよく負けてしまう。


ティア

 蒼白の髪の少女で刹那の妹。魔導研究所出身で研究所閉鎖の際に刹那のおかげで黒神家の養子として引き取られた。無口で何を考えてるのか分からない不思議ちゃん。常に自分の事を気に掛けてくれる刹那の事が好きで、積極的にアピールしているがいつも刹那に誤魔化されている


ステラ・スカーレット

 紅い髪の女の子で元一校のエリート。少々意地っ張りでツンデレ。自分の気持ちに素直になれないことに対して自分でも悩んでいる


小桜風香こさくら ふうか

 緑髪のお姉さん、元七校の風紀委員長であり、真面目で礼儀正しいのだが、基本的な問題解決方法が武力的なのが玉に瑕。


白神琥珀しらがみ こはく

 白髪の少女で刹那の幼なじみでティアと同い年。刹那と同じく八型一刀流の使い手。心優しく謙虚で小動物を彷彿させるような少女。刹那に対して強い憧れと恋愛感情を抱いているが、謙虚さが仇となっている。


黄瀬隼斗きせ はやと

 刹那のクラスメイト。元十二校で自称情報屋。VRゲームで鍛えた反射神経で二丁拳銃を使いこなし、また魔法による後方支援も得意としている。明るく軽い性格なのだが、厄介事によく巻き込まれる体質で苦労人。


ギルバート・エストレア

 金髪の刹那のクラスメイトで元四校出身。無愛想な性格で実力主義者。昔の事件で失った親友のことを今でも悔やんでおり、二度と同じことを繰り返さない為に強さを求めている。


鈴鹿藍すずか あい

 紺色の髪をした刹那のクラスメイト。謎が多い青年。女の子っぽい自分の名前に悩みを持っている。


碧川海翔みどりかわ かいと

 青髪の青年。元二校の生徒会副会長で実力主義者。相手を見下したような言動が多く、弱者が強者に虐げられる事を当然だと思っているが、その代わり強者が弱者を庇護するべきだと思っている


蒼崎凛あおざき りん

 蒼髪のお姉さん。元二校の生徒会長で刹那と海翔の先輩。天性の治癒能力を持っている。喋り方が独特で誰に対しても老人口調で話す。可愛いモノ好きで可愛いモノを見掛けると愛でたがる。


沢木境さわき きょう

 眼鏡をかけた真面目そうな紫髪のお姉さん。元二校の生徒会書記で戦闘歩法の縮地しゅくちを極めており、瞬間移動を基点とした高速戦闘が得意。凛の命令を絶対としている。


桃井芽愛ももい めあ

 ピンク髪の女の子。元一校出身で現代で希少な魔法使いで明るく元気な性格でドジっ子。一人ではしっかりと目的地まで辿り着くことができるが、集団で行動すると何故か方向音痴になる。


新規登場人物


レノンハルト・フォン・イグニス

 燃える様な赤く結われた長い髪が特徴の青年。不良校で有名な元五校の生徒会長、兼風紀委員長を務めていた。まともな仕事はしていないが、人一倍仲間を大切にする人で、五校の生徒からは尊敬の意を込めて『兄貴』と呼ばれている。


氷雨閃ひさめ せん

 氷のように蒼白い髪を持つクールなお姉さん。二校の元風紀委員長。真面目で真っ直ぐな性格であり、常に率直に物事を言う。そのせいで現実的、合理的な人だと思われがち。左腕全体に大きな火傷痕があり常に包帯を巻いて隠している。凛とは腐れ縁の仲。


アルウィン・エストレア

 ギルバートの兄。秀才で礼儀正しく、誰に対しても敬意を持って接するため、とても人望が厚い生徒。容姿はギルバートと全くそっくりだが、唯一髪型だけが違う。

「・・・」


 学長室の扉の前。刹那がここに来るのは今日で二度目だった。中には、各クラスを勝ち抜いた猛者の代表者がいる。そう考えると少し開けるのを躊躇ってしまう。


「なぁに、チンタラしてんだよ。そう気負うなって」


 不意に後ろから声を掛けられ、声を掛けた人物の顔を見ようと、振り返ると同時にドンッ!と学長室の扉が開けられる。


「ほら、まだ誰もいねぇじゃんか。さっさと入ろうぜ」

 

「うわっ!」


 そのまま肩を組まれ、一緒に中に入る。


「お前が、黒神刹那だろ?噂は聞いてるぜ」


 そして、今日どこかで聞いたようなセリフを言われて、初めて肩を組んでいる人物の顔を見る。


「そうですけど・・・」


 少し強面そうな顔立ちをした。燃えるように赤く結われた長い髪が特に印象に残る人だった。


「俺はレノンハルト。お前よりは二つほど年上だが、まぁお互い同級生として仲良くやろうぜぇ」


 同級生。聞いて不思議に思えてくる。他の魔導学校では学年はあるが十三校は別なのである。

 理由は他の学校は小中高の一貫教育になっており、魔導学校に大学など存在しなかった。政府はもっと魔導騎士の質を良くしようとし、新設された十三校は世界で初めての魔導『大学』兼『学院』なのである。だから、ここにいる生徒は年の差はあれど全員が同級生なのだ。


「あ、はい。よろしくお願いしますレノンハルトさん」


「そんなにかしこまるなって、あとレノンハルトって呼びづれぇから適当に呼んでくれ」


「え?でも・・・」


「かしこまるなっつってんだろ?」


「わかった、レノ」


 急に声のトーンを低くし、凄んで見せるレノンハルト。さすがに刹那は怖くなり咄嗟に呼び捨てをする。


「お、レノか~。その呼び方は初めてだな。うしっ!お前気に入ったぜ。これからよろしくな、刹那」


 余程、その呼び方に気に入ったのか、嬉しそうに手を差し出して来るレノ。それに応じて握手を交わすと凄い力が、握る手から伝わってくる。


「お前みたいな、強いヤツは俺は好きだぜ。なんせ2対1で勝てるヤツなんてそうはいねぇからな」


 レノは入学式の決闘の事を言っているのだろう。ほぼ全ての生徒に見られていたのだ、いまさら何故知っているのか、なんて聞きはしない。


「あれは僕の敗けだよ」


「『試合』は、な。けど『勝負』には勝った。だから俺も含め、みんなお前の事が気になってるんだよ」


「何故みんな僕の事を気にするんだ?僕なんか他の人に比べたら無名だし・・・」


「鈍いな~。だからこそだろ?無名が有名二人を打ち破った。それだけで注目を集めるとは思わないのか?」


「っう・・・」


 レノに正論を言われ、何も言い返せなくなり、言葉が詰まる。


「ははっ!強いが、少々鈍いところがたまきずだな」


「僕は・・・。僕は強くなんかない・・・」


「ほぅ。俺の見立てでは『王子』と張り合える位の実力を持っていると見ているが?」


「!!?」


「ハハっ、図星だったか?まぁ、そんな気にすんなよ。立ち姿、攻撃時の姿勢、そこら辺を見りゃ大体どれぐらいの技量なのかすぐ解るもんだ。間違いなくお前は『王子』と同等だぜ」


 どこまで本気なのか、刹那の実力を見透かしたように予想をするレノに戦慄を覚える刹那。


「ボクの事を呼んだかい?」


 と、ドアの方向から掛けられ、レノと一緒に振り向くと、そこには金髪の青年がいた。


「っと。『人を談ずれば人至り。王子談ずれば王子至り』ってか?よぉ、相変わらずだな王子」


「君も相変わらずだね。その呼び方はよしたまえと何度いったら気が済むのだね?レノンハルトくん。あとどうでも良いが。そのことわざ、間違えているよ」


「お前こそ、その呼び方はやめろつってんだろ?そっちがやめねぇなら、俺もやめねぇ。そして使い方は間違っていねぇよ。アレンジしただけだっつーの」


「君は子供かい?・・・まぁいい。この問答を続けても意味などない。ところでそちらの方は何方どなたかな?紹介してくれると助かるよ。レノン」


 青年は呆れたように折れ、フッと小さく笑って、レノンハルトの事を渾名で呼ぶ。


「おっと、そうだったな。コイツは黒神刹那。お前も名前くらいは知ってるだろ?で、刹那。コイツが・・・」


「皆まで言うな。全部君に任せてしまっては意味がないだろう?初めまして、黒神刹那くん。僕はアルウィン、アルウィン・エストレアだ。気軽にアルと呼んでくれ。これから同じ学友としてよろしく頼むよ」


 そう言ってアルウィンは、うやうやしく一礼をし、手を差し伸べてくる。そして刹那は、その顔見て一言。


「・・・ギル?」


 そう。アルウィンの顔立ち、立ち姿が全くギルと同じであり、髪型と態度を変えれば、ギルだと言われても違和感がない。


「あぁ、君はギルの事を知っているのかい?弟が世話になっているようだね。弟が何か失礼な事をしていないかい?」


「え~っと。いきなり襲われましたね・・・」


「そうか・・・。弟の無礼、本当に申し訳無かった。兄として非礼を詫びよう。でもギルの事は許してやってくれないかい?ギルはああみえても、昔はとても優しい性格だったんだ。どうか恨まないでやってほしい」


 そう言ってアルウィンは申し訳なさそうに頭を下げる。


「いえいえ、とんでもありません。恨むどころか今はチームとして一緒にいて、とても助かっていますよ」


「ほぅ、あのギルが・・・。と言うことは君は噂以上の強さと魅力があるようだね」


 刹那のその言葉を聞いて、興味津々と見つめてくるアルウィンだが・・・


「ん?ってことは、お前の弟が、刹那のチームにいるってことか?うわぁ~、めんどくせぇ~」


 レノが横槍を入れてきて、そしてレノのその漏らした言葉を聞いて少し刹那は焦った。


「あ、いや。別に一緒にチームを組んでるわけじゃなくて、その・・・」


「いいって、いいって。気にすんなよ。俺達は何も聞いちゃいないんだから。な!アル」


「レノン、さらっとボクを含めるのはやめろ。まぁ、ボクも何も聞いていない事については賛成なのだが、これでは少し不公平でもある・・・」


 少し迷ったような表情を見せるアルウィンだが、それはほんの少しの間だけだった。


「あぁ、そう言えば遅れたけど、ボクはAクラスに所属していてね。ボクも君の部隊の人達がお世話になったよ。もしに会ったら、こう伝えておいてほしい。ナイスチームワーク、と」


 刹那だけが、情報を漏らした事に些か不公平だと思ったのだろう。アルウィンは刹那に世間話をしている体を装ってわざと情報を提供する。


「えぇ、わかりました。アルウィンさんからそう言付けされたとちゃんと伝えておきます」


 その意図を汲み取った刹那は、快く返事を返す。


「ありがとう。しかし君を見ていると何故ギルが君を選んだのか、少し分かった気がするよ」


「え?」


「いや、なんでもないよ。しかし此処は興味深い物が色々置いてあるね」


 意味深な事を言ったようなアルウィンだが、すぐに辺りを見回しはじめる。


「な~。なんか専門書とか機械とか色々あるんだよな~。ん?なんだありゃ?」


 それに同調して部屋を散策しはじめるレノ。何か見つけたのか一人で部屋の奥に行く。


「レノン。他人ひとの部屋の物は勝手に触るなよ。」


「わーってるよ。お!面白そうなもん見っけた!」


 アルウィンの忠告を軽く流しながら、目を光らせて学長室の小部屋に入っていくレノ。


「あ、あはは・・・。」


「ふぅ、全く。彼も落ち着きがあれば・・・。おっと、いけない。いつもの悪い癖だ。」


 眉間に指を当てて呆れるアルウィンだが、それもすぐに止める。


「アルウィンさんはレノと昔から知り合いだったんですか?」


「ボクはさん付けで、レノンが呼び捨てなのに関して些か心外を感じるが・・・。言ったろう?アルでいいと。」


「・・・じゃあ。アルとレノは昔から知り合いだったの?」


 アルウィンにそう言われて、おそるおそる呼び方を変えて、先程と同じ質問を返す。


「そうだね、ボクとレノンは各校の代表として会う機会が何回かあってね。その時に知り合ったんだよ。その時の彼は、今と違って友好的では無かったがね。」


 と、苦笑いしつつ昔の事を話すアルウィン。


「レノンは『強きを挫き、弱きを助ける』といった性格でね。五校の校風は知ってる通り、魔導騎士の中でも不良が集まる弱肉強食な学校でね。仲間や自分を守るためには、相手にナメられたらいけないから、常に自分の強い部分しか見せなかったんだ。」


 そして、だんだん話していくうちに顔が笑っていくアルウィン。


「でも、実は彼。かなりおっちょこちょいでね。物は壊すわ、話し掛ける人は間違えるわで、初めて会った時の印象が吹き飛んでね。いや、人は見かけによらないとは、まさに彼の事だよ。」


「悪かったな、おっちょこちょいで。てかテメーも見た目と性格、大概違うだろーがよ。この変人め。」


 一通り散策が終わったのか話を聞き付け戻ってきたレノ。


「早かったね。何か面白そうな物は無かったのかい?」


「ん~、一通り見てみたが。どこの実験室にもあるようなものばかりで、あまり面白そうな物は無かったな。あったとしても多分、S級指定に入りそうな危険物ならあったが.....。」


 だから身の危険を感じ、触れずに早く帰ってきたのだろう。よく見るとレノの顔が少し冷めていた。


「なんじゃ、儂が一番乗りじゃないのかの。」


 そんなレノを横目に見てると、不意に後ろの扉が開き、聞き覚えのある声が聞こえ、扉の方を見ると、そこには凛と、もう一人見覚えのある蒼白の髪の女の子がいた。


「おい凛、仮にもここは学長室だぞ。ノックぐらいしたらどうなんだ?」


 いきなり扉を開けたレノが言えた口では無いが、その事実を知っているのは本人と刹那だけである。


「うるさいのぅ。わざわざ呼ばれたから来てやったのじゃ、お主に礼儀れいぎ云々言われるために来たのではないぞ。」 


「凛、彼の言う通りだ。礼儀以前に、生徒としてどうかと思うぞ。だいたいお前は普段から、目に余る行動が多いぞ。それに加えて.....」


 凛のレノの注意に対する態度が気に食わなかったのか、隣にいた女の子が凛をたしなめる


「分かった、分かったのじゃ!せっちゃんのお説教聞くぐらいなら、レノンの言うことを聞いた方が幾分マシなのじゃ」


 刹那は凛の隣にいる女の子を知っていた。そしてこの二人のやり取りを見て、刹那は相変わらずだと微笑ましく感じていたが、それも束の間だった。


「・・・。」


「「「?」」」


 凛を注意していた女の子が、凛の言葉を聞いたとたん話すのを止め、少しの間その場に立ち尽くし、全員で不思議に思っていると、次の瞬間には彼女は消えていた。


「っ!?。テメェ、なんのつもりだ?」


 隣を見るとそこには、彼女が左手でボディブロー

を放ち、レノがそれを右手で防いでいた。

 彼女は魔法を使わずに一瞬で、扉から中央にいるレノに向かって攻撃してきたのである。

 ノーモーションで移動してきたその脅威的な身体能力も驚くべきことだが、真に驚くべきなのは、攻撃を受け止めたレノの反応速度である。


「なに、ほんの挨拶程度さ。すまない、自己紹介が遅れたよ。氷雨ひさめせんだ。よろしく頼むよ。レノンハルト・フォン・イグニス氏。」


 そう言って殴りにいった左手を収め、右手を差し出しレノに握手を求める閃。


「・・・。」


 だが、いきなり攻撃してきた相手を警戒し、レノは閃を睨み付ける。


「さっきの攻撃はすまなかった。実力を推し測る為やった行為だったのだが、まさか寸止めで放った私の拳を受け止めるとは流石だね。」


 ニコッと笑い、敵意が無いことを示す閃。だが凛と刹那は、閃のこの手口を知っていた。


「あぁ、そうだな。相手の実力を知るには、実際に手合わせするのが一番だからな」


 レノは閃に向けていた敵意を霧散させ、ニッと笑って閃の手を握る。

 だが、レノが閃の手を握った瞬間。ガッ!と鈍い音が部屋に響き渡る。


「・・・おい、テメェいい加減にしやがれ。これはどう言い訳するつもりだ?」


 閃が右足でレノの顔にめがけて、でハイキックを当てにいってたのに対し、レノは閃のキックが、ギリギリ顔に触れるところで腕を盾にして防いでいた。


「フフッ。どうやら噂は伊達ではないようだな。改めて称賛させてもらうよ、流石だ。私の不意打ちを受け止めたのは君で3人目だよ。」


 そう言って閃は、用は済んだといった感じで足を下げ、レノから離れようとする。


「・・・待ちやがれ。こんなことしてただで済むとでも思ってるのか?。」


 だが、レノはそういう訳にはいかなかったらしい。敵意を剥き出しにし、今にも攻撃しかねない状況だった。


「レノン、やめるんだ。こんな事をしてなんの意味がある。」


「閃も、力量を測るために相手に手を出すのは、お主の悪い癖じゃ。いま直ぐに謝るのじゃ。」


 見かねたアルウィンと凛が、仲裁に入る。


「「・・・。」」


 二人との睨み合い、緊迫した状況が続いたが、この状況を打開したのは、意外にも閃からだった。


「・・・すまなかった。いや、すみませんでした。とても強いと聞いていたものだから、どうしても実力を見てみたかったんだ。急に攻撃したことは本当にごめんなさい。」


「ぁえ?。」


「ほぅ・・・。」


 そう言って、深く頭を下げて謝る閃。それを見て拍子抜けるレノと、関心するアルウィン。


「今の時代で、こうも素直に謝る人がいるとはね。良かったじゃないかレノン。ケンカにならなくて.....」


「ッチ!胸くそ悪ぃ。これじゃ、俺がやられぞんじゃねぇかよ」


 アルウィンはレノをなだめるが、一方的に攻撃されたことと、閃の潔さにレノは少々不服気味だった。


「まったく。せっちゃんのその直ぐ手が出る癖はどうにかならんもんかのぅ。カワイイお主がケガしたらどうするつもりじゃ。」


 心配するのそっちなんだ。と男子全員がつっこんでいる間に、閃が凛への返答をする


「ケガしても、どうせすぐにお前が看病だ何だと言って、セクハラしに飛んでくるだけだろう?ところで.....」


 凛へと返答したあと、レノの横にいる刹那に近づいて来る閃。そして刹那の前まで来ると左手を握りしめ、いきなり殴りかかる。

 しかし閃の拳は、刹那の顔に触れる前に止まる。

 刹那はまるで閃が絶対に当てない事を、知っているかのように身動きひとつしなかった。


「先輩、相変わらずですね。」


「君も相変わらずのようだ。急に攻撃をしているのだから、少しは驚いたらどうかな?」


「これでも十分驚いてますよ?前より止める位置が近くなっていて、正直本当に当たるのかとヒヤヒヤしましたよ。」


「嘘が下手な部分も相変わらずのようだな。まったく、私は君の驚く顔が見たいというのに.....」


 そういうと、閃は左手を下ろし。拗ねた子供のようにそっぽを向く。


「どうして、先輩は僕をいつも驚かせたがるんですか?」


 二校にいた時から、刹那はたびたび閃からイタズラされており、いちいち驚いていてはキリがなかった。今では耐性も付いてきて、大半のイタズラには全く動揺も驚きもしないと自負できる。が.....


「驚く、というよりか。君があまり動揺している姿を見ないからね。そんな人を動揺させるのは面白いじゃないか。よっと」


 そう言うと、閃は刹那の首に腕を回し、抱き付く。


「わわっ!ちょ、先輩!?」


「そうそう。その顔が見たかったんだ。君は殺気とかには強いが、こういうのには弱いからね。う~ん、それにしても、君に抱き付くと自然と落ち着くな。もうしばらく、こうさせてもらうよ。」


「うわっ!ちょっと先輩、重いですって。離れてくださいよ。」


「...彼らは何してるんだ?」


「あれだろ、人前でイチャラブするっていう嫌がらせだろ?」


「し~、人の恋路を邪魔しない方が身のためじゃぞ、アル、レノン」


 言わずにいられなくなったのか、アルウィンとレノが刹那と閃のやり取りに口を挟むが、それを凛が制する。

 そんなことを気にもせず、閃は刹那に体を預け、楽にするが。刹那は閃の全体重を支える事になり、仕方無く抱き止める事にした。


「フフッ。そう言いながら、しっかり抱き止めてくれているじゃないか。私はそんな優しい君が『好き』なんだけどな」


 好きという部分を強調し、熱い眼差しで刹那を見つめ告白する閃。恥ずかしいのか、閃の頬はほんのりと朱に染まっている。そんな閃に刹那はいつもの答えを返す。


「僕も先輩のこと、嫌い『ではない』ですよ」 


「嫌いではない、か。嫌いではないのならそれでいいかな...」


 刹那の言葉を返答を聞き、閃は少し悲しげ表情をするが、その震えるように小さく発した声は、どこか安堵が混じっていた。


「ハッハッハ!またもやフラれしまったのぅ。これで何回目じゃ、閃?」


「知っているくせに、野暮なことを聞くな、凛。私は彼に嫌われていなければ、それでいいのさ。」


 凛の茶化しに対して、気丈に振る舞って返す閃だが。


「.....すまないが、少し私は席を外さしてもらうよ。」


 そう言って、閃は先程レノが入っていた小部屋に消えていく。


「あ~あぁ、刹那がせっちゃんを泣かした~。ど~しよ~かの~?」


 いつの間に持ってたのか、凛は右手に持った鉄扇で口元を隠しながら、非難の目を刹那に向ける。


「あれって、僕が悪いんですかね?どう考えても会長が悪いですよね...。」


「何を言っておる!お主が悪いに決まっておる。閃はああ見えて傷つきやすいのじゃ。いつもいつも。どうして、お主はもっと快い回答を出すことは出来んのかのぅ?」


 いつもながらの刹那の回答に、凛はこめかみを抑え呆れるフリをし始める。


「会長は好きでもないのに、好きです。と答える方が、よっぽど非道いと思いませんか?」


「ええい、儂が言いたいのはそういうことでもないし、そんな事に論議を交わしている場合ではない!命令じゃ刹那よ、今すぐに閃をなだめてくるのじゃ!」


「振った男が行くべきではないと思うんですけど...。会長が行ったら良いじゃないですか?」


「儂はさっきイジワルな事を言ってしまったのでな、多分儂の話は耳にも貸さぬだろう。だからお主が行くのじゃ。」


 それは刹那のせいではなく、茶化した凛が悪いだろう。


「...はぁ」


 そう言いたかったが、そんなことより、閃になんて声を掛けようか考え、溜め息を吐きながら刹那は小部屋に向かう。


「彼、苦労性だね。」


「言えてるな。」


 アルウィンとレノが可哀想なものを見る目で刹那を見送る。


「ところでレノン。学院長はどこに行ったんだい?」


「あぁ?そういや、はじめっからいなかったな.....」


 ふとアルウィンが学院長がいないことに気が付き、先に来ていたレノンに聞くが、レノンもそれを知らない。


「てか、呼び出しといて本人がいない。ってどういうことだ?失礼だろ?」


「まぁまぁ、落ち着けレノン。学院長っていうのは忙しいものをなんだ。なんていったって日本初、いや世界で初の魔導学院なのだから。我々の想像が出来ない程に多忙なのだろう。」


 アルウィンは学院長がどういう立場に立っているかを考慮し、レノを納得させようとする。


「まぁ、そりゃそうだろうけどよ...。じゃあ、なんでいねぇんだ?」


「うーん、それは...」


 学長室に学長がいない理由を一緒に考えるアルウィン。


「あ、そういえば今朝、魔導協会から会議があるとか小耳に挟んだのぅ。多分それが今なのじゃろうな。」


 その話を思い出したかのように、凛がこたえる。


「あ~、成る程。そういうことか。」


 とレノが納得するのと同じく、小部屋から少し疲れた様な刹那と、目が赤くなっているがどこか満足げに笑っている閃が出てくる。


「おや、以外と早かったのぅ?せっちゃん、何をニヤニヤしておるんじゃ?」


「会長、なにも聞かないでください。」


 凛が聞いた質問を、嫌そうに返す刹那。


「ほほぅ!さてはまたもや、何らかの進展があったのかの!?何をがあったんじゃ!?何をがあったんじゃ!?」


「...別に、なんでもない。」


 目をキラキラさせ問い詰めてくる凛に、閃はそっぽを向いて、なんでもないと言う。だが、それが余計に凛の好奇心を掻き立たせる。


「嗚呼、嗚呼。ついにせっちゃんが刹那と付き合うことになろうとは、儂も嬉しいような寂しいような...。はぁ~。」


「彼女、ノリノリだね。」


「コイツわざとやってるだろ。」


 わざらしい演技をし、悪ふざけをする凛にアルウィンは苦笑いし、レノは白い目を向ける。

 そんな一同をよそに、三度みたび学長室の扉が開かれる。その人物の開け方に遠慮は一切無く、当たり前の様に入ってくる。その人物はこの部屋の主、沙織だった。

 彼女が来たとたん、一瞬のうちに先程までの穏やかな空気は霧散し、静寂だけが漂う。そして、入ってきた彼女が言った一言に、一同は驚愕する。


「お前等、全員クビだ!」


「「「!!!」」」

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