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第十三魔導武装学院  作者: 黒姫
第一章 学内順位戦編
8/35

知人との再会

登場人物紹介


黒神刹那くろがみ せつな

 黒髪の青年で戦闘能力は高いが、魔法を数回放っただけで倒れるほど魔法適性値が低い。心優しく優柔不断な面と残忍でさっぱりとした面を併せ持つ二重人格者。八型一刀流の使い手だが、戦闘で中途半端に優しさを出すからよく負けてしまう。


ティア

 蒼白の髪の少女で刹那の妹。魔導研究所出身で研究所閉鎖の際に刹那のおかげで黒神家の養子として引き取られた。無口で何を考えてるのか分からない不思議ちゃん。常に自分の事を気に掛けてくれる刹那の事が好きで、積極的にアピールしているがいつも刹那に誤魔化されている


ステラ・スカーレット

 紅い髪の女の子で元一校のエリート。少々意地っ張りでツンデレ。自分の気持ちに素直になれないことに対して自分でも悩んでいる


小桜風香こさくら ふうか

 緑髪のお姉さん、元七校の風紀委員長であり、真面目で礼儀正しいのだが、基本的な問題解決方法が武力的なのが玉に瑕。


白神琥珀しらがみ こはく

 白髪の少女で刹那の幼なじみでティアと同い年。刹那と同じく八型一刀流の使い手。心優しく謙虚で小動物を彷彿させるような少女。刹那に対して強い憧れと恋愛感情を抱いているが、謙虚さが仇となっている。


黄瀬隼斗きせ はやと

 刹那のクラスメイト。元十二校で自称情報屋。VRゲームで鍛えた反射神経で二丁拳銃を使いこなし、また魔法による後方支援も得意としている。明るく軽い性格なのだが、厄介事によく巻き込まれる体質で苦労人。


ギルバート・エストレア

 金髪の刹那のクラスメイトで元四校出身。無愛想な性格で実力主義者。昔の事件で失った親友のことを今でも悔やんでおり、二度と同じことを繰り返さない為に強さを求めている。


鈴鹿藍すずか あい

 紺色の髪をした刹那のクラスメイト。謎が多い青年。女の子っぽい自分の名前に悩みを持っている。


碧川海翔みどりかわ かいと

 青髪の青年。元二校の生徒会副会長で実力主義者。相手を見下したような言動が多く、弱者が強者に虐げられる事を当然だと思っているが、その代わり強者が弱者を庇護するべきだと思っている


蒼崎凛あおざき りん

 蒼髪のお姉さん。元二校の生徒会長で刹那と海翔の先輩。天性の治癒能力を持っている。喋り方が独特で誰に対しても老人口調で話す。可愛いモノ好きで可愛いモノを見掛けると愛でたがる。


沢木境さわき きょう

 眼鏡をかけた真面目そうな紫髪のお姉さん。元二校の生徒会書記で戦闘歩法の縮地しゅくちを極めており、瞬間移動を基点とした高速戦闘が得意。凛の命令を絶対としている。


桃井芽愛ももい めあ

 ピンク髪の女の子。元一校出身で現代で希少な魔法使いで明るく元気な性格でドジっ子。一人ではしっかりと目的地まで辿り着くことができるが、集団で行動すると何故か方向音痴になる

 学内食堂の一席にいる、三人の人。


「そうですか。でしたら面白い事になりそうですね」


 その中の一人、笑顔で話す風香。


「あぁ、そうだな。一番ややこしくて楽しい事になるな」


 そしてその対面に座るもう一人は、前者と同じく笑顔の隼斗。


「???」


 そして最後の一人は、二人の間に座って不思議がる刹那。

 このやり取りが続けられて、はや10分。刹那は何故こんな事になったのかを思い返す。


―1時間前―


 隼斗と芽愛がお腹が空いたと言い。食堂に行くことになった。

 それはいい。問題はその後だった。

 刹那は食堂が何処にあるのか全く知らず、道順は隼斗と芽愛に任せきっていた。それが問題だったのだ。

 最初は芽愛に任せて歩いていたが、二人とも彼女が方向音痴であることをすっかり忘れており、あちこち歩かされた挙げ句、食堂とは全く逆方向に進んでいたのだ。

 結局、隼斗の案内によって食堂に辿り着いた時には、30分程掛かった。


「うひゃ~、満席だね~」


「他のクラスも選抜戦が終わっているから、俺たちと同じこと考えたんだろ。どっかの誰かさんのせいで道なんか迷ってなければ、いてただろうなぁ」


 食堂には生徒で溢れており、芽愛の発言に対して皮肉を言い放つ隼斗。


「まぁまぁ、取り敢えずいてる所を探そう。見つけたら連絡を。愚痴はその後で聞くから」


「へいへい」


「りょーか~い」


 刹那はそう言いつつ、二人と別れて席を探していると見覚えのある人影が目に入る。


「...ステラと風香?」


「あ、セツナ!」


「刹那さんも食事ですか?」


 そこには二人で食事しているステラと風香がいた。


「うん。まぁ、そうなんだけど。ちょっと二人ほど連れがいてね。空いてる席を探しているとこなんだ」


「では、ここに座ればいいじゃないですか?席も五つありますし」


 そう言われて見てみると、確かに椅子がちょうど五つあった。


「いいの?」


「勿論よ」


「ええ、私達が邪魔で無ければ、どうぞ」


 二人から許諾を得て、端末を操作する刹那。


「あ、隼斗。相席だけど席を見つけたよ。今からそっちに位置情報送るから、芽愛を連れて一緒に来て」


『了解。てかアイツどっか変な所に向かってるぞ。あ

、おい芽愛!ちょっと待て、そっちは職員用の部屋...』


ッブチ!


 刹那は後半の事は聴かなかった事にして通話を切る。


「いま会話の途中で切らなかった?」


「あ、あぁ、向こうも少し手間取っているみたいだね。間違って切っちゃったんじゃないかな?」


 ステラにそう聞かれて慌てて誤魔化しながら席に座る刹那。


「フーン、まぁそういう事にしといてあげるわ」


 疑いの目で刹那を見るステラだったが、どうやら見逃してくれたようだ。


「それより」


「そちらの選抜戦はどうでしたか?」


 ステラの言葉の続きを、予期していた様に繋げて来る風香。


「ははっ、そんなに息が合ってるのなら、ステラ達の出場は決定したようなものだね」


「「・・・」」


 二人の相性の良さに失笑を漏らしながら、少し話を逸らすと真剣な表情で二人から睨まれる。


「分かった、冗談だよ。僕の方は...」


 そう言いつつ記憶を振り返り、思い出す刹那。


「うん。僕の方は多分問題ないはずだよ」


「では、順位戦に出場できると?」


「そうだね」


「ホントに!?良かった~」


 それを聞いてホッとするステラと風香。


「二人ともそんなに僕の事心配してたの?」


「ええ」


「だって、セツナ「無用な争いはしない」何て言って出ないと思ってたんだもん」


「あと、出たとしても適性値が低いですから...」


 二人の言い分を聞いて正直心外だったが、自分の体質や性格を改めると、二人の心配はもっともの事だった。


「僕にも出る覚悟はあるし、そもそも出るのは僕だけじゃないよ?ちゃんとチームメイトがいるから大丈夫」


 チームプレーが出来るかどうかはさておき、一緒に戦う仲間がいるだけで心強いものだ。それは二人が一番分かってる事だろうと刹那は思う。


「さっきお話ししてた方がチームメイトですか?」


「そうだね。そろそろ来る頃だと思うけど・・・」


「おーい、刹那ぁ~。あ、どこ行くんだよ!?こっちだっつーの」


「ふぇ~ん」


 噂をすればなんとやらが起き、遠くから涙目の芽愛とその制服の襟を引きって来る隼斗の姿があった。


「あ!刹那くん聞いてよ!隼斗くんが!隼斗くんが!」


 今にも泣き出しそうな顔をして、刹那に抱き付いてくる芽愛と、それを呆然と見る一同(正確には隼斗以外の人間)


「俺を悪者みたいに言うなっ!お前があちこちほっつき歩くから捕まえるのに苦労したんだぞ!?」


「だって~」


「だってもへったくれもあるか!お前さっきより方向音痴が悪化してんぞ!?職員用の部屋に入ったり、非常口から外に出たり、仕舞いにゃ学外まで出るんじゃないか?」


「さすがにそこまでしないもん!」


 隼斗と芽愛のやり取りを聞いていると、壮絶な事が起きていた事が想像できる。途中で端末を切っておいて良かったと思う刹那だった。


「い~や。お前だったらやりかねないね」


「ム~!」


「ケンカしてる最中、失礼ながらどうでも良いことですが。刹那さん、あなたに会う度に女の子を連れて来るのは私の気のせいでしょうか?」


 ケンカをしている隼斗と芽愛から、恐る恐る風香に目を向けて見ると、笑っていた。とても可愛い笑顔だったのだが、怖いことに目が一切笑っていない。


「う、うん。気のせいなんじゃないかなぁ?あ、そうだ!ステラはどう思う!?あれ、ステラ?」


 助け船を求めてステラの方を見ると呆然から抜け出せていないのか、未だに芽愛を見つめているステラ。


「ステラ?あ!ホントだステラだ!久し振りー、会いたかったよー!」


「うわっ!ちょっ、芽愛、離れなさいって!」


 今まで気付いていなかったのか、刹那の言葉に反応して、ステラに向かって抱き付く芽愛と、それを引き剥がそうとするステラ。


「えへへ~、ステラったら可愛い~。いい子いい子♪」


「ちょ、ここでそんなことするなぁ」


 ステラに抱き付いて頭を撫でる芽愛。どうにか腕を引き剥がそうと頑張るステラだが、どうやっても抜けられないようだ。

 確かに男である刹那でも振りほどくのが無理だったのだ。刹那は芽愛の細い腕の何処にそんな腕力があるのか少し不思議に思った。


「お、お二人は知り合いなのですか?」


 少し引きぎみに困惑した状態で聞く風香。


「そうだよ~。一校にいたときからずっと一緒なんだ~」


 そう言いながらステラを撫でるのをやめない芽愛。


「でも、あんた向こうに残るって言ってたじゃない!なんでここに居るのよ!?」


 そして、何とか抜け出そうとジタバタしながら聞き返すステラ。


「だってステラったらツンツンしてて友達作れなさそうだし、寂しがり屋で甘えん坊だから来ちゃった☆」


「どっちがっ!!?」


「あ」


 芽愛がそう言った瞬間、暴風に似た魔法の嵐がステラをまとい。芽愛の腕からステラが抜け出す。


「芽愛ぁ~?少し向こうで私とお話しましょうかぁ?」


「あ、あはは~。す、ステラ?なんでそんなに怒ってるの?」


 どうやら芽愛は、ステラの触れてはいけない部分に触れてしまったらしく。物凄く怖い笑顔のステラと、引きつった笑顔の芽愛。

 話の一部しか知らない周りにいる生徒でも、芽愛の末路がどうなるか分かるだろう。

 ステラは隼斗がやっていた様に、芽愛の制服の襟を掴み、ズルズルと引き摺って行く。


「ちょ、ステラ!ゴメンってば~」


「いいえ。今日という今日は許さないわ!」


「うぇ~ん。刹那く~ん、助けて~」


 そして涙ながらの芽愛を連れて、ステラは食堂を出ていった。


「なぁ、刹那。アレ助けに行かなくていいのか?」


「あ、あぁ。大丈夫だよ。多分、きっと・・・」


 隼斗にそう聞かれて辛うじて返事を返すが、芽愛にどんな事が起きるのか想像すると、その返事が段々自分への暗示となっていった。


「なんで、そんな自信無さそうに言うんだよ。まぁ、正直。俺も『お姫様』の逆鱗になんて、触れたくないからパスだけどなぁ。さて、っと」


 刹那にツッコミを入れて、体を玄関からテーブルの方へ向け、気を取り直す隼斗。


「まぁ、俺は知ってるけど。刹那、一応紹介してくれないか?」


 隼斗にそう言われて初めて気づく刹那。隼斗は風香の事は知っているが風香は隼斗の事を知らないのだ。

 いきなり、隼斗が風香に話し掛けても気まずくなるのは当然のことだろう。

 だから、隼斗はお互いの紹介を促したのだ。


「あ、あぁ、ゴメン隼斗。こっちが小桜風香さん。僕の部隊の仲間。で、風香。こっちが黄瀬隼斗。Fクラスのチームメイトだよ」


「初めまして、といった方が良いかな?噂は予予かねがね聴いていますよ。よろしく」


「こちらこそ、よろしくお願いします」


 隼斗が握手を求めるとそれに応じる風香。


「刹那さん。一つ聞きますが、さっきの彼女もクラスメイトなのですか?」


「あぁ~。いや違うんだ。話せば長いし、ややこしい事になるから、また今度で良いかな?」


「分かりました。では後でじっくり聞きましょうか」 

「ぼ、僕なにか取ってくるよ。隼斗は何が食べたい?」


「ん?なんでもいいぜ」


 どうやら風香はまだ怒っているらしい。刹那は身の危険を感じて席を立って逃げる。


「はぁ~」


 目頭に手を当て、溜め息を吐く風香。


「おやおや、随分お疲れのようで」


「いえ、そうじゃないんです。刹那さんのあの隠し事をする癖について・・・って、他人にする話じゃありませんね。失礼しました」


 自分が初対面の人に、愚痴を言ってることに気付き謝る風香。


「いやいや、気にしないで下さいよ。まぁ、なんたって黒神家の人間だからなぁ。秘密や隠し事なんて、星の数ほどあるんだろうなぁ」


「そう言う割には、彼は隠すのがかなり下手に見えますけどね」


「アイツの性格がでてんだろ。家と自分の理性に板挟みされているみたいだから、もう少し気遣ってあげたら良いん・・・じゃないですか?」


 隼斗と風香は一人の人間の背中を目で追いかけながらそう言った問答をする。


「話しづらいのなら、普通に砕けた話し方でも良いですよ?」


「いやいや『風紀委員長』様に敬語を使わないとか、どこのアホでもそんな事しませんよ」


 風香は話し方が少しぎこちない隼斗に普段通りの話し方を進めるが、大丈夫、とおどけた調子で返す隼斗。


「ふふっ。どうやら貴方は色々知っている様ですね。では、こういう事は知っていますか?」


「はいはい、どういう事でしょうか?」


 隼斗は自分が知らない事は無いと自信を持ち。風香の話を少し聞き流す程度のつもりでコップに口を付け、水を飲もうとするが...


「この学校に、むかし情報をハッキングし過ぎて捕まりかけた生徒がいるらしいですよ?」


「ブフッーー!カハッ!ゴホっ!ケハッ!」


「うわっ!汚ねーな!何すんだよ」


 風香のその話を聞いて水を吹き出し、せ返る。そして、それが他の生徒に掛かり怒られる。


「エホッ!すまん。気官に入って、ゴハッ!」


「おいおい大丈夫かよ」


「あ、あぁ。大丈夫、大丈夫。すまんな、吹き掛けたりなんかして」


「ったく、次は気を付けろよな」


 なんとかやり過ごし、その場を収める隼斗。そして風香に向き直るが、風香は涼しげな顔をしてティーカップを傾けていた。


「おい、どういうつもりだ?」


「やはり、貴方でしたか。刹那さんも、可笑おかしな人ばかりと付き合いますね」


 初めから知っていたような口振りで、隼斗を一瞥する風香。


「俺はどういうつもりだ?と聞いたんだ。あと何故俺の事を知っている?」


「おや?化けの皮が剥がれて、素が出ていますけど良いんですか?」


「皮なんか被ってねぇし、元からこういう性格なんだよ。ほっとけっ!」


「貴方の事は、『情報屋』としてではなく、掻き乱す者。『トリックスター』として、あの事件で知りました」


 久し振りに聞くその異名を聞いて、隼斗の中で苦い思い出が甦る。


「随分派手にやらかしてくれましたよね。犯人が魔導騎士、しかも場所は違えど、同じ学校にいる生徒と知って驚きましたよ」


 あの時の隼斗は、今以上に怠慢で傲慢だった。電子の世界に入り込んでは、ありとあらゆる情報を盗み、世界を引っ掻き回していた。


「もう過去むかしの話だ。現在いまの俺は違う」


 情報を操作し、電子の世界を好きな様に動かした。情報が動けば現実が変わった。


「口では何とでも言えます、そう言われて、はいそうですか、と言うわけにはいきません」


 世界を動かせる事に優越感を覚え、それにひたり、何も知らない周りの人達を陰で見下していた。あの事件が起きるまでは...


「じゃあ、そんなあんたは、俺に何が言いたい?今更あの事件のお説教か?」


 その世界を動かせると過信していた隼斗には、動かせない、操作が出来ないモノがあることをまだ知らなかった。


「いえ、ただ一つ聞きたいことが・・・」


 小さな、本当に電子の情報からしたら砂粒ほどの、誰の目にも留まらないであろう小さな情報。


「なんだよ」


 正確には、抜き取った同じ学校の女生徒の情報を...

 

「そんな事をして、楽しかったですか?」


 流出させてしまったのである。個人データだけでなく、日記や秘密、好きな人から嫌いな人まで、全てのデータが流出した。

 その時は誰も見はしないと、高を括っていた。それ以上の情報で塗り潰せると思っていた。

 だが世界は違った。誰の目にも留まらないであろうと思っていたその情報は、一瞬の内に世界中に拡散し、ありとあらゆる誹謗中傷を彼女は受けた。

 そして、その女生徒は自殺を図ったが。未遂に終った。


「そんな訳ねぇだろ。目の前で人が死ぬところだったんだ」


 それが、隼斗が起こした事件の顛末てんまつだった。


「人の心や情動は誰の手にも止められない。止められるのは人の言葉と、それを動かす自分自身だけだ」


 それ以来、隼斗は必要以上な情報は調べない事にした。


「そうですか。それが分かっているのなら私から貴方に言う事はありません」


 そう言って、少し微笑んで隼斗を見る風香。


「なぁ委員長。あんた、お節介って言われた事ないか?」


「さぁ、どうでしょう?」


 隼斗のお節介宣言を白々しく逃げ切る風香。


「私以上のお節介焼きが、貴方の近くにいるはずですよ?」


「あ~、刹那か」


「先程、ステラさんに連れていかれた子が一緒にいたのも、刹那さんがお節介焼いたからですよね」


「確かにそうだったな」


 あの時、無理矢理、芽愛を追い返す事も出来たのに刹那はそうしなかった。


「彼ほど人が良い人はいないと、私は思いますよ」


「言えてるな」


 二人でまたもや、遠くの方で食券を選ぶ刹那を見る。


「なぁ、一つ聞きたい事があるんだが・・・」


 さっきよりは穏やかな雰囲気を感じながら、暇そうに風香に質問を繰り出す隼斗。


「なんでしょうか?」


「あんた。刹那の事が好きだろ?」


「!?」


 隼斗の勘が的中し、風香が動揺する。隼斗は人が悪い笑みで、ニヤニヤと風香を見ながら話を続ける。


「へぇ~、図星だったのかぁ。さっきから刹那の話しかしねぇから、おっかしいな~、って思ってたんだよなぁ」


「なんの事でしょうか?」


 隼斗はさらに追い討ちを掛けて逃げ場を無くしていくが、落ち着きを取り戻したのか、睨みながらとぼける風香。


「まぁまぁ、そんな睨むなって。ふーん、刹那の事がね~。へへっ、良い情報ゲット~♪」


「気持ち悪いです、死んでください。あと、口外したら過去の事件を含め、真っ先に貴方を処罰し、死ぬよりも辛い地獄を味わわせますからね」


 風香の中では、もう隼斗は最大の敵と判断し、これ以上の不利益をこうむらない為に脅迫する。


「わーってるよ。てか、なんでこっちが弱み握ってるのに俺が脅迫されてんだ?」


「『貴方』が『私』の『敵』だからです」


 風香は、隼斗に向かって敵対心を剥き出しにして、それぞれの言葉を強調的に言う。


「良かったですね。ここが七校でなくて。でなかったら貴方に今すぐにでも斬りかかって気絶させ、口封じで監禁していますよ?」


「それ犯罪だよなぁ?...はっ!まさか、今まで弱み握ったヤツら全員に同じことしてた訳じゃ・・・」


「さぁ?どうでしょうね♪」


 その返事を聞いて、隼斗は全身から血の気が引くのを感じた。まずい情報を手にしてしまった、と今更ながら後悔する。


「せいぜい、24時間、全方位に気を付ける事を推奨しますね」


「休む暇ねぇのかよ!せめて、夜道の背後からにしてくれよ!」


「では、夜道に何が起きても後悔しませんように」


 この時、隼斗は『しまった』と思った。

 要するに言葉巧みに誘導させられ、攻撃されることに自ら同意したことになったのだ。元風紀委員長。やはり、侮れないと隼斗は感じた。


「そ、そんなことしたら。どうなるのか分かってるのか?」


「さぁ?知りません。一撃で済めば良いですからね。一応聞いておきますが、どうなると言うのでしょう?」


 元の調子を取り戻したのか、さらに平然と隼斗を脅迫する風香。


「一撃ってなんだよ!?一撃って!怖ぇよ!それと、どうなるかって、そりゃあ刹那が好きって情報を・・・」


ッガン!


 物凄い勢いでスプーンが隼斗の手前に突き刺さり、隼斗は背筋がゾワッ!とするのを感じた。


「それ以上喋ったら、今度は真剣でその喉をかっ斬って、一生涯話せないようにしますよ」


 キッ、と目線だけで相手を殺せる勢いで隼斗を睨む風香。


「とまぁ、冗談はさておき...」


 さっきまでと違い、刺さったスプーンを抜き取りながら優しい表情に戻る風香。


「はははっ!なんだ、全部冗談だったのかよ。迫真過ぎて、全然冗談に聞こえなかったぜ。はははっ!」


 体中に変な汗をかいていた隼斗は、笑いながら安心するが・・・


「何言ってるんですか?冗談なのは『夜道』だけですよ?」


「なっ!?」


 そう言われて固まる隼斗。風香は、いつ、どこでも殺しに来る気でいるつもりらしい。

 七校の風紀委員長は、噂以上の過激、かつ危ない人だと再確認した隼斗だった。


「そんな事より、刹那さんが戻って来ましたよ」


 振り向くと、トレーに食事を乗せて持って歩いてくる刹那がいた。


「おまたせ、ほとんど売り切れてたから、これしか無かったんだ」


 そう言って刹那が置いたのはカレーライス。


「おぉ、あんがとさん。すまんな」


「いやいや。風香は緑茶で良かったん・・・だよね?」


 刹那が戸惑った理由は、風香の所にはティーカップに入った紅茶があったからだ。


「あぁ、これですか?ステラさんに薦められて、試しに飲んでいたんですよ。でも、やはり私は緑茶の方が好きですね。それはありがたく頂戴します」


 お礼を言って緑茶を受け取る風香。


「二人ともなんの話をしてたんだい?」


「ただの世間話をしてただけですよ」


 刹那の質問を、何もなかったように答える風香。


「その割には結構賑やかだった様に見えたけど?」


「そうでもねぇよ」


 取り敢えず命が惜しい隼斗は風香に話を会わせる。


「そう?だったら良いんだけど」


 何となく違和感を感じながらも、刹那はカレーを食べ始める。


「・・・」


「・・・」


「・・・」


「ねぇ、風香?」


「何でしょうか?」


 黙々と食べているとかなり空気が悪く、刹那は取り敢えず風香に声を掛けてみるが、特に話題も無く少し考え込む。


「どうしたんですか?」


「そう言えば、風香のチームはステラ以外に他に誰がいるの?」


 そうして考え込んだ結果。ふと、気になった事を聞く。


「いいですよ。でも、交換条件として。刹那さんのチームメイトも教えて頂けますか?」


「え?別に僕は構わないけど。どうして?」


「バーカ。そりゃ、最重要の秘密に決まってるからだろ。バレたら戦力がまる分かりになっちまうから、隠しておくのが戦争やるときの基本だ。その話なら俺の専門分野だ。俺がやる」


 刹那の疑問に対して隼斗が割り込んで交渉を代わる。


「ふむ。ではお互い名前は言わずに、一つずつヒントを言っていくというルールにしましょうか」


「あぁ、いいぜ」


 風香と隼斗の目の色が変わり、空気が張り詰める。


「じゃあ、俺から。そうだな、そいつは男だ」


「私の方も男ですよ。今度は私から、その方は元四校出身です」


「へぇ~。元四校出身ね~」


 そう言われて、当てがもうついたのか。余裕綽々の隼斗。


「じゃあ、最大のヒントをくれてやるよ。そいつの異名『狂犬』だ」


「そうですか。だったら面白い事になりそうですね」


 隼斗の答えを聞いて、何やら腹黒い笑顔の風香。


「あぁ、そうだな。一番ややこしくて楽しい事になるな」


 そして同じく腹黒い笑顔の隼斗。


「???」


 そして、二人が何に気付いたのか全く分からず、疑問府を浮かべる刹那。


「二人ともどういうことなんだい?」


 と、刹那が二人に聞いた瞬間。見計らったタイミングで端末にピロン♪と着信が来る。


「招集?」


「どうしたんですか?」


 メールの内容はこう書かれていた。


『招集。各クラスの代表者は、ただちに学長室に来たれり』


「お?じゃあ、もう全クラスの試合は終わったんだな」


「いやいや、待って。僕、代表者になったつもりは無いんだけど!?」


「あー、どうせアイツがエントリーの時に、お前の名前を代表者に入れたんだろ?」


「・・・」


 それを聞いて不本意ながら納得する刹那。


「それじゃあ、行ってくるよ」


「おぅ!」


「いってらっしゃい」


 席を立ち、二人に見送られながら学長室に向かう刹那だった。

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