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第十三魔導武装学院  作者: 黒姫
第一章 学内順位戦編
6/35

学内順位戦・選抜

登場人物紹介


黒神刹那くろがみ せつな

 黒髪の青年で戦闘能力は高いが、魔法を数回放っただけで倒れるほど魔法適性値が低い。心優しく優柔不断な面と残忍でさっぱりとした面を併せ持つ二重人格者。八型一刀流の使い手だが、戦闘で中途半端に優しさを出すからよく負けてしまう。


ティア

 蒼白の髪の少女で刹那の妹。魔導研究所出身で研究所閉鎖の際に刹那のおかげで黒神家の養子として引き取られた。無口で何を考えてるのか分からない不思議ちゃん。常に自分の事を気に掛けてくれる刹那の事が好きで、積極的にアピールしているがいつも刹那に誤魔化されている


ステラ・スカーレット

 紅い髪の女の子で元一校のエリート。少々意地っ張りでツンデレ。自分の気持ちに素直になれないことに対して自分でも悩んでいる


小桜風香こさくら ふうか

 緑髪のお姉さん、元七校の風紀委員長であり、真面目で礼儀正しいのだが、基本的な問題解決方法が武力的なのが玉に瑕。


白神琥珀しらがみ こはく

 白髪の少女で刹那の幼なじみでティアと同い年。刹那と同じく八型一刀流の使い手。心優しく謙虚で小動物を彷彿させるような少女。刹那に対して強い憧れと恋愛感情を抱いているが、謙虚さが仇となっている。


黄瀬隼斗きせ はやと

 刹那のクラスメイト。元十二校で自称情報屋。VRゲームで鍛えた反射神経で二丁拳銃を使いこなし、また魔法による後方支援も得意としている。明るく軽い性格なのだが、厄介事によく巻き込まれる体質で苦労人。


ギルバート・エストレア

 金髪の刹那のクラスメイトで元四校出身。無愛想な性格で実力主義者。昔の事件で失った親友のことを今でも悔やんでおり、二度と同じことを繰り返さない為に強さを求めている。


鈴鹿藍すずか あい

 紺色の髪をした刹那のクラスメイト。謎が多い青年。女の子っぽい自分の名前に悩みを持っている。


碧川海翔みどりかわ かいと

 青髪の青年。元二校の生徒会副会長で実力主義者。相手を見下したような言動が多く、弱者が強者に虐げられる事を当然だと思っているが、その代わり強者が弱者を庇護するべきだと思っている


蒼崎凛あおざき りん

 蒼髪のお姉さん。元二校の生徒会長で刹那と海翔の先輩。天性の治癒能力を持っている。喋り方が独特で誰に対しても老人口調で話す。可愛いモノ好きで可愛いモノを見掛けると愛でたがる。


沢木境さわき きょう

 眼鏡をかけた真面目そうな紫髪のお姉さん。元二校の生徒会書記で戦闘歩法の縮地しゅくちを極めており、瞬間移動を基点とした高速戦闘が得意。凛の命令を絶対としている。


桃井芽愛ももい めあ

 ピンク髪の女の子。元一校出身で現代で希少な魔法使いで明るく元気な性格でドジっ子。一人ではしっかりと目的地まで辿り着くことができるが、集団で行動すると何故か方向音痴になる。

 刹那達が第二演習場着くと、もう戦闘を行っているチームがいた。演習場は左、真ん中、右にフィールドがあり、それぞれクラスが割り当てられている


「君たちはどこのクラスかなぁ?」


 入ってすぐにピンク髪の女の子に声を掛けられる。初めは演習場の管理者かと思ったが、よく見ると白い制服を着ている。つまりここの生徒のようだ。


「...Fクラスだ」


 そんなどうでもいいことを考えると、ギルが無愛想に答える。


「Fクラスの演習は向かって左側のフィールドだよ~」


「...フン」


 聞くだけ聞いて、そのまま左側のフィールドに向かって行くギル。


「私、あの人になんか気に障るような事したかな?」


「あ~、気にしないでくれ。ああいう性格なんだ」


「そうそう、無口で無愛想で無鉄砲でおまけに自分勝手。ほんと最悪なヤツだよ」


隼斗がギルに対する不平不満を見知らぬ人に愚痴り始める。


「そして出来れば、コイツが言うこともあまり気にしないで欲しいな」


「ぐぇ、いてててて。刹那、痛い痛い」


 失礼だと思い。隼斗に肩を組み、首を絞める刹那。


「すまんな、手間かけさせて」


「いえいえ、とんでもないよ~。これは私の趣味みたいなものだから~。ではでは、私はこれで~」


 ピンク髪の女の子は手をヒラヒラさせて立ち去っていくが5、6歩進むと急に方向転換して戻ってくる。


「えへへ、こっちじゃなかった」


 確かに彼女が向かっていたのは出口の方角だった。

 この時、刹那と隼斗は同じことを考えていた。アホだと。


「あ!そう言えば、自己紹介遅れたね。私、Bクラス所属の桃井芽愛って言います。今後ともよろしくお願いしますね~」


 誰も何も聞いてないのに、自分から勝手に自己紹介し始める辺りが最早もはやおかしい。


「おーい、芽愛ぁ~。そろそろ試合始まるぞ~」


「あ、すぐ行く~。ではでは、今度こそこれで」


 友達らしき人に呼ばれて右側のフィールドに向かって走り去って行く結愛。


「なんだったんだあの娘?」


「俺が知るかよ」


「...おい、エントリーは済ました。だが...」


 芽愛が走り去っていく姿を呆然と見ていると、いつの間にいたのかギルが呼びに来ていた。ギルの顔を見て隼斗が心底嫌そうな顔をしていたが、何も言わなかった。


「...俺達の試合はまだ先のようだ。...俺は他のクラスの試合を見てくる。...セツナはどうする?」


「ん、俺か?そうだなぁ、俺もそうしようかな」


「じゃあ、俺は時間になるまでそこら辺ブラブラしておくから、二人で試合見に行ってこいよ」


 そう言って隼斗は逃げるように真ん中のフィールドの方へ向かって行く。


「...フン。...自分勝手なヤツだな」


 どうやらギルも隼斗と同じことを思っているらしい。全くもって、仲が悪いのか、似た者同士なのか...

 そんな考えなくても良いことを考えさせられる。


「はぁ~。ギル、本当にお願いだから、隼斗と仲良くとまでは言わないが、もう少しお互いを認めるようにしろよ。間に挟まっているこっちの身にもなってくれよ。ギクシャクし過ぎてやりづらいったらありゃしねぇぜ」


 手を頭に当てて溜め息を吐きながらギルに言う刹那


「...俺は弱いヤツは嫌いだ。...だが善処はしてみよう」


「全く、頼むぜ」


 刹那の思っていた通り、ギルはこんな性格だ。が強いが、認めた相手の話は一応聞いてくれる。利己主義な所はあるが、義理人情が厚いと刹那は思っている。


「...俺よりアイツの方がよっぽどだと思うがな」


 知ってるなら挑発しないで欲しいと、刹那は強く思ったが口には出さない。それを口にしたら、実力を見るためだ。とか言うのが容易に想像できるからである。


「まぁ、それはあとで『俺』が何とかする。きっとな...」


 正直、人に取り繕うのは今の刹那は苦手である。だから自分が戻ってきたら、多分どうにかしてくれるであろうと信じて放り投げることにする。


「...何故、自分でやるのに自信が無さそうなんだ?」


「気にするなよ。ほら、俺達はあっちの方を見に行こうぜ」


「...」


 話をはぐらかして、右側のフィールドに行く刹那。それを黙ってついていくギル。


「おぉ、やってるやってる。流石はBクラスだな」


「...Bクラスは各学校のトップから中堅ちゅうけん辺りが集まっているクラスだ。...見て学ぶことは多いだろう」


「やっぱり噂は本当だったんだな」


 ギルは基本的に嘘は言わない。自分が知っている事は話すし、知らないことだったり都合が悪いことに対しては黙っている。


「...噂か。...事実は少し違う。」


「ん?なんか知ってるのか?」


 ギルが何か本当の理由を知っていそうな事を言うから、気になって聞き返す。


「...噂は実力順だと聞いているが。...もし本当にそうならば、俺やお前がこんなところにいるはずがない」


 何故だろう。みんな自分の事を過大評価し過ぎていると最近よく思う。自分はともかく、もう一人は確実にそう思うであろうと考える刹那。


「...クラスの決め方は多分、実力以上に素行の問題だ。実力があっても危ないヤツや問題児、実力が偏った生徒を隔離するための処置なのだろう」


「...」


 それを聞いて唖然とする。確かにステラや風香は実力もあり態度も良さそうだし納得出来るが、それを知っていて直そうとしないギルの気概きがいがスゴいと思った。


「...どうした?」


「いや、何でもない。それより次のチーム試合が始まるみたいだぜ」


 変な顔をしながらギルを見ていたものだから聞かれてしまうが、気を取り直してBクラスの試合を見る。


「ん?あいつは...」


「...さっきの、お節介な女か」


 よく見るとフィールドには芽愛がいた。一見アホそうだが、戦闘ではかなりの実力があるのかもしれない。そう思って、芽愛に注目してするギルと刹那だが、何故か、試合を観戦している周りの生徒たちも静かになる。そしてその生徒たちの注目も、同じく芽愛の方に向かっていた。


「...あの女、相当な実力者かもな」


「あぁ、多分な」


 双方のチームは騎士剣を構えるが、芽愛が手に持っている物は60cmくらいの細い銀の筒。


「なんだあれは?」


「...武器では無いようだ」


「武器じゃない?」


「...見ていれば分かるだろう」


 何かに気付いたようなギル。言われるように試合開始の合図を待つ。


『are you ready、3、2、1、GO!』


 試合が始まると同時に綺麗な音色が流れる。


「これは?」


「...あいつだ」


 そう言って芽愛を指差すギル。芽愛は銀の筒状な物を口に当てており、足元に火の渦が出来ている。


「...あれはフルートだ」


「フルート?」


「...今思い出したが、名前は桃井芽愛。...あいつは元一校出身で、騎士だ」


「魔法騎士ね。やっぱり、いるもんなんだな」


 魔法騎士と魔導騎士は違う。魔導は、学んで詠唱して初めて使えるものだが。魔法は生まれつき持っている天性の能力であり、詠唱も必要としない。

 しかし、詠唱を必要としない代わりに効果を上げる為の媒体が必要となる。芽愛の場合は、楽器から出す音を媒体としているのだろう。

 先程から炎の玉が次々に生成され、相手チームに向かって飛んでいく。


「...魔法騎士は希少で珍しい人材だ。...あの魔法を見れただけでもいいものだろう」


 昔では、一生に一度、魔法騎士に出会えるか出会えないかと言われるまで希少な存在だった。今でも数こそ少ないが、各学校に一人はいるだろうという位にまでは増えている。

 戦いは芽愛のチームが少し有利に見えた。少しの理由は、芽愛のサポートは完璧なのだが味方が手こずっており、泥沼化して膠着状態になっているからだ。


「...あれは負けるな。...味方が時間を掛けすぎだ。」


「そうだな。圧倒的、とまではいかないが後方から攻撃に関して言えば、魔法騎士は良いんだが...」


 魔法騎士の自在に魔法が使える分、欠点が色々ある。

 まず、魔法を操る為の媒体が無いと下級魔法程度の威力しか持たない所と、更に魔法を操っている間は歩く程度でしか動けない。つまり高速で詰め寄られたら何も出来なくなる。これほど致命的な欠点は無いだろう。


ピッー!


 試合終了のブザーがなる。


「...良い線までは行っていたが、味方が問題だったな」


 そう批評するギル。芽愛の方を見ると、芽愛は負けてもあっけらかんとして、チームメイトを励ましている様に見えた。


「あ!そこの君~。こっちじゃなくて反対側だよ~」


 フィールドから出た芽愛がこちらに気付き、意味不明な事を言いながら近付いてくる。


「君達の演習場は向こう側だよ?」


 どうやら道に迷っていると勘違いされているらしい。


「違う違う、まだ時間があるからから試合観戦しに来ただけで、道に迷っているわけじゃねぇよ」


 芽愛に説明する刹那。ギルはそっぽを向いて完全に無視してる。多分、芽愛見たいな性格の人が苦手なのだろう。


「そうなんだ~、じゃあ今の試合も見てたの?」


「あぁ見てたよ。こんな所で魔法騎士に会えるなんて思ってもみなかったぜ」


 正直に本当の事を言うが、刹那にとって身近に魔法騎士がいるからそこまで珍しいとは思っていなかった。


「魔法騎士って言っても、魔法もそこまで良いものじゃないよ。私だって媒体が無いとこの程度しか使えないんだもん」


 そう言って人差し指を立て、指先に火が灯る。


「でもこれで何回か火災報知器に引っ掛かっちゃたんだよね~」


 一人で笑いながら言う芽愛だが、学外で魔法を使うのは禁止だと知っているのか?と聞きたくなってくるが...


「おやおや、こんな所で誰と話していると思えば無能者か」


 芽愛と話をしていると、聞いたことのある声が聞こえてくる。


「誰が来たかと思えば、お前かよ」


 刹那が向けた視線の先には海翔がおり、その後ろには境いた。海翔の挑発的な発言を刹那は敢えて挑発で返す。


「ふん、君がいる場所はここじゃない。さっさと自分のクラスに戻ったらどうだい?」


「生憎、順番待ちでな。こっちは後学の為に見に来てただけだ。そっちこそ、部外者は自分のクラスに帰ったらどうだ?」


「ハハッ!流石は無能者だ。こちらこそ生憎、僕はこのクラスの生徒でね。君の方が部外者なんだよ」


 刹那の嫌味を海翔は裏を返して、勝ったかのように言う。


「...フン。下らんヤツだ」


「君はなんだい?」


 刹那と海翔のやり取りを見て、ギルが間に入る。


「...そいつの付き添いだ。...自分より弱いヤツをイジメて勝ち誇るなど、器の小さいヤツだと思っただけだ」


「ふん、吠えてろ。君も同じ穴のムジナのくせに」


「...俺に勝てるとでも思っているのか?...だとしたら甚だしい」


 そう言ってギルは槍を取り出し構える。


「相当な実力があるのか。それとも、ただの自信過剰なバカなのか。どちらにしろ引くわけにはいけないね」


 海翔も騎士剣を取り出して構えるが...


「副会長やめて下さい。昨日会長に言われたことを、もう忘れたのですか?」


「...うっ」


 さっきから黙って見ていた境が海翔を止めに入る。


「...邪魔だ。すっこんでろ」


「そう言うわけにはいきません。会長から副会長が問題行為を起こさないように監視を命じられましたので」


「...人の命令にしか従えない様なヤツか。...下らんな」


 ギルが独り言の様に言い、批評する様な目で境を見る。


「私に喧嘩を売っているのですか?」


 境が怒ったのか。小さな刃物を取り出して構える


「...売ってるつもりは無いが、買うと言うのならいくらでも売り付けてやる」


 ギルも再び戦闘態勢になる。

 周りの生徒たちも黙って見ており、この場の空気は緊張で張り詰め、まさに一触即発の状態になっていた。


「おいおい、お前ら探したんだぞ!」


 その空気をぶち壊した人物の方を一同が見る。そこには少し慌てたような感じの隼斗いた。


「そろそろ始まるから準備しろ!って言われたから探してたのに。全く見つからねぇから、焦ったじゃねぇかよ」


 そう言いながら刹那とギルに近づいてくる隼斗。


「ほら、さっさと行くぞ」


 隼斗が近づいたと思ったら、刹那とギルの制服の襟を掴み、引き摺って行く。


「は、隼斗!?」


「...おい、放せ!」


「.....」


 刹那とギルが何を言おうとも隼斗は黙って引き摺りながら出ていく。

 Bクラスの会場から出て中央の広場に来ると、隼斗はやっと引き摺るのを止めて手を放した。


「全く、お前ら。どこかで何かしらの問題行動を起こさないと気が済まないのかよ」


 振り返り、頭を掻きながら呆れたように呟く隼斗。


「...フン、余計なお世話だ」


 そう言ってギルはFクラスの会場に向かって行く。


「なぁ刹那。あいつどうにかできねぇの?」


「俺に言うな。本人に言ってくれ」


 ギルの後を追って、刹那と隼斗もゆっくりFクラスの会場に向かって歩き始める。


「あいつさ~、四校で何て言われてたか知ってるか?」


「いいや、全く知らない」


「あいつ、誰彼構わず噛み付いて喧嘩を売り飛ばすから、四校では『狂犬』なんて異名が着いていたんだぜ」


「『狂犬』ね~」


 確かにさっきの状況を振り返ると分かる。刹那を挑発してきた海翔に噛み付くならともかく、それを止めに入った境にまで噛み付いたのである。狂犬と呼ばれるのも納得する。


「それよりさ」


「ん、なんだ?」


「なんでさっきから着いてくるんだ?」


「え、私?」


 刹那が隼斗の肩を掴んで止めて、振り返る。そこには当たり前ようにずーっと着いてきていた芽愛がいた。


「い.....いつから!?」


「君が刹那くんを引き摺っている時からだよ~」


「ほぼ最初からじゃねぇかぁぁぁ!」


 隼斗が絶叫する。ここがまだ広場じゃなくて会場内だったら確実に目を引くだろう声の大きさで。


「で、もう一度聴くが。なんで着いてくるんだ?」


「う~ん。君達が面白そうだから?」


 刹那がさっきと同じ質問をすると、曖昧に答える芽愛。


「面白そうってなんだよ。自分のクラスに帰れよ」


「暇だから君達の試合観戦しような~って。だってもう私負けちゃったし、あっちにいる意味無いもん」


 隼斗が帰るように説得するが、何となく正当そうな事を言う芽愛。


「なぁ、刹那もなんとか言ってやれよ~」


「諦めろ隼斗。そこら辺は本人の自由なんだから」


「はぁ!?」


「やったー!刹那くんやっさしー」


 喜んで刹那の腕に抱き付いて来る芽愛。刹那はFクラスの会場に向かって再び歩き始める。


「くっつくなよ、歩きづらいだろ」


「えへへ~、いいじゃん」


 わざと腕に胸を押し付けてくる芽愛。振りほどこうとしたが、かなりガッチリ固定されていて手が抜けない。

 はたからみれば、バカップル全開に見えるのだろう。それを考えると少し頭痛がする。

 大体、刹那は芽愛に好かれたくて、あんな事を言った訳じゃない。刹那は悟っていた。


(この学校にいる生徒の大半が、初対面の人の話を聴くわけがないだろ)


 ステラや風香、そしてギル。初めて会ったときみんな話を聴かず、急に斬りかかって来たり、決闘を申し込んだりしたのだ。その事を考えると、まだ芽愛は良い方なのである。


「ほら何ボケッとしてるんだ?行こうぜ、出れなくなったら困るだろ?」


 そう言って呆けている隼斗に声を掛ける刹那だった。


 □□□


「...で、なぜこの女がいる?」


「暇だから俺達の試合を観戦したいんだとさ」


 刹那の説明を聞いて芽愛を見るギル。


「やっほ~、ギルくん。君はもう少し愛想良くしたらモテると思うよ?」


「...余計なお世話だ」


 初対面の人に言うべきではないアドバイスをする芽愛。そしてそれを煩わしそうに返すギル。


「次、二チームと十三チームの試合を始めます。出場する生徒は準備して待機しておいてください」


 そんなやり取りを他人事の様に見てると先生が呼びに来る。


「そう言えばさ、俺達って何チーム目なんだ?」


「さぁ?ギルが知ってるんだろ?」


 隼斗が素朴な疑問を聞いてくるが、刹那も知らない。だから二人でギルを見て答えるのを待つが、フィールドに向かっていくギル。


「...行くぞ。...俺達は十三チームだ」


 そう言い残して一人でスタスタと歩いていく。


「そうか十さ.....って次じゃねぇかよ!」


「そうと分かったら行こうぜ。後方支援頼りにしてるからな~」


 刹那も隼斗を置いてフィールドに向かう。


「いや、お前らの実力だったら。俺は必要ないと思うんだけどな」


 置いて行かれて独り言をブツブツと言いながら歩く隼斗。


「刹那くんとギルくん。そんなに強いの?」


 その独り言を芽愛に聞かれてしまい質問される。

 

「あ~、まぁな。試合を見てれば分かるよ。じゃあ俺も行きますかね」


「いってらっしゃ~い。頑張ってね~」


 刹那とギルの活躍を期待して隼斗を見送る芽愛だった。


□□□


 四方25mの箱。と言ってしまえばかなり簡素な説明だと思われるかもしれないが、入ってみればそれなりに広いフィールド。壁は透けており、外から観戦者が見えるようになってるが。当然、対物対衝そして対魔法措置を施している強化防壁だ。

 東西に入り口があり、刹那達が入ったのは西口。そしてフィールドに入るとギルの雰囲気が急に変わる。


「...いいか?集団戦の基本は味方の位置の把握。...そして相手の戦力を分散し、各個撃破すること。...忘れるな」


 急に振り返りそれだけを言ってスタートの白線に立つ。


「なんなんだ?急に真面目なこと言いやがって」


「覚えていた方がいいぞ隼斗。今ギルが言ったことは簡単なようで、実は一番忘れがちで難しい事だ」


「わーってるよ。二人で俺をバカにすんな」


「そりゃ失礼」


 そして三人揃って横一列に並ぶ。向こうの相手を見ると、一人だけ茶髪の筋肉隆々のヤツが目に入る。


「おい、お前が噂のヤツか?」


 その筋肉野郎と目が合ってしまい声を掛けられる。


「ったく、どこまでその噂広がってんだよ。ああ、そうだよ、俺だよ」


 一人で愚痴を呟きながら返答する。


「なら、お前を倒せば俺の名が上がるな」

 

「はぁ?」


 急に意味不明なことを言われる。


『are you ready、3、2、1、GO!』


 その意味を考えている間に開始の合図が鳴る。


「学院一位の座は、この玄道雄次がいただいたぁぁぁぁ!」


 大斧を担いで全力疾走でこちらに突っ込んでくる。それを見てギルが刹那の前に出る。わざと刹那と雄次の間に入り、進行方向を遮る。


「邪魔だぁ!雑魚は退いてろ!うおぉぉぉぉぉぉ!」


 それでも更にスピードを上げて突き進んでくる雄次。そして担いでいる大斧をギルに目掛けて降り下ろす。


「...雑魚はお前だ」


「何っ!?」


 だがギルは、それを半歩横に動いてかわす。雄次は逆上してギルに武器を振り回す。


「...」


「クソっ!うおりゃぁぁぁぁぁ!」


 ただ黙って淡々と攻撃を避けるギルとは対照に、雄次は雄叫びをあげながら大斧を振る。


「こうなったら。これでもくらいやがれ!」


 雄次は大斧を大きく振りかぶってギルに目掛けて投げつけるが...


ッカーン!


 ギルが長棍を取り出し飛んできた大斧を横に弾き飛ばす。


「クソっ!これもダメか」


「...良いことを教えておいてやろう。...戦闘で大事な事は、相手をよく観察し、攻撃を見切る。そして...」


 ギルが物凄い速さで雄次との距離を詰める。


「...最小の動きで、相手に最大の攻撃を与える。それが戦闘の基本だ」


「ぐはっ!」


 ギルはクルっと一回転して遠心力の付いた長棍で雄次をぶっ飛ばす。ぶっ飛んだ雄次は、仲間もろとも巻き添えにして防壁に叩き付けられる。


「...お前は無駄な動きが多すぎる。...もっともこの言葉が届いているとは思ってないがな」


ピッー!


 試合終了のブザーが鳴り響く。救護班がフィールドに入り雄次達を連れて行く。


「なんか俺達いらなくないか?」


「多分、この中で一番必要ない人物は俺だけだと思う。お前らの実力だったら後方支援とか、いらなさそうだし...」


 今の試合をただ眺めていた刹那と隼斗。ギルの実力の一端を見てそんな事を呟きあう。


「...次はお前だ」


 戻ってきたギルが隼斗に向かってそう言う。


「はぁ!?俺?俺は後方支援だって言ってるじゃんか」


「...そんなもの知るか。...3対3で戦うんだ、お前が一人で複数を相手にする状況が出来てもおかしくはない。...それならば、その実力があるかどうか俺が今ここで見極めてやる」


 隼斗の反論を一蹴し、もっともな事を言うギル。確かに敵に囲まれて逆に各個撃破される場合も想定できる。その時に一番狙われやすいのは隼斗だとギルは知っているから試しているのだろう。


「だけど一人で三人相手はさすがに無理があるし、俺にできるわけないだろ!」


「...できるできないの問題じゃない。...やれ」


 隼斗の最後の抵抗を暴論で押さえ込むギル。


「だっーもう。やりゃいいんだろ、やりゃ。コンチクショウ!」


 そう言ってスタートの白線に立ち、なにやらブツブツ言う隼斗。丁度、次の対戦チームが入ってくる。


「なぁ、ギル。言い過ぎなんじゃないか?」


「...ああでもしないと、あいつは動かないだろう。...俺は実力が分からないヤツに背中を預けるつもりはない」


 そう言ってギルも白線に立つ。


「頼りにしてるのか、してないんだか。よくわからねぇな~」


 頭を掻きながら刹那も白線に立つ。


『are you ready、3、2、1、GO!』


「貫き焼き尽くせ『フレイムショット』」


「我らを守るいしずえ『ロックグレイヴ』」


 開始の合図が鳴ると同時に相手チームの一人が魔法を唱え放つが、隼斗も魔法を唱え目の前に石の壁ができ、炎の弾を防ぐ。


「...防戦一方だな。...このままだと負けるぞ」


「うっせぇな。負けると思うなら手伝えよ!」


 隼斗の後ろで腕を組みながら指摘するギル。隼斗はその指摘に軽くキレながら返答する。


「...断る」


「最初っから期待してねぇし、いちいち返事しなくて良いよ。気が散る!」


 そう言って隼斗は魔銃を取りだし弾倉の数を数える。


「弾数はかなりあるな。あとの問題は現実リアルとのだけだな」


 刹那とギルは、隼斗が一体何をいっているのかいぶかしげに思ったが黙って見ておく。


「すぅーはぁー。よし!」


 隼斗は深呼吸すると覚悟を決め、石の壁から飛び出す。相手チームは刹那とギルを恐れてか、先程からずっと魔法を放ち続け遠距離攻撃をしているが、隼斗にとっては好都合だった


(アイツのお陰だと思いたくないけどな...)


 隼斗はそんな事を思い、走りながら魔銃を向け、襲い掛かって来る魔法を次々と撃ち落とす。


「運が悪かったな!そんなに離れているのならこっちに分があるんだよ!」


 そう言って、隼斗は襲い掛かって来る全ての魔法を撃ち落とし、銃口を相手に向ける。魔銃に魔法を込めて連続でトリガーを引く。飛んでいった弾が全て敵の足に命中し、凍結して身動きが取れなくなる。

 魔銃には二つの使い方があり、事前に弾に魔法を込めるやり方と、撃つたびに魔法を込めるやり方がある。

 隼斗は後者のやり方を好んでいた。詠唱するよりかは魔法を込めた方が早いと感じていたし、銃ならVRゲームで散々扱っていたから馴れている。さっきの独り言はゲームと現実との差の違いがどれくらい出るかを心配してのことだった。


「こんなことで!」


 だが相手は身動きが取れなくても攻撃はできる。相手はチームは構わず隼斗に向かって魔法を放ち続ける。


「ッチ!まだか。『リアクト』」


 隼斗がそう唱えると石の壁が再び目の前にできる。

 リアクトとは直前に使用した魔法を再度使うときの詠唱時間を短縮する魔法である。

 隼斗は壁の陰に隠れながら弾倉を入れ換える。


「...おい。いつまでだらだらとやっているつもりだ?」


 ついにギルが痺れを切らして口出しをする。


「わーってる。次で終わらせてやるよ!」


 そう言って、隼斗はおもむろにポケットから手榴弾を取り出す。


「なっ!隼斗、お前なんて物持ってんだ!?」


「行くぞ!グレネード!」


 刹那が驚いているが、隼斗は構わずピンを抜いて勧告しながら敵に向けて投げる。


「うお!マジか!」


「まずい!」


「っく、これじゃ逃げ切れない」


 相手チームは逃げようとするが、全員足元が凍結してて身動きが取れない。


ッドォォン!


 フィールド中に轟音が鳴り響く。防壁があると言えど場外にいる生徒も伏せる。土煙が舞う中、壁から出て見てみると、重症を負った人はいなかったが戦闘が続行できる状態にいる人は敵チームにはいなかった。


ピッー!


 遅れて終了のブザーが鳴る。

 慌てて救護班が入り様子を見に来るが、幸い後遺症が残るようなケガをした人はいなかったようで、簡単な治療をしてフィールドから連れ出していった。


「どーだ!一人で三人やってやったぜ!」


 ギルに自慢するように言う隼斗だが...


「...フン。...及第点ギリギリだな」


「あん?なんだとコラ!」


 ギルに最低限の評価をされてキレる。


「まぁまぁ、隼斗落ち着けって。これでもギルはお前の事を認めてやってるんだぜ?な?」


 刹那は隼斗をなだめてギルに顔を向けて話を振る。


「...効率は悪い、時間掛かる、その他色々問題もあり、文句を言いたいが。...お前の実力を認めてやる」


「お、おう」


 文句を言われたり、認めてもらったり。嬉しいのか嬉しくないのかよくわからず戸惑う隼斗。


「...次はセツナ。...お前だ」


「ハイハイ、きっとそう来ると思ってたよ」


「...フッ。...話が早いヤツで助かる」


 ギルが微かに笑う。刹那は初めてギルが笑っているのを見たと思った。


「どうせ、この為に隼斗をわざわざ巻き込んだんだろ?」


「...まぁ、そうだな」


「はぁ?俺そんな下らない事に巻き込まれて、一人で戦闘させられてたのかよ?」


「...そうなるな」


「なんで?」


「...そうしなければ、セツナが戦ってくれないと思ったからだ」


 隼斗の疑問を淡々と答えていくギル。


「そんなことしなくても俺は戦うぞ?」


「...知っている。...だが俺が見たいのは、本気のお前だ。...今朝のような感じでもなく、ただ純粋に戦うお前の姿を俺は見てみたい」


「普通に聞くと気持ち悪い発言に聴こえてくるな」


 ギルが真面目な事を言うと、隼斗が茶化して来るのからギルが隼斗キツく睨む。


「あー、茶化して悪かったよ。で?刹那は全力で戦ってもらわないといけないけど、どうなんだ?」


 隼斗はギルに謝り、逃げるために話を元に戻して刹那に振る。


「勿論、そんなのやるに決まってるだろ」


 これでもさっきから暴れたくて仕方がなかった刹那。最初は約束を守るという名目で大人しくギルに任せたが、よく考えたら、はどんなに暴れても約束には抵触しない事に途中から気が付いたのである。

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