協力者
登場人物紹介
黒神刹那
黒髪の青年で戦闘能力は高いが、魔法を数回放っただけで倒れるほど魔法適性値が低い。心優しく優柔不断な面と残忍でさっぱりとした面を併せ持つ二重人格者。八型一刀流の使い手だが、戦闘で中途半端に優しさを出すからよく負けてしまう。
ティア
蒼白の髪の少女で刹那の妹。魔導研究所出身で研究所閉鎖の際に刹那のおかげで黒神家の養子として引き取られた。無口で何を考えてるのか分からない不思議ちゃん。常に自分の事を気に掛けてくれる刹那の事が好きで、積極的にアピールしているがいつも刹那に誤魔化されている
ステラ・スカーレット
紅い髪の女の子で元一校のエリート。少々意地っ張りでツンデレ。自分の気持ちに素直になれないことに対して自分でも悩んでいる
小桜風香
緑髪のお姉さん、元七校の風紀委員長であり、真面目で礼儀正しいのだが、基本的な問題解決方法が武力的なのが玉に瑕。
白神琥珀
白髪の少女で刹那の幼なじみでティアと同い年。刹那と同じく八型一刀流の使い手。心優しく謙虚で小動物を彷彿させるような少女。刹那に対して強い憧れと恋愛感情を抱いているが、謙虚さが仇となっている。
黄瀬隼斗
刹那のクラスメイト。元十二校で自称情報屋。VRゲームで鍛えた反射神経で二丁拳銃を使いこなし、また魔法による後方支援も得意としている。明るく軽い性格なのだが、厄介事によく巻き込まれる体質で苦労人。
ギルバート・エストレア
金髪の刹那のクラスメイトで元四校出身。無愛想な性格で実力主義者。昔の事件で失った親友のことを今でも悔やんでおり、二度と同じことを繰り返さない為に強さを求めている。
鈴鹿藍
紺色の髪をした刹那のクラスメイト。謎が多い青年。女の子っぽい自分の名前に悩みを持っている。
碧川海翔
青髪の青年。元二校の生徒会副会長で実力主義者。相手を見下したような言動が多く、弱者が強者に虐げられる事を当然だと思っているが、その代わり強者が弱者を庇護するべきだと思っている
蒼崎凛
蒼髪のお姉さん。元二校の生徒会長で刹那と海翔の先輩。天性の治癒能力を持っている。喋り方が独特で誰に対しても老人口調で話す。可愛いモノ好きで可愛いモノを見掛けると愛でたがる。
沢木境
眼鏡をかけた真面目そうな紫髪のお姉さん。元二校の生徒会書記で戦闘歩法の縮地を極めており、瞬間移動を基点とした高速戦闘が得意。凛の命令を絶対としている。
第十三魔導武装学院の学生寮。そこにはどこの部隊にも所属しない生徒用の部屋がある。その中に消灯時間でも無いのに暗い部屋があった。暗闇の中に茶髪の青年がおり、頭にはVRゴーグルを装着してゲームをしている。やっているゲームは、襲ってくる特殊部隊から銃を使い生き延びるという、一世代前にでもあるような単純なFPSゲーム。
ゲームに熱中していると、ピロン♪とパソコンから通知の音がなる。青年はゲームを中断してVRゴーグルを外し、パソコンに届いた通知を調べる。
「なになに?...へぇ~、明後日の学内順位戦のルール変更ね~」
青年は、まだ公式発表されていないはずの情報を当たり前の様に読んでいく。
「うわ~、めんどくさそうな内容だな~」
この情報を読んで青年は愚痴る。未発表の情報にはこう書かれていた。
1、各クラスで3名ずつで部隊(以後チームと呼ぶ)を組み、そのクラスで勝ち抜いたチームをクラスの代表としクラス対抗戦を行う。
2、勝敗の決着は、チーム全体の撃破および戦意喪失または降伏で決する。
3、実戦に近い形にするため、殺傷および相手に後遺症を残すようなもので無ければ、使用武器については一切を不問とする。
4、魔法についても上記に違反しなければ不問とする。
5、チーム戦はトーナメント方式で行い、順位が高いチームから協議して学内順位を決めていくものとする。
「はぁ~、誰だよこんなことを考えたヤツ」
再度内容を見て溜め息を吐く。組むような当てを考えながら、パソコンの画面をスクロールしていくと最後にルールとは関係ない注意事項が書かれていた。
※各教師には実戦に近い形にするためと伝えるように。決して黒神刹那の支援及び戦闘データの収集ということは内密に。
「黒神刹那?誰だそいつ?支援ってどういう意味だ?」
青年はこの注意事項を読んで黒神刹那について調べる。パソコンで学校の情報をハッキングして個人情報を調べあげていく。
「白兵戦が得意で魔法適性値は低い。クラスはFクラス。同じクラスのヤツか。だったら面白い事ができそうだな」
青年はニヤリと笑うとパソコンを閉じる。クラスと実力さえ分かれば、それ以上を調べるつもりは無い。情報を悪用しない。それが青年のポリシーだからだ。青年はVRゴーグルを装着して中断していたゲームを再開し敵を倒していきながら考え事をする。
(あと一人のメンバーはどうしよっかなぁ)
どうやら青年の中では、もう刹那はメンバーに決定されているらしい。
最初は不満があったが、今もう無かった。もう一人は明日探すことにして青年はゲームに没頭する。
刹那達は五人で登校していた。左からティア、刹那、琥珀、風香、ステラという形で並んで歩く。まだ登校するには少し早い時間で、歩いてる生徒もまばらである。
「そう言えば、刹那さんはクラスはどこなんですか?」
「ん?Fクラスだよ」
「え、嘘!私、Cクラスぐらいにいると思ってたわ」
「だから言っただろう、僕は弱いって。正直ここに編入できたのも奇跡みたいなものだよ」
風香の質問に答えると、ステラが驚いて聞き返してくる。
「Fクラスにも実力者はいるはずですよ。私は実力順にクラス編成してるという噂はあまり信じていませんので」
「そう言えば、みんなはどこのクラスなんだい?」
クラスの話をしていて、ふと気になったことを聞く
「私とステラさんはAクラスです」
「.....ティアはC」
「私もCクラスです」
やっぱり噂は本当だと思ってしまいそうになる。
「僕だけボッチか~。寂しいな~」
正直どうでも良いことだったのだが、自分だけ一人だと流石に気になり始めてくる。
「あなた、クラスで友達作ってないわけ?」
「昨日はちょっと気まずくてすぐ教室から出たからね」
昨日あったことを思い出して気付く。
「そう言えば、なんで琥珀ちゃんはFクラスにいたの?確かCクラスなんだよね?」
「はぇ!?あ、あれはその~。刹那兄さんかどうか確認しようとしたらFクラスだと気付いて、先生もいたので一旦Cクラスに帰って、そこからまた戻って来たんですぅ」
それを聞いて納得する。確かに朝礼が終わって出ていこうとしたら、琥珀にぶつかって、そのあと逃げたのを思い出す。でもそれにしては、来るのが早かったような気もするが、聞かないことにする刹那。
そんな話をしているうちに校舎に着く一同。
「それじゃあ、僕はここで」
「えぇ」
「それでは、お気をつけて下さい」
「.....兄さんバイバイ」
「刹那兄さんも頑張って下さいね」
校舎内もまた広く。A、C、Eクラスは校舎の左側B、D、Fクラスは校舎の右側にあって、みんなとはそう簡単に会いに行けなくなる。
どうにかクラスメイトで話せるような人を作らなきゃ行けないな。
そう思いながら歩いてるとFクラスに着く。まだ誰もいないと思って教室のドアを開けると...
「よぉ、おはよう。こんなに早く登校するヤツっているんだな」
「お、おはよう」
不意に声を掛けられて驚いてしまうが、かろうじて挨拶だけは返す。声を掛けた茶髪の青年は机に据え置きされている中型の端末をいじっている。
「お前さんが黒神刹那だろ?」
「君は?」
自分の名前を言われて少し警戒しながら聞き返す。
「そう警戒するなよ。俺は黄瀬隼斗。元十二校で情報屋をやっていたもんでね。...それよりお前さんにこれを見て欲しいんだ」
端末を操作して教室のスクリーンに映し出す。
「これは?」
「明日の学内順位戦のルール変更内容だ」
「そんなの聞いてないよ?」
「俺も昨日知った。どうせ今日の朝礼で公式発表するんだろ。それで...提案なんだが、俺と組まないか?」
「黄瀬君と?」
「俺のことは隼斗でいいよ、敬語もいらない。その代わり俺も刹那って呼ばせてもらうぜ」
「分かった。でも隼斗は僕と組んでメリットがあると?」
「ん?あぁ、まぁな。だってお前の入学式の日に一校のエリートと七校の風紀委員長を戦闘続行不能にした実力を持ってるじゃんか。それを見込んでだ」
いつ撮られていたのか。入学式の時の決闘の動画をスクリーンに流す隼斗。
「はぁ、僕は強くは無いんだけどな。...分かった、僕が役に立つかどうかは分からないけど、もしこの情報が本当だったら君と組むよ」
独り言で溜め息を吐き、少し考えて情報が本当だとわかったら、という条件で了承する。
「よし!よろしくな。刹那」
「こちらこそ、よろしく。隼斗」
「俺の得意魔法は、一応全般的に何でも使えるが、特に地だな」
「僕は...」
「あ~、言わなくてもいいぜ。大体調べてあるからな。得意魔法なし、一対一または一対多数の白兵戦を得意としているんだろ?」
「...そうだね」
よくもまぁ、調べたものであると少し感心するが、隼斗がもし敵だったら厄介だと思いもする。
「僕は前衛寄りだね」
「まぁ、俺は前衛よりかはサポート役だからな。出来ればあと一人、前衛が欲しいな」
隼斗とそんな話をしていると。
『ピンポンパンポーン、黒神刹那さんは直ちに学長室に来てください。繰り返します』
「お?お前なんかやらかしたのか?」
「いや、まだ何も問題を起こしたつもりは無いんだけど...」
思い当たる節はあるがそれならば、直ぐに呼び出されると思うから。何か自分に話があるのだろうと思う。
「まぁ、気をつけて行ってこ~い」
「...うん」
呑気に手をヒラヒラさせて刹那を見送る隼斗。
「う~ん。あと、一人はどうしよっかなぁ。ふぁーあ」
刹那が出ていき、もう一人のメンバーを端末で探そうとするが、隼斗は大きな欠伸をする。
「あ~、早起きとか眠くてしょうがねぇ」
刹那と会うためだけにわざわざ早起きをして待ち伏せをしていたのだ。
隼斗は端末を閉じて机に倒れこみ、そのまま眠りこける。
一方、刹那は学長室の扉の前にいた。ゆっくりその扉を開けると忙しそうに端末をいじっている女性がいた。
「...来たか黒神刹那くん」
「こうやって話をするのはお久しぶりですね。三谷博士」
刹那が博士と呼ぶ女性が第十三校の学長である三谷沙織。
「おぉ!私の事を覚えていたのか。嬉しいな」
「覚えていますよ。昔から親切で良くして貰っていましたからね」
彼女は刹那がいた魔導研究所で別の研究をしていた人物で、研究所では唯一、刹那を子供として接してくれた人であり、刹那はこの事を今でも覚えている。
「今でも、あの時の研究を続けているのですか?」
「あぁ、そうだ」
沙織が研究しているのは魔法の属性と専用武器について。
「成果は出ましたか?」
「少しはな...全く、最初に四大元素論を提唱したヤツを恨みたいよ」
四大元素論。火水風地を主体としてそれ以外の属性を系統外魔法と指定した論文。刹那達が学んでいる魔法も四大元素からきているものだが、一部の学者はこれを否定している。実際、四大元素以外に雷や光や闇が存在しているが、それは系統外に入れられている。沙織はその少数派に属する学者だった。
「そう言えば刹那君。君に話があるのだが...」
思い出したかの様な表情をする沙織。昔から、少しうっかりしているところも全く変わっていないようだ。
「話とは?」
「実は、君の為に明日の学内順位戦のルールを変えるつもりなのだけれど...」
「その内容は知っていますよ」
沙織が驚くと思っていたが別段なんの変わりもなかった。
「だろうな。君に伝わっていなかったら説明がめんどくさくて、こっちが困る」
「さすが沙織博士。やっぱり食えないお人ですね」
どうやら隼斗は情報を手にいれたのではなく、わざと漏らした情報を掴まされたらしい。そういう用意周到なところも沙織は昔から変わっていない。
「私の事はどうでもいい。問題は君だ」
「...僕ですか?」
話の趣旨が分からず、聞き返す。
「君には、戦闘データの収集と専用武器の性能を測らして貰いたい」
「嫌です...と言いたいところですけど、沙織博士にはいろいろ恩がありますからね。でも何故、僕なんですか?」
「君のデータなら昔から取っているからな。比較するにはとても良いのさ。あと久しぶりに君の専用武器を見たくてね。扱いには慣れてきているのだろう?」
「...えぇ、まぁ」
少し苦い顔をしながら答える。
「ハッハッハ、そう気負うな。アレは君の能力を最大限に引き出すモノなのだから。魔法がまともに使えない君にでも勝てる手段にはなるはずだ」
「えぇ、分かってます。でもアレを周りに見せたくはありません」
「秘匿義務ってやつかね?君の家も大変だね。おっと、もう時間がないな。君もそろそろ帰りなさい、遅刻するよ」
沙織が時計を見ると7時半を指していた。
「...最後に一つだけいいですか?」
「なにかね?」
「僕を.....心を、元に戻す方法を教えて下さい」
昨日の話。嘘は一切言ってはいなかったが刹那は元に戻す方法を知っていたわけではない。だから研究に参加していた沙織が知っていると思い、聞いてみたのである。
「ふーむ、いつかは聞かれるとは、思ってはいたのだがここまで早いとはな。いいのか?もし、元に戻せばもう今の状態には戻らないのだぞ?」
「それでも、です」
「なら、私は止めはしないさ。...でも君も本当は知っているはずだ。『自分と話せ』私が言えるのはここまでだな」
「え?」
「ほら、呆けた顔してないでさっさとクラスに戻れ!遅刻するぞ!」
そう言われて部屋から追い出されてしまう。
取り敢えずクラスに戻りながら、最後に言われたヒントについて考えてみる。
(自分と話せ、ね)
(話をして何か変わったか?)
(...よくわからない)
「少し貸して貰うぜ」
(え?ちょっと!)
「少しはお前も考える時間が欲しいだろ?俺は十分考えた。今度はお前の番だ」
(...でも)
「心配すんなよ。何も問題を起こさねぇ様にするから」
(分かった。...ありがとう)
そう言って自分と入れ替わり、思考の海に落ちる。思考に海み落ちると数時間から数日は戻ってこれない。だから、刹那が一人の状態でいる場合はだいたい片方が、思考の海にいるからである。
学長室前から自分の教室に向かって歩き出す刹那。
(お前はもう少し気付くべきだ。お前は俺じゃない、俺が気付けても、お前自身で答えを見つけなきゃ、意味がねぇんだよ)
そう思いながら、自分の教室に向かって廊下を進んでいく。
ドンッ!
「っつ!いってぇな」
物思いに更けながら歩いていたものだから白い物体にぶつかってしまう。
「...大丈夫か?」
「ん?あ、あぁ大丈夫だ」
壁だと思っていたが、よくみたら刹那より身長の大きい金髪の男だった。手を伸ばし声を掛けられ、気づかってくれる金髪の青年。その手を取って立ち上がる刹那。
「すまねぇ、上の空だった」
「...気にするな。俺にも非がある」
どうやら、金髪の青年は無愛想な性格らしい。ティアと似て少し話し方がぎこちない。
「...お前は?........お前、名前は?」
「名前?黒神刹那だ」
だが話し方は、ティア程では無いらしい。そんなどうでもいい事を考えながら返答する。
「...そうか。お前がセツナか。...噂は聞いている」
「なんの事だよ?」
金髪の青年も無愛想だが、今の刹那も刹那で、ぶっきらぼうに話す癖がある。
「...一校のエリートと七校の風紀委員長を倒したのに、二校の同級生に負ける変なヤツだと聞いている」
「あぁ?テメェ、ケンカ売ってんのか?」
変な噂が流れてて、それをわざわざ本人にその事を言う。気遣ってくれているのか、バカにしているのかの二択しか刹那は考えきれず、金髪の青年の話し方が無愛想なので、後者にしか全く聞こえない。
「...お前が買うと言うのなら売ってやってもいい。その代わり、お前の全力を俺に見せろ」
「...いや、気が変わった。やめとく」
ちょっと前の自分に約束したことを今更思い出して、冷静になって断る刹那。
「...なら、こっちからやらせて貰う」
「っな!?」
そう言って、虚空から槍を出し攻撃してくる。頬を掠めたが辛うじて避ける。
「断るって言ってるだろ!」
半ギレしつつ距離を取る。ここで武器を取り出したらケンカを買うことになる。自分との約束を破るような事は避けたかった。
「...お前の全力を俺に見せろ」
「人の話を微塵も聞いてねぇなコイツ」
刹那はしょうがなく、左手にナイフを取り出し身構える。
「...そんな物で俺は倒せん。そもそもリーチが違う」
「だろうな。だが...」
刹那は真っ直ぐ青年に向かって走り出す。金髪の青年はそれを見て、槍を突きだして突っ込む。その突き出された槍を身をよじって避ける。
ッガキン!
「...っな!」
「倒せなくとも、戦意喪失にはできるだろ?」
青年の槍が真ん中から真っ二つに折れていた。
「じゃあな」
刹那はそう言って立ち去ろうとするが...
「...待て」
金髪の青年が引き止める。
「あぁ?なんだよ、まだやるのか?」
「...違う。さっきは急に襲ったりしてすまなかった。俺の名はギルバート。ギルバート・エストレアだ。ギルでいい」
「お、おう」
自己紹介されて戸惑う刹那。さっきまで戦っていた奴と親しくする事ほど気まずい物はない。
「...得意魔法は全部だが、基本的には魔法より物理派。元四校出身で今のクラスはF。使う武器はリーチの長い得物ばかり。...以上だ」
「あ、あぁ」
淡々と自分のことを話して終わるギル。一体何なのか警戒しながら話を全部聞いた刹那。
「...お前の事を教えろ」
「...はぁ?」
急にそんなこと聞かれてパッと言える訳がない。
「...俺はお前に興味がある」
「俺に?あ~、え~。得意魔法はなしで、物理攻撃一極。元二校出身。今はFクラス。使用武器はいろいろ。これでいいか?」
取り敢えずギルの真似をして自分の事を簡潔にまとめて話す刹那。もう一人と同じ事だが、あまり自分の事を話すのは良くないと、そこら辺の意見は自分の中で一致している。だから、深く詮索してくる人はあまり好きでは無い。
「...あぁ、それだけで十分だ」
ギルはもっと深く詮索してくると思ったらそうでもなかった。
「...じゃあ、あとでな」
そう言って身を翻し、廊下をスタスタと歩いて行くギル。
刹那は呆然とその背中を見送る。一体何だったのだろう?そんな事を考えていたら、唐突に端末が振動する。
「まずっ、遅刻する!」
時は考える暇を、刹那に与えてくれなかった。
□□□
「おいおい、なんかあったのか?机に突っ伏したりなんかして」
慌てて教室に帰り、疲れて机に突っ伏す刹那。それを見て隼斗が聞いてくる。
「まぁ、なんか色々とな」
「ん?なんかお前さっきと雰囲気違くないか?」
刹那の話し方が違う事に気付き不思議がる隼斗。
「あ~、こっちが素だから気にすんな」
それに対して、刹那は適当な嘘をつく。
「ふ~ん、まぁどうでもいいけどな。それより、チームのもう一人の話だけどさ。お前、誰かこのクラスに当てはいるか?」
「当て?」
「いや~、お前がいない間に探しはしたんだけど、どうも中途半端な奴らばっかりでよ~。お前が信用できるヤツだったらそれでもいいかな~って思ったんだよ」
「ん?まぁ、いるにはいるんだが...」
チラッと斜め後ろを見る刹那。その視線を隼斗は追いかけてその先にいるギルを見て慌てる。
「お、おい!お前アイツと知り合いなのか!?」
「なんだ、知ってるのか?」
「知ってるも何も、アイツは四校の最強で素行も良い完璧な生徒の弟で、何故かは知らないが、その兄とは正反対の行動を取る事で有名な不良だぞ!」
刹那はもう一度ギルを見る。確かに髪が長過ぎて右目が見えていないし、ピアスもしてて見るからに不良っぽい感じだが、どこか育ちの良い気品さを感じる。
「不良...ね。少なくとも、俺にはそうは見えないけどな」
「...お前、目おかしいんじゃねぇの?一回、眼科行ってこいよ」
刹那の独り言に、冷静にツッコミを入れる隼斗。
「両目共に2.0だから心配しなくても良いぜ」
「そう言う事を言ってるんじゃねぇよ!」
「ほらそこ!朝礼が始めきれないから、早く席に戻りなさい!」
いつの間にいたのか先生がもう教壇に立っており、席を離れていた隼斗が怒られる。
「へ~い。すみませんした~」
隼斗は適当に謝りながら自分の席に戻っていく。
「今日は重大な知らせがある。急遽、明日の学内順位戦は個人では無く、三人一組でチームを組んで出場して貰う、細かい説明は個人の端末に送って置いているから後で確認して欲しい。」
この発表に教室がどよめく。ある生徒は隣の人と相談をしたり、ある生徒は端末を開いて内容を確認したりしている。その中で何もしないで冷静でいる人物が四人。
「で、話を続けるが。このクラスで選抜するチームを戦って決める前に一つ。この中で学内順位戦を辞退する生徒はいるか?」
そう、よく考えたらクラスは40名。三人一組で組めばどうしても一人余ってしまう。事前に辞退する人がいれば出たくても出れない人はいなくなる。だが...
「まぁ、そんな生徒はいないか...」
学内順位戦は成績に直結する。実力がモノを言う世界なのだから実績が残せなければ意味がない。
「しょうがない。この中で一番成績が低いヤツを落とすか。えーっと...刹那。黒神刹那はいるか?」
「...はい」
先生が刹那を指名する。
先生もあまり取りたくない選択だったのだろう。すまなさそうな顔をしている。
「すまないが、今回の学内順位戦は降りて貰っていいかね?成績には響かない様に処置はするから」
「...」
刹那は別に出なくても問題はなかったが、沙織や隼斗との約束がある。どうしようかと刹那は迷む。
「.....先生」
刹那が悩むなか、紺色の髪をした青年が手を挙げる。
「ん、どうかしたのかい?」
「.....俺が降りる」
青年はそう言って一度刹那を見る。寡黙で無表情な顔をしていたが、刹那に何か言いたそうな目をしていた。
「君、名前は?」
「.....」
先生にそう言われて向き直る青年だが、何故か戸惑って沈黙をする。何か問題でもあったのだろうか?みんなの注目が集まっていく。
「す.....か...あ.....」
「すみません聞こえませんでした。もう少し大きな声で言って下さい」
青年は少し恥ずかしそうにしながら答えるが、あまりにも声が小さくて、先生が聞き取れていなかった。
「.....鈴鹿藍」
「分かりました。鈴鹿くんは順位戦を辞退する事でいいんだね?」
「.....はい」
みんな、最初はクールで無口で格好良いイメージだったのだが、よく見ると童顔で身長も少し低い。見る人が見れば、可愛いと言われそうである。そして藍の名前を聞くとクスクスと笑う人があちこちにいた。どうやらさっきの沈黙は、自分の名前を言うのが嫌だったかららしい。
「良かったね黒神くん。後で鈴鹿くんにお礼を言っておきなさい。では説明は以上です。順位戦に参加する者は今から30分後にチームを組んで、第二演習場に集合してください」
そう言って先生が出ていき、刹那は藍にお礼を言いに行く。
「鈴...鹿だっけ?さっきはありがとな」
「.....問題ない。.....出場してもメリットが無いから」
どういう意味なのか知らないが、嘘を言っているようではなかった。
「取り敢えず、ありがとな」
「.....コク」
そう頷いて藍は立ち去っていく。刹那はその背中をただ目で追いかけているだけだった。話しかけて引き止めてもなんの意味もないし、それ以上に会話が面倒臭かったからという事が一番の理由だった。
「なんか大人しくて可愛いヤツだったな~」
いつの間に横にいたのか、さっき刹那が思っていた事を隼斗は口に出す。
「なんだ?お前、あんなヤツがタイプだったのか?」
「俺はホモじゃねぇよ」
そんな冗談を言うとツッコミを入れながら返してくる。刹那は隼斗の扱い方が段々分かってきていた。
「ところでどうするか?誰を引き抜く?」
「引き抜くって言い方はおかしいだろ。普通誘うとかあるだろ」
一体、隼斗はどこのチームから人員を引き抜こうとしているのか考えそうになってしまうが、その先の事は考えないようにする。
「取り敢えずギルを誘って見る」
「はぁ~、やっぱそう言うと思ったぜ」
大きな溜め息を吐きながら諦めたようにする隼斗。刹那には何がそんなに嫌なのか分からなかった。
「...おい」
「うぉ!」
声を掛けられ振り返るとそこにはギルがおり、それに驚いて隼斗は後退る。
「...セツナ。俺と組め」
「良いけど、コイツが一緒だけどいいか?」
親指で隼斗を指す刹那。ギルは隼斗を一瞥する。
「...実力は?」
「さぁな。自称後方支援ってさ」
「...まぁいい。俺とお前が組めば勝てない相手は、ほぼいないだろう。別にそいつが使えなくても構わん」
「っな!俺だってまともに戦えるぞ!」
ギルの見下した言い方に反論する隼斗。
「...どうだかな。口では何とでも言える」
「こ・の・野・郎~。頭きた、俺の実力を見せてやる」
「まぁまぁ、落ち着けよ。ギルも組んで見て隼斗の実力を見てみればいいだろ?」
このままでは、収拾がつかなくなって。教室で決闘をし、器物損壊からの出場停止という、笑えないオチになりそうなので刹那は仲裁に入る。
「...それもそうだな。...精々足を引っ張るなよ」
「いちいち、言うことがムカつくんだよ」
「はぁ~」
どうやっても仲良くやろうとしないことに、溜め息を吐く刹那。この先が心配だった。
「取り敢えず、早く行こうぜ。あと15分しかないしな」
刹那は、さっさと第二演習場に行って、この状況をどうにかしたかったのだが...
「何処に行くんだっけ?」
先生の話を全く聞いていなかったのか、隼斗が聞いてくる。
「...阿呆が。先が思いやられるな」
「あぁん?なんだと!」
ギルの言う通り先が思いやられる。特にチームの険悪さに対して。正直、頭を抱えたくなるが誰かが冷静に対処しなければ、もっと最悪な事態になることが、簡単に目に見えてくる。
「ほら、さっさと行こうぜ」
もし自分が戻ってきたら、すぐにでも全部投げ出してやろうと決意して第二演習場に向かう刹那だった。
少し読みづらいと思ったので台詞の間を開けてみました