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第十三魔導武装学院  作者: 黒姫
第一章 学内順位戦編
33/35

第33話 祝賀会(後編)

黒神刹那くろがみ せつな

 黒髪の青年で戦闘能力は高いが、魔法を数回放っただけで倒れるほど魔法適性値が低い。心優しく優柔不断な面と残忍でさっぱりとした面を併せ持つ二重人格者。八型一刀流の使い手だが、戦闘で中途半端に優しさを出すのでよく負けている。


ティア

 蒼白の長い髪の少女で刹那の妹。魔導研究所出身で研究所閉鎖の際に刹那のおかげで黒神家の養子として引き取られた。無口で何を考えてるのか分からない不思議ちゃん。常に自分の事を気に掛けてくれる刹那の事が好きで、積極的にアピールしているがいつも刹那に誤魔化されている。


ステラ・スカーレット

 紅い髪の女の子で元一校のエリート。少々意地っ張りでツンデレ。自分の気持ちに素直になれないことに対して自分でも悩んでいる。


碧川海翔みどりかわ かいと

 青髪の青年。元二校の生徒会副会長で実力主義者。相手を見下したような言動が多く、弱者が強者に虐げられる事を当然だと思っている。


桃井芽愛ももい めあ

 ピンク髪の女の子。元一校出身で現代で希少な魔法使いで明るく元気な性格でドジっ子。一人ではしっかりと目的地まで辿り着くことができるが、集団で行動すると何故か方向音痴になる疫病神。


レノンハルト・フォン・イグニス

 燃える様な赤く結われた長い髪が特徴の青年。不良校で有名な五校の元生徒会長、兼風紀委員長を務めていた。まともな仕事はしていないが、人一倍仲間を大切にする人で、五校の生徒からは尊敬の意を込めて『兄貴』と呼ばれている。


木代嵐子(きしろ らんこ)

 黄緑色のショートヘアーと小柄さが印象的な女の子。元三校の生徒会長であり頭脳明晰、その頭脳であらゆる策略や戦略を練ることを得意としている。クールを気取っているが身長のことを言うとすぐに怒る。


三谷沙織みたに さおり

 十三校の学院長であり科学者。主に固有武装デバイスの研究を行っている。常に物事の先を見据えて行動しているが、その真意は誰にも分からない。


湯川熱揮ゆかわ あつき

 体躯のいい青年。レノの弟分でレノの事をかなり尊敬しているため、レノに対する言動が悪いやつにたびたび突っ掛かってしまう。


緋櫻紅司ひざくら こうじ

 真っ赤な髪が特徴的な五校の元生徒会副会長。昔からレノンの右腕であり、よき理解者。常に飄々とし裏表の無い性格。センスと要領が良く、どんなことでもこなすことができる。五校ではレノンに代わり、実質的な生徒会の業務を担っていた。


常盤文乃ときわ ふみの

 元気で明るい茶髪の女の子。ムードメーカーで順位戦の実況者を自ら志願した。


柊奏ひいらぎ かなで

 落ちついていて物静かな印象を受ける白髪の女の子。物事を見極める洞察力と声の良さから、解説者に抜擢された。

 ステラを探して会場を見渡す刹那。

 だが見渡してみても、どこにもステラの姿はなかった。


「準優勝おめでとう。さっきから辺りを見渡して人探しかい?」


 嘲り混じったような声が聞こえてきて、思わず無視したくなるが、それを抑えて振り向くとそこには海翔がいた。


「海翔…」


 海翔も会場いる事は分かってはいるが、これまでの事が脳裏によぎり、反射的に不快感が顔に出そうになる。


「ただ祝辞を言っただけでそんな顔をするとは失礼だな。とはいえ、これまでの僕達の関係からすれば仕方ない事か…」


 顔に出ないよう上手く抑えたつもりだったが、どうやら海翔は最初から刹那の表情の変化を見ていたようで、見抜かれていた。

 そこまでこちらの揚げ足取りをしてくるのならばと、刹那は開き直る。


「何の用?わざわざ祝う為に声を掛けに来たわけじゃないんだろう」


「おやおやご挨拶だな。Aクラス相手に渡り合えて気が大きくなっているのかい?無能者」


 ただの言葉の応酬で空気が張り詰め、剣呑な雰囲気になる。


「「……」」


 お互いそれ以上の言葉を発せず、場に沈黙が走る。

 認め合っても互いに相容れないが故に、険悪な雰囲気になるのは当然の事だった。


「ハァ…。よそう、君とこんな事するつもりはない」


 しかしこのままではいけないと思い、刹那は沈黙を破って肩の力を抜く。


「フン。こんな調子じゃ特務科でも先が思いやられるな」


「君が僕を煽るから悪いんだろう?」


「先にケンカを売ってきた君がよく言う」


「…」


 そう。元を辿れば刹那が嫌な顔をしなければこうならなかったのだ。海翔の言い分はある意味正しい。正しいからこそ、刹那はそれに反論できなかった。


「それで、何の用なの?」


 だからそれ以上反論せず、その非難を受け入れて話を戻す。


「用って程じゃない。これから同じクラスになる訳だし、僕達の関係が悪いままだと何かと不便だろうと思って声を掛けただけさ。それ以上の理由は無いよ」


 刹那が反論しなかったからか、攻撃的だった海翔はそれ以上追い打ちを掛けず、態度を和らげて問い掛けた質問を対等に返してくる。

 そういった態度ができるのなら、初めからそうして欲しいと思いながらふと、海翔に抱えていた疑問を思い出し、それを問いただそうと喧嘩腰にならないよう言葉と言い方に気を付けて口を開く。


「そういえばあの時も思ったけど、なんで君は僕が研究所出身なのを知っているんだ?」


「なんだ覚えてないのかい?君が話したんだろう」


「僕が?君に?」


 こちらの問いかけにあっさりと答えた事もそうだが、予想外の回答が返って来て驚きを隠せなかった。

 聞き違えたか、或いはたちの悪い冗談を言っているのか。海翔の性格を鑑みて後者である可能性は十二分にあるが、それでも刹那は聞き返さずにはいられなかった。


「それ以外に何があるって言うんだい?」


 そう言って海翔は呆れた様子でそれを肯定する。嘘を付いている。と思ったが海翔の言動から、騙すような悪意は一切感じられなかった。

 つまり、本当に刹那から海翔に自分の過去を話した事になるが、そんな事をした覚えは刹那はない。

 海翔とは初等部で見知って、中等部でクラスが一緒になった程度だ。

 自信過剰で、他人を見下して、自分の考えを押し通そうとするきらいがあって、関わり合いたくない部類タイプの人間。

 そんな相手に自分の過去を話すだろうか?


「海翔、変な事を訊くけどさ。もしかして僕ら、昔は(・・)仲良かった?」


 もしかしたら刹那が忘れているだけで、元々良好な関係で、その時に話したのかもしれないと思って、海翔に恐る恐る聞いてみる。


「おかしな事を訊くな。君と僕は初めからずっと(・・・・・・・)仲が悪かっただろ」


「……」


 だが、そんな予想を海翔は否定し、刹那は黙って考え込む。

 何時、何処で、どんな状況で話したのかも覚えてない上に嘘でもなく"仲が悪い相手に自分の秘密を打ち明けた"という違和感しかない話。

 謎だらけで何処から手を付けていいのか分からず混乱してくる。

 そもそも、海翔もこの違和感に気付いているはず。では何故、海翔は何も言わないのか?


『会場にいる代表者皆さん、談笑に花を咲かせているところ申し訳ありませんが。これから余興のジャンケン大会を開催させていただきます』


 謎が謎を呼んで一人考え込んでいると、マイクで拡声された奏の声によって意識を現実に引き戻される。


「そろそろ余興が始まるようだ。それじゃあ僕はこれで失礼するよ」


 それを聞いて海翔は背を向けて去ろうとする。

 引き止めて問い質すべきか迷って刹那は海翔の背中を目で追う。


「ああそういえば…」


 海翔は何かを思い出したように立ち止まって振り返った。


「もし君が探している人がステラさんなら、彼女はバルコニーの方にいるよ」


 その一言を聞いて本来の目的を思い出す。

 海翔が言った事は、ステラを探していた刹那にとても有用な情報だ。

 分からない事だらけの事を気にかけている場合ではないと思い至って海翔の顔を見る。


「ああ、ありが…」


「礼なら不要だよ。約束した謝罪の代わりとでも思ってくれ。じゃあね」


 そう言って片手をヒラヒラと振って、今度こそ海翔は人が集まり始めている舞台の方へと去っていった。


「……まあいいか」


 海翔がどうして話し掛けてきたのか、何故わざわざステラの居場所を教えてくれたのか、不思議に思う事が多かったが。

 最初から、決闘でした約束の代わりを果たす為だったのだと知って、海翔も根っから性格が悪い訳ではないのかと少しだけ思えた。


『え〜それでは私、文乃がルールを説明しますね。今回やるジャンケンは一人対全員形式の"後出しジャンケン"です。まあまずは見せた方が早いと思うので私と奏さんで実演して見せますね…』


 文乃が説明をし始めた辺りで、刹那は会場の出口へと向かう。


「おっと…」


「あ!っとすみません博士」


「いや、大丈夫だ」


 出口の扉が急に開いて沙織とぶつかりそうになる。


「おー刹那どうした?トイレか?」


 そして遅れて沙織の後ろから隼人が来る。今の今まで話していたのかと訊きかけたが、沙織が絡んでいる以上、下手に詮索をしない方が良さそうだと思って適当に話を合わせる。


「そんなとこ。今から余興のジャンケン大会が始まるみたいだよ。ほら…」


 そして壇上に上がっている文乃と奏の方へ目を向ける。


『後出しジャンケン…!』


『"勝たなきゃ負け"よ!ジャンケンポン!』


『ポン!』


 奏がコールした後に、文乃が勝利条件を宣言してグーを出し、それに少し遅れて奏はパーを出していた。


『これは奏さんの勝利になりますね。私は"勝たなきゃ負け"と宣言しましたが、代表者は他にも"勝たなきゃ勝ち""負けたら負け""負けなきゃ負け"など、語呂合わせさえちゃんとしていれば、様々な宣言の仕方ができますので、全員に一番勝った数が多い人が優勝。というルールとなっています』


 これが一対全員形式の後出しジャンケンなのだろう。確かに大人数いても楽しめそうな催し物ではあった。


「おー!それなりに駆け引きがあって面白そうだな!んじゃ俺は先行っとくぜ。お前も早く来いよ」


 そう言って隼人は舞台の方へと向かっていったが、沙織と一緒に取り残された形になり、微妙に行動を起こしづらくなってしまった。


「行くとこがあるんだろう?私に気を遣う必要はない。好きにすると良い」


 刹那がそう感じていたのを知っていたかのように間髪入れず沙織は声を掛けた。


「では、お言葉に甘えて僕も失礼します…」


 その提案に甘えさせて立ち去ろうとした時、何処からともなく現れた女性の姿が二人の気を惹き付けた。


「んーちょっと違うなぁ…」


 女性は気にする事もなく、両手の指で枠を作ってこちらを覗き込んでいた。


「誰だ。ここは部外者立入禁止だ」


 沙織が重く鋭い声音で、謎の女性を問い詰める。


「おっと失礼、私はこういう者だ」


 普通の人ならば、臆してもおかしくない沙織の声掛けを女性は意にも介せず、代わりに電子名刺を見せてきた。


「フォトグラファー?」


「そう!写真家ともカメラマンとも言う」


 刹那が書かれていた職業名を口にすると女性は肯定する。

 そして職業名の下にはフレイ・ミラーと名前が書かれていた。


「そして今日は生徒達の甘く苦〜い青春の思い出を形に残す為に、是非とも私に手伝わせて貰えないかなーと思ってこうして堂々と忍んできた訳さ☆」


 語尾にウインクが付いててもおかしくないセリフだが、このフレイという女性は飄々として、全く掴み所がなく、ただ普通の写真家ではないというのだけが分かる。

 率直に言ってかなり怪しかった。


「ふむ…。用件なら向こうで聞こう」


 しかし、沙織もそう感じているはずなのに、話を断りもせず、一瞬だけ刹那に目配せした後、何食わぬ顔でフレイを誘って会場の隅の方へ移動していく。


「流石は学院長。話が早いね」


 そしてフレイも沙織の後について行き、刹那一人が取り残される。

 一体どんな会話をするのか気になるが、沙織のあの目配せが"付いてくるな"という意味だと理解してしまった以上、聞き耳を立てるのもはばかられた。


『さあ最初の挑戦者は〜誰だぁ!?』


「っと、こんな事をしている場合じゃないや」


 文乃の声で我に返り、今度こそ刹那は会場の出口から廊下へ出る。

 バルコニーは何処かと廊下を見渡すと、不意に風が頬を吹き抜ける。

 風が流れてきた方を見ると、すぐそこのガラス張りのドアが開け放たれていた。

 流れる風に誘われるように刹那はドアへ向かう。

 途中、窓から夜景を見下ろすステラの後ろ姿が目に入る。


「…」


 バルコニーに出た時、刹那は重大な事に気付いて立ち止まる。一体どんな風にステラに話し掛ければ良いのだろうと。

 祝辞を言うのが無難だろうが、刹那との勝負に負けたステラは、きっとそれを嫌味と受け取って返すだろう。試合の事に触れるのは恐らく悪手でしかない。

 ならば、多少不自然であっても自然を装って話し掛けるか?

 否、そんな事ではきっとステラは気に入らないだろう。彼女はそういうのを嫌う性格だ。

 だから刹那は、彼女ステラの事を考えた末に、今出せる最良の答えを口にする。


「探したよ。ステラ」


 正直に、誠意を持って接し、話す。

 これが天の邪鬼なステラが一番気に入る方法で、刹那もありのままでいられる答えだった。


「何か用?私、いま一人になりたいんだけど?」


 ステラから不機嫌そうな言葉が返ってくる。だが口調や言葉以上の嫌悪感を感じず、そうであって、そうでもない。という曖昧な感情だけが伝わる。


 つまり、一人で居たいが独りぼっちにはなりたくないのだと。


「隣、良いかな?」


「好きにすれば?」


 ステラの了承を得て、少し距離を取って手すりにもたれる。

 そして二人で娯楽区の夜景を静かに眺める。

 煌めく街頭広告、輝くネオンサイン。昼と間違えるくらいの明るい街並み。

 真下を見下ろせば、ホテルのナイトプールとそれらの周りで親睦を深め、祝賀会を楽しんでいる十三校の生徒達で溢れ返っているのが見える。

 そして後ろからは、レクリエーションを楽しむ代表メンバーとその他の声が聞こえてくる。


『ブフッー!誰だァっ!俺の飲み物アルコールとすり替えた奴はッ!』


『フフン!これでイグニスの停学も確定だね!学院長ー!イグニスが飲酒してまーす!』


『テメェか嵐子ッ!』


『嗚呼言ってなかったか。今後の社交活動の一環として、ここにある殆どの飲み物はアルコールにしてある。一番度数が高いのは赤いヤツだから、みな気を付けて飲むようにな』


『何ィ!?』

『何だって!?』


「……」


 会場からの喧騒で飛んでもない会話が聞こえ、少しの間、思考が止まる。

 今思い返せば、芽愛がやたらテンション高かったのも酔っていたからで、ギルも話の途中で「酒が不味くなる」とも言っていた。

 つまり始めから飲むよう仕組まれていたという訳だ。

 しかし訓練の一環とはいえ、普通大人が未成年にアルコールを勧めるのはどうなのか?

 と呆れながらステラを見ると、彼女が煽るグラスの中身は赤かった。


「あの…ステラさん?」


 まさか、と不安を感じずにはいられず刹那はステラに声掛ける。


「何よ、飲んでちゃ悪い?言っとくけど私、お酒は強いんだからね」


 会場の騒ぎはしっかりとステラの耳にも届いていたようで、彼女らしい答えが返ってくる。


「なら良いんだけど…」


 お酒に強い。と自称したステラの話は、イギリスの社交界に刹那は明るくないので敢えて触れないでおく。

 できれば素面しらふで話したかったと言うのが刹那の本音だが、こうなった以上それは諦めるしかなかった。


「「…」」


 掛ける言葉を失って、二人の間にしばらく沈黙が続く。

 だが、不思議と居心地は悪くなかった。無理に会話をしなくて良い。黙っていても気にならない。気にしない。気を遣わない。

 ただそばにいるだけでいい相手。特別な事をしなくてもいい、特別な存在。

 それを噛み締めていると、不意にステラが口を開いた。


「それにしても、星が綺麗ね」


 何処かで聞いた事のあるフレーズ。

 その意味が何だったか、刹那は思い出すのに少し時間が掛かったが、そこからステラの期待と皮肉を込められた言葉というのだけはすぐに分かった。


「……君と見るから綺麗なんだよ。ほら、あのあかい星なんか特に」


 その期待と皮肉に応えてやろうと、刹那は格好付けた言葉で切り返す。


「……」


 そう返されるとは思ってなかったのか、ステラは黙ってしまう。


「手を伸ばせば届きそうだけど、届くかな?」


 刹那は横を見ず、ただ夜空を見上げながら言葉を続けた。


「どうかしらね」


 そう言って何かを決めたような声音で、ステラは手すりから身を離し、刹那に近付いて来る。


「ステラ…?」


「動かないで」


 静止するように言いながらステラは刹那の後ろに回り込む。

 言われたとおり動かずにいると、ゆっくりと背中に重さがのし掛かる。

 背中から伝わる感触から、背を合わせて寄りかかられているのが分かった。


「酔ってきちゃったみたい。少しだけこうさせて」


「……」


 それが甘え下手なステラの精一杯な甘えなのだと思うと、微笑ましくも嬉しかった。

 刹那は、空いた右手でステラの下がった左手の袖をつまむ。

 少し強張った感触が伝わるが、すぐにそれは落ち着いて自然体になった。


「伸ばさなくたって、すぐそばにあるわよ」


 さっきの刹那の問いをステラは答える。本音


「…そうみたいだ」


 互いに人を信じる事に臆病だから、触れ合えない。

 けどだからこそ理解し、求め、埋め合える。

 まだ少し怖いが、それでも心が満たされた感覚だった。


 そしてこれ以上の言葉は要らず、背中合わせで互いを静かに感じて過ごしていると、ふと会場の賑わいが聞こえてくる。


『さてそれでは、次の挑戦者は黄瀬さんです!』


『よし、みんないくぞ!せーの!』


『『後出しジャンケン!』』


『負けなきゃ勝ちよ!ジャンケンポン!』


『『ポン!』』


『おーっとこれは、黄瀬さんの全負けだぁ!全負けした黄瀬さんは罰ゲームの"胴下げ"を受けてもらいまーす!』


『はぁ!?そんなの聞いてねぇよ!つか胴下げってなんだよ!』


『そんな人いないと思って言ってませんでしたからね〜。という事で罰ゲーム隊カモン!』


『おっしゃ!やるぞお前ら!!』


『『おう!』』

『『おー!』』


『うわ、やめろって!』


『おらジタバタすんな!』

『黄瀬、往生際が悪いぞ!』

『大人しく罰を受けろー!』

『…諦め…て?』


『だー!分かったよ!受けりゃいいんだろ受けりゃ!』


『うし、大人しくなったな。お前らいいか?せーの!』


『『わっしょい!わっしょい!』』


『うおおお!ってこれただの"胴上げ"じゃねぇか!』


『お楽しみはこれからだぜ黄瀬!ちゃんと受け身取れよ!行くぜぇ!』


『ちょっ!?』


「「わっしょい!わっしょい!」」


 掛け声と共にバルコニーにレノ、熱輝、紅司、芽愛、ティアの五人と、それらに担がれた隼人が出てくる。


「「わっーしょーいっ!!」」


 そして出てきたと思いきや、いきなり隼人はバルコニーから、煌めく夜景に放り投げられた。


「想像してたのと違あああぁぁぁぅ!!」


 投げ捨てられた隼人は、絶叫の声を上げながら見る見る小さくなって、一階のナイトプールに高らかな水飛沫を上げて着水していった。

 なんと恐ろしい罰ゲームか…


『うわ!なんだ!?』

『上から人が降って来たぞ!』


 そして一階で楽しんでいた生徒達が騒ぎを聞き付けてどんどんナイトプールに集まって来る。


『あれって代表の黄瀬君じゃない?』


 パーティーの会場の真ん中で、突然人が降ってくればそうもなる。

 というより、ここ五十階なのだが…。という話は考えても無駄だったので、刹那は途中で思考を放棄した。


「おーい!無事かー?」


『殺す気かーっ!!』


 レノが下に向かって声を出すと、下から隼人の怒号混じりの返事が返ってくる。


「へへ、ピンピンしてらぁ」


 それを聞いてレノは安心したように笑っていた。

 一応念の為に補足しておくと。刹那達、魔導騎士は初等の内に、魔導を使った受け身を訓練するので、それの応用で高所からの飛び降りも可能ではある。(ただし怪我や死亡事故はゼロではない)


「あ!ステラ!こんなところにいたんだ!」


 そしてこちらに気付いた芽愛が、楽しそうに駆け寄ってステラに抱き着き始めた。


「ちょっと!引っ付かないでよ!」


「えへへ〜いーじゃ〜ん」


 しがみつく芽愛を引き剥がそうとするステラだが、芽愛の腕力が強いせいか、抜け出すのに苦戦していた。

 ステラも本当に嫌がっている様ではなかったが、端から見てる分には、芽愛の絡み方は最早酔っ払いのそれだった。


「おう、どこ行ってんのかと思ったが刹那も一緒じゃねぇか。お前らもジャンケン大会一緒にやろうぜ!」


 屈託のない笑いをしながら誘ってくるレノ。

 その誘いは刹那に"ここにいて良い"と言っているようで、刹那の心のかげりを晴らし、気持ちが少しだけ楽になった。

 しかしあんな罰ゲームを見せられた後にジャンケン大会をやりたいとは到底思えないのだが、レノの性格上、誘い自体に悪意はないのが最も質が悪く、断りづらさに拍車を掛けていた。


「……にぃも、やろ?」


 そう言ってティアも刹那の制服の裾を掴んで誘ってくる。

 ティアのその一言で、"自分はここにいて良いのだと"思って、刹那は心の迷いを断ち切る決心をつける。


「うん、やるよ」


 明日か、明後日か、それこそ次の瞬間には揺らぐ決心だとしても、いまくらいは新たな仲間達と楽しく過ごしても良い筈だ。


「ホントに!じゃあステラもやろうよー!!」


 そして刹那の合意を確認芽愛は、そう言って強引にステラも引っ張って連れていこうとしていた。


「仕方ないわね、やればいいんでしょ!」


 そしてこんな風に言いつつも、芽愛の誘いを受けるステラ。

 そうして二人は、レノらと一緒にこれから共に過ごす仲間達が賑わう会場へ戻っていった。

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