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第十三魔導武装学院  作者: 黒姫
第一章 学内順位戦編
26/35

グラウンド・ゼロ

黒神刹那くろがみ せつな

 黒髪の青年で戦闘能力は高いが、魔法を数回放っただけで倒れるほど魔法適性値が低い。心優しく優柔不断な面と残忍でさっぱりとした面を併せ持つ二重人格者。八型一刀流の使い手だが、戦闘で中途半端に優しさを出すのでよく負けてしまう。


黄瀬隼斗きせ はやと

 刹那のクラスメイト。元十二校で自称情報屋。VRゲームで鍛えた反射神経で二丁拳銃を使いこなし、また魔法による後方支援も得意としている。明るく軽い性格なのだが、厄介事によく巻き込まれる体質で苦労人。


ギルバート・エストレア

 金髪の刹那のクラスメイトで元四校出身。無愛想な性格で実力主義者。昔の事件で失った親友のことを今でも悔やんでおり、二度と同じことを繰り返さない為に強さを求めている。


ステラ・スカーレット

 紅い髪の女の子で元一校のエリート。少々意地っ張りでツンデレ。自分の気持ちに素直になれないことに対して悩んでいる


小桜風香こさくら ふうか

 緑髪のお姉さん、元七校の風紀委員長であり、真面目で礼儀正しいのだが、基本的な問題解決方法が武力的なのが玉に瑕。


アルウィン・エストレア

 ギルバートの兄。秀才で礼儀正しく、誰に対しても敬意を持って接するため、とても人望が厚い生徒。容姿はギルバートと全くそっくりだが、髪型だけ違う。


常盤文乃ときわ ふみの

 元気で明るい茶髪の女の子。ムードメーカーで順位戦の実況者を自ら志願した。


柊奏ひいらぎ かなで

 落ちついていて物静かな印象を受ける白髪の女の子。物事を見極める洞察力と声の良さから、解説者に抜擢された


三谷沙織みたに さおり

 十三校の学院長であり科学者。主に固有武装デバイスの研究を行っている。常に物事の先を見据えて行動しているが、その真意は誰にも分からない。


ルーファス・ブレイヴ

 金髪の伊達男。第二次魔導大戦を終結させた七英雄の一人。白兵戦に於いて無類の強さを誇り『最強』の異名を取る人物。『斬った』という因果を反転させて絶対不可避の一撃にする固有武装デバイス『神剣ハルシオン』の所持者。現在は紅愛の護衛ボディガードとして、いつも彼女のそばにいる。


桃井紅愛ももい くれあ

 紅に近いピンク髪の女性。第二次魔導大戦を終結させた七英雄の一人。魔法騎士で、『戦場の歌姫』と呼ばれていたが、大戦中に両目を負傷し視力を失った。個人差はあれど触れた相手の視力と同調して視ることができ。ルーファスとはかなり相性が良いらしく、いつもベッタリくっついている。芽愛の姉でもある。

 第十三魔導武装学院、学内順位戦決勝戦。

 フィールドを飛び交う魔法と魔弾、そして止む事の無い剣戟けんげきが大気を震わせ、見る者にその熾烈しれつさを感じさせていた。

 まばたけば見逃してしまう激しい攻防を、みな己が息をするのも忘れるほどに魅入みいっていた。

 しかし、激しい攻防と言ったがそれは的確な表現ではない。確かに、激しい攻防ではあるが恐らくそう聞いて想像するのは、斬っては斬り返され、撃たれては撃ち返すような、優位も劣位もなく両者の力が拮抗した状況の、息付く間も無いしのぎを削る戦いだろう。

 だが、いま繰り広げられている戦いはしのぎを削りはすれど、そこに拮抗した力の差などなかった。


「ギル!」


「…刹那!」


 互いの名を呼び合って連携を取る刹那とギルバート。

 ギルは前面に出て、真っ正面から突っ込んでくるステラに相対し、刹那は遊撃してくる風香を止める。

 ステラの前にギルバートが立ちはだかって対抗し、それをカバーするように刹那はステラに斬り込みながら、入れ替わりで来る風香を迎え撃つ。

 ギルは自分が唯一ステラと渡り合えるとよく理解し、自ら相手をするように動き、刹那はステラと立ち代わりで相手を絞らずに仕掛けてくる風香を抑えるよう立ち回り、隼人は後方から援護する傍ら、アルウィンから放たれる魔法の迎撃をしていた。

 一見何の問題も無いように見えるが、その行動の何もかもがステラという存在を起点に、全て塗り潰されてしまっている。


「チィッ!」


 瞬間、ギルに仕掛けたステラはレヴァンテインで袈裟斬りをする様に斬りつけながら、そのままギルの頭上を飛び越していく。


「隼人!」


岩槍がんそう穿て『ロックランス』」


「くッ!」


 刹那はその行動が何を狙っているのか察して、隼人の助けに行こうとするが横から岩槍がんそうが掠め、足止めされる。ギルも立て続けに風香に追撃されて、すぐに動けるような状態ではない。


「ハァァァァッ!」


「うおっ!?」


 いきなり飛び込んで来たステラに度肝を抜かれる隼人だが、咄嗟に前転して攻撃をかわし、後ろを確認する間もなく横にゴロゴロと転がる。


「ちょ!まッ!?」


 さっき飛び込んだ場所に容赦なくレヴァンテインが振り下ろされて炎上し、かつてない身の危機に全神経と勘をフル稼働させて無我夢中で逃げ惑う。


「うっ!おっ!おぉぉわぁっ!あっっつ!」


「こ、のッ……!ちょこまかと!」


 起き上がり右へ左へとんでねて、また転がって、なんとか斬撃と炎を回避して時間を稼ぐ。


「一ノ型『燐炎りんえん』!」


「チッ!」


 そしてそこへ刀に蒼炎を纏った刹那が助太刀に入り、激しい斬り合いを繰り広げる。

 加勢に来たことに安堵しつつ、奇襲に失敗したステラが口惜しそうにしているのを横目で流し、己の役割を思い出して隼人はすぐさまアルウィンの魔法の迎撃へと移行する。


「くっ!」


 そして隼人の救援に来た形の刹那は、安堵した隼人とは裏腹に表情を曇らせる。

 固有武装デバイスがまともに使えないいま、ただえさえ大きい力の差がさらに深刻化している。

 魔法適正値の低い刹那に取って、低消耗で効出力を扱える八型一刀流のまといは生命線だが、体質上、多用と長時間の使用はできない。八方塞がりな状態の隼人と比べていくらかマシではあるが、それも時間の問題だ。

 

「っぁ!」


 ステラの放った横薙ぎを上へと弾くが、その衝撃に体ごと持っていかれてバランスを崩す。

 そもそも固有武装デバイスが使えない以前に、最火力を誇るレヴァンテインを相手に耐えろというが土台無理な話なのだ。

 やられる。そう頭の中で激しく警鐘が鳴る。

 だが追撃は来ず、彼女は魔法の迎撃をしている隼人の方へ行こうとしていた。


「行かせるかよッ!」


「ッ!」


 もう一つの意識が崩したバランスを取り持ち、押し退けたつもりでいたステラに側面から食らい付いて足止めをする。


「刹那!」


「ステラさん!」


 瞬間風香の追撃から抜け出したギルが、ステラの背後を取るようにランスを振りかぶって襲い掛かる。


「ハアァッ!」


「ぐあっ!!」


「チィ!」


 しかし身の危険を察知したステラは刹那もろともレヴァンテインを振り抜いてギルを薙ぎ払らう。


「ぃってぇ~」


「…おい!大丈夫か?」


 抑えていた所から急激な力で振り払われたのだ。ギルは咄嗟に攻撃から防御に切り替えたが、刹那はそうもいかなかったはず……。だが幸いにも刹那の方に目立った外傷はなかった。 


「問題ねぇ、けどこのままじゃジリ貧だ。くっ!」


「…おい!自称後方支援ッ!どうにかしろ、こういう時の為にいるんだろう!」


 ステラと風香の巧みな連携で互いの隙を埋め合い、そしてその連携のわずな隙さえ、後方からアルウィンの魔法の援護が入れることで完全に無くなっていた。

 その迎撃に苛立ちを覚えていたギルは、ついに隼人に怒鳴り散らした。


「無茶苦茶言うなって!あと自称は余計だ!」


 飛来する魔法の迎撃と時折ときおり、さっきのように自分を意図的に狙って襲う彼女らの連携から逃げ惑うのに精一杯な隼人に、この状況をどうにかする様な余裕は無かった。


「あぁだが、一つだけ手がない訳じゃねぇが…」


「…見込みは!?」


「数字にできっか!ただの思い付きだ!上手く行けばこの状況を打開できる!かもしれねぇ……」


 ギルから公算を問われ、そんな事が分かっていればとっくにやっていると吠え返すが、どうなるかも想像つかない可能性に語尾は段々と尻すぼんでいた。


「でも実際問題、できるかどうかも怪しい…!」


「できるできないじゃない、やれッ!」


「けどよ…ッ!」


「そんなの!させる訳ないでしょ!」


「私達をそう易々と止められるとでも思ってるんですか!」


 そんな事はさせないと畳み掛けてくるように波状攻撃を仕掛けるステラと風香。


「っく!いいから早くやれッ!!」


「隼人!頼むッ!」


 それを必死に凌ぐので切羽せっぱ詰まったギルバートと刹那は、唯一の可能性を躊躇ためらう隼人に一縷いちるの望みを託して応戦する。


「あぁッ!クソッ!!わーったよ!だったらお前ら全力で時間稼いで俺を守れよッ!!」


 頼られた隼人はそう言ってヤケクソ気味に右腕を天に突き上げて手をかざす。


「終末を望む果世はてよの輝き……」


 静かに、そして確かに唱える。

 それは声を張り上げた訳でも、力強く唱えた訳でも無かったが、その声は不思議と木霊こだました。


□□□


「嘘ッ!?」


「アレは!?」


 激闘の様を貴賓室で見ていた紅愛、ルーファス、沙織はその一節を聞いた途端、驚きに満ちた表情になる。


「まさか……いや、あの時機器はおろか、関係者含め施設自体全てを吹き飛ばしたはずだ……。魔法大全(マジックエンサイクロ)に載せた覚えもなければ載った事もない……何処からか洩れていたか?或いは……」


 沙織は一人落ち着いて過去の事象を思い返し、推測していたが、他の二人同様その表情に余裕はない。


「三谷ッ!」


「分かっている。紅愛、ルーファス、手は出すなよ。……チッ、やってくれたな黄瀬隼人」


 ルーファスに呼ばれるまでもなく、苦虫を噛み潰したような苦悶の表情で、沙織はその原因の発端者に悪態を付き、目まぐるしく変動する数値を余所よそに、高速でコンソールを叩く。

 彼女が一体何をしているのか。

 フィールドと客席を隔てる透明な特殊ガラス。この防弾ぼうだん防刃ぼうじん防魔ぼうま防爆ぼうばく対衝撃たいしょうげき加工が施されている特殊ガラスのパラメーターを管理者権限からアクセスし、強度を最高レベルに引き上げている真っ最中だった。

 それだけで防げるような魔法でないと、携わった研究者である彼女がよく知っている。だから機械システムの中に彼女自身の魔法を駆け巡らせ、掛け合わし、編み込んでいく事で、核シェルターに匹敵する障壁へと構築していく。

 いまや天井までしかない特殊ガラスの先には目には見えずとも魔力によっての築き上げられた壁が出来ていた。その高さは天井を突き抜けていまもなおそらへと延び続けている。

 そして強度は内からも外からも干渉することが不可能なレベルにまで達していた。


"そこまでする必要があるのか?"

"いくらなんでも対応が過剰なんじゃない?"

"いやいや、流石にオーバー過ぎるだろ"


 こう聞くと誰もがそう思うだろう。しかしながらそれほどまでに事態は楽観視できるものではないのだ。

 三者ともそんなはずはないと己の耳を疑った。しかし或いは……とも考え直した。


 "それ"は第二次魔導大戦時に某研究機関で編み出され、禁忌とされた魔法。存在するべきではないと七英雄の全員がそう判断し、戦争の終結と共に時代の闇へと葬った"大量殺戮"魔導。……その一節目だった。


□□□


 突き上げた隼人の右手の先に光が集い、淡く発光する。

 魔力が編み上げられ、魔法として形成する際に起こる発光現象。それは魔法を扱う誰もが知る現象だが、それとはまた別の光が拍動しながらともされていた。

 そして戦っているAクラスの面々はその光に得も言われぬ危機感を覚えて切迫していた。


「……死線の臨界。…は破滅の化身。…悔いろ。その罪を償え。無慈悲なる裁きの鉄…おわっ!?」


「「「!?」」」


 隼人が詠唱し切る直前、暴発という形で魔法が弾け散った。その余波が肌を焼く熱量と大気を軋ませる圧力、そして空間を引き裂くような烈風が悲鳴となって荒れ狂う。

 発動に失敗してこの威力。その力の大きさに隼人を除いた選手達に戦慄が走る。それはAクラスの危機感が確信に変わった瞬間でもあった。


「なんだ…いまのは?」


「くそ!やっぱなんとなくじゃダメか!」


「…阿呆ふざけるな!詠唱くらいちゃんとしろ!」


 Aクラスが愕然としているのを他所に、半端に唱えていた事を一人溢した隼人にギルの罵声が飛ぶ。


「うるせぇ!こっちはうろ覚えなものを必死に思い出してやってんだよ!気が散るからだあってろッ!……あーちっきしょっ!なんだったっけかな……え~っと確か、終末を望む果世はてよの輝き…」


「マズイ!彼を止めろ!」


 確証がないまま今度は胸の前で両手を掲げ再度詠唱し始める隼人。集約する魔力が再び淡い光を放つ。それにいち早く我に帰ったアルウィンが叫ぶ。


「言われなくても!」


「そのつもりです!」


「『リアクト』」


 その声に応えて強襲に掛かるステラと風香。そしてその二人を援護するようにアルウィンが岩槍を飛ばしてくる。


「…邪魔は!」


「させない!」


 それを刹那とギルは身を呈して立ちはだかり、隼人の詠唱の為の時間稼ぎをする。


死線しせん臨界りんかい泥黎ないり叫喚きょうかん怨嗟えんさ乱舞らんぶ…」


 隼人の手の上で放つ淡い光は、その輝きを潜め、淵をなぞるように輪郭を得る。

 そして刹那とギル。各々(おのおの)飛来する岩槍を砕きつつ、詠唱を止めようとするステラと風香相手に激しい攻防を繰り広げる。

 だがステラの一撃で刹那が圧され、隼人のすぐ目の前まで追い詰められる。


「我は森羅しんらを等しく薙ぎ払い、万象ばんしょう静寂せいじゃくに沈める破滅の化身けしん…」


 魔力が淡く光を放つのは上手く型取かたどる事が出来ずに魔力が漏れ出てる証左。即ち、正しく形成すれば発生する無駄を削ぎ落とせば魔力を象った輪郭が見えるようになる。

 そして輪郭を得た光は歪みながらも球体状に成型されてゆく。


退きなさい!」


「ぐっ!うぅ!」


(ここで潰される訳にはッ!)


 思わず片膝を付いて斬り潰されそうになった一撃を、意地と細かな手のわざで剣筋を逸らし、圧力を受け流す。

 まともに受け止めれば一瞬で潰されてしまう。けど防御にだけ専念していては隼人は守れない。そう察した刹那は一か八か、刀に炎を纏って攻勢へ転じて斬り返す。


「うおおぉぉぉぉぉぉッ!」


 炎同士がぶつかり合い、激しい剣撃と熱波が辺りに響き渡る。


塵芥ちりあくたと果てるうつろな焦土しょうど死灰しかいで埋もれる悲しき天上てんじょう…」


『黄瀬選手!なんという胆力でしょうか!?』


『ここまでの悪況あっきょうのなか、集中を乱さず、落ち着き払って魔法を詠唱できる人はそうはいません。互いを信じ合っているからこそ出来る"わざ"でしょうか』


 自分を止めようと、そして守ろうと目の前でどれほど激しく斬り結ばれようと、熱が伝わろうと動じず、詠唱を続ける隼人に解説の二人から称賛の声が上がる。

 普通このような状況下では、恐怖とプレッシャーに負けて上手く魔法が構築できず霧散する事の方が多いが、光は一切乱れる事は無く、隼人は詠唱を続けていた。


はじれ!いろ!」


 成型されて綺麗な球体を描いた光は、気が付かないほどゆっくりと、しかし確実にしぼんでいく。

 それは魔法に疎い観戦者からすれば、まるで空気の抜けていく風船のようだろう。だが魔の道に携わる者あればそれが圧縮されているのだと理解する。


「ここは絶対に通さない!」


「こ、のっ!」


 雄叫びをあげ、怒涛の連撃を繰り出す刹那にステラが怯み、攻勢から否応無く守勢に入らざるを得なくなる。


「刹那ッ!」


 瞬間、ギルの一瞬の隙を突いて風香が駆け抜ける。勿論狙いは隼人。


「くっ、そおぉぉぉぉっ!」


「チィッ!」


 咄嗟に斬り合いをしていたステラを突き飛ばして距離を取る。そして立ち塞がってもなお、そのまま隼人ごと押し切ろうと突撃する風香を強撃を以てして踏み止まる。

 視界の隅で、ステラとギルが激しい攻防を繰り広げる。丁度、相手を入れ替えた形でギリギリのせめぎ合いに持ち込む。


「自らの叡智えいちを前にして、おのが愚かさを知り、その罪をつぐなえ!無慈悲むじひなる裁きの鉄槌てっつい!」


 長い長い詠唱を唱え終えた隼人は閉じていた目を開き、開け放たれた天に向かってゆっくりと右手を掲げる。

 圧縮されていた光が隼人手から離れ、フィールド上空へと放たれる。光は二十メートルほどの高さに上がると静かに佇んだ。

 会場にいる誰しもがその光に注目していた。太陽の光に遠く及ばない、人が目視し続けても害にはならない光度。

 この光によってこれから起こる凄惨な事象など、誰も想像できなかった。


「『グラウンド・ゼロ』!」


 隼人がそう告げた瞬間。上空で佇んでいた光はドクン、と小さく拍動する。


「ッ!?」


 拍動それはまるで信管のようだった。これから起こるであろう事象の前触れ、起爆装置だと。ただの拍動でフィールドにいる選手がそう錯覚するぐらいの威力がこの光にはあった。


「「全員みんな伏せろ!!」」


 光を有する固有武装デバイスを扱う故か、その光がどういった物なのか、いち早くを察知したギルとアルウィンが同時に声を上げて行動する。だがそれを言い終える間もなく激しい閃光ともに会場が呑まれた。


□□□


 同刻。六芒全体にて軽度の地震が観測された。幸いにも人的被害は無く、周辺にも津波の影響は無かったが、それと時同じくして、娯楽区で天を衝く光の柱を見たという目撃情報と、周辺区域に通信障害報告が挙がった。


□□□


 観客席とフィールドを遮る特殊ガラスが今にも砕け散りそうに悲鳴を上げる。沙織が特殊ガラスに手を加えてなければ今頃砕けて観客に被害が出ていただろう。

 激しい閃光で目が眩んだ人がいた。あまりに強い衝撃に揺さぶられて酔った人もいた。だがそれ以上に得もいわれぬ恐怖を覚えた人の方が圧倒的に多かった。

 閃光アレを前に人間が、生き物と呼べるモノが生きていられる筈がない。アレが何なのか分からずとも、ただそれだけは理解させられた。

 "グラウンドゼロ" 。『零地点』『爆心地』という意味を持つその言葉は。強大な爆弾……主に原子爆弾や水素爆弾といった

核兵器が使われた直下の事を指す。つまりあの光は、核爆発そのものだ。

 それを理解した人間が、この会場に一体どれほど居ただろうか?


 衝撃による揺れと閃光が収まり、三人しかいない貴賓室に再び静寂が訪れる。


「……何とかなったみたいだな。紅愛、大丈夫か?」


「ええ、なんとか……でもちょっと気分が悪いから少し休ませて貰うわ」


「そうしてくれ、無理はするな。…三谷は大丈夫か?」


 顔色を悪そうにする紅愛をルーファスは室内に設置されたソファーへと介抱する。そして戻り際に相変わらず忙しくコンソールを叩く沙織を見ながら分かりきっている事を訊く。


「ああ、だが周辺区域の被害規模とその弁明を考えると今から頭が痛いな」


「そこまでの事を考えられるなら大丈夫だな」


 なんとも沙織らしい発言で安心する。

 一時はどうなる事かと思ったが、沙織の尽力によって外部に被害が出なかったのは奇跡と言えるだろう。あるいは黄瀬隼人の魔力が足りなかっただけか…。砂塵で埋め尽くされている窓を見つめながらそんな事を考える。


「状況は?」


 そして隼人の事を思考する途中で選手達の安否を気に掛ける。核爆発を起こしたのだ、常人でなくとも普通に死んでいる。たとえ魔法騎士といえど人だ。凌ぐ手立てがあったとして軽傷で済む筈がない。


「刹那のバイタルサインに反応がある。彼は魔法適正低いからな、彼が無事なら必然的に他の選手も無事だろう。それとガイガーカウンターに反応はないから放射線の心配も無い。だからいま一番大きい被害としてはやはり電磁パルスによる一時的な通信障害だろう。実際、此処のサーバーは落ちているしな」


 落ちている。と言っておきながら電子機器であるコンソールを叩く姿はどうにも矛盾しているように見えるが、彼女が使っている物がどんな非常時にでも使える代物だからだろう。その例外を除けば沙織の言う通り、部屋の照明も落ちており、手持ちにある端末も『NO SIGNAL』と出ていた。


「三谷はどう思う?」


「何がだ?」


 返ってきた返事はほぼ即答だった。振った質問を沙織は顔を動かさず端末を操作しながら聞き返す。沙織が主旨を濁した程度で話の意図が理解できないはずがない。過去の付き合いからルーファスはそう沙織を見ている。


「何故、黄瀬は我々が葬った筈の魔法を知っていたと思う?」


 だがとぼけさせぬと、強く睨み付けて問い掛けると。沙織の手がピタリと止まり、こちらを見やる。

 ルーファスのその言葉には、言葉以上の問いがあった。

 "グラウンド・ゼロ"を知る人間は七英雄と沙織、戦争の終結の為尽力したほんの一握りの関係者しか知らず、いずれも余人よにんに口外をしない誓約を交わしている。

 そして開発に関わった人間は全員死んでいる。だが、もしかしたら隼人が、或いは隼人の両親、親戚。とにかく近しい人間が開発者の身内ではないのかと、ルーファスは考えているのだ。

 もしこの妄想とも言える考えが限りなくゼロに近くともゼロではないのなら、ルーファスは七英雄としての責務を果たさなければならない。


「ふむ、そういうことか。貴様はそう思うのか?」


 その真意を読んだ沙織がこちらを強く睨み返す。怒りを持った目だった。殺意ではなく純粋な怒り。

 これ程までに真剣でなければ、普段であればすくみ上がっていただろう。だがそれはたった数秒、せいぜい二秒ほどだった。沙織の目は怒りを霧散させると、嘲るような呆れた目へと変わって口を開いた。


「だが残念ながら違う。貴様のそれは憶測だ。その根拠をいってやろう。彼はハッカーだ。過去にブラックハッカーだった前科があるが、いまは心改めていると聞く。腕次第ではあるがハッカーであるなら、戦時中に起きた真実を探り出す事など造作もない」


 虚空を見つめて話していた沙織は一旦言葉を切り、今度は目を伏せる。


「そして、確かに私達はあの魔法を葬るため施設ごと吹き飛ばした。だが私達がどんなに証拠を隠滅しようとこの世から跡形も無くモノを消すことは不可能だ。どこかに必ず痕跡を残す。そしてそれを探し出して再現する事は十二分に可能だ」


 伏せた目を開き、これで証明終了(Q E D)と言わんばかりの沙織。だがそれでもルーファスの中で疑問はまだ残っている。


「ではそれは何処で見つけたと?」


「さあな、そこまでは知らんよ。世はかくも広大で、未知と虚数で溢れている。何処に存在して、どうやってかなど私には皆目検討も付かん。そういった事は私よりアリアの方が分野だ。だから残る手段としては本人に直接問い詰めるしかない。誓約はその後だな」


「口を封じる。という手段はないんだな」


「ルーファス。お前が子供に手を掛けると言うなら私がお前を殺すぞ」


 再び怒りの目を向けられて、何故彼女が度々怒るのかようやく理解した。


(そうか……。子供好きもここまで来ればまるで母親だな)


 子供を慈しむ彼女は、子供を傷つけられるのが許せないのだろう。たとえ冗談であろうと、彼女の前でさっきのような発言は控えようとルーファスは改めて思う。


「呆けた顔で何を邪推じゃすいしてる」


「なんでもない。やれるものなら、と思ってただけだ」


 そう言ってルーファスはそれ以上に物言わず、落ち着きつつある砂嵐の窓を見つめてその先の光景を思い。沙織は静かにコンソールの方へ意識を傾けた。

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