それぞれの迷い(前編)
黒神刹那
黒髪の青年で戦闘能力は高いが、魔法を数回放っただけで倒れるほど魔法適性値が低い。心優しく優柔不断な面と残忍でさっぱりとした面を併せ持つ二重人格者。八型一刀流の使い手だが、戦闘で中途半端に優しさを出すからよく負けてしまう。
ステラ・スカーレット
紅い髪の女の子で元一校のエリート。少々意地っ張りでツンデレ。自分の気持ちに素直になれないことに対して自分でも悩んでいる
小桜風香
緑髪のお姉さん、元七校の風紀委員長であり、真面目で礼儀正しいのだが、基本的な問題解決方法が武力的なのが玉に瑕。
黄瀬隼斗
刹那のクラスメイト。元十二校で自称情報屋。VRゲームで鍛えた反射神経で二丁拳銃を使いこなし、また魔法による後方支援も得意としている。明るく軽い性格なのだが、厄介事によく巻き込まれる体質で苦労人。
蒼崎凛
蒼髪のお姉さん。元二校の生徒会長で刹那と海翔の先輩。天性の治癒能力を持っている。喋り方が独特で誰に対しても老人口調で話す。可愛いモノ好きで可愛いモノを見掛けると愛でたがる。
レノンハルト・フォン・イグニス
燃える様な赤く結われた長い髪が特徴の青年。不良校で有名な五校の元生徒会長、兼風紀委員長を務めていた。まともな仕事はしていないが、人一倍仲間を大切にする人で、五校の生徒からは尊敬の意を込めて『兄貴』と呼ばれている。
木代嵐子
黄緑色のショートヘアーと小柄さが印象的な女の子。元三校の生徒会長であり頭脳明晰、その頭脳であらゆる策略や戦略を練ることを得意としている。クールを気取っているが身長のことを言うとすぐに怒る。
「あ~もう!刹那ったらいくらなんでも隠し事多すぎると思わない!?」
今日何度目か分からないステラの怒号に、また始まったかと、流石に辟易を覚え始める風香。だが彼女にもステラが声を荒立てるような気持ちが分からないわけではなかった。
「ステラさん落ち着いて下さい。ここは廊下ですし、誰が聞いているか分かりませんよ?」
「そうだけど!むぅ……」
だから落ち着くようステラを諭して宥めようと試みるが、それでも彼女は煮え切らない様子で、膨れっ面をしては黙り込んで拗ねた子供のようにイジけてしまう。
端から見る分にはとても可愛らしい行為に見えるが、この状態が可愛らしいと思えたのも最初の時まで。こうなったら天の邪鬼の彼女は誰に対してもツンケンし始めて、十三校の中で比較的仲の良いはずの風香であっても、特に扱いに困る状態になってしまう。
それが分かったのは最初に会場の控え室を出る時の事であったが、もしこんな状態で原因である彼と鉢合わせたりなどしたらどうなるか……。恐らく癇癪を起こした末に決闘を申し込むとか言い出すのが容易に想像できるが、決勝戦前に問題を起こされては大変困る。
「はぁ……」
軽い頭痛を覚えながら溜め息を吐く。この状態になる度に、あの手この手で機嫌を直そうと色々尽くして来たがそろそろネタ切れである。
そのまま放って置くのも一つの手ではあるのだが、機嫌を直すのに時間が掛かる上に誰に被害を振り撒くか分かったものではない。そもそもチームメイトなのだから風香に放って置くという選択肢はない。助けのアルウィンは代表者達に割り当てられた部屋で休んでいるが、機嫌を直させる為にわざわざ呼び行くのも忍びない。
そこで仕方なく風香はしたくない話を切り出す事にする。
「ステラさん。刹那さんが私達に色々隠し事していることに対して私もどうかとは思いますが、ステラさんも同様ですよね?」
「…何よ」
言い返しそのものは不機嫌だが、まだ会話の余地はある。あとはこのまま消沈してくれれば良いのだが、事と次第によっては明日の決勝に影響が出てしまうだろう。かなりリスクがあるが、切り出した以上、後に引くわけにもいかない。
「ステラさんも私や、皆さんに言っていない事がありますよね?御自分の事情は隠しているのに人の隠し事を責め立てるのは可笑しくないですか?」
「うっ……」
正論で痛いところ突くとステラは少したじろいでバツの悪い顔をする。
勿論風香はステラの事情なんて一切知らない。ただ人は誰でも一つや二つ、他人には言えない事を抱えているものだろうと鎌を掛けて言っただけだ。
図星かどうかはさておき、問題は正論を言われた時、彼女がどういう行動に出るのかだが……
「もういいわよ!意地悪言う風香なんか知らない!」
「あっ、ステラさん!」
機嫌を損ね、逃げるように廊下を走って行くステラ。止める事もできたが迷っているうちに風香はその場に取り残されてしまった。
「はぁ、何をやってるんでしょうね私は……」
小さく溜め息を付き、柄にもなく独り言を言って、特に何処に向かうわけでもないがとにかく歩く。
ステラには悪いことをしてしまったと思うが。彼女自身、自分が我儘を言っていることに自覚はあるはずだから、気持ちを落ち着けて考える時間が必要だろう。
「ふぅ……」
小さく深呼吸をして気を取り直す。過ぎた事を気に病んでも仕方のない事。時間が解決させる問題であればいつまでも自分が考える必要はない。ステラはいまのところ一人にしておいて、気分を変える為にトレーニングルームで運動でもしようと思い立ち、早速向かおうとする。
しかし向かう途中、道行く先に見知った顔が向こうから歩いてくるのが見える。考え事をしているのか俯いたまま歩いていて向こうはまだこちらに気付いていないようだった。
これを好機を思い、気分転換の一貫で風香はちょっとしたちょっかいを掛けようと動いた。
「夜道……ではありませんが、背後に気を付けるよう忠告しましたよね?」
得意の高速移動で音もなく相手の背後を取り、取り出した剣を背に突き付ける。
「……」
相手は一瞬ビクついたが、こっちが誰だか分かると何事も無かったかのように無視して歩き始める。
「無視とはいい度胸ですね?」
だがむざむざ逃がす筈もなく、横に回り込んで喉元に切っ先を少し当てて動きを制する。
「ほっとけよ、いまはあんたに構ってる気分じゃねぇんだ」
暗めな表情と声のトーンから隼人のテンションが低いのが伺え、冗談やシラを切るつもりではないと判断して剣を収める。
「珍しいですね。いつも滑稽……失礼、愉快そうなあなたが落ち込んでいるなんて」
「いまわざと口滑らせたよな?しかもどっちにしろ馬鹿にしてるのは変わんねぇし……てか何でもかんでもツッコむと思うな。そんな気分じゃねぇって言ってんだろ」
わざとらしく漏らした謗りに反応して噛み付いてくる。
「ふふ、そういう割にはしっかり拾っていますし、そこまで落ち込んでいる訳でも無いみたいですね」
それがおかしくてついつい笑ってしまう。
「あんた性格悪いって言われたことあるだろ?」
「さあどうでしょう。それで、何があったのか差し支えが無ければお聞きしても?」
彼の問いを濁しつつ、多少の面倒に巻き込まれる事を覚悟しつつも、好奇心と親切心から何があったのか立ち入ることにする。
「なんであんたに言わなきゃいけないんだ?ほっとけって言ってるだろ……。あんたに話したところで何にもならねぇし、わざわざ笑い者にされる必要もねぇ。じゃあな」
しかし、彼は不機嫌そうにして話す事を拒むと背を向けて立ち去ろうとする。
「人が折角気遣って聞いてあげましょうと言っているのにその態度、気に入りませんね。それに、話す前から私があなたを笑い者にすると決め付けられるとは心外です」
再び逃げるように歩き出そうとする隼人を素早く取り出した剣で文字通り目の前に置いて動きを止める。
「ッ……あのなぁッ!気に食わなけりゃすぐ手ぇ出すのホントやめてくれませんかね!?つーかこんなとこで剣出すな!出停なんぞ!?」
「これは失礼……善処しましょう。でも私はこれでもあなたを心配しているつもりなんですが?」
「どこがだよ、口より先に手が出てんじゃねぇか」
「何か言いましたか?」
「……何でもねぇよ」
余計な事を言う隼人の顎に刃を押し当てると、大人しく前言撤回する。
心配しているのは本当の事なのだが、どうしても彼はそれを疑いの眼差しで見てくる。
彼の言う通りすぐ剣に手が伸びてしまうのは悪い癖だが、それが何かと物事を簡潔に済ませられるのがいけないのだ。と内心言い訳しつつも、暴力でものを言わせたところで結果が良い方に行くはずもないと思い直して留意する。
「で、話をお聞きしても?」
留意はしたが拒否はさせまいと殺気を発たせてもう一度同じ事を聞く。
「チッ……、わーったからそれしまえよこの性悪風紀委員長が……ったく、なんでこんな事に……」
それを見て諦めざるを得ないと観念したのか、小言を言いつつも渋々と事情を話す隼人なのだった。
□□□
隼人を探す為、ホテル内を宛もなく探索する刹那。すれ違いやホテルを出て外にいる可能性もあるが、そこまではしないだろう思い、まずは一番広い一階から探し回る。
しかし流石は娯楽区の一流ホテル。広すぎるというか、ものの数分で既に迷子になりかけて途方に暮れてしまう。
「おぅ、こんなとこでどうしたよ?明日の決勝で緊張して眠れねぇのか?」
来た道を引き返そうか迷っていると不意に声を掛けられ、顔を上げてみるとレノがいた。
「レノ……いや、そうじゃないんだけど丁度良かった。隼人を見なかった?」
「隼人?……あぁお前んとこの面白いヤツか。いや見てねぇぜ。はぐれたのか?」
「いやそうじゃなくて、ギルとちょっとあってさ、それでどっか行っちゃってね」
「ケンカか?あんなひょろそうなヤツが王子の弟に挑むたぁいい度胸だな」
「他人事みたい言わないでよ……もしかしたら明日の決勝に関わるから、できたら一緒に探して欲しいんだけど……」
興味津々で面白そうに話を聞くレノだが、こちらとしても由々しい事態なのでそうもしてられない。
けどそうした中でふと人手が多いことに越した事はないと思い、思い切ってレノに頼んでみる。
「あー……俺は今日の試合で暴れ足りなかったから、いまから体動かそうと思ってたんだが……」
「そうだったんだ。邪魔してごめん」
「いや謝る必要はねぇけどよ……そうだ、お前いま暇だろ?俺と模擬戦しようぜ!」
「は?え?……いやでも隼人と探さないと……」
突拍子もないというか、ちゃんと人の話を聞いていたのだろうか?と聞きたくなる程急な話題の転換に理解が追い付けないまま、しどろもどろな返答をしてしまう。
「いいからいいからちぃせぇ事は気にすんなって。すぐ終わるし、それが終わってからその…隼人だっけか?二人で探しゃ早いだろ?」
「うわわっ!」
強引に肩を組まれ、為す術も無くそのまま連れて行かれる。
「いやなぁ、Aクラスに勝つ気でいたからよ、お前とも最終的にやり合うつもりだったんだが、敗退しちまったからその機会がねぇじゃんよ?だから運動がてらにな!」
「いやいまじゃなくても良いんじゃ……というか僕は僕で明日決勝だからケガしたくないんだけど……」
「加減するから大丈夫だって、それに善は急げってよく言うだろ?まあケガしても蒼崎呼べばなんとかなるだろ……つーかお前、その眉間の傷塞がってねぇのによくそんなこと言えたな」
「これはもう大丈夫って言われてるからいいんだよ」
「じゃあ模擬戦しても問題ねぇな」
「はぁ……わかったよ……」
もう拒否権が無いと理解して、投げ槍気味に返事をする。
連れて行かれるまま歩くこと少し、一度はトレーニングルームを利用した事のある刹那だが、その道順を覚えていない程記憶力が悪い訳ではない。しかしながらレノはさっきからどうもおかしな道を歩いてた。
「レノ、どこに向かっているの?トレーニングルームってこっちじゃないよね?」
「ん?……あぁ、模擬戦つったろ?人目に付くと厄介な事になるからな。丁度良いところ見付けたからそこに向かってんだ」
「……え?」
確かにレノは模擬戦と言ったが、前日のギルとの決闘とは違い。木刀とかではなく、真剣でやるつもりらしい。
てっきり木刀と素手でやるものだと早合点していた自分が完全に悪いのだが、それだとレノの言う通り見つかったらかなり不味い状態になりかねない。トレーニングルームには不正利用防止の為の監視カメラがあるから、行くのを避けたのだろう。
学外での魔法は勿論、武器を取り出す事も魔導法に引っ掛かる。見つかれば現行犯で暫くの間謹慎が言い渡され、武器と魔導騎士の資格を剥奪される。その状態で再度法を侵した場合、危険分子として厳重に拘束されて拘置所送りになって二度と陽の目を見ることは無くなるらしい。
それを承知でレノといまから模擬戦を行うつもりなのだが、正直通報されなければ問題がない上に誰もが一度は侵したものあり、大体がその場の厳重注意で済んでいるので、法を侵している実感が無くて怖くないというのが世の中の実状である。
「うし、着いたぜ」
法の事など考えているうちにレノが目指していた目的地に着く。
「へぇ……」
そこは散歩目的の自然遊歩道のある広い庭園だった。歩道はどこまで続いているか分からないが、ちょっとした運動をする分にはいい具合に開けた場所だった。
「こんな場所あったんだ……」
「昨日散策してたら偶然見付けてよ。人が通り掛かる気配もねぇから、ちっとばかし軽い運動してたんだ。んじゃ早速やろうぜ」
そういうとレノは小手を装備して、すぐさま戦闘態勢に入る。こんなやる気満々のレノに今更無理とも言いづらい。例え言ったとしても立ち去ろうとして背を見せた瞬間に襲い掛かって来て、結局戦闘になるのが関の山だろう。
不承不承ながら踏ん切りを付けて、刀を取り出す。
「まず勝負の条件を決めよう。あんまりやり過ぎるのは良くないからね」
「あ~そうだな……。ま、深く考えずジェネラルでいいだろ?」
レノが言っているのはジェネラルルールの事。"相手を降参させる、もしくは無力化させる。"という魔導校創立以来、単純明快かつ唯一不変のルールである。
数字付き学院の以外の魔導学園にも適応されてる勝敗条件だが、どの校もある程度このルールを基準に則っている為、特に差違はない。
「オーケー。相手の無力化した方が勝ち。勿論学外だから魔法は禁止ね?」
最後の確認をしてから静かに刀を構える。
「おうよ。じゃあ行くぜ!」
そう言ってレノが一気に間合い詰めてくる。
「ふっ!」
一直線に詰めてくるレノに横に薙ぐように刀を振る。
だがただの横一閃がレノに通用する訳もなく、あっさりと屈んで避けられる。
「あめぇ、ぜッ!」
「くっ!」
反撃で繰り出してきたアッパーを仰け反る形で躱し、そのままバク転して距離を取る。
「おらぁ!」
「っぁ!」
しかし間髪容れずに攻撃を仕掛けてくるレノ。右ストレートを辛うじて受け止めるが流石は炎帝と呼ばれる男。受け止めるのが精一杯で反撃をする余力がない。
「ガラ空きだぜ!」
「っ!」
レノは追い討ちを掛けて左フックを放ってくる。右手を抑える為に刀を使っている為防ぎようがない。レノも右手でこちらを抑え付けているから力が入れづらい体勢ではあるが、この攻撃をまともに喰らえば痛いじゃ済まされないだろう。
瞬間。急に視界が色褪せ、動くもの全てが止まっていくように鈍化していく。
ギルとの決闘の時にも使った血壊。それに身破を掛け合わせて体を思考の反射に追い付かせる。血壊と身破、それぞれ別の体術ではあるが、それらは同時に使うのが本来の形であり、名も"血壊身破"と呼び改められる。
そして鈍化する視界での判断は一瞬、その瞬きの間に右手は虚空から太刀を抜き取り、レノの左フックを防いでみせた。
金属同士が激しくぶつかった時特有の甲高い音が庭園に小さく響く。危ない状況から間一髪、膠着状態に持ち込む。
「へっ、やるじゃねぇの」
「…まだまだ!」
余裕そうなレノと必死な刹那。二人の状態は対照的だったが、同じ笑みを浮かべていた。
「威勢は良いけどな、こいつは凌げるか?」
小手を打ち鳴らすようして力強くを付き合わせ、気合いを入れるレノ。それだけでさっきまでとは違う気迫に襲われる。
「おらぁ!」
急速接近、強襲から放たれる左ブロー。しかし、血壊身破中の刹那に取って、難なく対処できるものだった。
「っ!」
だったのだが。レノの力量、腕力を甘くみていた。受け止めた衝撃で太刀はおろか衝撃で体が浮き、体勢が崩れる。
「よっ!」
「がはっ!」
そして何もできないまま回し蹴りを食らいぶっ飛ばされる。
芝生の上を転がって蹲る。蹴り飛ばす時に手加減していたのか、そこまで酷い痛みではなかったがすぐに立てるような状態ではない。
「決まりだな」
勝った気でいるレノは戦闘態勢を解いて悠々と歩いてくる。
「いやまだだッ!いてっ……」
勢いまま刃向かって立ち上がろうとすると、レノに額を小突かれそのまましりもちを付く。
「そう熱くなんなって。明日決勝つったのお前だろーが」
「……」
確かにレノの言う通りだ。自分で言っておきながら熱くなって忘れていたのが恥ずかしい。
「まだやりたりねぇつーならまた今度だな。ほらよ、手ぇ貸すか?」
「ん……ありがとう」
レノの気遣いにお礼を言いつつ差し出された手を掴んで立ち上がる。
「つか、ぶっちゃけいまのお前と戦ってもなんか足りねぇんだよな…」
「足りないって、手を抜いたつもりは無かったんだけど…」
「そりゃ分かってる。手抜いてたら本気でブン殴ってやるつもりだったからな」
その言葉に一瞬背筋がゾクッとしたが、それなりに全力で挑んで良かったと胸を撫で下ろす。
「なんつーか、真剣なのは分かんだけどよ。剣が軽いっつーの?動きがふわふわしてるっつーか……ぁ~要領得ねぇな…」
何が足りないのか言おうとするも、上手く言葉で言い表せずに隔靴掻痒とするレノ。見ているこっちにもその苛立ちが伝わってくる。
「つまり覚悟が足りないって言いたいんだろう?」
「そう、それ!って…」
そこに言いたかった事を的確に射る表現をされて、一度は明るい表情をしたレノだが、それをした嵐子の顔を見た途端、怪訝そうな表情になり、場に険悪な雰囲気が流れ始める。
「嵐子てめぇ、性格も悪けりゃ盗み聞きたぁ趣味も悪いな」
「五月蝿いな。公共の場で模擬戦なんかしてた方もどうかと思うけど?ま、ボクに取っては君みたいな馬鹿で戦うだけの能無しを退学させるいい機会だけどね」
「あぁん?脅してるつもりか?やれるもんならやってみろよ?このチビ」
「勿論今から学院長に報告してやるさ。君みたいな奴といるとバカが伝染るんだよ、この頓珍漢!」
「うるせぇ!俺だってテメェ見たいなチビといると低身長が伝染るぜ!このちんちくりん!」
「伝染る訳ないだろアホッ!」
険悪な雰囲気から言い争いが激しくなるが、それが幼稚な方へと発展していき、段々と見ているこっちがアホらしくなるほど醜いものへと落ちていく。
「何やら騒がしいと思ったら、お主ら何してるんじゃ?」
そこに偶然通りかかった凛が現れる。
自分には手に余るケンカに凛が来てくれて内心安堵する。
「このバカ!」
「このチビ!」
しかし凛そっちのけで低レベルな言い争いを続けるレノと嵐子。全く回りが見えていない様だ。
「あーヨシヨシ、二人とも落ち着くのじゃ。話はいくらでも聞くぞ……刹那のをな」
凛は一触即発状態の二人の間に割って入り、宥めながらこちらに話を振る。
「え!?なんで僕なんですか?」
「こやつらの話を聞いたところで、互いの主観でしか言いたい放題言わぬじゃろう?そうなってしまっては話の辻褄が合わぬ、じゃから客観的に見てたお主が一番まともそうだからお主の話を儂は聞こうと思った訳じゃ」
「ケッ!そもそもコイツが来なけりゃこうはなってねぇよ」
「へぇ~。たまたま模擬戦しているのを見掛けて、面倒だけど邪魔立てが起きないよう人払いしてた恩人にそんな事言うのか君は」
「今更な話すんじゃねぇ、つかそうだとしても言い方がイチイチ恩着せがましいんだよテメェはよ」
一旦止めた言い合いをまたし始める二人。本当にこの二人はソリが合わないんだろうと先日の学院長室での件からも見て分かる。
顔を会わせればすぐ口論しては争うのだから、この二人が今後も一緒にやっていけるとは到底思えない。
「よさぬか!儂の前で喧嘩は許さんぞ。ほれ、刹那も何があったのかはやく話さぬか」
「あ、はい。最初にレノと会って……」
凛に促されてレノと鉢合わせた所から掻い摘まんで話していく。
「なるほどの~…」
刹那の話を聞いて何かを納得し、一人ウンウンと頷く凛。
「まあ喧嘩両成敗と云う言葉もあるのじゃから、レノンも嵐子ちゃんも悪いで良かろう」
「なんでだ!?」
「なんでさ!?」
凛が出した結論にレノと嵐子、二人一緒に食い下がってくる。
「で、結局お主は刹那に何が言いたかったのじゃ?」
だが凛はそれをナチュラルに無視して、レノに真意を問う。嵐子の乱入により中断していたが、自分も気に掛かっていたことだから凛の問いはありがたかった。
「あ?あぁ~覚悟っつーか、やる気が足りねぇって言いたかったんだ」
「なんだそれ、ボクが言ったことを言い換えたじゃないか……」
「あァ?」
「しっ!悪い子はメッ!じゃ」
「ぁいたっ!」
嵐子が余計なことを言ってレノが反応するが、話が脱線する前に凛に鉄扇で軽く頭を叩かれて制される。
「やる気はあったけど、それでもやっぱり足りなかったのかな……」
何の茶番を見せられているんだろうって思うが、大事な事を話している最中なので無視して真面目に聞き返す。
「やる気ってのはそういうんじゃねぇよ。お前が何の為に戦うかっつー話だ」
「何の為に……?」
戦う理由だろうか?よく考えてみればそういった理由は自分には無かった。剣の鍛練はそういう家系だから半強制だったが、特に嫌と感じたことは一度も無い。誰かに剣を向けるのは好きじゃないけど、ただ型を覚えて舞うように剣を振るのが楽しかったからだろう。
でもそれを人を傷付ける目的で振るうとなると、やはり好ましくない。
「そうだ。……なんつーか、俺と同じ感じがするんだよな。……理由は知らんが、どっか本能的に無意識で力をセーヴしてる感じがあるからよ。それをどうにかすりゃ吹っ切れると思うんだが……」
「そう……かもしれない。でもそれならレノは何の為に?」
もしかしたら何かヒントを得ることが出来るかもしれないと思って少し期待して聞き返す。
「……勿論守りてぇ奴等の為だ。俺がやられたら守りきれねぇからな。だから俺はもっと戦ってもっと強くなる。そしてもっといろんな奴等を守って見せる。単純明快だろ?」
そういってニッと笑って見せるレノ。その返答に考え方から在り方全てがレノ強さなのだと。そう思わせる何かを感じさせられた。
(大切なものを守る為に戦う……その理由で僕はこの先戦い続けられるかな……)
海翔との戦いでは勢いで言ったものの、レノの言われて初めて考えさせられる。
「まぁそんな気にし過ぎんなよ。あんま気負い過ぎても勝てるもんも勝てねぇぜ?ま、いまのお前には付け焼刃に水だったか」
「付け焼刃に焼け石に水だろ。カッコつけて混同するくらいなら黙ってなよ」
レノの言い間違えを嵐子が罵りながら指摘した事により、またもや険悪な雰囲気と化す。
「俺なりにアレンジしただけだっつの、そんなことも分かんねぇのか?バーカ」
「君にだけは言われたくないこのバカイグニス!」
「誰がバカだコラァ!」
そして段々と収拾をつけるのが面倒な程に口喧嘩がヒートアップしていく。
「はぁ…この二人は儂に任せて行け、お主はチームメイトを探している最中なのじゃろう?」
隣で凛は溜め息を吐きつつもこちらを気遣って、先行くよう勧めてくる。
「ありがとうございます。では御言葉に甘えて……失礼します会長」
この二人を相手するのは色々と面倒だと思っているが、いまは隼人を探している途中なのだ。だから凛の進言に甘えて、お礼を言いつつそのまま中庭を後にした。
□□□
「ふぅ、気を使わせてすまぬな」
凛がそう言うと本当にいがみ合っていた二人は直ぐに察して言い争いをやめる。
「あ?ああ、別に良いってことよ」
「ふん、凛にしては珍しい事をするじゃないかと思ってたけど、そんなに大事な後輩なのかい?」
この二人。顔を付き合わせれば文句ばかり言い合うが、喧嘩するときはとことんし、そうじゃないときはただの知り合いという間柄にしてそれなりのメリハリというかケジメを互いに着けている様なのだが。その切り替えが異様過ぎて他者から見れば何とも奇妙な関係性に見える。
しかしそれを短くない付き合いで知っている故、凛はその異様な態度の変わり様を気にせずに話を続ける。
「あやつは元気そう見えて心の傷は深い。自身ですら治りきっていると思っておる。だからちょっとしたことで不安定になりやすいのじゃ」
「そうかよ。ったく、お前にあんな目で見られて肝が冷えたぜ」
「はて?儂がどんな眼をしておったのじゃ?」
レノに言われ、どんな目をしていたかと思い出そうとして首を傾げる。
「あいつが何の為に戦っているのかって聞いてきた時、お前ぜってぇ人一人は殺ってそうな眼して俺を見てたんだよ。代表の初顔合わせの時思い出したぜ」
「あ~あの時の凛は雰囲気が凄まじかったから……あれか……」
「あ~のぅ……あれか。ハッハッハ、まあお主は阿呆じゃからなぁ。下手な返答次第ではどうしてやろうかと思っておったのじゃが、それがうっかり出てしまったようじゃな。てへ☆」
からからと笑いつつあざとく誤魔化す。
確かに問いを返す時にレノを見つめていたが、その"気"が表に出てたとは思いもしていなかった。だが些末な事、隠しているつもりもないから知られた気取られた所で特に構いはしない。
「普段全然表に出さないからつい忘れちゃうけど、やっぱ凛って恐ろしいよね」
「む、失礼な。儂は優しいお姉さんじゃぞ~ほれほれ~」
「ちょ、近づくな!触るな!頭撫でようとするな!」
逃げようとする嵐子をひっ捕まえて、ひたすら頭を撫で廻す。
「ランランは小さくて可愛いの~」
「だーかーらー!あっ…!」
頭を撫でるついでに制服の胸元にスルリと手を入れると嵐子は小さく矯声を漏らす。
「どさくさに紛れて何処に手突っ込んでんだこの変態!!」
入れた手に噛み付こうとするが、即座に抜いて離れる。
「儂とランランの仲じゃし良いではないか~幼児体型の割に意外とある所はあるみたいじゃからこれからの成長が見込めそうじゃの~」
「全っ然良くないッ!あとそれ以上喋ったら殺す!おいイグニス!見てないでこの変態をどうにかしろ!」
隙あらば愛で倒そうとするこちらに警戒心剥き出しで身構える嵐子。本気で対抗するつもりなのだろうがその様子はまるで威嚇する仔猫みたいで、そういうところがまた可愛らしいかった。
「それが人に物を頼む態度かよ。俺ァ知らねぇよ勝手にやってろ。つかいまのテメェ相当バカっぽいぞ」
レノにも同様に見えているようで。嵐子の態度が気に食わなかったのか、はたまた百合の間に割って入るのを躊躇ったのかは分からないが、彼女の助けを蹴り、捨て台詞を吐いて何処かに去ろうとする。
「バカイグニスに言われたくないッ!」
「誰がバカだ!あァンッ!?」
が、嵐子の口から出たいつもの禁句に足を止め再度ケンカが勃発する。
「あらら、また始まってしまったのぅ」
いつもなら放置して去る所だが、発端を作った自覚があるから大惨事が起きないぐらいに傍観しようと決め、二人の言い争いを面白げに見る凛なのであった。




