表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
第十三魔導武装学院  作者: 黒姫
第一章 学内順位戦編
20/35

目覚める黒曜、翔る聖槍

登場人物紹介


黒神刹那くろがみ せつな

 黒髪の青年で戦闘能力は高いが、魔法を数回放っただけで倒れるほど魔法適性値が低い。心優しく優柔不断な面と残忍でさっぱりとした面を併せ持つ二重人格者。八型一刀流の使い手だが、戦闘で中途半端に優しさを出すからよく負けてしまう。


黄瀬隼斗きせ はやと

 刹那のクラスメイト。元十二校で自称情報屋。VRゲームで鍛えた反射神経で二丁拳銃を使いこなし、また魔法による後方支援も得意としている。明るく軽い性格なのだが、厄介事によく巻き込まれる体質で苦労人。


ギルバート・エストレア

 金髪の刹那のクラスメイトで元四校出身。無愛想な性格で実力主義者。昔の事件で失った親友のことを今でも悔やんでおり、二度と同じことを繰り返さない為に強さを求めている。


碧川海翔みどりかわ かいと

 青髪の青年。元二校の生徒会副会長で実力主義者。相手を見下したような言動が多く、弱者が強者に虐げられる事を当然だと思っている


蒼崎凛あおざき りん

 蒼髪のお姉さん。元二校の生徒会長で刹那と海翔の先輩。天性の治癒能力を持っている。喋り方が独特で誰に対しても老人口調で話す。可愛いモノ好きで可愛いモノを見掛けると愛でたがる。


沢木境さわき きょう

 眼鏡をかけた真面目そうな紫髪のお姉さん。元二校の生徒会書記で戦闘歩法の縮地しゅくちを極めており、瞬間移動を基点とした高速戦闘が得意。凛の命令を絶対としている。


三谷沙織みたに さおり

 十三校の学院長であり科学者。主に固有武装デバイスの研究を行っている。常に物事の先を見据えて行動しているが、その行動は誰にも予測がつかない。


ルーファス・ブレイヴ

 金髪の伊達男。第二次魔導大戦を終結させた七英雄の一人。白兵戦に於いて無類の強さを誇り『最強』の異名を取る人物。『斬った』という因果を反転させて絶対不可避の一撃にする固有武装デバイス『神剣ハルシオン』の所持者。軍の所属だったが現在は紅愛の護衛ボディガードとして、いつも彼女のそばにいる。


桃井紅愛ももい くれあ

 紅に近いピンク髪の女性。第二次魔導大戦を終結させた七英雄の一人。魔法騎士で、『戦場の歌姫』と呼ばれていたが、大戦中に両目を負傷し視力を失った。個人差はあれど触れた相手の視力と同調して視ることができ。ルーファスとはかなり相性が良いらしく、いつもベッタリくっついている。芽愛の姉でもある。


常盤文乃ときわ ふみの

 元気で明るい茶髪の女の子。ムードメーカーで順位戦の実況者を自ら志願した。


柊奏ひいらぎ かなで

 落ちついていて物静かな印象を受ける白髪の女の子。物事を見極める洞察力と声の良さから、解説者に抜擢された


「……」


 祈るように詠唱したが、黒曜は何一つとして反応を現さなかった。


「っ……」


「ハハハハ!こいつは傑作だ、まさか本当に使えなかったのか!やはり君は無能者だな!しかし、道具にも見捨てられているとはね……。嫌悪感を通り越して、もはや憐憫すら感じるよ」


 海翔は何も起きなかった事を冷笑し、憐れむような目で見てくる。


「これで、終わりにしてやる」


 そう言うと、分身が弓に手を掛ける。また矢雨(アローレイン)を放つつもりなのだろう。

 それ以外だとしても、向こう側が圧倒的に物量を誇っている以上、劣勢であることに変わりはない。

 そして無情にも無数の矢が放たれる。


「まだだっ!」


 無駄に終わるかもしれないが、それでも諦めず足掻いて、降り注ぐ矢の雨を弾き落とす。


「さっさと折れてしまえよ。まあ相手が幻影だからといって、矢まで幻影だと思わないのは過去に経験しているからだろうが、世の中は目に映る物だけが全てじゃない」


 見えはしないが、背後から狙われていると頭の中で激しく警鐘が鳴る。だが降り注ぐ矢を振り払うので精一杯で後ろまで手が回らない。

 八型一刀流を使えばこの場を凌げるだろうが、消耗戦を強いられればいつかは限界が来て終わる。どちらにしても絶望的な事には変わりがない……。


(頼む、力を貸してくれ黒曜。お願いだ……!)


 次々に射られる矢を振り払いながら必死に、縋るように祈る。


「……」


「……くっ!」


 だがそれでも、黒曜は無機質にただただ振るわれ続けているだけだった。


『汝……何ヲ求ム』


「っ!!!?」


 やはりダメかと思った瞬間。声にならない想いが響いてくる。

 それは刹那だけにしか聞こえない(伝わらない)想い。

 刹那はこの感覚をよく知っていた。この刀を手にした時からいままで、黒曜を解放する度にこのように想いが伝わってきた。何故問い掛け、どうして周りには伝わらないのか分からないが、刹那はこの想いの主が黒曜だと思っている。

 だからこの感覚に少し懐かしさと安心感を覚える。


(力を、君の力を僕に貸してくれ…いや、貸して欲しい)


何故ナニユエ……』


(僕を貶めた人に一矢を報いる為だ)


『……』


 その返答に沈黙する。いままで問い掛けられても素直に返答してきた。そしてその答えがなんであっても黒曜に拒まれた事はなかったが、もし断られたらと考えると緊張が走る。


『……相分カッタ』


 その返答を最後に想いは途切れる。

 成功したと内心安堵するが、黒曜はただ小さく魔力を放出するだけだった。他のデバイスの様に、派手に多量の魔力を放出全然しない。


 だがそれでいい。


「終わりだ。『不可視の矢(インビジブルアロー)』」


 矢が放たれる。その瞬間を見ることは出来ず、見れたとしてもその矢は視ることが出来ない。それでも7時の方向から飛んでくるというのが直感で分かる。


「一ノ型『烈火』!」


 その勘を信じ、火を纏って前方のいる分身諸とも炎で振り払う。

 炎で分身は消え去り、不可視の矢も勘通りに防ぐことができた。


「やっと、奥の手を出したか……。それにしても本当に君は勘だけは無駄にいいね。どうやって不可視の矢(インビジブルアロー)を見切ったのか知らないが、その勘は評価してやるよ。それだけは……ね!」


「ハァッ!」


 今度は3時の方向から放たれた矢を弾き飛ばす。


「ふん、どれだけ見切ってもそれが何処まで続くか見物だ。いまので2回、前に持ったのは8回だったかな?」


「ああ、そうだ。でもいまはいくら来たって無駄だ」


 見えない矢がどんなに来ようと全部見切る自信とそれを可能にする力がいまここにある。


「ハッ!大きく出たね。虚勢も程々にしておかないと命を落とすぞ」


「じゃあ虚勢かどうか確かめてみるかい?」


 右に左にと火を纏った刀を大きく振って氷の表面の大きな傷を作る。


「その様子、まさか……」


「そのまさかだ。いまの僕はデバイスを使っている」


 そう言われて、海翔は注意深く観察する。確かに黒曜から微量な魔力が放出されていた。


「何を調子に乗って誇らしげにしているのかと思えば、そんな見分けもつかない程小さな能力でなんになる?」


 でも、それは気付くか気付かないかというほどの本当に微量な魔力。幻影弓が放出する魔力の何百分の一ほどしか無い。


「できるさ。この能力ちからで君を倒すことだって。これからが君との勝負だ!」


「言ったな?ならその自信ごと徹底的に潰してやる」


□□□


「わぁー綺麗」


 試合を眺めながら嬉々として感嘆の声を漏らす紅愛。その様子はまるで無邪気な子供そのものだった。

 目の見えない彼女が視る光景がどのようなものか少し気になるが、それよりもルーファスは疑問に感じた事を沙織に問い掛けることにする。


「三谷、確かあの生徒は適正値が低いんじゃなかったのか?」


「そうだ」


 沙織は問い掛けに対して淡々と答えるが、その先を言おうとしない。というより、彼女はそれで答え終えたつもりなのだろう。

 旧知の仲だから知っているが、昔から聞かなければ答えない性格は相変わらずだ。と思いつつ、更に問い掛けることにする。


「なら何故、あんなにも膨大な負荷が掛かりそうな剣技を振るっている?」


「……かつて武者修行に出た君なら、八型一刀流の名は知っているだろう」


 不意に問いとは別な答えを返され、過去の記憶が甦る。その昔、師として仰いだ人の流派の名だった。


「ああ、『最小の魔力で最大限の力を発揮する』まといを確立させた近代魔術の祖だな」


 『まとい』は、魔導騎士の誰もが使っている技能でありながら、そのルーツを知らない人が意外と多い。


「あ、はーい。私も聞いたことあるわ。確かあの子、名代だった黒神家のお孫さんだったかしら?周りと違って独特な波長が出てるのが見えるわ」


 横で話を聞いていた紅愛も手を上げて会話に加わる。何処となく雰囲気が学生気分になっている気がするが、そこは置いておく。


「独特な波長かどうかは兎も角。紅愛の言う通り、刹那は黒神家の子孫にあたる」


「なるほど。道理で……しかしいくら八型一刀流の使い手であっても、適正値が低いのにあんなに力を振るえるものなのか?」


 一応納得するが、更に深く言及する。何故なら、沙織はこの問いにおける正確な答えをまだ言っていないからだ。

 彼女は秘密主義という訳ではないが、あまりに多くの事をひた隠しにしたまま行動する事が多いのだ。

 それを知っているルーファスは、徹底的に沙織を言及する。


「はぁ、その疑問は当然だ……。だがその問いに答える前にルーファス、紅愛も。いまから言うことは他言無用にして欲しい」


 根負けしたかのように溜め息を吐くと改まった感じになり、その雰囲気がいつにも増して真剣なのが伝わる。


「刹那があんなに力を振るえるのは、あのデバイスのお陰なんだ」


「……続けて」


「あれは黒曜石を用いて造られた刀剣、出所も正式名称も不明。名刀であればすぐに分かる筈だから恐らく無銘の魔剣、妖刀の類いだろうな。仮呼称で刹那は『黒曜こくよう』と名付けているが、あのデバイスには魔法行使における使用者の負荷を吸収する能力がある」


「何ッ!?」


「うん?」


 沙織が口にした言葉に耳を疑う。紅愛はよくわかっていないのか首を傾げている。


「負荷を吸収だと?そんな馬鹿な……」


「ごめん、どうゆうこと?」


 にわかに信じられない話に思わず言葉を漏らしてしまうが、ここで理解できなかった紅愛が素直に聞いてくる。


「通常、デバイスの使用時には強力な能力を行使できる代わりに使用者にはその分大きな負担が掛かるのは知っているだろう」


「うんうん」


「だがあのデバイスは、その負担を使用者にではなく、デバイス本体に掛かるようになっているんだ」


「それってつまり、どんな強い魔法使ってもデバイスが肩代わりしてくれるから疲れないってこと?」


「そういうことだ」


「すっごーい!」


 沙織の説明を聞いて小学生並みな感想を漏らす紅愛。実際凄い事ではあるのだが、その言い方だとどうも真剣味が薄れてしまう。


「しかもあの刀剣。昔研究所で検査していたが、どの研究員が使っても一切反応を示さず、刹那にしか反応しなかった。まるで道具が意志を持って人を選んでいるかのようにな。だから文字通り刹那だけの専用武器なんだ」


「意志を持った使用者の負担を無くすデバイス……まさかそんなものがあるとは。公にしたら大騒ぎだぞ」


 使用者の負荷が無くなれば、いくらでも魔法という強大な力を振るうことができるのだ。その刀を悪用されでもしたらまた戦争が起こる可能性も否定できない。


「だからここに連れて来たんだ。私個人が研究したいという目的もあるがな。だがここなら騒ぎも問題も極力少なくすることができるし、それに……」


「それに?」


「あの子が可哀想だったんだ」


「見放され、迫害され、独りにされ、更に傷付くと知りながらそれでも大事なものを守ろうとして剣を手に取って……。本当なら周りに教師や友人という支えてあげるべきであるはずの存在が、あの子にはあまりにも欠如していたんだ。そんな事を知ったら見過ごしてはいられないだろう……。だから私は君達を十三校ここに呼んだんだ」


「全く。子供好きの所も変わらないな」


 出会ったときから何も変わっていない沙織を揶揄からかうように小さく笑う。


「フッ、そういう貴様は少し垢抜け……いや老けたか?」


 こちらに冗談を返すついでに、沙織は胸の内から煙草を取り出して咥える。


「そう言わないでくれ、最近気になり始めてるんだ……。それはそうと、此処は禁煙じゃなかったか?」


「堅い事を言うな、警報は切ってる。紅愛くれあを貸してくれ」


 沙織はポケットをまさぐるが何処にも火の元が無かったのか、紅愛に火を付けてくれと要求する。


「もー沙織さん。煙草は体に悪いんですから程々にして下さいよ?」


 そう言いつつも紅愛は人差し指の先に火を灯して煙草に火を付けた。


□□□


「ハァッ!」


「せぇッ!」


 ギル境、それぞれの双剣と長棍の激しく打ち付け合う金属音がけたたましく鳴り響く。


「フンッ!」


 長棍を薙ぎ払うように大きく振るが、振る前に境はその場から消え、攻撃は空振る。

 これで何度外しただろう。向こうは攻撃し、こちらは防ぐだけ……。先ほどからずっと後手に回り続けている事にイライラが募る。


「遅すぎです。それではついて来れないですよ」


「…そう言うお前は軽すぎる。そんなので攻撃しているつもりか?期待外れも甚だしいな」


 境の挑発を挑発で返す。速すぎてついて来れないのは事実だが、その速さに目が慣れて追う事ができるぐらいにはなっていた。

 目で追えるのであれば、いくら速かろうが攻撃に対処するのはギルにとって容易だ。


「いえ、いまのはほんの小手調べです。貴方が私を追えないまま戦っては、副会長のようにただ一方的に相手をいたぶるのと変わりありませんからね」


「…何だと?」


 含みのある発言に眉をひそめる。

 しかし、そうする間に境は得物の柄と剣身を変型させてあっという間に組み合わせていく。

 相変わらずトの字であることには変わりがないが、剣身が柄に対して垂直で、剣として見たときの鍔に握りの部分が出来ていて、トンファーを彷彿させるような形状だった。


「…なるほど。…剣と旋棍を組み合わせた個性武装ユニークウェポンか。面白い発想だ」


「それだけではありませんよ?」


 そう言うと、剣身とは逆の短い部分をこちらに向ける。

 構え、角度、形状……目に入った情報から次に何が起こるのか咄嗟に理解した瞬間、体は既に動いていた。


「っ!」


 銃撃。寸での所で弾いたものの、それは確かに急所を狙ったものだった。

 剣、銃、トンファーが一体となったそれは、ギルを驚かせるには十分なインパクトがあった。


「攻防一体の旋棍に剣を取り付け、更に小銃を組み合わせる事で中距離での戦闘も可能とした私なりの究極武装アルテマウェポン。『旋銃剣』です」


「…フ、発想は良い。だが想像だけで戦闘はできん」


「その通りです」


 机上の空論と指摘しようとした不意を付かれ、境が一気に間合いを詰め、攻撃を仕掛ける。


「せぃ!」


「ぐっ!」


 それに反応して長棍で受け止めて防ぐが、手首の返しを利用して回転させた旋銃剣の威力は想像以上に重かった。


「っ!」


 長棍はその一撃の重さに耐えかねて、受け止めた部分から亀裂が入り、真っ二つに折れる。

 そのまま旋銃剣が斜めに振りきられ、切っ先がかすって胴に浅い傷ができる。


「チィッ!」


 折れた長棍を捨て。虚空から槍を取り出して境に向かって薙ぐが、避けられて空を切る。


「くそッ!」


 先ほどから、こちらの攻撃がかすりもしない事にだんだんとイライラが募っていることを自覚する。


「さっきまでの威勢はどうしたんですか?」


「黙れッ!」


 境の声が癪に障り、踏み込んで力任せに槍を振る。

 だが、そんな攻撃が当たるわけがなく、躱されてただただ周りの氷を砕いていく。


(…落ち着け、冷静になれ)


 怒りは募るが、冷静になるように自分に言い聞かせ、落ち着こうとする。


「フゥ……」


 大きく息を吐いて気を抜く。そして息を吸って気を張り直して考える。


(一撃離脱主体とした戦法。そして瞬間的なスピード、パワーは向こうの方が上手うわてだ。さっきのは得物が折れただけでパワーは勝てない訳ではないが、どんなに振ろうが当たらなければ意味がない……。付け入る隙があるとするなら……)


 先入観を捨て、客観的な状況を並べて静かに思考する。

 思考しながらこちらを冷ややかな目で見る境を逆に見据えて、状況を打破するための視覚的情報を探す。


「何か?」


「…いや、何でもない」


 何か無いかと探して思考した果てに、あることに気付き、そして一つだけ方法を思い付く。


「…掛かってこいよ」


 その方法が出来るか否か確証を得るために槍を構えて挑発する。


「無駄……とは言いませんが、貴方の攻撃は届かないと理解するべきだと思いますが…」


「…フン、それはどうかな」


 そう言った瞬間、境が視界から消える。


「ハァ!」


 後ろに振り向いて、奇襲を受け止める。

 旋銃剣の一撃で槍に亀裂が入るが折れずにギリギリ持ちこたえる。


「フン!」


 受け止めた時に旋銃剣の形状を確認し、そのまま境を押し払って飛ばす。


「チィ!」


 距離を取るために押し払ったが、離れ際に旋銃剣の引き金を引いてこちらに発砲してくる。

 弾から身を守る為に槍を回転させるが、さっきの衝撃でヒビが入ったせいで回した瞬間にそのまま折れて持ち手だった部分が飛散する。


「くっ!」


 その結果銃撃を防ぐことができず、左肩と右の脇腹に被弾する。

 銃創は決して小さくないが、動かせないほどではない。無理に動かすとちょっと痛いくらいで、別に戦闘に支障はないと割り切る。


「この状況にその状態、降伏するのが妥当だと思いますが…」


「…馬鹿言うな、どっちかが倒れるまでだ。嫌ならお前が降伏しても構わん」


 境の提案に強がりを言って返す。

 向こうは無傷、こちらは重傷……。確かに境の言う通り降伏するのが妥当かもしれないが、それは絶対にプライドが許さない。

 力尽きるまで戦う覚悟を持って、この戦いに挑む。


「…何、丁度良いものができたところだ。次で終わらせてやる」


 ギルは思い付いた事を実行するために持っていた槍の先端部分を仕舞い、虚空からランスを取り出す。


「『ロンの槍』……。別名『聖槍ロンゴミニオド』ですか……。それを出すということは、次で最後とお見受けしてよろしいのでしょうか?」


「…あぁ、二度も言わせるな」


 その言葉を最後に槍を構えて静かに待ち受ける。

 静寂が訪れるこの場で、ギルは境を見据え、一点だけ狙って神経を注ぐ。


「ハァ!」


 捉えていたはずの境が消え、背後から襲い掛かってくる。


「っく!」


 回転させた旋銃剣をランスで受け止める。衝撃で左肩に鈍い痛みが走る。


「ここだッ!」


「っ!?」


 痛みに耐え、左手でさっき仕舞った槍の残骸で、剥き出しになっている旋銃剣の接合部に突き刺す。

 その瞬間、境の右手の旋銃剣に明らかな異常をきたして暴発し、咄嗟に手を放して旋銃剣を捨てると、そのまま爆発四散した。


「く……。やりますね」


 爆発の衝撃で更に手傷を負ってしまったが、反撃できたことが大きな成果だ。

 思わぬ反撃と片方の旋銃剣の損失によって大きく距離を取られるが、一気に畳み掛ける。


「悪を討つ聖なる槍、その気高き光で闇を穿てッ!」


「ッ!?」


 畳み掛ける為にすかさず詠唱してデバイスの能力を解放する。双頭の聖槍はその白銀色のしんまばゆい光を纏って輝く。


『おぉっと!ギルバート選手、デバイスの能力を解放したぁ!これは眩しい!流石かの聖槍、実態を確認するのが困難なほど溢れんばかりに輝いています!』


 実況席にいる文乃が熱く語る。

 彼女言う通り、解放すれば本体はまばゆい光のに包まれ、ただ光の槍があるとしか分からない。

 だがこれはただの光ではない。聖槍を包む光には実態がある。つまり触れれば焼けるし、刺せば貫ける。

 それをまだ動かせる右手に持ち、大きく振りかぶる。


「…貫いてみせろ、我が槍の光条は天翔る流星の如く!」


 自己強化をしつつ、そう唱えると聖槍は更に輝きだし、纏う光は螺旋を描くように回りだす。

 

「穿てッ!『流星の槍ランス・オブ・エストレア』ッ!」


 それを境に目掛けて思い切り投げる。

 放たれた聖槍は人の目に捉えられるものではなく、ただ映るのはその残光だけだった。そしてそれは境に直撃して、そのまま氷壁まで吹き飛んでいって氷壁を抉る。

 境が咄嗟に旋銃剣で防ごうとしたのが見えたが、解放した聖槍の前に、耐久性で劣る個性武装が敵うはずがない。


『なんとぉ!見事、沢木選手をギルバート選手が撃破ァ!』


『光の聖槍……鮮やかでしたね』


 文乃と奏の声を聞いて上空のモニターを見上げると境の所に大きく戦闘不能と表示されていた。


「フゥ……」


 戦闘が終わり、気が抜いて息を吐きながら槍の回収しに行く、ついでに一緒に飛んでいった境の様子も確認しに行く。

 急所を外したつもりだが、全力で投げたのだ。下手すれば致命傷、最悪失血死に繋がる恐れがある。その場合は早急に治療を行うつもりだったが、その心配は杞憂で終わる。


「お疲れ様です。見事でした」


 彼女はさっきまで戦っていた相手とは思えないほど淡白に労いと称賛の声を掛けてきた。


「…お前もな。それより大丈夫か?」


「見ての通りです」


 防いだ時に旋銃剣は砕け散ったのか、彼女の左腕と脇腹の左側がかなり抉れており、周りが焼けただれていたが、自ら手当てを行って治療していた。


「…診せろ」


 傷の治療は自分でも行えるが、かなり効率が悪く、傷跡も残りやすい。女性であるというのも踏まえて、ギルは不慣れながら代わりに治療を行う。


「ありがとうございます。……会長は戦う気が無いので、私と副会長が戦闘不能になれば棄権なさると思います。……なので残るは副会長と黒神さんの戦いだけです」


「…そうか…………悪かったな」


 重傷ながら淡々と話す境を見て、小さな声で罪の言葉を漏らす。


「何か言いましたか?」


「…なんでもない」


 その言葉を上手く聞き取れなかった境から目を逸らし、治療を続けたのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ