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第十三魔導武装学院  作者: 黒姫
第一章 学内順位戦編
18/35

深紅のお姫様vs炎帝

登場人物紹介


ステラ・スカーレット

 紅い髪の女の子で元一校のエリート。少々意地っ張りでツンデレ。自分の気持ちに素直になれないことに対して自分でも悩んでいる。


小桜風香こさくら ふうか

 緑髪のお姉さん、元七校の風紀委員長であり、真面目で礼儀正しいのだが、基本的な問題解決方法が武力的なのが玉に瑕。


アルウィン・エストレア

 ギルバートの兄。秀才で礼儀正しく、誰に対しても敬意を持って接するため、とても人望が厚い生徒。容姿はギルバートと全くそっくりだが、唯一髪型だけが違う。


レノンハルト・フォン・イグニス

 燃える様な赤く結われた長い髪が特徴の青年。不良校で有名な五校の元生徒会長、兼風紀委員長を務めていた。まともな仕事はしていないが、人一倍仲間を大切にする人で、五校の生徒からは尊敬の意を込めて『兄貴』と呼ばれている。


緋櫻紅司ひざくら こうじ

 真っ赤な髪が特徴的な五校の元生徒会副会長。昔からレノンの右腕であり、よき理解者。常に飄々とし裏表の無い性格。センスと要領が良く、どんなことでもこなすことができる。五校ではレノンに代わり、実質的な生徒会の業務を担っていた。


湯川熱揮ゆかわ あつき

 体躯のいい青年。レノの弟分でレノの事をかなり尊敬しているため、レノに対する言動が悪いやつにたびたび突っ掛かってしまう。


常盤文乃ときわ ふみの

 元気で明るい茶髪の女の子。ムードメーカーで順位戦の実況者を自ら志願した。


柊奏ひいらぎ かなで

 落ちついていて物静かな印象を受ける白髪の女の子。物事を見極める洞察力と声の良さから、解説者に抜擢された。

 学内順位戦二日目。今日は土曜日と言うこともあり、闘技場コロシアムには一般の人も観戦に来て、溢れんばかりに人が集まっていた。


『さぁ!本日は順位戦二日目です!さっそく第三試合を始めていきましょう!まずはDクラスの選手から入場です!』


 活力の満ちた文乃の声を切っ掛けに重たそうなシャッターが開きDクラスの面々が現れる。


『まずはこの人!五校の生徒会長。数字付き学院(ナンバーズ)の中でも随一の強者と囁かれている男!『炎帝』レノンハルト・フォン・イグニス選手!』


 紹介されてレノが登場すると、万雷の喝采や指笛などが沸き起こる。流石数字付き学院(ナンバーズ)屈指の実力者。応援する人の熱気も高い。


『そして次はその右腕である副会長、才色兼備のオールラウンダー『紅蓮桜華ぐれんおうか緋櫻紅司ひざくら こうじ選手!』


 レノの時の拍手喝采にも負けず劣らず、大きな歓声が沸く。


「『紅蓮桜華』なんて止めてくれよな。気恥ずかしい」


「別にいいじゃねぇか」


「俺には似合わねぇよ」


 レノは気に入ってるようだったが紅司はあまりそうではないよう否定する。


『続いては五校のNo5、パワー&バランスの熱血漢。湯川熱輝ゆかわ あつき選手!』


「って俺はそれだけかよ!」


「ハハッ!熱輝はまだ二つ名持ってねぇからな。そんなもんだろ」


 文乃の紹介にツッコミを入れる熱輝だが、それをレノは笑い飛ばす。


『さあ次は、Aクラスの選手の入場です!』


 文乃がそういうと逆サイドのシャッターが開き、Aクラスの面々が現れる。


『まずはこの人!一校の優等生エリート。その華奢な姿からは想像できないほどの実力の持ち主『深紅のお姫様』ステラ・スカーレット選手』


 そう文乃に紹介されると、ステラは眉をひそめて少し機嫌を損ねた表情になる。


「私あの呼ばれ方好きじゃないのよね」


「何故ですか?」


「世間知らずみたいに聞こえるからよ」


 何故と聞いてきた風香に、ステラは皮肉っぽく返す。


『そして次はこの人。七校の風紀委員長。実力主義の七校で取り抑えた生徒は数知れない!『風紀委員長』小桜風香こさくら ふうか選手!』


「私も十三校ここに編入してまで、あの呼ばれ方されるのは御免ですね」


「言えてるわ」


 冗談混じりに言う風香に、ステラも苦笑いをしながら同意する。


『そして皆さんお待ちかねのこの人。我が数字付き学院(ナンバーズ)が誇る四校の首席!文武両道、成績優秀、容姿端麗の人格者。そしていままでの公式試合で無敗を誇る完全無欠の秀才!『流星の王子』アルウィン・エストレア選手!』


 文乃が気合いの入った声でアルウィンを紹介すると、レノの時以上の歓声が湧き上がる。それほどアルウィンは周りから支持される人なのだ。

 アルウィンは多少盛られた過大評価な紹介されても、嫌な顔を一切見せず観客席に応えるように手を振っている。


「まあ、アルウィンさんほどではありませんけどね……」


「そうね……」


「まあ。僕も嫌だけど、周りにそう思われているのもまた事実だ。ならそれを変える為に努力すればいいだけの事さ。さて、そろそろだよ」


 いまの会話を聞いていたアルウィンが少し笑いながら前向きな事を二人に言って騎士剣を取り出すと、真剣な面持ちになる。

 そして、ステラと風香も大剣と双剣。それぞれの得物を取り出して準備する。


『それでは参りましょう!』


『are you ready、3、2、1、GO!』


 試合開始の合図が鳴ると同時にステラと風香は自己強化を使って先に飛び出す。

 それなりに広さのあるフィールドだが。魔導騎士が自己強化を使えば、端から端まで十秒も掛からない。


「お前ら、手出しすんじゃねぇぞ」


「うっす!」


 迫ってくる二人を確認すると、レノは二人に手出ししないように指示をすると、手にゴツゴツとしたガントレットを嵌める。

 手に嵌めたガントレットは一瞬で肘まで展開・伸長し、ぴったりと嵌まる


「ハァァァァッ!」


 ステラが振り下ろした大剣を右腕だけで受け止める。その威力は空気を伝り、見ている全ての人が肌で感じる程だった。

 いまのでレノの足場が空気圧で地にめり込むを見ていれば、映像でもその威力が伝わっているだろう。


「ふっ!」


 そして左側面から、風香が追撃にかかる。


 だがレノは、胴と足を狙った風香の剣を片方は左腕で受け止め、もう片方は剣の切っ先を踏みつける事で防ぎきる。


「チィ!」


 ステラは舌打ちをし、距離を取る為に後方に大きく飛び退り。風香も踏みつけられた剣を無理矢理引き抜いて下がる。


「流石は『炎帝』。素晴らしい反応速度です」


「2対1でも相手するには中々骨が折れそうね」


「お前らの連携も中々だぜ。姫が押さえ付けて、委員長が隙だらけになった胴と足を攻撃する。並みのヤツならまずこの連携で詰むな。しかも……」


 連携の良さと反応速度の良さを互いに称賛しあう。


「氷槍穿て『アイシクルランス』」


「っ!ラァッ!」


 だが、続きを言おうとしたところで突然詠唱され、遠方から氷の槍が飛んでくる。

 レノは咄嗟に反応し、氷の槍を真っ向から殴って粉砕する。


「おいアル!テメェ人が喋ってる途中で仕掛けてくんじゃねぇよ!」


「今は戦闘中だ。悠長に話している場合じゃない。それに君に対してはこのぐらいはしないと勝てないからね。不意討ちだろうと、使える手は何でも使わせて貰うよ」


 氷の槍を飛ばしてきたアルウィンに憤慨するが、彼は悪びれもせず正論を言い返す。


「チッ、相変わらず口だけは達者なんだからよ……。うしっ。そんじゃまあ1対3で相手するんだ。こちとら全力でやらせてもらうぜ!灰燼に帰せ!」


 小さく舌打ちをしつつ気を取り直して詠唱する。するとガントレットから炎が吹き上がり、周囲に火を撒き散らす。


「さて、ここまでは想定通り。あとは昨日話した通りにいくよ」


「ええ」


「分かりました」


 レノが固有武装デバイスを展開したのを確認すると、アルウィンは声をひそめて二人に合図をする。


「激情の焔、この身を焼き尽くせ!」


「吹き荒し舞い散らせ、そよぎ撫で斬れ!」


 二人同時に詠唱し、それぞれ手にしていた固有武装デバイスを展開する。

 ステラは複雑に彫刻された大剣に炎を纏い。風香は剣としては不自然に束の長い剣二振りに風を纏わせる。


『おぉっと!?イグニス選手に対抗する為か!?スカーレット選手と小桜選手も固有武装デバイスを展開したぁ!もはや試合開始からいきなり最高潮を迎えています!』


 ステラはレノの向かって走り出して攻撃を仕掛ける。


「えいっ!」


「オラァ!」


 ステラとレノ、炎を纏った者同士で激しい攻防を繰り広げる。だが一つの大剣を振るうステラより、両手で素早く攻撃できるレノの方が圧倒的に上回っていた


「ハァッ!」


「おせぇ!」


「くぅっ!」


 押されているステラをフォローする為に横から攻撃を仕掛ける風香。しかしレノはそれを容易に弾いて蹴り飛ばす。

 だが、その援護は実を結び。ステラはその間に飛び退さって距離を取った。


「大丈夫かい?」


「ええ、辛うじて衝撃は緩和させたので深手は免れています」


「あのガントレット、ムカつくわね」


「一見、炎を纏って火力を上げているように見えますが、あの固有武装デバイスの特性上、攻守の両立ができますからね。それに加えて彼の反応速度にあのセンス。敵として立つと非常に厄介ですね」


 悪態をつきながら合流したステラに、風香は冷静に分析をして、レノを高く評価する。


「おら、お前らの実力はこんなんじゃねぇだろ?まとめて掛かってこいよ」


 レノはガントレットをガシャガシャと打ち合わせ鳴らしながら煽って来る。


「っ~!」


「ステラさん落ち着いて下さい。ただの挑発です」


 その行動にステラが過剰に反応するが、風香がそれを宥める。


「風香、次はできそうかい?」


「ええ、可能です」


 レノの挑発を聞き流しつつ、アルウィンは風香に小さな声で確認を取ると、それに合わせて小さく相槌を返す。


「じゃあそちらのタイミングに合わせるよ」


「お願いします。ではステラさんもう一度行きますよ」


「ええ!」


 意気揚々と返事をするとステラはレノに向かって突撃する。


「ハアァァァァァッ!」


「どうな小細工だろうが……」


溶断する鋒(ヒュージング・エッジ)!」


「真っ向から潰してやらぁっ!」


 レノが刃先が真っ赤に染まったレヴァンテインを正面から受け止めると周囲に鳴動を響かせながら炎が飛び散る。


「ハァッ!」


「同じ手が通用かよ!」


 レノは背後から襲う風香の攻撃を難なく受け止める。


「そんなこと、百も承知です!」


「っ!」 


 しかしそれはフェイク。一撃目をそのまま流して振り抜き、回転して二撃目の刺突が放たれる。

 風香が手にしていたのは先ほどまでの双剣ではなく双刃刀。双剣の柄頭同士を特殊な金具で繋ぎ合わせて、結合させたのだ。


 一瞬意表を突かれるが、二撃目を辛うじて防ぐレノ。だがその衝撃でほんの少し態勢が崩れ、隙ができる。


「斬り裂け……」


「くっそ!」


 そしてその隙を見逃すアルウィンではない。レノに向かって狙いを澄まし詠唱をする。


「させるかよ!」


「っ!」


「紅司!?」


 だが紅司からの横槍により、アルウィンが最後まで詠唱しきる事はなかった。


「紅司テメェ、手出すなっつったろ!」


「間一髪だったくせによく言うぜハルト。それに確かに手を出すなとは聞いたが、俺は返事した覚えはねぇぞ?」


 助けてもらったのに対して横槍を入れられた事に対して怒鳴るレノ。紅司はそれを聞き流すようにしながら揚げ足を取りをする。

 確かにあの時返事をしたのは熱輝一人だけだ。


「いい加減見てるだけっつーのもつまらねぇんだよ。女子二人の相手はお前にやる、王子は俺らに寄越せ。おい熱輝!」


「ういっす!」


 紅司はそう言うと、レノの回答を待たずして熱輝を呼びつける。


「あぁくそ。紅司の野郎好き勝手しやがって!……まあいい、どうせ大人しくしているタマじゃねーしな。……そいじゃあ続きといこうじゃねぇか。委員長に姫さんよぉ」


 気合いを入れるようしてレノは拳を付き合わせる。


「想定範囲内ですが……少々面倒な事になりましたね」


「ええ全くだわ。これでアルからの援護無しであの男を倒さなくちゃいけなくなったわけよね……。いいわ、やってやろうじゃない!」


□□□


「てっきり君はレノンの腕を信用して手を出さないと思っていたけど、思ったより早く出てきたね」


「同時に三人の相手であれば、そうしようと思ったんだがな。あんたが下がるってんなら話は別だ。後ろでコソコソ不意討ち狙おうたってそうはいかねぇ。そんなのアイツの相棒である俺が許すとでも思うか?」


「これは手堅い。君のような優秀な右腕がいるから彼も安心できるということかな?」


「そう買い被んなって、俺の実力はアイツほどでもあんたほどでもねぇよ」


 煽てられて気恥ずかしいのか頭を掻きつつ。片刃の剣、所謂いわゆる直刀ちょくとうと呼ばれる反りのない刀を取り出して構えると、飄々とした感じから獲物を狙うような鋭い目付きへと変わる。


「怖いね。君のような戦いに於いて気勢に溢れながら何処までも冷静で堅実なのが一番厄介なんだけど……」


「そりゃ御互い様だろ?」


 そう言いつつも、少し楽しそうに笑うアルウィン。だが紅司が冷やかな目で見据えながらもうひとつ……円盤の形をした盾を取り出す。


天叢正あまのむらまさ八重鏡鉄やえきょうてつ。古来日本における三種の神器。草薙剣くさなぎのつるぎ八咫鏡やたのかがみをモチーフに造られたその固有武装デバイス……。なるほど。薄々気付いてはいたけど、君があの日本魔導騎士連盟を統括する十家の内の一つ。火の調和を司る緋櫻家の御曹司。『緋櫻の麒麟児』か……」


よそ者(フォーリナー)のくせによく知ってるな。英国イギリスの次期皇子候補者さんよぉ。知ってるぜ、あんたのその得物。彼の有名なアーサー王伝説に出てくるエクスカリバーだろ?伝説の剣振りかざして『我こそは王なり~』って王様気取りか?」


 アルウィンの鋭い洞察と知識を巧みに切り返し、更に煽り文句を言う紅司。既に戦う前から会話だけで熾烈な争いをしている。


「フッ……面白い冗談を言う。どうやら君と僕は有無相通ずるものがあるようだ」


「どこがだよ。顔立ちの良さか?」


「いや……。まあ、そこは否定しないけど僕が言いたいのは別だよ。似ているのは互いに血脈に縛られているところがさ。……尤も、君は家との繋がりとは無縁に見えるようだけどね」


「王子にシンパシーを感じてもらって何よりだが、生憎欲しくて付いたものじゃねぇんだよな……。ただ欲しくなくたって投げ捨てるわけにはいかねぇんだ……よ!」


 話はここまで、と言うように紅司は直刀を構えると、一瞬で間合いを詰めて刺突を放つ。


「……人に美談をしながら不意討ちとは、君は鬼畜かい?」


 だが余裕そうな表情を見せながら軽々とそれを受け止めたアルウィン。


「あんたのその涼しげな顔の方がよっぽど畜生だぜ?熱輝!」


「オーライ!……せぃやッ!」


 紅司の掛け声により、後方で待機していた熱輝がこちらに向かって大きな車輪なようなものを投擲する。


「紫電弾けろ『サンダーヴォルト』!」


「くっ!」


 飛来する車輪を防ぐ直前、紅司は車輪を避けながら系統外魔法を詠唱して、多重攻撃を仕掛ける。

 一方向からの多重攻撃であったためアルウィンは紫電を振り払い、車輪を弾き飛ばす事によって、両方とも辛うじて防ぎきる。


「チッ!熱輝、もちっと本気で投げろ!俺のこたぁ気にすんな。狙うつもりでガンガンやれ!」


「了解です、紅司さん」


 紅司は舌打ちをしつつ熱輝に激を飛ばす。それに返事を返すと熱輝は投げた得物を回収しにいく。


「乾坤圈か……これはまた珍しいモノを使うね」


 熱輝が投げた車輪。正確には車輪ではなく乾坤圈けんこんけんという名称で戦輪チャクラムと間違われやすいが、乾坤圈けんこんけんは本来殴る武器であり、戦輪チャクラムのように斬る武器ではない。しかしアルウィンは防ぐ時に弾き飛ばした際、確かに刃が付いていたのを確認していた。


「アイツの固有武装デバイスはもっと別のモノだけどな。五校うちの連中の中では器用なヤツだからあんな珍しいもんでも使いこなせんだよ。ま、俺ほどじゃねぇけどな」


「流石五校のNo.2。その自負心は緋櫻家としての矜持かい?」


「そんな大層なもんじゃねぇよ。ただの事実だ!」


 そう言うと紅司は再び突撃し。袈裟、斬り上げ、逆手、盾での打撃、と猛攻をしかける。

 アルウィンも猛攻の捌きつつ、隙を見つけては急所を狙って反撃をするが、互いに寸での所で防ぎ合っている。 


「ったくよ。人の全力を軽くいなしてくれんなよな」


「そっちこそ、僕の決め手を躱しているじゃないか」


 鍔競り合いに持ち込みつつ。互いに不適な笑みをしながら、言葉を交わす。


「それはそれとして、固有武装デバイスの展開はしないのかな?」 


「ハッ!馬鹿抜かすな。そしたら互角にならねぇだろ。展開したら最後、あんたもエクスカリバー(そいつ)を展開して一気に戦力差が崩れて後は詰み、ジ・エンドだ。違うか?」


「鋭い、その通りだ。流石は『紅蓮桜花』、君はレノンとはまた別の意味で強敵だよ」


「ケッ!何言ってんだか。相手に合わせて展開しようとするとか、タチが悪すぎんだよ……。それでも次期皇子候補者か?下衆にも程があるぜ」


「フフッ……。真摯であると言って欲しいね。全力には全力で応えると言うのが英国イギリスでの流儀だ。君が出さないというのなら僕も全力を出しはしないさ。けど……僕が全力を出しても、果たして君は全力を出さずにいられるのかな?」


「ッく……らぁっ!」


 急激にアルウィンの魔力が上昇して均衡が崩れ、競り合っていた状態から一気にアルウィンが押し込もうとする。耐えきれないと察した紅司は無理矢理押し退けてアルウィンと距離を取る。


「いい判断だ」


「……ああ、くそったれが。やっぱあんた下衆って言われたことあんだろ?」


「どうだろう?影では言われていたかもしれないね」


 涼しげな表情をしながら感嘆の声を出すアルウィン。そしてその実力の片鱗を垣間見て余裕のない状態で悪態を付く紅司。それらの表情は対照的だった。


□□□


「ハァッ!」


「おらッ!」


 ステラとレノ。それぞれ炎を纏った拳と剣が激しくぶつかり合い周囲に火の粉を飛び散らす。


「てぇいッ!」


「だから、おせぇつってるだろ!」


「くっ!」


 飛び交う火の波を掻い潜って攻撃を仕掛ける風香だが、三度目となる奇襲は最早読まれていてその意味を為さなくなっていた。


「ハァッ!」


「「っ!」」


 ガントレットの炎を吹き出している機構から衝撃を発され、二人とも軽々と吹き飛ばされる。


「ステラさん!大丈夫ですか?」


「……」


 浅く攻撃を仕掛けていた風香は衝撃を緩和させていたが、真っ向から抑え込んでいたステラは恐らく大打撃を受けていない違いない。そう思って倒れ込んだステラに元に駆け寄る風香。


「ステラさん大丈夫ですか?」


「おいおい、まさかこんなんで終わりじゃねぇだろうな?」


 声を掛けるが返答がない。その後方でレノが呆れたように見ながら挑発してくる。


「あぁもうっ!頭来たわっ!」


「!?」


 動けないほどの重症かと思いきや、レノの挑発を聞いていきなり起き出しては怒りを露にするステラ。その行為に風香は動揺する。


「刹那の時は兎も角、2対1であんな男に弄ばれているのがムカつくわ!絶対に勝ってやるんだから!」


 駄々をこねる子供のように文句を言いつつ立ち上がり、鋭い目付きでレノを見据えて大剣を構えるステラ。


「サラマンダー!」


 そう唱えると、大剣からより一層の炎が吹き出てステラの周囲を舞う。そして炎は暫くするとまるで意志でものあるように纏まってステラの隣に佇む。その炎は人にようにも見える形をしていた。


『おぉっと!ステラ選手が何かやったみたいですが……奏さんあの炎、あれは一体なんでしょうか?』


『……』


 文乃が解説役である奏に話を振るが、奏はただ呆然とフィールドに佇む炎を見ていた。


『あれ?奏さん?』


『ぁ、あぁすみません。あまりにも稀有なモノを見てしまって思わず魅入ってしまいました。コホン……ン!ン』


 我に返った奏は咳払いをし、声の調子を整えて普段の声音に戻す。


『あれは火の精霊、火精とも呼ばれています。特定の固有武装デバイスにのみ宿り、固有武装デバイスの使用者に大いなる力を与え、共に戦う『意志のある魔法』とも云われています。しかしそれを扱いこなすには精霊自身に認めて貰わなければならず、彼らは相当の力量、技量が求められると聞き及びますが……そこは、流石は一校のエリート。といったところでしょうか。精霊を自身の手足のように見事に使いこなしていますね』


 饒舌。早くも遅くもない流暢な奏の解説に聴き入った人は一体どのくらいいただろう。その解説により、ステラが如何にスゴいものを使役しているのかが分かる。


「ハッ!つまりようやく本気を出したってことかよ」


「その軽口叩けるのも今のうちだけよ。サラマンダー、行きなさい!」


『!!』


 ステラが命令すると、サラマンダーがレノに襲いかかる。


『!!!!』


「おらぁ!」


 サラマンダーとレノの拳が激しくぶつかり合う。フィールドの中心付近はその衝突によって徐々に燃え盛る炎の壁が出来上がる。


「ヘッ!少しは手応えあんじゃねぇか。見かけ倒しじゃなくて良かったぜ!」


「あら、そう……。けどサラマンダーだけが相手じゃないわよ!」


 炎の中から飛び出して攻撃を仕掛けるステラ。


「ッ……しゃぁ!」


「ッく!」


 レノはその攻撃に反応して防ぎ、機構から噴射してサラマンダーもろともステラを吹き飛ばす。


「姫とか呼ばれているから正直侮っていたが、中々やるじゃねぇか。久し振りに対等に渡り合える相手が出来て燃えてくるぜ」


「そう。こっちはイラつき過ぎて全部焼き尽くしてしまいそうよ」


 お互い言うように、先程より魔力が高まり、周囲に纏う火も勢いが増していく。


「次で決めるわ。サラマンダー!」


『!!』


 ステラがそう言うと、サラマンダーは霧散してレヴァンテインに戻る。

 その代わり、レヴァンテインから放出していた炎が勢いを増す。


「待ってくださいステラさん!それはやりすぎです!」


「あの男にはこのぐらいが十分。……いいえ、まだ足りないぐらいだわ」


「ステラさん……」


 放出される炎の勢いは止まるところを知らず、まだまだ勢いを増していく。


『皆さんお分かりでしょうか。これが一校のエリートと言われ、『深紅のお姫様』と呼ばれる所以です』


 勢いを増し続ける炎は深紅に染まる。それはまるで己の血を注いで真っ赤になっているかのようだった。


「そんじゃあまあ、こっちもフルスロットルで行くぜ!」


 レノも対抗してガントレットの機構を全て開き、レヴァンテインに負けず劣らずと炎を放出する。


「呑まれなさいッ!」


「消し飛べッ!」


「『荒れ狂う紅炎の奔流レイジング・プロミネンスストリーム』ッ!」


「『滅却する炎フレイム・デストラクト』ッ!」


 渦のようにうねる炎とターボジェットように吹き出す炎、両者の炎が衝突し、天を突くほど激しく燃え上がりフィールドを散るように燃え広がる。

 障壁越しでも伝わる熱気は観客にこの場にいると危ないと直感させる程の熱量だった。


 衝突し拮抗する炎。誰しもが互角だと感じる状況に……


「ッチ!くそったれがッ……!」


 当人であるレノだけは一人、舌打ちを漏らす。


 瞬間、大爆発が起こる。

 ステラとの力比べに押し負けたレノは大爆発に巻き込まれて吹き飛び、対抗していたアルウィンと紅司の間すらも通り抜けて派手に転がっていく。


「ハルトッ!」


「兄貴ッ!」


 嫌でも目に飛び込んできた光景に紅司と熱輝はアルウィンとの交戦を止め、転がっていったレノの元に駆け出していく。


「兄貴!無事ですかい?」


「っ~くそッ!派手にやられちまったぜ」


「まさか力押しでお前が負けるとはな……して、なんで庇った?」


「紅司さん?」


 爆発でズタボロになったレノを心配して抱え起こす熱輝をよそに、紅司は問い詰めるように意味深な事を聞く。


「あん?今のはただ押し負けただけだっつーの」


「そうかよ……お前の固有武装それ、前だけじゃねぇからな。どうせお前の事だ。大方、全力出したら後方で戦っている俺ら巻き込むとか余計な事頭によぎったんだろ?」


「ケッ!そこまで気付いてんならいちいち言わせようとすんじゃねぇよ。それにまだ終わっちゃいねぇ……あたッ!」


 立ち上がろうとしたレノは紅司に額を小突かれてそのまま尻餅を付く。


「小突かれた程度で倒れるようなヤツがまともに戦えるかってんだ。俺は反対だ……降参サレンダー


「あ、おい!」


 レノが制止する間もなく、紅司はチーム全体の降伏宣言を意味する言葉を口にすると、試合終了のブザーが会場全体に響き渡る。


『決まったぁ!緋櫻選手による全体降参サレンダー申告により試合は決着しました!緋櫻選手、言い間違いとかではないですね?』


 念のため申告した紅司に確認を取る文乃。


「たりめぇだ。こっちは大将やられたんだ。王子に姫、委員長相手に雑兵程度の俺らだけで敵う道理があるかよ」


「いーや悪いがまだだ。コイツが勝手な事言ってるだけで、俺は続けるぞ」


「勝手なのはお前だ、いい加減気付けよ。上に立つヤツが下についてくるヤツの気持ち汲んでやらねぇでどうする。俺はともかく、俺らと組んでいる熱輝の事考えろ。それが分からないお前じゃないだろ?」


 そう諭されて、薄々気付いていた現実に目を向ける。こちらは五校のトップと二番手と五番手。相対するは各校のエリートと呼ばれるほどの猛者、戦力差は歴然である。だから紅司が一人を抑え、レノが二人を相手取るという戦法を取っていたが、その行為が熱輝に無力感を感じさせて精神的な重荷になっていたのだ。


「すいやせん。俺が不甲斐ないばっかりに兄貴達の足引っ張ってしまって……」


「謝んなよ熱輝、悪いのは俺の方だ。俺らについて来れねぇって分かってて付き合わせたんだ、悪かったな……。続けるのはやっぱ無しだ。無し!」


 そう言ってレノは放送席に手を振り、文乃に取り止めの合図を送る


『では気を取り直して、決勝進出はAクラスです!いやぁ激闘でしたね奏さん』


『そうですね。『炎帝』と『深紅の姫』の熱い戦い。各校の精鋭達が集まった十三校でしか見ることができない貴重な戦いでしたね』


 多少締まりの無い終わり方をしてしまった試合をカバーするために文乃と奏は他愛ない試合の感想を述べて場を凌ぐ。


「ステラさん大丈夫ですか?相当なフィードバックを受けそうな規模の魔法を撃ちましたが……」


「えぇ、大丈夫よ。このぐらい中級魔法撃つのと同じ程度だから」


 心配掛けないようように虚勢を張るが、それが見え透いた嘘だということに風香は気付いていた。


「二人ともお疲れ様。君らならボクがいなくともやってくれると信じていたよ」


「途中から私は何もしていませんでしたけどね……。ステラさん一つ、忠告とお願いがあります」


「な、何よ?」


 急に改まった風香の態度にステラは少したじろぐ。キツいまではいかないがそれなりにトーンのある声で真剣な表情をされると誰でも怖いものだ。


「今後、勝手な行動を取らないで下さい。勝ったからよいものの、押し切られた場合の事も考えるべきです。あの後の次の行動は?何か策は考えていましたか?」


「う…うぅ…」


 風香からの指摘兼お叱りを受けてだんだんとしおれて小さくなるステラ。さすが元風紀委員長、怒ると怖い。というか叱責するところが的確すぎてステラはぐぅの音も出ない。


「それとッ!」


「ひゃい!」


「決して無理はしないで下さい。これはお願いです。……貴女は頑張りすぎですから、少しは私達に頼っても良いんですよ?」


「そうだね。君は少し人に頼ること覚えると良い。甘えると言い換えた方がいいかもね」


「…………わかったわ」


 二人に言われて不承不承といった感じで返事をするステラ。その返事を聞くと風香とアルウゥンの表情が柔らかくなる。


「ちょっと、なんで二人してニヤニヤするのよ!」


「何でも無いですよ。ね、アルウィンさん」


「そうだね。別に何でもないよ。勘繰り過ぎなんじゃないかな?」


「あー、も~!」


『さぁ続いては第四試合。Bクラス対Fクラスの試合になります!』


『残っている選手は速やかに退場してください、出場選手は準備をしてゲート前で待機しておいてください』


 こうして第三試合の激闘は幕を閉じたのだった。

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