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第十三魔導武装学院  作者: 黒姫
第一章 学内順位戦編
17/35

ステラと迷子

登場人物


黒神刹那くろがみ せつな

 黒髪の青年で戦闘能力は高いが、魔法を数回放っただけで倒れるほど魔法適性値が低い。心優しく優柔不断な面と残忍でさっぱりとした面を併せ持つ二重人格者。八型一刀流の使い手だが、戦闘で中途半端に優しさを出すからよく負けてしまう。


ステラ・スカーレット

 紅い髪の女の子で元一校のエリート。少々意地っ張りでツンデレ。自分の気持ちに素直になれないことに対して自分でも悩んでいる


小桜風香こさくら ふうか

 緑髪のお姉さん、元七校の風紀委員長であり、真面目で礼儀正しいのだが、基本的な問題解決方法が武力的なのが玉に瑕。


黄瀬隼斗きせ はやと

 刹那のクラスメイト。元十二校で自称情報屋。VRゲームで鍛えた反射神経で二丁拳銃を使いこなし、また魔法による後方支援も得意としている。明るく軽い性格なのだが、厄介事によく巻き込まれる体質で苦労人。


ギルバート・エストレア

 金髪の刹那のクラスメイトで元四校出身。無愛想な性格で実力主義者。昔の事件で失った親友のことを今でも悔やんでおり、二度と同じことを繰り返さない為に強さを求めている。


アイリス

 長い黒髪と男口調が特徴的な女の子。秘密結社『エデン』のリーダーでコードネームはIアイ。『違法な子供達イリーガル・チルドレン』で存在が消えるようになる『存在消失』能力を持っている。基本的には冷静で仲間思いだが能力によるせいで、よくあられもない姿で歩いている事の方が多い。


スレイ

 金髪と軽薄そうな言動が特徴的な青年。秘密結社『エデン』のメンバーでコードネームはSエス。『違法な子供達イリーガル・チルドレン』で先の未来を視ることが出来る『未来透視』能力を持っている。普段から素行が良くない為、アイリスによく怒られている。どう発言すれば怒られないかも彼は視ているはずだが、直す気は無く大抵はわざとやっている。


シャルロット

 蒼白のショートヘアと機械的な口調が特徴的な女の子。秘密結社『エデン』のメンバーでコードネームはCシー。『違法な子供達イリーガル・チルドレン』で普段は見えない大型演算気スーパーコンピューターと連結して瞬時に狙撃に必要な計算を割り出すことが出来る。アイリスやスレイと違い魔導研究所生まれで、外の世界に連れ出してくれたアイリスに感謝している。ティアの姉でもある。


新規登場人物


迷子

 本人曰く自称迷子。容姿は刹那そっくりだが、その正体とは……?


道化師ジョーカー

 碧髪に紅の燕尾服を纏い。顔にはピエロのような刺青。まだ年端もいかない少年だが、今回の計画の実行者。自動人形オートマタ魔導人形ゴーレムの稼働実験を行っていたが、その目的は一切不明。

 日が傾き、茜色に染まる時間。

 試合が終わり、ぞろぞろと学区へと戻る者や、寄り道して帰ろうとする者に混ざって、刹那達は会場から出てホテルへ向かう途中だった。


「よっしゃ!Cクラス戦も無事突破したことだし、帰ったらパーっと打ち上げしようぜ!」


「…阿呆、明日も試合だ」


「残念だけど、打ち上げは全部終わってからだよ隼人」


 Cクラスに勝ったことで多少テンションが上がっている隼人の提案に、ギルが現実を突きつける。そしてその意見に僕も賛同する。


「チェッ、ノリわりぃなぁ」


「…お前みたいに勝ったぐらいで、舞い上がるほど頭のネジは弛んでいない」


「あぁん!なんだと!もっぺんいってみろ!」


「ハイハイ、ストップストップ」


 ギルの余計な一言に隼人が怒る。見ていられないので間に割って入って止めると、二人も大人しく黙ってくれる。

 この二人の扱いにも慣れてきたな、思いつつ。ふと今日のことを思い出す。


「明日の試合はBクラスか」


「そう言えば今日の第二試合ヤバかったよな。噂は聞いてたけどよ、あの碧川のヤツ聞いている以上に凄まじいな。圧倒的っていうか……」


「…見る限りは一方的だったな」


 刹那達は治療室で傷を直しながらBクラス対Eクラスの試合中継を見ていたのを思い出す。

 試合の開始直後、海翔は固有武装デバイス、『幻影弓』の能力を発現し、上空に向かって矢を放った。『幻影弓』で放った矢は、二つ、四つ、八つと分裂し、最終的には千を越える矢の雨となって降り注ぎ、Eクラス代表全員が倒れるまで、海翔はその行為を止めることは無かった。

 その光景は蹂躙と言っても代わりないほど圧倒的だった。やり過ぎだと非難を受けても当然だ。


「あれが海翔のやり口だ。敵対する相手を徹底的に、完膚無きまでに叩き潰す。僕も同じことをされたよ」


 各校のエリートが集まっているから、もしかすると負けるかと思っていたが、楽観視しすぎたようだった。


「あ~、なんか。明日の俺達との試合でもあんなことされる。って考えたら打ち上げする気分どころじゃなくなってきたな。よし、じゃあさっさと帰って対策練ろうぜ!」


「…怖じ気づかないんだな?」


 俄然やる気を出す隼人に内心僕と同じ事を思っていたギルが聞く。


「あ?なんで怖じ気づくんだよ。逆だよ逆。あんな広範囲爆撃みたいな攻撃してりゃ、反動デカイに決まってるだろ。そんなチャンスを見逃すかよ。ていうか、まさかお前の方こそ怖じ気づいたんじゃないよな?」


「…フン、減らず口がよく言う」


 ギルの問い一蹴し、海翔の欠点を一発で見抜いて、勝つための打開策を打ち出す隼人。そしてギルへと同じ問い聞き返すと鼻で笑いながらも、糸口を見つけ出した事に少しだけ感心をしていた。


「じゃあ帰って食事でもしながら話を詰めようか」


「おう!」


「…あぁ」


 話を取り纏め、帰ってから話をするように勧めると、二人とも威勢良く返事を返す。

 明日の試合はこの調子であれば何とかなるかもしれない。そう思わせる感覚を胸に感じつつ、僕達はホテルに向かった。


□□□


 日も暮れ、夜の帳が下ろされても尚、輝きを放ち続ける娯楽区。連日この時間帯にはパレードが開催されていて、通りはそれを見ようとする人で賑わい、お祭り騒ぎになっている。そんな中シャロンはいつも通り、一番高いカジノハウスからスコープ越しに不審者の索敵をしていた。


「……こちらC、異常なし。オーバー」


 定刻になったので通信機でスレイとアイリスに連絡をする。


『こちらはS、こっちも特に異常はないよ~ん。でもいつもと違うと言えば、なんか制服っぽいもの着てる人が今日はやけに多いかな?こういうコスプレ流行ってるの?』


『今日は闘技場アリーナの方で、学区の学生共の大会があったみたいだ。予定では、あと2日間は行われるらしい。つまりはあと2日この状態続く。密航者が紛れるのに良い機会になるだろうな』


 気の抜けるような報告をするスレイ。だが妙に学生が多いと気付いた事を報告すると、アイリスからの情報を聞かされ、気を緩めないように促される。


『へぇ~面白そう。明日見に行こうかな?』


『俺は任務に集中しろと言ったんだバカ』


 だが相変わらず、アイリスが言いたい事とは別の事に食いついて、通信器越しに怒られるスレイ。

 いつも通りのやり取りに何となく心が和む。


「……こちらC、目標発見ターゲットディスカバリー。照合。識別。該当なし」


 だが、和んでいるのも束の間、通信を聞きながら索敵を行っていると。人混みに紛れて歩く不審者を見つける。

 中肉中背の黒髪の男、黒コートに布切れを巻いただけの細長い棒ようなものを背負っていて、あからさまに周囲の観衆を引きそうだが、誰の目にも止まらない事に違和感を覚える。

 演算器を連結し、六芒のデータバンクに接続して照合を行うが『Unknown』の一文字しか出ない。そのことから密航者だと判断する。誰の目にも止まらない事も魔法の一種だとすれば説明が付く。


「……不審人物を不法入国者と断定。数は1。目標ターゲットは周囲を転々と移動中」


 口頭で状況を確認しているとおかしな事に気付く。さっきから、不審者はフラフラと移動し、ハッキリと一定の方向へと行こうとはしない。まるで何かを探しているが、何処にあるのか分からず、さ迷っている迷子の様だった。そのことに更に違和感を覚える。


「……高精度演算システム起動。システム正常稼働オールグリーン目標捕捉ターゲットロックオン。目標、不法入国者。南南西から風速0.5mの風を感知。風速による誤差を修正、完了クリア。自転による目標への狙撃誤差0.01%、集弾予想の範囲内。完了クリア


 何が目的で来たのかは分からないが、六芒に登録されていない入国者であることには変わりはない。いつも通りの任務だと思って、引き金に指をかける。


Cシーはこれより任務遂行のため、目標ターゲットへの射撃を行います。発射ファイヤ


 黒髪の男の後頭部を狙い。AW50の狙撃音を掻き消す為に、パレードの打ち上げ花火の炸裂と同時に発砲する。

 だが、あろうことか。およそ1キロは離れている距離から察知していないはずなのに。黒髪の男はシャロンの背後からの狙撃を避けた。

 幸か不幸か、男の周囲には人はいなかったため、弾は地面を抉っただけで他の人間に被害は出していない。

 しかも男自身、自分が狙撃されたことに気付いていないようで、まだ周囲をフラフラとうろついていた。


「……」


 信じられない状況に言葉を失うが、むしろ頭の中は冷えきった。コッキングをして廃莢を取り出し、もう一度引き金に指をかけ、今度は偶然でも避けられないように胴の中心を狙う。そして先程と同じように花火の爆発と同時に引き金を引く。 

 しかし男は今度は避けずに、代わりに布切れで包んでいた細長い棒から剣を取り出して、弾丸を叩き切った。


「……」


 今ので、向こうもこちらを察知していると確認する。そしてかなりの脅威であるとも再認識し、脅威の排除の為に連続で発砲する。

 装弾されいる弾、5発を全てを撃ち切り、カチカチと音を立てても尚自分が引き金を引き続けていることに気付く。

 男の動向を監視しながら弾装を取り替えようとすると、男がこちらを見て首辺りに指を当てて叩いている仕草を見せる。

 それが何を意味しているのか察し、耳に装着していた通信機に指を当てると男からの通信が入る。


『どうせ見てるし、聞いてんだろ。さっきからうざってぇんだよ。そんなんで殺せるとでも思ってるのか?』


 ジャックされた通信機から男の声が流れてくる。その声は心底ウンザリしているような呆れ声だった。


『あーあーなんも言うな、言いたいことは何となく分かっから。てか、送ってるだけだから何言ってもこっちには一切聞こえねぇよ』


 男は読心術でも使えるのか。こちらが言おうとする前に、聞こうとした内容の答えを言ってくる。


『道を歩いてるただの一般人を撃つなんてどうかしてる。月並みだが、折角のパレードを楽しもうにも。こんな邪魔が入れば興醒めだ、全く』


 男は気が失せたように言うと、背を向ける。


『まあ射撃の腕は悪くはなかったぜ、せいぜい街の治安維持頑張れよ。じゃあな、お嬢さん』


 最後に男はそう言うと一方的に繋げた通信を切り、ここからは死角になる路地裏へと去っていった。


「……目標消失ターゲットロスト。最終確認した位置を送ります。オーバー」


『なんだC、取り逃がしたのか?』


『命中率100%を誇るシャロンちゃんが取り逃がすなんて珍し…』


「……アウト」


 スレイの声を聞いた瞬間、取り逃がした事と相まって余計に不愉快に感じたから通信を切る。


「……次は、殺す」


 自分がそう口に出している事にも気づかず、シャロンは路地から出る場所を探し、取り逃がした男を静かに探し始めた。


□□□


『余計な事を言うなS。Cが怒っただろ』


『え、僕が悪いの?僕まだ言ってる途中だったよね?』


『お前余計な事言うつもりだっただろ』


『信用ないな~。取り逃がすなんて珍しいね。もしかして怒ってる?って聞こうとしただけだよ』


『そういうのを余計だと言ってるんだ。罰としてお前が追跡に行け』


『えぇ~、でも僕悪くないし~。めんどくさ…』


『いいから行け穀潰し。帰っても飯はないからな』


『はぁ、分かったよ。行けばいいんでしょ?行けば。りょうかーい』


□□□


「ステラさん。先程から浮かない顔をしていますが、体調が悪いんですか?」


「別に……。なんでもないわよ」


 今日の試合日程が終わり、ホテルへ帰る道すがら、風香と一緒に娯楽区の中央通りを散策していたステラ。

 ホテルまであと道半ばという所に来たとき、風香から心配そうに気遣われる。

 確かに考え事をしながら歩いていた自覚はあるが、そんなに浮かない顔をしていたのだろうか?


「もしかして、今日の刹那さんの事ですか?」


「ふぅ。ええ、そうよ。私ってそんなに分かりやすい方かしら?」


「ええ、とても分かりやすいです」


 図星を突かれて思わず溜め息を吐いてしまう。ついでに私の思考が分かりやすいか。という質問に対して、風香はにこやかに笑って肯定する。

 ストレートに肯定されたことは少し心外だったが、その笑顔は卑下や嘲りなどではなく、どことなく微笑ましい顔をしていたので不愉快ではなかった。


「ステラさん同様、私も刹那さんの事は気になりますが、氷雨さんと刹那さんの関係は二校の時からなので、あの行為に対して私達が詮索したり糾弾する権利はありませんよ」


「分かってるわよそんなこと、別に気にしてなんかいないし…」


「それなら良いんですが」


 風香の言う通り、閃と刹那の関係が気になって仕方がなかったのだ。だが何を考えてるのかも筒抜けなのについ意地を張って否定してしまうが、風香はそれについて深く言及せず、そこで会話が止まる。

 気分を変えようと周囲に目を向けると、パレードで賑わっていて、あまりの人の多さに酔いそうになる。


(あれは……刹那?)


 だが、さっきまで悶々と考えていた人物が人混みの中をフラフラと歩いているのを見かける。初めは見間違いかと思っていたが、背丈や髪型から本人だと確信する。黒コートを着ている事に少し違和感を感じたが、そんなこと考えに値しなかった。


「ごめん。私ちょっと寄りたい所があるから、風香は先に帰っておいて」


「あ、待って下さい。ステラさん!」


 あの事について問いただしてやろう。そう思って風香に一言告げて、見失わないうちに人混みを縫うようにしながら追い掛ける。


 どれぐらい追い掛けただろう。さっきいた場所からはワンブロックほどは追い掛けてみたものの、人混みを掻き分けて進むのは容易ではなく。全然追い付けない。


(一体刹那はどこに向かってるのかしら?) 


 そう思ったと同時に、追い掛けていたはずの刹那は、今まで通っていた大通りの方から急に路地裏へと入っていった。


(ここに入ったわよね)


 刹那が入っていった路地裏を見るが、そこには誰もいなかった。喧騒絶えない大通りとは違い、暗く静かでとにかく不気味だった。

 それでも意を決して、何かに招かれるようにステラは裏路地へと歩を進める。だんだんとパレードの賑やかさが遠のいて薄暗くなる。周囲の薄暗さに夜目が効き始めて辺りを見回す。路地裏なんて狭くて汚いイメージがあったが、意外と整然としており大人数名が列を成して歩ける程の道幅はあった。


(なんだか薄気味悪いわね。本当にこんなところに刹那が来たのかしら?)


 不穏な雰囲気を感じつつも分かれ道を右曲がってさらに奥へと進む。いざとなれば自衛権を行使し武装する事が魔導騎士は許可されている。そう思って臆せずどんどん路地裏を突き進んでいると途中であることに気付く


(この場所……。さっきも通ったような……)


 見覚えのある配管、いくら都市開発が完璧だからといっても、建築構造が全て一緒になるはずがない。そう思って辺りを見回すと更に気付いたのが、どの建物にも非常口がどこにもない。それどころか裏口や窓すらもなかった。こんな杜撰(ずさん)な建物が六芒にはずがないと気付いた直後背後に気配を感じた。


「っ誰!?」


 危険を察知し咄嗟に振り向いて声を出す。見た先には不気味に光る青い光、細かく震える駆動音、そして右手に銃座、左手に盾を構えた人のような機械がいた。


『侵入者ヲ発見、排除シマス』


自動人形オートマタ!?」


 カタコトのぎこちない言葉で自動人形オートマタはそう言うと、カメラと一体化した巡回中を示す青い光が戦闘モードへと移行したことを示す赤へ染まる。直後、右手に携えていた自動小銃アサルトライフルと盾を構え乱射しながら足に装着されているブレードエッジで滑るように突撃してくる。


「っ!?このぉ!」


 ステラも虚空から大剣を抜き取って応戦する。大剣特有の大きな腹で弾を防ぎながら突進し、間合いに入った瞬間大きく振り上げる。


「はぁ!」


 だが自動人形オートマタは振り上げたのを確認すると、盾で防げないと判断したのか、盾を捨てて左腕に装着しているアームブレードで弾き、受け流した。


「なッ!?」


 振り下ろした大剣の軸をずらされて地面を突き刺す。

 バランスを崩したが大剣から手を放して自動人形オートマタの反撃を転がるように避ける。


「てぇいッ!」


 そして自己強化を使い、がら空きになった背中に飛び蹴りをして吹き飛ばすと、そのまま自動人形オートマタは建物の壁に叩きつけられる。


「これでっ!」


 そのまま地面に突き刺さった大剣を抜き取って自動人形オートマタに向かって投げ付け、建物の壁に串刺しにする。動力を兼ね備えている胴の部分を貫いたため、自動人形オートマタは起動停止した。


「ふぅ。一体なんなのよ」


 残骸から大剣を抜き取って虚空に仕舞い、自動人形オートマタを調べる。 一撃で仕留めたお陰で胴以外の部分はあまり損傷していない。


「なんでこんな所に自動人形オートマタが……」


 警備用の自動人形オートマタは、普通の先進都市では当たり前のように配備されている都市もあるが、六芒では街も景観と安全面を考慮した結果、警備に機械ではなく憲兵を配置することを採用いる。

 理由は一部のAI反逆論説を唱える声を黙らせる宣伝でもあったが、実際のところはウイルスによる警備システムのハッキングなどで機械の暴走を起こさせないための対策だった。


 それを知っているステラに嫌な予感が脳裏をよぎる。だがそれを思案する前に、細かく震える駆動音が複数、先程の自動人形(オートマタ)が出てきた角の方から聞こえてくる。


(この音……まだ3機ぐらいはいるわね)


 配備されいないはずの機械が徘徊しているということは、誰かが裏で手引きをしていることの証左。


「誰かが何か企んでいるのなら……、ここで潰す!」


 仕舞った大剣を再度抜き取り、角から自動人形が出てくる前に駆け出す。


『侵入者ヲ発……』


 そして角を飛び出して最初に見えた1機目の頭部を刎ね飛ばす。


『『『侵入者ヲ発見、排除シマス』』』


 1機目を倒したことにより、かなり後ろで後続していた残りの自動人形(オートマタ)3機が戦闘モードになる。後方にいた1機が自動小銃アサルトライフルで弾幕を張り、前方にいる2機がブレードエッジで滑って接近してくる。


「穿ち焼き尽くせ『フレイムショット』」


 詠唱して炎の弾丸を接近する自動人形オートマタに向かって飛ばす。だが炎の弾丸は自動人形オートマタの装甲を貫くことはなく、触れたとたんに弾け散った。


魔法装甲マジックアーマーッ!?」


 魔法装甲マジックアーマーは文字通り魔法を防ぐ装甲で、魔導騎士を相手に戦闘する事を想定した装甲である。軍や憲兵の制服にも簡易的にコーティングされている物があるが、装甲ともなれば強度が堅すぎて低級魔法ではまず貫くことは不可能だ。


「チッ!素体は旧式のクセに、がわだけは一丁前のようねッ!」


 装甲は最新式なのに旧式のIAを使っている事に皮肉を言いつつ、ステラは接近してくる手前の1機の頭部を狙って大剣を右から左へと薙ぐ。当然、自動人形オートマタもそれを盾で防ぐが、ステラに取ってそんな行動に意味はない。


「ふん!」


 火を大剣に纏い、そして自己強化で身体能力を上げて、そのまま自動人形オートマタを壁に押し付けて盾もろとも頭部を斬り潰す。

 隙だらけになってしまった右側面を後続していたもう1機がアームブレード高々と振り上げて襲ってくる。


「はっ!」


 大剣から手を放し、振り下ろされるアームブレードを避け、後ろに回り込んで最初の頭部を刎ねた1機目の方へ蹴り飛ばす。

 そして大剣を手に取り、蹴り飛ばされて壁に激突した自動人形オートマタに投げつけ、串刺しにする。


「ふっ!」


 そして後ろで銃を乱射していた最後の1機に自己強化を使って急接近すると、それに反応して盾で突き刺そうとするが、それをしゃがんで避けて足を払う。


「これで、おしまいよ!」


 そして倒れた自動人形オートマタの胴に向かって、自己強化をした渾身の蹴りをいれて破壊する。


「全く、六芒でこんなものを稼働させるなんて密航者も小賢しいことするわね」


 壁に突き刺した大剣を抜き取ると、一緒に串刺しにしていた自動人形オートマタは音を立てて崩れ落ちる。

 先程と同じ様に残骸と周囲を調べているとおかしな事に気付く。


(壁が傷一つついていない……)


 さっきまで大剣が突き刺さっていた壁には、刺した時の跡が何処にもなかった。

 試しに壁を斬ってみると、一時は傷が付くが、目を離して再度見ると元通りになっていた。


(幻術の類い……。しかもかなり高度のものだわ。これほどのものだと私の力じゃ破ることができない……。つまり私はいま敵の掌の上で踊らされているということね)


 相手がどういうつもりか知らないが、このまま踊らされる訳にはいかない。

そう思い、この場を立ち去ろうして振り返ると、路地に入るまで追いかけていた黒コートの男が立っていた。


「っ!」


 細身で長身だが、逆光で顔までは見えない。背に細長い棒のようなものを背負っていた。


「っ!?しまった!」


 誰かと問い詰めようとした瞬間、背後から新手の自動人形オートマタが襲ってくるのを直感する。振り返って見るが姿は見えない。しかし確かに自動人形オートマタ特有の駆動音が鳴り響いている。恐らく光化学迷彩で姿を隠しているのだろう。


「っく!」


 前には見えない自動人形オートマタ、背後にはこの状況を作り出したであろう張本人。挟まれて追い込まれたと思ったその時。


「避けろ!」


「っ!?」


 男から咄嗟に掛けられた声に反応して右に飛ぶ。すると背後から木刀が飛来し、何もない空間でぶつかって宙を舞う。そして次の瞬間、男は見えない自動人形オートマタに向かって飛び蹴りをしてぶっ飛ばした。


「ふぅ。ったく、平和ボケした街の裏でロクでもねぇもんがうろちょろしてんな」


 男は溜め息を吐き、一息つくとゆっくりと身を起こす。ステラはその男の首に刃を置く。


「動かないで、動けばその首が刎ねるわよ?」


「おいおい。あんたは命の恩人に刃を向けろって教わったのか?」


 動かないように忠告すると。うんざりしたような声で冗談混じりに返される。その声そして横顔から、さっきまで探していた目的の人だと判断する。


「ええ、そうね。恩人だからと言って油断するなと教わったわ。ところでこんなところであなたは何をしているのかしら、刹那?」


「刹那?誰だそりゃ?」


 何をしているのか問い詰めると、彼は知らないようにとぼけてくる。


「ふざけないで、そんな場合じゃないのよ。私達はいま何者かに閉じ込められているんだから」


「閉じ込められている事には同感だが、ふざけてなんかいないさ。俺はお前と会うのはこれが初めてだ。知り合いでもなければ、顔見知りでもない。そしてお前の言っている刹那ってヤツじゃない。残念だが人違いだ」


 首に刃を当てられた状況でもなお落ち着いた声音で、自分は刹那ではないと言い切る男。その言葉に一切の嘘は感じなかった。


「ふ~ん。本当に人違いなのね。他人の空似ってやつかしら?」


 その言葉を信用して剣を収める。見れば見るほど刹那にそっくりだが、思い出して比べてみてもこっちの方が微妙に大人っぽい感じもする。


「そんな事より。なんか言うべき事があるんじゃないか?例えば命の恩人に刃を向けた事を謝るとかよ」


「……悪かったわね。でも私は自分の身を守る為に当然の事をしたまでよ」


 渋々謝りながら自分の正統性を主張するように言い訳を言う。


「謝罪ひとつもまともにできないなんてひねくれてんなぁ。そんなんじゃ嫌われるぜ?」


「うるさいわね。あんたには関係ないでしょ」


「まあそうだな。俺にはどうでもいいことだ」


 弾みで言ってしまったことに、彼は同意すると彼は背を向け立ち去ろうとする。


「あ、ちょっと待ちなさい!何処行くのよ!?」


「何処って?こっから抜け出すために動くんだよ」


「呆れた。さっきみたいにまだ自動人形オートマタが徘徊しているかもしれないのに一人で行く気?」


「じゃあ、お前は一生ここでさ迷っていたいのか?悪いが俺は御免だぜ」


「そうじゃなくて、私と一緒に行動しなさいって言ってるのよ」


「なら始めからそう言えよ回りくどい。そんなに意地張ってたら、いつか周りから愛想尽かされて見放されるぜ」


「余計なお世話よ!」


 初対面でこんな言い合いをするとは思ってなかった。容姿が刹那に似ていることもあって、余計にツンケンしているのが嫌でも分かる。


「取り敢えず私はステラよ。一応よろしく」


 一応、これから行動を共にする訳だから、自己紹介をし、握手を求めて手を差し出すが……。


「あー、悪いがそーいうのはパスだ」


 彼はバツが悪そうにし、さっさと逃げるように路地を進んだ。


「はぁ!?何よそれ!普通名乗ったら名乗り返すのが礼儀でしょう!」


 常識的に有り得ないと怒鳴りながら、その逃げる背中を追い掛ける。


「テメェの礼儀なんぞ知るか。そんな悠長なことしてる暇があったら、抜け出す方法考えやがれ」


「うぐっ!」


 全く以て正論過ぎて返す言葉が思い付かない。


「だったらせめて、あんたの名前ぐらい教えなさいよ!わぷっ!」


 そう言うと彼はいきなり足を止めた。そのせいで背中にぶつかる。


「ちょっと!急に止まらないでよ!」


「俺には名乗る名前なんかないのさ、産まれた時からずっと……。ただこの世を彷徨さまよい続ける迷子なんだ」


「はぁ?なによそれ?やっぱりあんた刹那なんじゃないの?そうやって私を騙して揶揄からかっているんじゃないでしょうね?」


「そんなつもりはねぇよ。俺の事は刹那でも迷子でもお前の好きなように呼べばいいさ」


 さっきまでの辛気臭い雰囲気を霧散させてまた歩き始めた。


「あ、ちょっと!勝手に行かないでって言ってるでしょ!」


□□□


「これはこれは。あれ~、おかしいな」


 建物の上から、路地をあとにするステラと謎の青年をを見下ろす小さな影。容姿としてはまだ年端にいかない程の少年。


自動人形オートマタの運用テスト中に思いもよらない来客とは……。まあ良いか、彼女はともかく彼の方もかなりの手練れのようだし、これはこれでデータが取れて良い手土産になりそうだ」


 少年は独り言を呟くと笑みを浮かべるが。


「こんなところで高みの見物ってのは結構楽しいなものが見れるんだろうね」


「おっと、ここにも予想外な客が来ちゃったか」


 声を掛けられて振り返ると、そこには茶髪で飄々とした感じの青年が後ろに立っていた。


「シャロンちゃんが逃がした不審者がいるって場所の座標を辿って見れば、な~んか物騒な事をやってるしさぁ?オマケに通信はジャミングされて外部との連絡できないし。はぁ……」


 張り詰めた感じの鋭い目で見て独り言を呟くが、急に飄々とした感じが抜け、肩を落として溜め息を吐く。


「目の前のその犯人がいるっていうのに、お兄さん緊張感無いね」


「今は敵対するつもりはないからね。まあ答えは分かっているけど、フラグを立てるって意味で一応聞いておくよ。君、僕達と同じ境遇みたいだし。そんなところで働くより、こっちの組織に来ない?僕から団長に話はつけてあげるけど?」


 自分よりは遥かに年上の青年が、こちらを見透かしたように目で見て、提案を持ち掛ける。


「なーんだ。お兄さん僕と同じなんだ?ふーん」


 無邪気な子供のようにそう言うと、不気味に笑う少年。


「……じゃあ、ちょっとくらい遊んじゃってもいいよね?」


 そして指を鳴らすと周囲を囲うように炎が燃え上がる。


「あー……。これはいわゆるプレミしちゃった。ってやつ?」


 青年、いやスレイは、引きつった笑顔で自分が盛大な選択ミスをしたことに気付いたのだった。


□□□


「いまだ!」


「せぇいっ!」


 刹那(仮)の掛け声とともに、ステラは彼と入れ替わって勢いよく大剣を振り切ると、歩き始めてから遭遇して何度目となるか分からない自動人形オートマタを倒した。


「ねぇちょっと!さっきから適当に歩いているようにしか思えないんだけど!?」


 共に行動してはやくも数分、その数分間で10機ほど遭遇しては倒している。


「だから俺迷子だって言っただろ?」


「はぁ!?」


 さも当たり前のように答えになっていない答えを返される。


「は~もう……なんで私こんなヤツにくっついてきたのよ……」


 だんだん一緒に行動しようとした自分が恨めしくなってきた。


「ォォォ…………ォォ……」


「「!?」」


 そう頭を抱えているのも束の間、こちらに接近する音を二人して察知する。だが自動人形オートマタ特有の駆動音ではなく、地を鳴らすような重たい音が響いてくる。


「いまの音、聞き覚えがあるような……」


「ちっ!ロクでもないもんがいるな、長居している時間はねぇ。いくぞ」


「あ、だから勝手に行かないでよ!」


 舌打ちをして勝手に歩き始める刹那を慌てて追いかける。


「ねぇ、本当にこの道であってるの?」


「さぁな、迷子に道を聞く方も結構間抜けだと思うぜ?」


 一切の迷いなく、分かれ道を左に突き進む彼に聞くと、バカにしているように言い返される。


「なんですって!?」


「ジョークだよ。物事には面白みってものがないとイライラしてくるもんだ。少しぐらい肩の力抜けよ。お姫様」


 怒った私に彼は諭すようにしながら肩をすくめる。


「誰がお姫様よ」


「あんただよ。非常識な振る舞いをするわりには非常識さを知らない。周りにちやほやされてるだけで、現実を知らずに生きてきている。理想や綺麗事を口にしていれば、本当に許されると思っている。正論をかざせば、間違ったものを正せると、本当にそう思っている。あんたはそんな甘ったれた考えをしたお姫様だ」


 その言葉が胸に突き刺さる。彼の言っている正しい。私はそういう環境で育ったのだから……


「あんたに……私の何が分かるのよ」


 まるで今までの私を見てきたような口振りに。この人なら、と鎚るような声でそう聞く。


「何も知らないさ、ただそう感じただけだ。でもお前はそれが気に食わなくて故郷くにを飛び出して来たんだろ?」


「なんでそれを……」


「はぁ、全部図星かよ……鎌かけてみただけなんだけどな……」


「~っ!」


 あっさりと彼の言葉に乗せられて、顔から火が吹きそうなほど恥ずかしくなる


「ハハ、意外とお前わっかりやすいな~……おぉっと!」


「あんたなんかムカつく!死になさい!」


 いまので余計ムカついたので剣を取り出して無茶苦茶に振り回しながら刹那を追い掛ける。


「分かった分かった。謝るから剣振り回すのやめろって!あと止まれ!」


 追い掛け回すの止めて剣を納めると彼も立ち止まる。


「はぁ、ったく。ガキじゃあるまいし」


「あんたが余計な事言うからでしょ!」


「あ~悪かったよ。ちょっと言い過ぎた。やっぱり口は災いの元だな」


「自業自得よ」


 元いた場所から彼を追い掛けてかなり走ったが、まだ道に迷う程ではない。というかそもそもこの異常空間が迷路状態だから、結局は二人揃って迷子である事には変わりがなかったと気付く。


「ミイラ取りがミイラ……人探しが迷子とはね……」


「あん?なんか言ったか?」


「何でも無いわよそれより出口を……」


 探そう。と言いかけたところでさっき聞こえた地響きに似た重い音が鳴る。それはさっきより大きく、そして近かった。


「「!?」」


 それに気付いた私と刹那は、音の響く先を見据える。そして通路の角から、銀色に輝く西洋の鎧、所謂プレートアーマーと呼ばれるような装甲を着けたモノが現れる。

 身長は優に3mは越えていて、目に辺る部分は不気味に青く光っていた。どう見ても人ではないソレに見覚えがあった。


『破壊目標を発見。殲滅を開始する』


 そして向こうがこちらを認識すると青く光っていた目は赤くなる。そして流暢に人の言葉を喋るが、ソレが何なのかステラには分かった。


魔導人形ゴーレムッ!?」


「あー、さっきの嫌な音の正体はコイツか。さっきの玩具オモチャはすぐぶっ壊れるから面白みがなかったんだが、コイツは楽しませてくれそうだ」


「バカ!何やってるのッ!?逃げるわよ!」


 魔導人形ゴーレムに応戦しようとする刹那の手を掴みそのまま走って逃げる。


「あ、おい!ッチ!」


 舌打ちをしながらもステラに連られて刹那も走る。


「なんで逃げるんだよ。しかも血相変えて……アレそんなにヤバいのか?」


 魔導人形ゴーレムの脅威を知らないのか、走りながら刹那が問い掛けてくる。


「魔導兵器の一種、魔導人形ゴーレムよ!知らないの!?」


「あぁ全然な!だから聞いてんだ!」


「装甲もAIも兵装も。さっきの自動人形オートマタの比じゃないわ、桁違いよ。通常の重火器は効かないし、特殊な武器じゃないと破壊できないわ。魔法装甲マジックアーマーを装備した走る戦車とでも思ってなさい!」


「なるほどな。で、なんで逃げるんだよ?ぶっ潰せば良いだけだろ?」


「私の話聞いてた!?あんたのその木刀で敵うわけないでしょ!いまはとにかく逃げるわよ!」


 来た道を引き返す。振り返ると重そうな見た目に反して、物凄い勢いで魔導人形ゴーレムが発砲しながら追走してくる。


「ッチ!面倒だな……ってかアイツ見た目と音の割には意外と速いな」


「あんなの、まだ序の口よ」


「あん?」


 そう告げた瞬間、魔導人形ゴーレムは銃をしまうと、代わり2m程の直剣を取り出して構える。


目標捕捉ターゲットロックオン加速アクセラレート


「こっちよ」


「うおっ!」


 刹那の手を引っ張り十字路を右に曲がる。直後、魔導人形ゴーレムが路地を高速で駆け抜けて壁に激突する音が響く。


「危ねぇ……。いま、すっげぇ速さで攻撃しなかったか?」


「アイツら標準装備でブースターが付いているのよ。それで急接近してくるから一度捕捉されると直線上に立つのは危険よ」


「そうみたいだな……」


「あれぐらいの衝突で壊れるようなものでもないし、いまは取り敢えず逃げるわよ」


「了解」


□□□


「アハハ!お兄さん、意外とやるね!まさか僕の攻撃を全部凌ぐなんてね」


「ゼェ……ゼェ……いや……これぐらい……全然……余裕だね……」


 飛来してくる火球や風の刃、足元から飛び出す礫岩や氷柱と、一度も詠唱をせず放つ少年の魔法を全て躱しきったスレイ。

 息切れしつつも、年上として多少の見栄を張るが。


「アハ!そんなこと言いながら息が上がっているよ?無理しない無理しない。でもまだできるっていうなら、もうちょっと遊ぼうか?」


「あ、いや、嘘つきました。無理!ムリムリ!遊べないです。僕もう体力の限界!」


 そう言われて即、前言撤回をする。情けないとか思われても構わない。人生の先輩の見栄?そんなものは知らない。いまは自分の命が惜しいんだ!


「冗談だよ。必死になって否定してるのも面白いね。けど、いまの僕のに与えられた仕事は別だからね」


 少し笑って、少年が指を鳴らすと囲っていた炎が消え失せる。

 その行為で遊びは本当に終わりだと察する。


「ここの結界は、魔導人形ゴーレムを破壊しないと解けないようになっているよ。ずっと彷徨さまよっていたいなら話は別だけどね。あの二人なら大丈夫かもしれないけど、お兄さんも加勢しに行った方が良いんじゃないかな?」


「一応聞こうか。どうしてそんなことを僕に教えてくれるのかな?」


「お兄さんが僕を楽しませてくれたから、そのお礼だと解釈していいよ」


「そんなことだろうと思ったよ。まあ何となく知ってたけど、教えてくれてありがとう『クラウン』。いや、今はまだ『ジョーカー』だったね」


「あれ?僕お兄さんに名乗ったっけ?」


「いいや。でも言っただろう?フラグを立てるって」


「あぁそう、なるほど……。じゃあ、精々頑張ってね~」


 少年は何かを理解すると背を向ける。そしてまた指を鳴らすとフッと消えた。


道化師ジョーカー、ね……。はぁ、厄介な子になりそうだ」


 視えた先の未来で面倒事に巻き込まれるのが分かり、思わず溜め息を吐く。


「ま、まだ来ない未来はさて置いて。あっちの様子でも見に行こうかな」


□□□


「そう言えば、アイツを破壊するには特殊な武器が必要なんだよな?」


「えぇそうよ。専用武器……じゃなくて固有武装デバイスじゃないと破壊は難しいわ」


 路地を走りながらさっき言ったことを補足する。


「難しい?さっきはできないって言ってたろ?」


「言葉の綾よ。できない訳じゃないけど、上級AIが搭載されているから、一撃で仕留めないと学習されて余計手強くなるのよ」


「じゃあ別に普通の武器でもやろうと思えば破壊できるんだよな?」


「それはそうだけど……」


 なんだか会話が噛み合っていないような気がするが、今は詳しく説明している暇はない。

 そう思いつつ走り続けていると、いままでの路地とは違って、急に開けた場所に出る。それなりの広さがあり、まるでそこで戦えと言わんばかりに御膳立てされたような場所だった。


「行き止まり!?」


「そうだな……ここが終点みたいだ」


 しかも来た道を引き返す以外の道は無かった。刹那の言う通りここが最終地点なのだろう。

 そして、その短い問答をしているうちに魔導人形ゴーレムが鎧を鳴らしながらゆっくりと来た道から現れる。


「腹括ってやるしかねぇみたいだが……どうする?」


「ああ、もう!仕方ないわね!あんたは離れてなさい」


 そう言って緋色に染まった大剣を虚空から取り出す。


「それが特殊な武器……確かデバイス?って言ったか?」


「いいから離れて!激情の焔、この身を灼き尽くせ!」


 離れるように言いつつ、即座に詠唱して固有武装の能力を解放する。

 すると刀身から炎が溢れるように出て周囲を火の粉を飛び散らす。そしてその炎を身体中に包み込むように纏う。


「あつっ!」


「同じことを何度も言わせないで、加減が効かないから、一緒に消し炭にされたくないなら私から離れなさい!」


 刹那に最後の忠告して、大剣を構える。


目標ターゲット固有武装デバイスの展開を確認。アーカイブを参照。対象『灼焔剣しゃくえんけんレヴァンテイン』と識別。対、固有武装デバイス戦闘への戦術に切り替える』


「やっぱり知られてる……でも、悪いけど!切り替えたところで無意味よ!『燃え立つ斬焔(フレイム・ブレイズ)』!」


 戦闘態勢になった魔導人形ゴーレムに急接近し、レヴァンテインで斬りつける。

 魔導人形ゴーレムはその攻撃を腕で受け止めようとするが、レヴァンテインの放つ熱量で胴体もろとも溶断される。


『左腕部と胴部を消失、全体損傷率80%を超過、戦闘続行………』


「フンッ!」


 這いつくばる魔導人形ゴーレムの頭をレヴァンテインで突き刺して、完全に機能を破壊する。


「一つ聞きたいんだが、なんでさっきでそれをやらなかったんだ?別に逃げる必要なかったろ?」


「あのね、固有武装デバイスっていうのはやたらと使っていいものじゃないの。しかも結構負担が掛かるんだからね!あとあんな狭い所で展開したらあんたを巻き込むでしょ」


「ふ~ん。一応、俺の事を気にしてくれたんだな。ありがとよ」


 面と向かってお礼を言われてなんだか、気恥ずかしくなる。


「別に礼を言われる事じゃ……」


 ない。と言いかけたところで、路地の方から赤い光が迸るのを見つける。


加速アクセレラレート


「危ないッ!」


「ッ!?」


 咄嗟に刹那を庇い、一緒に転がって魔導人形ゴーレムの攻撃をギリギリで躱す。


「また魔導人形ゴーレムか……。一体どれだけいんだよ……」


「しまった。レヴァンテインを!」


 刹那を庇った時にレヴァンテインを手から放して落とし、いまは魔導人形ゴーレムの足元に転がり落ちてた。


固有武装デバイス『灼焔剣レヴァンテイン』を回収。残りは目標ターゲットの殲滅のみ』


 そう言って魔導人形ゴーレムが落としたレヴァンテインを拾う。


「あー。なぁあれって。機械でも使えるのか?」


「えぇ。最悪なことにね」


 刹那の問いに答えると、レヴァンテインを手にした魔導人形ゴーレムが炎を纏う。

 魔導人形ゴーレム固有武装デバイスを手にするとは、正に鬼に金棒と言ったところか。現実から目を背けたくなるが、そんなことを考えても最悪な状況であることに変わりない。


「こんな状況になったのは俺の責任だ。俺がやる…」


「どうするつもりよ?」


「さっき、アイツらは学習するから手強いって言ったよな?なら一撃済ませばいい話だろ?」


「狙撃銃でやっと貫通できるぐらい、あの装甲は堅いのよ!?」


「大丈夫だ……」


 そう言って彼は、掛けていた木刀を取り出して、魔導人形ゴーレムに向かってゆっくりと歩く。


『対象を確認。戦闘能力不明。問おう、まずは貴様からか?』


 急に流暢に喋り始める魔導人形ゴーレム


「ああ、そうだ。お前、喋れんだな?」


 その事に驚きながらも余裕そうに言葉を返す


『簡易的な会話は可能だ。我々の任務は固有武装デバイスの回収と彼女の抹殺。その阻害をしなければ、貴様は見逃そう』


「あ?機械のクセに寝惚けた事言うんじゃねぇよ。やるなら冷酷に皆殺しだろ?」


『交渉は決裂か。死して後悔するがいい』


「それはテメェの方だ」


 そういい放つと、刹那は目を閉じる。


「こっちが深淵を覗く時、また深淵もこっちを覗いてる。お前が俺を殺すとき、また俺がお前を殺す」


 木刀に見えていたものの鯉口を切り居合いの構えを取る。彼が持っていた木刀は木刀に偽装した刀、いわゆる仕込み木刀だった。

 そして構えた彼の身体中から魔力が溢れだすがすぐに収まり、静かにたたずむ。


「散り行く花の如く、生命いのちとは脆く儚い。故に散り行くからこそ尊く、その最期は美しい。第七極剣……」


滅する太陽のアナイアレイション・ソル……』


「『殺華せっか』」


 刹那そう言った瞬間。瞬き一つしていないにも関わらず、ステラの視界が一瞬だけ真っ暗になった。

 そして次の瞬間、彼女の目に写ったのは、魔導人形ゴーレムの首が刎ね飛ばされていた光景だった。


「感情のない機械がヌルいこと抜かしてんじゃねぇよ」


 刹那は起動停止した魔導人形ゴーレムに捨て台詞を言い。刀をしまう。


「あ、あんた……。一体何をしたの?そもそも魔法が使えたの?それにいまの技、刹那のと……」


 色々起こりすぎて頭がパニックになってしまい。気になる事ばかりで質問攻めをする。


「あー!一気に聞くんじゃねぇ!アイツ首切っただけだ。魔法は扱い方は知らねぇけどなんとなくで、いまのも身体が覚えてたからやったんだ!」


「なんでそれを早く言わなかったのよ!」


「聞かなかっただろ!」


 二人して意味の無い事で、言い争いをする。それに気付いて互いに冷静になる。


「……ごめんなさい。私ちょっと頭の中が混乱してて……」


「いや、いい。でも俺だってこの力について何も知らないんだ」


 気まずい状態になるが、それも少しだけだった。何故なら、いつの間にかできていた新しい通路から、拍手をしながら出てきた茶髪の青年が来たからだった。


「お見事。これで無事みんな帰れるね」


「よくもまあ、首謀者がぬけぬけと現れてくるものね。殺すわ」


「えっ!?」


「待てよ。あんな腑抜けた面したヤツが首謀者に見えるか?どこか胡散臭ぇけどな」


「グサッ!」


 殺そうとして剣を構えると、刹那に制止される。


「初対面の人に君ら酷くない?辛辣なこと言われるために出てきてないんだけど……僕だって見えないところで貢献してたのに……」


 現れた青年はステラの脅迫と刹那の酷い言われように打ちひしがれて傷心状態になる。


「まあ気を取り直して。時間もないから手短に……。僕の名前はスレイ。この六芒の……特に娯楽区の治安維持をしている組織に所属している。いまは任務中なんだけど、ある不審者を追跡していたら君達と同じく、結界入り込んじゃってしまったんだ」


「「……」」


 二人でスレイの話を大人しく聞く。どうも胡散臭い感じはするが、その言葉には嘘は感じられなかった。


「そして君らみたいに迷ってたんだけど、偶然僕らを閉じ込めた犯人を見つけてね。なんとか退治して、いまここに至る。というわけなんだよ」


 自分の事を話しているはずなのにどこか他人事のように話しているのが、どこか胡散臭い原因だと本人は気づいているのだろうか?そんな事を考えていると一つだけ引っ掛かった事があった。


「あなた……まるで私達の行動を見てきたような口振りね」


 初めて会ったばかりなのに、彼はいま「君らみたい」にと言った。何処からか様子を窺っていたのだろうが、路地裏に入ってからここに来るまで、見られている気配はどこにもなかった。その事で無意識に警戒心が煽られる。


「で。ここから本題なんだけど」


 しかし、スレイはこっちの話を無視してそのまま喋り続ける。


「実は僕が追跡中の不審者っていうのはそこの彼なんだよね~」


「え……?」


 そう言ってスレイは刹那を指差す。


「本来なら、僕は君を拘束して憲兵に突き出さなきゃいけないんだけど……」


 スレイはゆっくりと近づいて刹那をジロジロと見回す。


「うん。君はイイ人みたいだし、大丈夫かな?僕は見逃してあげるから他の人には気を付けてね。あ、あとシャロンちゃんに見つからないでよ?また来ないといけなくなるからさ。それじゃあね~」


 一方的に言い尽くすとスレイは手をひらひらさせながら、出口だと思わしき路地に去って行った。


「あなた密航者だったの?嘘よね?」


「……」


 スレイの言葉は信じたくなかったが、聞いても刹那は何一つ答えてはくれなかった。

 沈黙は普通肯定と捉えるものだが、そうではないと思いたかったし、何よりも刹那の何処か目的を失って迷ったあの目を見て、胸が苦しくなった。


「……深くは聞かないわ。それよりこんなところ早く出ましょう」


「……あぁ、そうだな」


 そう言って二人で出口に続いているであろう路地に入る。


「俺は……誰なんだろうな。何も分からないまま今まで彷徨い続けて来たが、ここに来て一層そう思うようになったんだ。探してるものは近いはずなのにいつもすれ違っているような気がする」


 路地を二人並びながら、ゆっくりと歩いていると、刹那がらしくもない事を言う。

 さっきまであんなに調子が良かったのに、そんなのが感じられないほどとても塩らしかった。


「多分、俺は探してるものを見つけることは出来ないかもしれないな。俺は影なんだ……。光が射せば、影ができる、だが決して互いに交わることはない」


「……ううん。そんなことない。影だって光と交わることはできるわよ。ねぇ、私あなたに会わせたい人がいるの。多分その人もあなたに会いたいと思う」


 元気付けようとして、会わせたい人がいる事を言い、一緒に行くことを提案する。


「……あ、ほら。大通りが見えたわよ。会わせてあげるから一緒に……?」


 大通りに出て路地を振り返ると、さっきまで一緒に歩いていたはずなのに、そこに刹那はいなかった。


「刹那?何処に行ったの?刹……」


 探しに戻ろうとすると、何処からかフィンガースナップが鳴り響く。


「あれ?私こんな所で何を……?」


 その音を聞いた瞬間、自分がいままで何をしていたのか、記憶が曖昧になる。


「ステラさん!」


「風香?」


 思い出そうと必死になっていると、人混みの激しいところから風香が駆け寄ってくる。


「探しましたよ。急に走っていってしまったので……どうかしたんですか?」


「いえ、なんでもないわ。さっきまで誰かと一緒にいたはずなんだけど……急にいなくなってて……」


「きっと親切な方だったんでしょうね。ステラさんさっきより、表情が良くなってますよ?」


「え……」


「それはそれとして、そろそろホテルに帰りましょう。明日は準決勝ですし、アルウィンさんも心配しているはずですよ」


「え、ええ。そうね帰りましょうか」


 ステラは少し戸惑いながらも、風香に促されるまま、一緒にホテルに帰るのだった。


□□□


「フフ、お兄さんはともかく、お姫様はまだ夢を見ててもらわなきゃね」


 ステラの記憶を曖昧にさせた張本人である少年は、建物の屋上でステラが去っていくのを見送りながら小さく笑う。


「お前が俺をおびき寄せたんだろ?」


 うんざりしたような声で、さっきまでステラと一緒にいた青年は少年の背後に現れる。


「その通り。僕の依頼主クライアントが君を探していてね。僕と一緒に来る気はないかな?」


「……興味ないな」


「僕たちなら、君の『探している人』に会わせてあげれる。と言っても?」


「……」


 少年の提案に青年は迷いようにして口をつぐんだ。


「交渉成立だね。僕の名前は道化師ジョーカー。よろしくね、黒神刹那さん」


 そう言ってジョーカーはあどけなく、だが何か裏のありそうな笑顔で刹那に自己紹介をし、一礼をした。


□□□


『……レイ……。おい!スレイ!』


 大通りの人混みに紛れて歩いていると、そういえば妨害電波で通信機が切れていたのを思い出すスレイ。アイリスの怒鳴り声が通信機越しに聞こえてくる。


「あ、団長?どうしたの?そんな大きな声だして」


『お前から通信機が切れたからだろうが!何かあったのか!?』


 普段あまり聞くことのないアイリスから心配そうな声を聞く。珍しい。といっては難だけど、元から仲間想いの彼女が自分の事を心配してくれることがちょっと嬉しかった。


「いや~それがね~。シャロンちゃんが言ってた不審者探してたら、たまたまネコを見つけてね~。ほら、こんな人工島に野良がいるの珍しいからさ~。それを夢中で追い掛けてたら通信機切れてたの忘れたんだよね~」


 そんな彼女を心配させないようにスレイは嘘をつく。


『はぁ、お前ってヤツは……。飯抜き決定だな』


「えぇッ!?そんなぁ~」


 だが、気遣いすぎて本当の事を言えないが彼の目下の悩みでもあった。 

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