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第十三魔導武装学院  作者: 黒姫
第一章 学内順位戦編
15/35

いざCクラス戦へ

登場人物紹介


黒神刹那くろがみ せつな

 黒髪の青年で戦闘能力は高いが、魔法を数回放っただけで倒れるほど魔法適性値が低い。心優しく優柔不断な面と残忍でさっぱりとした面を併せ持つ二重人格者。八型一刀流の使い手だが、戦闘で中途半端に優しさを出すからよく負けてしまう。


ティア

 蒼白の長い髪の少女で刹那の妹。魔導研究所出身で研究所閉鎖の際に刹那のおかげで黒神家の養子として引き取られた。無口で何を考えてるのか分からない不思議ちゃん。常に自分の事を気に掛けてくれる刹那の事が好きで、積極的にアピールしているがいつも刹那に誤魔化されている


白神琥珀しらがみ こはく

 白髪の少女で刹那の幼なじみでティアと同い年。刹那と同じく八型一刀流の使い手。心優しく謙虚で小動物を彷彿させるような少女。刹那に対して強い憧れと恋愛感情を抱いているが、謙虚さが仇となっている。


黄瀬隼斗きせ はやと

 刹那のクラスメイト。元十二校で自称情報屋。VRゲームで鍛えた反射神経で二丁拳銃を使いこなし、また魔法による後方支援も得意としている。明るく軽い性格なのだが、厄介事によく巻き込まれる体質で苦労人。


ギルバート・エストレア

 金髪の刹那のクラスメイトで元四校出身。無愛想な性格で実力主義者。昔の事件で失った親友のことを今でも悔やんでおり、二度と同じことを繰り返さない為に強さを求めている。


氷雨閃ひさめ せん

 氷のように蒼白い髪を持つクールなお姉さん。二校の元風紀委員長。真面目で真っ直ぐな性格であり、常に率直に物事を言う。そのせいで現実的、合理的な人だと思われがち。左腕全体に大きな火傷痕があり常に包帯を巻いて隠している。凛とは腐れ縁の仲。


新規登場人物


常盤文乃(ときわ ふみの)

 元気で明るい茶髪の女の子。ムードメーカーで順位戦の実況者を自ら志願した。


柊奏ひいらぎ かなで

 落ちついていて物静かな印象を受ける白髪の女の子。物事を見極める洞察力と声の良さから、解説者に抜擢された。

『さぁ!お集まりの皆さん。盛り上がってますかぁ!』


 すり鉢状になっている会場の放送席で喋る女の子が、みんなに聞くとそれだけで会場が大いに盛り上がる。


『これより十三校順位戦、準々決勝第一試合を始めまーす!とぉ。申し遅れました。実況はわたくしDクラス所属。常盤文乃と…』


『解説はCクラス所属の柊奏が送ります』


 自己紹介をした文乃は明るく元気に、奏は静かに素っ気なく中継する。このコンビは放送席ではよくある光景だろう。


 奏の声を何処かで聞いたことがあると思っていたら、さっきの開会式でアナウンスをやっていたことに気が付き合点がいく。


『では早速、選手入場です!まずはFクラスから』


 重たいシャッターが開き、刹那達は再び改装された会場のフィールドに立つ。


『Fクラスの代表は黒神刹那選手とギルバート・エストレア選手、そして黄瀬隼人選手です!そして次はCクラスの入場です!』


 刹那達が出てきた所とは真逆、反対側のシャッターが開き、閃達が出てくる。

 流石と言うべきか、閃達の方が刹那達の入場より圧倒的な歓声が沸いていた。


『氷雨閃選手と白神琥珀選手、そしてティア選手です!』


 文乃の選手紹介によって、より会場が沸く。しかし両チーム共に、盛り上がる会場の雰囲気に飲まれること無く、穏やかで静かだった。


「なぁ刹那。あんな方法で本当に大丈夫か?」


 頭の上で腕を組ながら少し心配そうに聞いてくる隼人。


「大丈夫。さっきも言ったけど、先輩はその方が一番相手しやすいんだ」


「なら良いけどよ…」


 心配しているような態度には見えないが、刹那は隼人を安心させるように答える。


『それでは両チーム共に準備はできていますか?』


 文乃の合図により、双方それぞれ武器を取り出す。ギルは長棍、隼人は拳銃型の魔銃を二丁。全員顔見知りなのだこちらからは遠すぎて見えないが向こうのチームの得物が何なのか分かる。琥珀は刀、ティアは狙撃銃型の魔銃、そして閃は素手だろう。


『それではいきます』


 文乃がそう言うと一気に会場が静まる。

 

『are you ready』


 いつも模擬戦で聞いている機械的なアナウンス音がやたらと響く。


『3、2、1、GO!』


 合図と同時に刹那はギルと一緒に自己強化を使って駆け出す。そして閃と琥珀も迎え撃つようにこちらに向かってくる。

 だがやはり若干差が出るのか、長棍を持って走っているギルより()()()()()()()()()刹那の方が当然速かった。


『おっと!黒神選手、素手だ!このまま行けば白神選手にぶつかる!』


 そして向こうも閃より琥珀の方が速く。このまま行けば先に刹那と琥珀が衝突するだろう。


「はぁ!」


「はっ!」


 そして会場全体が予想した通り刹那と琥珀が先に衝突する。

 しかし琥珀は勢いを止めること無く刹那に斬りかかり、刹那も身を捻るようにしてそれを避ける。結果、二人はただすれ違うだけになった。


『なんとぉ!黒神選手、白神選手に一太刀入れられるも避けた!そしてそのまま氷雨選手へ元へ向かう!同様に琥珀選手もギルバート選手の元に!』


 そして、刹那は閃の所へ向かい。斬りかかった時の勢いで転がった琥珀は体勢を直すとギルのところ向かって走る。


『いまの黒神選手と白神選手の行動、柊さんはどう思いますか?』


『私には事前に示し合わせてやったように見えましたね。普通はあのように振り方はしないでしょうし、意図してやったものだと思いますね』


 文乃が奏に解説を求めると、奏は鋭い指摘をする。

 だが一つだけ違う点があるとするなら、刹那と琥珀は事前にそんな打ち合わせをしたわけではない。そもそもそんなことをしている余裕は、開会式の終わりから試合の開始まで何処にもなかった。

 いま避けれたのは琥珀が斬がりかかるとき、ほんの一瞬だけ刹那に目配せをしたからだった。


 そして刹那は、いまの光景を傍観していた閃の元に辿り着く。


「やっぱり先輩のことですから二人に話して、協力してもらうと思ってましたよ」


「そういう君も、しっかりお膳立てしてもらってるじゃないか」


 刹那は閃の考えを見透かしたように言うと、閃は嬉しそうに答える。


「まあ、お互いに協力してもらっているあたりが…」


「みんなお人好しというか、チームに恵まれてますよね」


 閃の言おうとした言葉の続きを、同じことを思っていた刹那が言うと二人して少し笑いながら、互いに協力してくれた面々を見る。


□□□


「…お前も刹那と同じ、八型一刀流の使い手だそうだな」


「はい。私は刹那兄さんには及びませんが、これでも八型一刀流に名を連ねる者です」


 琥珀の力量を量るように聞くと、琥珀は控え目に答える。


「…『疾風迅雷』の異名を取るほどだ。その実力、見せて貰うぞ」


「はい!八型一刀流中伝、白神琥珀参ります!」


 これ以上の会話は不要というように長棍を構えると、琥珀も威勢よく答えて刀を正眼で構える。


「…ふっ!」


 長棍のリーチを活かした連撃を出す。琥珀はその全てを弾いていく。

 そして連撃の途中、不意打ちを狙って打突を放つと、琥珀はギリギリのところで反応してそれを左にいなす。


「…はぁ!」


「っ!」


 だがその不意打ちはフェイク。いなされた長棍を大きく回して琥珀の右腕に打ち込みを入れようとするが、それすらも上段にいなされる。


「…フン、やるな。…しかし刹那と同じやり口とは正直驚いた。八型一刀流というのはそんなに逃げ腰な流派なのか?」


 不意打ちの二撃を防いだ事を称賛しつつも、分かりやすい挑発をする。


「いいえ違います。いまのは小手調べ、今度はこちらから行きます!」


 そう言うと琥珀は霞の構えを取り、目付きが変わる。すると今まで琥珀についていた小動物を意識させるような雰囲気が消え、百戦錬磨を彷彿させる雰囲気が漂い始める。その気迫に背筋がゾワッとするような冷たいものが走る。


「…フッ、面白くなりそうだ」


 それを待ち望んでいたように不敵に笑み溢した。


□□□


「さて、あまり話していると不審がられるからな。私達もそろそろ始めようか」


「ええ。そうですね」


 そう言うと刹那と閃。それぞれ格闘の構えを取る。


「ほぅ?赤手でやるつもりか?別にこちらの流儀に合わせなくてもいいんだぞ?」


 意外そうに、しかし感心しながら閃は言う。


「武器を使ったら、先輩は容赦無く壊しにきますからね。もし仮に固有武装デバイスを使って、壊されたりなんかされたら堪ったものじゃありませんよ」


「フフ、それもそうだな」


 そんな刹那の正当な言い分に閃は小さく笑う。


 端から聞いていると意味の分からない会話だろう。

 補足して置くと、閃は独特な戦い方をすることで二校では有名だった。模擬戦では常に素手で戦い。文字通り相手の武器を叩き壊して格闘による打ち合いに持ち込むのが常套手段であり、みな閃には格闘で挑まなくてはならなくなった。

 勿論、日頃から武器を使っている人がいきなり徒手格闘で閃に勝てる訳がなく、ついには無敗記録が打ち立てられ、閃についた異名が『水砕の女王』だった。

 それでも尚、閃に挑む輩が後を絶たず、まともに風紀委員の仕事ができなくなったため、最終的には凛から模擬戦禁止が出されたというオチは御愛嬌である。


「君のことだから嘘は言わないのは知っているが、一応聞いて置こう……。本当に約束は守って貰えるんだろうね?」


「……えぇ、勿論。もし僕が先輩に勝って自分の弱さを証明できなかったら、或いは先輩に勝てなかったら。約束通り先輩と付き合いますよ」


 もう一度、再確認するように閃は聞くと。刹那はその答えとして首を縦に振る。


『おおっと!ここで放送席に匿名からの情報が届きました。なんと!氷雨選手、この順位戦で黒神選手に勝ったら晴れて恋人同士になるそうです!』


「「死ねぇぇぇぇぇ!負けんじゃねぇぞ黒神ぃ!」」


「「キャーー!閃様ぁ!頑張ってーー!」」


 文乃の報告により、会場には怒号と黄色い歓声が同時に起こる。どちらも応援していることには変わり無いが、どちらかというと刹那への恨みの成分が強く感じられる。


「あのバカ……。なにしてんのよ。ちょっと刹那!負けるんじゃないわよー!」


 そして観客席で見ているステラは、放送を聞いて怒りを込めながら刹那を応援する。 


「刹那さんらしいというか何というか……。呆れて物も言えませんね」


「あはは、彼は本当に面白いね」


 そんなステラの横で呆れて果てる風香と面白そうに笑うアルウィン。


「アルウィンさん。本当はこの事を知っていたのでは?」


 風香はチラリとアルウィンを見つつ、言葉の端で責めるように聞いてくる


「さあ?僕は何も知らないよ」


「はぁ、食えない人ですね」


 だが、アルウィンは惚けるように答えながら試合の観戦に戻り、風香はそんなアルウィンに対して溜め息を漏らした。


「会長か……」


「凛だな……」


 一方、刹那と閃は放送席に情報を提供したであろう人物の名を真っ先に口にする。


「だが、こうすれば君も逃げ場が無くなるということか」


「逃げる気はありませんでしたけど、こうなったら腹を括るしかないです、ね!」


 刹那は言葉の最後言うと同時に走って接近し、左ストレートを出す


「軽い。ふんっ!」


「っ!おぉぉぉ!」


「っぁ!」


 しかしそれは軽々と受け止められる。そして反撃のハイキックが飛んでくるのを身を屈めて避けてをボディアッパーを打つ。


「フフフ、なかなかやるな。前よりも速くなったんじゃないか?」


 だが芯を捉えてはいなかったようで、閃の顔色からそこまでのダメージは窺えない。むしろ打たれた事をどこか嬉しそうに聞いてくる。


「ええ、お陰様で今ではすっかり先輩の攻撃を捉えられますよ」


 一応褒められて悪い気がしないので、少し得意気に肯定する。


「打ち込みの速さだけが取り柄なんだが、仕方ない。やるつもりはなかったが、やはりこうでもしないと君に勝てないか」


 しかしそれが閃の闘志に火を付けてしまったようで、閃から魔法の兆候が現れる。失言だったと今さらながら後悔する。


 現れた魔導の兆候から閃は水を纏う。水は腕や脚に薄膜のように纏わり付き。見ようによっては水の鎧に見えた。


「ちょっと痛いと思うが、これも勝つためだ。傷は後で私が治してあげるよ」


「僕としては、その機会は無い方が有難いんですけどね……」


 少し嬉しそうにしながら言う閃に、なんとか取り繕って返すのが精一杯だった。


□□□


「おーおー、やってるやってる。斬り合いとか殴り合いとか物騒の極みをよくもまぁ好き好んでやるよなぁ」


 刹那とギルの戦闘を傍目に悠々とフィールドのど真ん中を歩く隼人。


「っと。ここらが限界か」


 そう言って歩みを止める。彼も何もせずただ歩いていた訳ではない。見据える先には伏射姿勢で狙撃銃を構えるティア。その銃の先から閃光マズルフラッシュと狙撃銃独特の銃声が鳴り響くと同時に前面に纏っていた風が弾丸を弾く。


「おぉ怖ぇ、あと一歩ってところか…」


 目の前で頭を狙って弾け散った正確無比な弾丸に戦慄を覚えながら、もう一歩前に踏み出す。再び閃光マズルフラッシュと銃声が鳴り響き、またもや弾丸が弾かれる。そして纏っている風が、もうこれ以上は無理だと悲鳴をあげているように聞こえる。


「やっぱこれ以上は無理か。まだ遠いがギリギリ射程圏内だな。ふう、やっと同じ土俵に立てたぜ」


 一苦労だったと溜め息を漏らす。

 戦闘開始時、刹那とギルが飛び出すと同時に隼人は銃を構えたが大誤算があった。そう、距離が届かないのだ。

 隼人が使用している魔銃の射程は50m強、しかし向こうの魔銃は2km弱と、このフィールド全てをカバーしている。

 だからその差を埋める為に風の防壁を前面に作り、ゆっくりと着実に距離を詰めていたのだ。そしていまティアとの距離はおよそ50m、ギリギリ魔銃の届く距離だ。


「穿ち焼き尽くせ『フレイムショット』」


 詠唱し火の弾丸を8発飛ばそうとするが、そのうちの7発が生成した瞬間に撃ち落とされ、残った1発も飛んでいくがティアとの中間で撃ち落とさる。


「なるほど、刹那の言う通りだな。そして一度に撃てる数は7か……。」


 敢えて魔銃を使わず魔法を詠唱したのには理由がある。一つは向こうの弾数の把握と、もう一つは刹那から聞いた話が本当かどうか確かめる為だったのだが…。


「しかも、あの速さであの精度。化物かよ……」


 これから相手するのが規格外の化物とか、笑えない冗談だ。


□□□


「たあぁぁぁ!」


「くっ!」


 琥珀から止めどなく浴びせられて猛攻に思わず呻き声を漏らす。

 普通の攻撃なら何ということはないが、琥珀の攻撃は不思議で、反撃しようが受け流され、受け止めようにも滑るように攻撃するためさっきから掴むことができず。弾くか反らすことしかできなくてさっきから防戦一方になっている。


「ふっ!」


「やぁっ!」


(…チッ!またか)


 琥珀の猛攻の中にある数少ない大きな隙から反撃をするが、またもや弾かれて思わず内心舌打ちを漏らす。


(…なんなんだコイツの攻撃は。一見激しく攻撃を仕掛けているように見えるがその全てが浅く、防ぐとすり抜ける。斬られても打ち返しても流され、まるで水を相手しているような…。水?…なるほど。そういうことか)


 攻撃を弾きながら思考を巡らしていると一つの答えに辿り着く。そしてその答えの確証を得るために、琥珀の刀に向かってさっきより強く長棍を打つ。


「おぉぉお!」


「っぁ!」


 止まった。止むことの無かった琥珀の猛攻がたった一回強く打ち込んだだけで止まった。攻撃を止められたことにより、琥珀は警戒して大きく後方に飛び退ってこちらとの距離を取る。


「流石です。私の攻撃を全て見切って防いでいた辺りから察して、最初からずっと私の力量を測ってたんですか?」


「…そうだ、と言いたいところだが。実際測る余裕なんてどこにもなかったな。その剣技見事な腕だ。さっきの発言は謝罪しよう」


 いままでの行動を買い被る琥珀を否定して、変わりに称賛と謝罪の言葉を返す。


「分かって頂けたならいいんです。でも私の腕前なんて、刹那兄さんに比べたら足元にすら及びません」


 自分の価値を貶めるように琥珀は謙遜する。


「謙遜が過ぎるんじゃないか?確かにアイツの力量は凄いと思うがお前も中々だ。単純な練度で言えば追い越しているだろう」


 昨日の刹那と隼人の八型についての会話のやり取りがなければ、相手に悟られない程、自然に型を使いこなすくらいなのだ。相当な時間を研鑽に費やしたに違いない。


「それでも、です。一時とはいえ()()()()()()()()刹那兄さんに私なんかが及ぶわけないんです」


「…ほぅ。全ての型を究めたのか。いい話を聞いたな。だがたったそれだけの理由でお前がアイツに及ばないということにはならないはずだ」


 長棍を仕舞い。変わりに全長3mある槍を取り出す。両端には細長い円錐が取り付けられ、その中央が柄となって、中世を連想させるような古めかしいデザインのランスだった。

 そしてギルが全力でやるに相応しいと判断した相手だけに使う固有武装でもある。


『おぉっとぉ!ギルバート選手、あまり見ない武器を取り出した!あれはもしや固有武装なのか!』


『過去のデータでは、ギルバート選手の固有武装はランスのような形状をしているとあります。見た目も一致しているのでそうではないかと』


 取り出したとほぼ同時に放送席にいる文乃が声をあげ、その補足を奏が入れる。よく見ているし、よく調べたものだと放送席側に少しだけ感心するが、気にせず琥珀へと向き直る。


「『謙遜過ぎれば己を殺す』という言葉を知っているか?」


「私のことですか?」


 皮肉を込めて言ったが、自覚があるようですぐに意味を察する琥珀。


「…分かっているなら話は早い。行くぞ」


「はい!」


 こちらが構えると琥珀も負けじと霞の構えを取り闘気を発する。真剣勝負はこれからだ。


□□□


「ふっ!」


「っぐ!」


 閃が水を纏った鋭い右ストレートを出す。それを避けれないと判断し受け止めると、受け止めた左腕に鈍器で殴られたような鈍い痛みが走る。やはり想像以上に水を纏った攻撃は痛い。

 水というものはゆっくりと侵入するものには殆ど抵抗はないが、高速で衝撃を与えると固体並の固さになる。閃はこの原理を利用して、いままで相手の武装を全て破壊してきて『水砕の女王』の異名がつけられている。

 いまの衝撃は精々金属で殴られるほどの痛みだったが、閃ほどの打ち込みの速さがあれば水を纏うだけで対衝壁ぐらいは容易く破壊できるだろう。

 あとあまり関係無いが、避けても防いでも水が跳ねて服が濡れるので正直鬱陶しい。


「どうだい?流石に君でもこれを受けるのはキツいだろう?大人しく私のものに、はおかしいな。私と付き合った方が君の身の為だぞ?」


「誘いは嬉しいですが、引くわけにはいかないんですよ!」


 そう言って打ち込もうとして間合いを詰める。


「それは残念だ」


「っく!」


 しかし、閃が顔面を狙って放ったキックを辛うじて仰け反って避けたことにより再度同じ位置に戻される。あんなもの直撃したら脳震盪を起こして終わる。そうじゃなくても当たった場合おそらくその箇所が骨折する。

 それを警戒して踏み込めないため、さっきから防戦一方になり攻撃の主導権を握れていない。


「……先輩。あまり言いたくないですけど、気付いていますか?」


 だから不意に声を掛けて注意をそらす。


「ん?何がだ?」


「キックの時、中見えてますよ」


 仕方ない、あまり好ましくないというかやりたくないし、閃の尊厳を傷つけることになりかねないから言いたくなかったが、今後の本人の為でもある。


「なっ!ば、馬鹿っ!見るなっ!」


(あーやっぱり気付いてなかったんだ)


 いまの一言で閃は赤面してスカートを抑える。格闘をするなら普通スパッツとかボトムは履くものだが、さっきから閃のキックの時にチラチラと見えているので確信した。その類いのものは履いていないと。

 というか、こういう事で恥ずかしがるとは意外だったし、いちいち可愛らしかった。

 

「速すぎて見えてませんから大丈夫です。だけど、あの、とても言いづらいんですが。……先輩全体的に濡れているので透けて見えます」


「~っ!」


 極力閃を見ないように目をそらしながら言うと、閃は恥ずかしさのあまり俯いて震える。

 閃のような戦い方をすると、こうなることは仕方がないことなのだ。それを知っててやってるものだと思ってたが、本人は意識していなかったらしい。

 二校時代、閃に挑む輩が後を絶たなかった理由の大部分がこれである。ちなみに不埒な輩は、下着に気取られその記憶と共に皆蹴り飛ばされている。それが閃の無敗記録に繋がっているのは知る人ぞ知る話だった。


「でも……」


「はい?なんて言いました?」


 俯いて喋っているせいで何を言ったのか聞こえず聞き返す。


「君になら見られても良いかな…」


「……」


 頬を赤められながら恥ずかしそうに言う閃に、愕然として言葉が出なかった。


 いや何も良くない。むしろ目のやり場に困るし、まともに戦えないからやめてほしい。閃の恋愛感情がそうさせているなら今すぐに嫌われたいぐらいだ。


「フフっ。そういう君の困った顔を見るのは相変わらず楽しいな」


 どこまで本気で言っているのかわからないが、イタズラに成功した子供みたいに楽しげに笑う。


「あの…、先輩。僕で遊んでませんか?」


「フフフ、どうだろうな?」


 物言いたげな目で聞くが、それを誤魔化して無邪気に笑う閃だった。


□□□


「ったくもう。これじゃ埒が明かねぇな」


 撃ちきった弾倉を取り替えながら、独り言を呟く隼人。


 二丁の魔銃の弾倉をそれぞれ二つずつ、計4つの弾倉を撃ち切ったが、遠すぎて一向に当たる気配は無し。仮に当たりそうになっても撃ち落とされている。向こうも撃ってはいるがこちらが風を纏っている為、全て弾かれていて完全に膠着状態になっている。


「効果なさそうだけど、出し惜しみして負けるよりかマシか」


 再度独り言を呟くと愛用のウエストポーチから手榴弾を取り出す。


「せーのっ!どわぁ!」


 魔銃で牽制しながら振りかぶって手榴弾を投げるが、10mも行かずに撃ち抜かれて空中で爆発し、その衝撃で吹き飛ばされる。


「いっつ~。くそ、当たらないやつは全部見逃してやがる。そこまでちゃんと見てるのかよ」


 愚痴こぼしながら起き上がって振り返る。向こうは相変わらず、伏射姿勢でこちらを狙い澄ましている。


 そして次の瞬間。さっきの爆風を防いで強度が落ちたからか、銃声と共に砕け散るような嫌な音を立てて風が剥がれる。


「やばッ!我が身の壁となれ『アースウォール』」


 咄嗟に詠唱して土の壁を出し、その物陰に隠れる。


「ふぃ~、あぶねぇ。あんなん喰らったら土手っ腹に穴が空く……」


 座り込んで胸を撫で下ろす。隠れている間に風を纏おうと思案していると銃声が鳴り響き、顔の横に大きな穴が空く。


「……残念。……ハズレ」


 そんなことを呟くティアの声が聞こえた気がした。


「……」


 全身から血の気が引く。過去最高に身の危険を感じていることがわかる。


「うおぉぉぉぉぉぉい!!刹那ぁぁぁぁぁぁぁ!!」


 この中で一番文句が言え、かつ説得ができる人間の名前を半ギレ気味に絶叫する。


「びっくりした…。どうしたの隼人?」


 閃との攻防を一旦止めて、こちらに話を掛ける刹那。


「どうしたのじゃねぇよ!お前、義妹いもうとになんてもん使わせてんだ!いますぐ止めさせろぉ!」


「え?ただの狙撃型の魔銃でしょ?なんで?」


 文句を言いつつ、狙撃を今すぐに止めさせるように要望すると。こっちが何を言っている理解していないのか刹那は首を傾げる。


「狙撃は狙撃でも!あれは対物アンチマテリアルライフルだろ!人に向かって撃つもんじゃねぇ!」


 対物アンチマテリアルライフルは大口径で障害物やちょっとした装甲などを撃ち抜いて標的に損傷を与えるための狙撃銃であり、生身の人間に撃つなんて論外だ。

 というか今更気づいたがさっきからそれで撃たれていたことになる。


「あぁ、そうなんだ。ちょっと銃に詳しくなくてね。でも別に武器登録できるってことは使用しちゃいけないって訳じゃないよね?」


『黄瀬選手の言いたい事はもっともですけど、ルールは相手を殺傷及び後遺症が残らなければ使用武器に関しては一切を不問とするですからね』


「ぐっ!」


 刹那と文乃に論破、もといド正論な事を言われて何も言えない。


「狙撃銃ってだけで殺傷能力高いし!腕に当たれば吹き飛んで後遺症になるに決まってんだろ!てか、俺が言いたいのはそう言うことだけどそうじゃねぇ!」


『まあ黄瀬さん』


 解説役をしている奏が優しく声を掛ける。流石にこの状況で味方をしてくれると思ってたが…。


『ファイト、です』


 ファイトの一言であっさり見捨てられた。いや、結構良い声してるから癒しと言えば癒しだけど。


「まあこっちの用事が無事に済んだら、骨は拾っとくから頑張って」


「死ぬ前提じゃねぇか!おい!ちょいま、話は終わあぁぁ!」


 閃との戦いに戻る刹那を引き留めようとするが、壁を貫いて目の前を横切った弾丸のせいでその試みは失敗に終わる。

 いまの問答している内に風を纏っておけばよかったと今更後悔するが、過ぎてしまったことはどうしようもない。

 土の壁は狙撃銃相手ではその役割を果たせず、一発撃たれるごとに脆く砕け散っていく。


「くそ!くそ!くそ!」


 横になり頭を抱え、できるだけ身を縮めて当たらないように祈りながら隠れ続ける。


「チクショウ!他人事だと思ってみんな好き勝手言いやがって」


 リロードによって狙撃の弾幕が止む。ほぼヤケクソ気味にキレながら隼人はポーチから一つ缶を取り出す。


「ふざけんな!こうなりゃ目にもの見せてやる」


 それのピンを引き抜き、近くに放り投げるとモクモクと煙が出てきて、周囲一体に煙幕ができる。俗に言うスモークグレネードだ。


「俺の位置が分からなければ狙撃なんてできねぇよな!」


 立ち上がり、続けざまにティアに向かってそれを投げる。そして次の瞬間、狙撃の轟音と共にスモークグレネードが爆散し、さらに煙幕が広がる。飛来するものを全て撃ち落とすなら、撃ち落とされても優位に働くものを投げる。それが隼人の思いついた打開策だった。


「うおぉぉぉぉぉぉ!」


 立ち込める煙幕の中、闇雲に魔銃を撃ちながら突撃すると。撃っている弾を撃ち落とされていくのが発泡音で分かる。そしてそのまま煙の中から飛び出すと、丁度撃ち切った狙撃銃にリロードしているティアの姿が目の前に現れる。


「もらっ、くっ!」


 すかさず魔銃構えて狙うが、取り出された白い大鎌で、左手の魔銃を弾き飛ばされてしまう。


「まだまだぁぁぁ!」


「……」


 だが右手に残った魔銃をティアに向け、装弾している全てを撃ち切る勢いでトリガーを引きまくるが、まるで撃つ位置が分かるかのように大鎌を振られ、全て防がれてしまう。


「くそっ!」


 空になった弾装を捨て、急いでリロードをして銃口を向ける。


「……哀苦辛怒あいくしんどを刈り取る『天使の鎌エンジェルサイスヘヴン』」


「しまっ!」


 だが一足遅く。先に詠唱されてしまい。白い大鎌が輝き始めると、天使の翼のようなものが背中に生える。


「うおぉぉぉぉぉぉ!」


 だが固有武装による固有魔法が展開されていようが無力化すれば問題ないと言わんばかりに弾が尽きるまでトリガーを引き続ける。しかし、翼のようなものがティアを守るように前面を囲って弾丸を防がれる。

 驚くことに翼についている羽根の一枚一枚が、一つの魔法になっていて、弾が当たると効果が打ち消されて消えるが、すぐに再生していく。


「くそ、再生速度の方が速い。もう一丁あれば…」


 隼人の魔銃の装填数は8発、対して翼の羽はほぼ無数にある。二丁を一点に集中して撃たなければティアを狙うなんてことは困難だ。

 そう思って弾き飛ばされて転がっているもう一丁を見やり、攻撃の手を緩めず、ゆっくりと銃のところに向かうが…。


「……『スノウフェザー』」


 リロードのタイミングを計られ固有魔法を詠唱される。ティアの前面を囲っていた翼を大きく広げられ。広げた翼から無数の羽根がフィールド全体に舞い散り、ゆっくりと降り落ちる。


「まずい!みんなアレに当たるな!」


 天使の羽根が降り注ぐという幻想的な光景に目が奪われる中、刹那の声でみな我を取り戻す。舞い散る羽根をよく見ると、地面に触れた瞬間、氷の花を咲かせていく。

 刹那は魔銃を取り出し閃と協力して羽根を次々に撃ち落とし、ギルは槍を大きく振り回して周囲に落ちる羽根を外側へと吹き飛ばす。琥珀はギルが吹き飛ばす羽根を可憐に舞うように避けていき、隼人は身の回りに落ちる羽根を撃ち落としていた。


「くっそ!」


 舞い降る羽根は不規則に動く為、撃ち落とすのが難しい。


「がぁっ!足が!」


 撃ち漏らした羽根の一枚が左足に触れ、一瞬にして氷の花を咲かせる。左足に激痛が走るが耐えられない程ではない。むしろこの状況で痛みにもがけば、次々に羽根の餌食になる。


「チィ!」


 そう直感的に分かっていたから、左足の痛みに耐え羽根を撃ち落とすことに集中する。


「っぅ!」


 だがしかし限界はあるもの。死角である後方から舞い落ちた羽根が右手に触れ魔銃ごと凍り付く。


「隼人っ!」


「…あの阿呆!」


 刹那の叫び声が聞こえる。視界の先では大鎌を携えこっちにゆっくりと歩みを進めるティア。魔銃は使えない。撃てはするだろうが凍り付いているから暴発する。

 一歩。さらに一歩と白い天使、もとい死神は歩みを進める。その足音が死へのカウントダウンをしているように聞こえる。そして隼人の目の前で立ち止まると、大鎌を振り上げる。


「……さよなら」


 別れの言葉。死の宣告。それらを連想する言葉を告げ、ティアは大鎌を振り下ろす。


「ばーか、油断大敵だ」


「っ!」


 だが、隼人が左手から転げ落ちる手榴弾グレネードを見て、動揺で一瞬動きを止まる。


「『リアクト』!」


 隼人が詠唱すると間に土の壁ができる。そして手榴弾グレネードは壁ができる前にティアの方へ転がされていた。咄嗟に翼で身を囲い、爆発の衝撃をガードする。

 強烈な爆風と轟音がフィールドに鳴り響く。観客席にいる人も対物対衝対魔防壁があってもその威力の凄さを肌で感じる。それもそのはず。隼人が投げたのは対重装甲(プレートアーマー)用の手榴弾グレネードだからだ。


「……ぅん」


 しかしティアは全て衝撃を翼で防ぎきって広げる。目の前にある無惨にも砕け散った土の壁の残骸には隼人の姿は見当たらない。


「動くな」


「……」


 後ろから頭に銃を突き付けられる。隼人の至って平静な言葉に聞こえるが、少々息遣いが荒い。あの手榴弾グレネードは対重装甲(プレートアーマー)用。土の壁ごときでは防げはしない。後ろにいて見えないが、爆発の衝撃で相当な手傷を負っているのが容易に想像できる。


「大人しく降参してくれよ。チームメイトの義妹いもうとを撃ちたくないんでね」


「……降参リザイン


 反撃の隙はあるが、頭に銃を突き付けられている状況では分が悪いと判断して、大人しく降参する。

 するとフィールド上空、会場全体に見えるようにティアの降伏リザイン宣告がされる。


『決まったぁぁぁぁ!黄瀬選手、圧倒的不利なあの状況化から見事逆転しましたぁ!』


 興奮気味の文乃の甲高い声の実況により、会場内に歓声が沸き起こる。


「ふぃ~。やっと終わった。死ぬかと思ったぜ」


 精魂使い果たしたというようにその場に座り込む隼人。振り返ってその姿を見るとズタボロだった。


「ったくお前な。人にあんな高威力なもんブッ放すなよ。危ねぇだろ」


 座り込んで横柄な態度で愚痴り始める。


「……そっちも生身の人に投げるものじゃない」


「うっせ。防がれる自信があったからアレを使ったんだ。こっちはちゃんと計算してんだよ」


 売り言葉に買い言葉で正直どっちもどっちだが、そんなことは両者にとってどうでも良かった。


「…なぁ、お前はどっちが勝つと思うか?」


「……にぃ」


「信用してんのな」


「……うん」


 今回の試合の主は刹那と閃の戦いであって。こっちの戦いはオマケ、余興みたいなものだ。

 その戦いの行く末を見守るように体を休めながら傍観する二人だった。

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