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第十三魔導武装学院  作者: 黒姫
第一章 学内順位戦編
14/35

時代の革命者

登場人物紹介


黒神刹那くろがみ せつな

 黒髪の青年で戦闘能力は高いが、魔法を数回放っただけで倒れるほど魔法適性値が低い。心優しく優柔不断な面と残忍でさっぱりとした面を併せ持つ二重人格者。八型一刀流の使い手だが、戦闘で中途半端に優しさを出すからよく負けてしまう。


ステラ・スカーレット

 紅い髪の女の子で元一校のエリート。少々意地っ張りでツンデレ。自分の気持ちに素直になれないことに対して自分でも悩んでいる


小桜風香こさくら ふうか

 緑髪のお姉さん、元七校の風紀委員長であり、真面目で礼儀正しいが、基本的な問題解決方法が武力的なのが玉に瑕。


黄瀬隼斗きせ はやと

 刹那のクラスメイト。元十二校で自称情報屋。VRゲームで鍛えた反射神経で二丁拳銃を使いこなし、また魔法による後方支援も得意としている。明るく軽い性格なのだが、厄介事によく巻き込まれる体質で苦労人。


ギルバート・エストレア

 金髪の刹那のクラスメイトで元四校出身。無愛想な性格で実力主義者。昔の事件で失った親友のことを今でも悔やんでおり、二度と同じことを繰り返さない為に強さを求めている。


桃井芽愛ももい めあ

 ピンク髪の女の子。元一校出身で現代で希少な魔法使いで明るく元気な性格でドジっ子。一人ではしっかりと目的地まで辿り着くことができるが、集団で行動すると何故か方向音痴になる。


アルウィン・エストレア

 ギルバートの兄。秀才で礼儀正しく、誰に対しても敬意を持って接するため、とても人望が厚い生徒。容姿はギルバートと全くそっくりだが、唯一髪型だけが違う。


ルーファス・ブレイヴ

 金髪の伊達男。第二次魔導大戦を終結させた七英雄の一人。白兵戦に於いて無類の強さを誇り『最強』の異名を取る人物。『斬った』という因果を反転させて絶対不可避の一撃にする固有武装デバイス『神剣ハルシオン』の所持者。現在は紅愛の護衛ボディガードとして、いつも彼女そばにいる。


桃井紅愛ももい くれあ

 紅に近いピンク髪の女性。第二次魔導大戦を終結させた七英雄の一人。魔法騎士で、『戦場の歌姫』と呼ばれていたが、大戦中に両目を負傷し視力を失った。個人差はあれど触れた相手の視力と同調して視ることができる能力を持っている。ルーファスとはかなり相性が良いらしく、いつもベッタリくっついている。芽愛の姉でもある。


新規登場人物


三谷沙織みたに さおり

 十三校の学院長であり科学者。主に固有武装デバイスの研究を行っている。常に物事の先を見据えて行動しているが、その行動は誰にも予測がつかない。

 刹那達は本日行われる順位戦の会場となる闘技場コロシアムに来ていた。


「お~。ここ来る時も思ってたけど、やっぱ間近で見るとデケェな!迫力が違うぜ」


「当たり前だろ。世界一の規模を誇る会場なんだぜ?全体面積が二百……」


「…能書きはいい。…さっさと行くぞ」


 感嘆の声をあげる刹那に隼人が解説を挟もうとするが、ギルがそれを遮り先へと進む。


「ったく。説明ぐらいさせろよ」


「そう言うな。きっとアイツも順位戦が楽しみで待ちきれないだけだろ」


 普段と違って、いまの刹那は入れ替わっている。外を出歩くことは滅多にないから興味があると言っていたので変わっているのだ。


「遠足が待ちきれない子供かよ……。ってか、試合が楽しみとか戦闘狂バトルマニアックすぎんだろ。引くわ~」


「…誰が戦闘狂バトルマニアックだチキン野郎」


「あぁん!誰がチキン野郎だとぉ!」


「はぁ……。二人ともやめてよ。これからの試合が思いやられるよ全く……」


 この二人に関してはもうどうしようもないと諦めているが、放っておくとエスカレートするので仕方なく刹那は止めに入る。


「「キャー!」」


 刹那が呆れていると後方から、女子達の黄色い声援が聞こえてくる。


「あれは……」


「あー、あれか」


「……フン」


 一同は騒いでいる女子達を見る。見たところ。騒いでいる女子達は十三校の生徒ではなく、ただの学生だった。

 そしてその学生達に取り囲まれている人物は三人とも知っている人だった


「アルウィン様~!」


「今日の順位戦頑張ってくださーい!」


「私達応援してますので!」


「みんなありがとう。ボクも期待に応えられるようにするよ」


 アルウィンは女子に取り囲まれて戸惑っていたが、それでも丁寧に女子達の相手をしていた。


「うっわ~。イケメン補正ヤバすぎだろ。あんな感じになりたくねぇな」


「あはは……、なんか大変そうだね」


 隼人は嫌味混じりで呟き、刹那はアルウィンのことを思い、少し気の毒そうに苦笑いする。


「素直に羨ましいと言えばいいのではないですか?」


「誰が羨むかっつの!って、誰かと思えば『風紀委員長』かよ……」


「風香!」


 不意に現れた風香に心の内を代弁され、反射的に隼人は吠えるが、相手が風香だと知ると一気に怪訝そうな顔をする。


「誰かとは御挨拶ですね黄瀬さん。礼儀という言葉が頭に無いのでしょうか?それはそうと刹那さん。今日の試合、ささやかながら応援させていただきますので、頑張ってくださいね」


「あ……、あぁうん。ありがとう。頑張るよ」


 隼人にさらっと罵倒の言葉を浴びせ、刹那には温かく声を掛ける。

 そのあまりにも高低差のある風香の態度に思わず刹那は生返事を返す。


「そして貴方は……」


「…ギルバート。ギルバート・エストレアだ。…ギルでいい。兄が世話になっている」


「小桜風香です。こちらこそ、刹那さんがお世話になっています」


 握手こそはしないものの。お互いに丁寧に自己紹介をする風香とギル。


「てかおい、おかしいだろっ!お前ら俺にだけあからさまに態度が違うじゃねぇか!?」


貴方は論外です(お前は論外だ)


「なんでだよっ!!」


 初対面で出会った時の待遇の違いを隼人が指摘すると、二人とも当然と言うように即答し、それに隼人は絶叫する。


「その軽そうな雰囲気がダメなんじゃないかしら?私もあんた見たいのはお断りだけどね」


「ぐはっ!」


 悠然と歩みながら、息をするように隼人をけなして現れるステラ。その顔はありありと嫌そうな感じが出ており、今のステラの一言で隼人は膝から崩れ落ちる。


「ステラも…。まあ風香がいれば、勿論いるよね」


「失礼ね刹那。私と風香をセットみたいに言うのはやめてくれないかしら?」


「そうですよ。私達も四六時中、常に一緒にいるわけではないですからね」


 刹那がステラと風香が一緒にいることを当然のように言うと、ステラは少々むくれ、つんけんとした態度になり、風香も心外そうに返す。


「あはは、冗談だよ。でも二人の事が羨ましいのは本当かな」


「刹那……」


「刹那さん……」


 ほんの少しだけ後ろめたい気持ちで本心を言うと、二人も心配そうにして沈んだ表情になる。


「…刹那。俺は先に行く。…歓談も程々にな」


「あ、うん。分かった」


 唐突に会話に割って入ったギルは、先に会場に向かうことを刹那に告げると、さっさとその場を立ち去っていった。


「あれって、ギルよね?」


「そうだよ。ステラはギルと面識あるんだ?」


「少しだけ……ね。それ以外は特になんでもないわ」


 何気無く聞いた質問に、ステラは意味深長なことを呟く。


「ん?それってどういう……」


「すまない。待たせてしまったね、って彼は一体どうしたんだい?」


 その意味を聞こうとすると同時にアルウィンがやって来る。

 やって来たアルウィンはうなだれてる状態の隼人を見て、すこし戸惑いながらも落ち着いて状況の説明を求めてきた。


「……チクショウ。俺が何をやったっていうんだよ。十三校に来て、高嶺の花だった各校のエリート美少女と巡り会えるチャンスだと思ってたのに。なんでここまで嫌われるんだよ……」


 隼人の心の声がだだ漏れになっているが、その内容を聞いているとなんというかもう、見ているこっちが居たたまれない状態だった。


「彼、大丈夫かい?」


「あーうん。気にしないで良いよ。そのうち元気になるから」


 いまアルウィンが気遣うと余計に隼人が傷つきそうなので、可哀想だが刹那はあえて無視を勧める。


「フン。こういう輩は一度折らないと何度でも突っかかってくるから、これぐらいが十分よ」


「同感です。しかしステラさん、この手の輩は折ってもすぐに立ち直るものです。この際二度と声を掛けようなど思わせない為に粉微塵にする方が良いと思いますよ」


 ステラはこれぐらいが妥当だと言わんばかり言うが、そんなステラに風香はさらに恐ろしい進言をする。


「なるほど。原因は彼女達か」


「……うん。察しの通りだよ」


 ステラと風香のやり取りを聞いて状況を察するアルウィン。


「まあ、僕に任してくれ。二人とも話のところいいかな?」


「なんですか?/何よ?」


 このまま行けば恐らく隼人のメンタルが危うい。そう察知したアルウィンが二人の仲裁に入る。


「僕もさっきあったように、異性から声を掛けられることがよくあってね。二人はとても綺麗だから、僕以上に声を掛けられるだろうね」


「まあ、そうだけど……」


 綺麗というアルウィンの誉め言葉にステラは頬を赤めながら肯定する。


「もし異性の誘いを毅然と断りつつ、当たり障りのない対応にお困りのようなら、会場に向かう道すがら色々アドバイスしてあげられると思うよ」


「そういうのがあるんですか?少々興味がありますね」


「私もちょっとだけ聞こうかしら……」


 アルウィンの話に二人とも食い付く。その行動は鮮やかとしか言わざるを得なかった。

 巧みな話術で二人の注意を隼人から外し、更にアドバイスをしながら会場へ誘導していく。これ以上の穏便に済ませられる対応は他にはないだろう。


「相手からの誘いをいきなり拒絶すると、相手も食い下がってしまうから、まずはそこを注意しないといけないよ」


 二人に話をしながらアルウィン行き去り際に、そっちは頼んだ。と言うように刹那に視線を向け、会場へと向かっていく。


「すごいな……。さすがに人望も厚い訳だ」


 刹那は感嘆の声を出しながら、しばしの間会場に消えていくアルウィンの背中を呆然と見つめていた。


「っと。忘れるところだった。隼人大丈夫?」


「なんだよ刹那……。俺はいま傷心中だからほっといてくれ……」


 刹那の問いかけに、orz状態から微動だにせず。沈んだ声で返答する隼人。


「いいよなお前は……。なんだかんだあの二人に好かれてるし、義妹いもうとも可愛いし、従妹いとこもあの『白雪姫』だし……」


「おーい隼人~?」


「お前も意外とリア充だよな……。いいよ、いいさ。どうせ俺はこんな不当な扱いをされる役回りだよ……。はぁぁ~~~~……」


 少々投げやりになりがら、隼人はゆっくりと立ち上がると長い溜め息を出す。


「隼人が思っている以上に、人に好かれるのもいいことばっかじゃないけどね……」


「それは好かれてる人間が言える立場だろ。俺を見てみろよ、初対面なのにあんな塩対応されるんだぜ?あんなのに比べりゃそっちの方がよっぽどいいだろ」


 妬ましそうに言う隼人の発言を否定すると。隼人は過去の出来事を引き合いに出し始めるが……


「じゃあ、隼人はいきなり斬りかかられたり、喧嘩売られたいの?」


「……」


 その発言を聞いて隼人は目が点になるが、その言葉の意味を察して、驚き写した目は次第に憐れみの色へと変わっていく。


 隼人が初めての邂逅(ファーストコンタクト)の話を持ち出すなら、刹那も散々な目にあっている。

 ステラに斬りかかられたり、風香に敵視されたり、結果二人に決闘を申し込む羽目になったり、ギルに喧嘩売られたりなど……。

 風香の敵視に関してまだいいが、他の二名の攻撃に関しては(片方は事故があったとはいえ)アウトだろう。

 隼人が刹那とギルの出会いを知らずとも。ステラと風香の二人に決闘の申し込む羽目になった話をすれば、十三校にいる誰しもが思うことだ。災難だったろうな、と。

 だから刹那からすれば、三人の隼人への塩対応はまだ可愛いものなのだ。


「……まあ、その、なんだ…。お前も苦労してんのな……」


「……そういうこと。まあ……あの決闘は自分で申し込んだから言えたことじゃないけどね」


「クク。ま、半分は好きでやってるようなものだからな」


 気の毒そうに言う隼人に刹那は苦笑して返すと、もう一方が出てきて茶化してくる。


「お前なぁ……。まあそういうヤツってのはお前から聞いているから別に驚きはしねぇけどさ。二重人格ってどんな感じなんだ?」


 刹那と会話をして精神が立ち直った隼人は、一緒に会場向かいながら突っ込んだ話をする。


「どんなって言われてもねぇ……。一般的な二重人格とは違うと思うし……」


「かと言って、はっきり別れてるってことは確かだしな……」


「ごめん。自分でもよく分かってないや」


 隼人の疑問を入れ替わり立ち代わりで刹那は答えるが、自分でも分からず、その返答は曖昧なものになる。


「うーん。普通の二重人格は相互の記憶は共有されないし、認識もできないはずだからな。でも俺から見ている分にはしっかり別人に見えるから演技って訳でもないし……。お前の言う通り一般的ではないけど、ちゃんと別々に独立している。一心同体じゃなくて二心同体ってことか……。あ、悪い。そんなつもりで言ったわけじゃ……」


「大丈夫、分かってるから」


「しっかしまぁ、二心同体ねぇ。上手いこと言ったつもりか?」


 謝る隼人に、気にしてないと言いながら冗談を返す刹那。


「だぁ!うっせぇな!人が気にしてやったのに冷やかすんじゃねぇよ!俺の謝罪を返せ!」


「ハハハッ!やっぱ戦うことの次に愉しいのは他人ひと揶揄からかうことだな」


(はぁ、程々にしてよね……)


 大いに笑う刹那は内心呆れながらも、隼人と共に会場の中に入っていくのだった。


□□□


 会場の中に入るとすぐ受付の人に選手控え室まで案内され、控え室には先にギルが座って待っていた。


「…来たか」


 待ちくたびれように、しかし落ち着いた声音でそう言う。一見落ち着いているように感じるが、その声からは焦りと安堵が微かに感じられた。


「ごめん、待たせちゃったかな?」


「…いや、それほど待っていない。…だがもう少し待たされるだろうな」


 ギルは気にしてないように言うと、控え室にあったモニターを指差す。

 モニターには順位戦を見に来た観客がぞろぞろと入ってくるのが映し出されていた。入ってくる人のほとんどが十三校の生徒であるのは、まあ当然と言えば当然なのだが。それに比べてみても外部者が多いことに気がつく。


「あれ?意外と観客多いね」


「…あぁ。…普通はこれほどまで部外者は来ないはずだが、俺の見る限りメディアは勿論、憲兵や軍関係者もかなりいるな」


 刹那の意図を察したギルはモニターを見て自身の推測を喋る。


「なんでだろ?」


「…おい、自称情報屋。何か知っているか?」


「自称は余計だっ!」


 この中で観客が多い理由を知っている思わしき隼人にギルは聞くが、一言余計なことを言ったせいで隼人がわめく。


「…がなるな。…どっちでもいい、知っているならさっさと話せ」


「簡単に言いやがって……。本来なら情報料貰うんだからな!」


 隼人はビシッとギルに指を指すと渋々話し始める。


「ったく。こんなに人が多い理由だったか?そりゃ『数字付き学園(ナンバーズ)』のエリート達が集った十三校初の順位戦が開催されるんだぜ?メディアは当たり前だが、将来有望株がいないか軍や憲兵も見に来てるんだよ。……まあ軍や憲兵が見に来てるのは、それとは別の理由があったりするんだけどな」


「別の理由?」


 勿体ぶるように話す隼人の話しに食い付く刹那。


「その別の理由ってのが、今回の順位戦で学院長がゲストを呼んでいるみたいなんだ。そのゲストがなんと、世界に名高い『七英雄』の二人。ルーファス・ブレイヴと桃井紅愛なんだとよ」


「「!?」」


 隼人の話しを聞いて驚愕の表情をする刹那とギル。


「そんな有名人が来るんだ。見に来ねぇヤツはいねぇだろ。てか、お前もそんな顔するんだな」


「…なんの事だ?」


「いっつも仏頂面してるから表情筋固まってるんじゃないかって思って……うおぉ!」


「…二度と会話ができないようにしてやろうか?」


 ギルは虚空から槍を取り出し隼人の喉元に突き付ける。


「だぁ!ジョークに決まってんだろ!こんなとこで武器取り出すんじゃねぇよ!ったく冗談の通じねぇヤツだな…」


「…お前がつまらないこと言うからだ」


 隼人は突き付けられた槍をどけながら文句を言うと、それにギルは反応して言い返す。


「はいはいそこまで、順位戦降ろされたいの?」


「…フン」


 エスカレートしかねないので刹那は仲裁に入り、ギルは不服そうだったが大人しく矛を収める。


「失礼します」


 ギルが槍を仕舞った直後、会場のスタッフが控え室をノックして入ってくる。あと少しでもギルが手に槍を持ってたら警察沙汰だったと、内心冷や汗をかく刹那。


「準備ができましたので会場にご案内します」


 スタッフの様子を見る限り、武器取り出していたことは露ほども知らないと思われる。そして三人はそのスタッフに案内されるままついていく。


「あ、でもそういえばさ」


「ん、どしたよ?」


 会場までの長い廊下を歩きながら刹那は思い出したように声を上げる。


「博せ…、学院長なんでまた『七英雄』なんか呼んだんだろう?」


「さあな?俺達に世界を救った英雄様の実力を肌で体験させるつもりなんじゃね?」


「まっさか~。僕達なんか足元にも及ばないでしょ」


「…だが良い経験に繋がることは確かだろうな」


 刹那の問い掛けに隼人は自分の憶測を言うが、その憶測あまりに突拍子がなくて冗談混じりに返す刹那。しかしギルは隼人の憶測に賛同を示していた。


「案外、体験させるどころじゃなくて。特別教官としてしばらく指導させられたりするかもな」


「それこそ無いでしょ。『七英雄』だって暇じゃないんだし」


「言ってみただけだって」


 冗談で言った隼人の妄言を刹那は一蹴する。

 『七英雄』は第二次魔導大戦を止めた人物達であり、その人達の行動や発言は魔導協会を動かすレベルだ。そして今もそれぞれが平和の為に活動を行っている。いくら世界最先端の技術を結集して創られた進学校と言えど『七英雄』が常駐するほどのものでもないだろう。


(いやでも、博士の事だからそれぐらいやりかねなさそうだな)


 だがあの沙織なら隼人の妄言を現実のものにしかねないと刹那は思い直す。


「着きました。ここから先は皆様しか行けません。三谷様からの指示でFクラスの代表の立ち位置は壇上に向かって左端とのことです。くれぐれもお間違いのないようにお気をつけください。では」


 他愛のない会話をしながら歩いていると会場への扉の前に到着する。案内したスタッフは沙織からの連絡を済ますと来た道を去って行った。


「うし!いよいよ俺達の晴れ舞台だ。待ちに待っている奴らに顔見せに行ってやるか!」


 拳を握り、少し気を張った面持ちで気合いを入れる隼人。


「隼人、もしかして緊張してる?」


「クク、ビビって足が動かねぇとかじゃねぇよな?」


 そんな隼人を緊張をほぐすように刹那は声をかけると、便乗してもう一人も出てくる。


「んな訳ねぇだろ。俺はいつも平常運転だっての」


「…虚勢は見苦しいだけだぞ」


「だから違うっていってるだろっ!お前も乗っかってくんじゃねぇ!」


 刹那が言った図星を違うと言い張る隼人。そしてどういう訳か珍しくギルも刹那の冗談に便乗してきて、隼人はすっかり元の調子に戻る。


『では次はFクラス代表の入場です』


「よし、行こう」


「おう!」


「…あぁ」


 会場から漏れ出てくるアナウンスが聞こえ、刹那は二人に合図をすると同時にシャッターのような重い扉が開く。


 会場に出ると溢れんばかりの熱気と歓声。が出迎えてはくれなかったが、それでも飛び交う拍手と歓声があがっていた。

 会場の中央にはすでにAからEクラスの代表が演壇の前に整列していて、どうやら刹那達が最後の代表だったらしい。刹那達も他の代表に倣うように整列する。

 

『各クラスの代表が集まりました。これより学院長による順位戦開会宣言を行います』


 アナウンスがされると、沙織が会場の端から無機質に歩いて来て登壇する。


「えーコホン。これより順位戦の開会式を行う」


 わざとらしい咳払いを一つすると、沙織は手元の原稿を読み始める。


「あぁ、紹介が遅れたな。私はこの第十三校の学院長と理事長を務める三谷沙織だ。()()()()は以後覚えておくように」


 ざわざわとした会場の空気がおかしいことに気が付き、沙織は自己紹介を挟む。会場の空気がおかしくなるのも無理はない。入学式ではろくに登壇も自己紹介もせずに終わらしたのだから、沙織を学院長と思う者がいないのは道理だ。

 だから沙織は釘を刺すように言葉の端々を強調して言う。


「宣言の前に二三、学生諸君に報告がある。ここにいる外部の者も口外は無用、聞き流して頂きたい」


 観客席を見回して外部から来た人に異論がないか沙織は確認をする。


「ありがとう。と言ってもそれほど重要なことでもないのだが、まだこの学院の方針を諸君ら伝えていなかったな。いま世には数字付き学園(ナンバーズ)以外の魔導騎士育成校ができている。裕福な者が通う獅子聖学園や、軍の直属である黒龍士官学院をここでは例に挙げておこうか」


 少し、ほんの少しだけ気を計らったように勿体ぶって演説を続ける沙織。


数字付き学園(ナンバーズ)運営とは他に、私には一つの思惑がある。各クラスの代表者達には以前伝えたが、実戦で使えないことを教えることに意味はあるのだろうか?私の答えは否だ。だから私は十三校に於ける特別な処置を講じた。それが模擬戦のルール変更と部隊の編成だ」


 真剣な表情で演説を続ける沙織に誰もが真面目に聞き入る。


「すまないが私はくどい言い回しが苦手でな。はっきり言うが今までの数字付き学園(ナンバーズ)のやり方が気に食わなくてな。いまここで十三校に於いて、ランク付けの廃止を宣言する」


 沙織の宣言により会場中が一気にどよめく。

 それはそうだ。いままでランク付けすることにより、校内トップを決めていき向上心を上げていくのが数字付き学園(ナンバーズ)のやり方だったのだ。各校のエリート達が集っているこの場でそれを宣言するのは、彼らの向上心を削いでいるのと動議だ。


「諸君らの懸念はわかる。だが貴様らは一度でも地に堕ち、這いつくばったことはあるか?いまのこの場に立っていない者はつい先日の予選でなっただろうな。それがいままで貴様らが戦ってきた者達に味あわせて来たものだ」


 急に荒々しい口調と鋭い眼差しで観客席を見やる沙織。


 沙織の言う通り、ランク付けをすることによって向上心を生むことは確かだが、逆にそれは向上心を削ぐこと意味する。それをよく知っている刹那は沙織の思惑の意図を察する。


「話が脱線したな。諸君らがランクを決めるのは勝手だが、今後こちらからはランク付けは一切行わない。それと個々人のランクを連想させるアルファベットクラスも廃止し、それぞれに合った専攻クラスを設ける」


 捲し立てるように沙織は自らの思想を語っていく。


「具体的には、前線での戦闘を目的とした強襲科。魔導・銃撃で強襲科の援護を目的とした魔導科。負傷者の治療など、医療全般を担う医療科。他の科の防衛、安全確保などを担う防衛科。各種情報や状況の連絡を担う通信科。他の科のバックアップや移動手段の確保を担う支援科。他の科のカリキュラムを含み遊撃、斥候なども特化させた特務科。以上7つのを学科を設立するつもりだが、特務科に限り、私の権限を以ていまこの場にいる代表者全員を所属させる。異論は認めない。後で見込みがある奴は特務科に配属させるつもりだから、それぞれ努力するんだな」


 最後に畳み掛けるように新しい学科を設立することを宣言し。会場全体を圧倒する。


「なんでいちいちそんなことを……」


 沙織の演説に圧倒された会場の中、誰かが呟いた言葉が会場内に響く。


「良い質問だ。答えるついでに十三校(ここ)の校訓を言っておこう。『一つ、仲間を信じ、互いに支えあえ。二つ、常に常在戦場を心掛けろ。三つ、己を信じ、貫き通せ』だ。そして質問の答えだが、人にはそれぞれ得手不得手がある。私は己の土俵でもないところで勝負をさせて、結果を出せとは言わない。皆に己の得意とするものの学科を選ぶ機会を平等に与えたんだ。文句は無いだろう?」


 沙織は校訓を言った後、不敵な笑みをしながら誰かがした問いに答える。


「それと風の噂で伝わっていると思うが。つい先日、学院の職員を全員解雇したという噂は事実だ。何の役にも立たない居るだけの教師など十三校(ここ)には不要だ」


 沙織の発言により、再び会場がどよめく。チームの代表者達は少し驚く程度だったが、まさか本当にクビにしているとは。と少々呆気に取られる。


「職員を解雇させた代わりに諸君らに新しい()()を紹介しよう。世界的救世主、七英雄のルーファス・ブレイヴ教官と同じく七英雄の桃井紅愛教官だ」


「…ほぅ」


「マジかよ……」


振り向いていないが、後方で声を出したギルと隼人の表情がありありと刹那の目の裏に浮かぶ。


 会場に入ったときから、視界の端でチラチラと見え隠れして正直気になっていたが、沙織と同じく会場の端に立っていた二人の人物が会場の中央に歩いてくる。一人は悠然と歩みを進め、もう一人は杖を付きながら手を振って淑やかにゆっくりと歩いてくる。


「あ、お姉ちゃんだ!やっほー」


「「え"っ!?」」


 いまのは聞かなかったことにしとこう。刹那はそう思い、何処からか聞こえてきた芽愛の声をそっと胸にしまう。しかし芽愛の周囲にいる観客はその発言を聞いて愕然とする。


「学院長より紹介に預かったルーファス・ブレイヴだ。いまはもう軍の身では無いが。つい先日学院長から声が掛かり、今後戦闘訓練及び防衛術の教官として教鞭を取るつもりだ。指導するにあたって至らない点が数多くあると思うが、そこは互いに指導鞭撻の程を頂きたい」


「同じく学院長より紹介頂きました桃井紅愛です。魔導と医療の担当をします。私の学生生活はちょっと殺伐としてたから、みんなと楽しく過ごせたら良いなって思っています」


 ルーファスは後ろで手を組み、堂々とした姿勢で自己紹介をし。紅愛はにこやかに愛想良く自己紹介をする。


『会場の皆様。お静かにお願いします』


 学院の改革、七英雄の就任と。次々に起こる予想外の出来事に、隣の人と話す者、外部に連絡を取ろうとする者と。会場は軽いパニック状態と化し、アナウンスの人も尽力してそれを抑えようとするものの止まる気配は何処にもなかった。


「沙織さん。やっぱりみんな動揺していますよ。あの、提案があるんですけど……」


「ああ、構わない。好きにして良いぞ紅愛」


 周りを心配そうに見る紅愛。紅愛には目は見えない。しかし彼女が見る光景は、真っ暗な闇の中に輝く様々な魔力が、不安や恐怖よっていまにも消え去りそうに揺らめく光景だった。

 その光景が見るに耐えなくて、思わず沙織に声を掛けると。沙織は紅愛の気持ちを察してやりたいようにさせた。


「ありがとうございます。芽愛ー!ちょっとこっちおいでー!」


 紅愛はパァっと顔を明るくさせると観客席へと向く。紅愛が顔を向けた先、揺らめく魔力の中でも変わらず一際明るく輝いていた魔力、芽愛に声を掛ける。


「はーい!よっと!」


 芽愛は呼び掛けに応えると、自己強化を使って一気に観客席から会場の中央まで飛ぶ。


「ととと。お姉ちゃんどうしたの?」


「芽愛、ちょっと手伝ってくれる?」


 着地の際に少し転けそうになる芽愛。久し振りに会うのにも関わらず、相変わらず呑気でマイペースな芽愛の声を聞いて少し安心しながら、紅愛は手伝いを求める。


「うん。良いよ!」


 その手伝いを芽愛は快く承諾する。


『会場の皆様、お静かに願いま、す?』


 アナウンスの言葉の最後が疑問系になったのは、突然会場内に綺麗な音色が響き渡ったからだった。

 会場の中央、代表者達の目の前で芽愛は軽やかにフルートを吹き、パニック状態だった会場全体の注意を惹き付ける。


『君の夢へ 駆け出して行け…』


 綺麗な音色に合わせて紅愛が歌い始める。その歌声はすんなりと耳に入り、聞いている者全てをさらに惹き付ける。


『恐れることは 何もないよ…』


 芽愛と紅愛、二人の間に大きな魔法の兆候が現れる。そこから火の粉が舞い、会場全体を包むように広がっていく。


『君の足が 止まったら…』


 舞い散る火の粉は蝶や花びらへと形を変えて会場を美しく彩る。その光景はまるで幻想的な世界へと誘われているかのようだった。


『その時は 肩を貸すから…』


 宙を舞う花びらを手のひらに取る。その花びらは見た目ほど熱くはなく、ほんのりと暖かく。触っているとどこか安心感を与えてくれた。 


『だから迷わずに ただ真っ直ぐに行け』 


 そして紅愛が歌の最後に声を高らかに上げると、蝶と花びらも高く舞い上り弾け散る。天井は散った火の粉で埋め尽くされ。まるで夜空に輝く無数の星を見ているようだった。


 そして煌めく火の粉が降り注ぐ中、会場は芽愛の演奏と紅愛の歌声に拍手喝采が沸き起きる。


「ふぅ、面倒を掛けさせてすまないな。紅愛」


 会場の騒然とした空気に呆れながらも、沙織は紅愛に労いの言葉を掛ける。


「大丈夫ですよ。慣れてますから。芽愛も手伝ってくれてありがとね」


「えへへ~」


 紅愛は沙織の労いの言葉を遠慮がちに受け取り、手伝ってくれた芽愛にお礼を言うと。芽愛は嬉しそうに照れて頭を掻く。


 そんな姉妹のやり取りを余所に、沙織は再び登壇する。

 沸いていた会場は沙織が登壇することによって波が一気に引くように静まりかえった。


「申し訳ない。私もいきなり君達に色々と求めすぎてしまった。急な変更で君達が戸惑うもの無理はない。これから先もこのような選択を君達に迫ることがあるだろう。しかしそれは、君達に必要なことだと思って私は行動している。それだけは理解してほしい」


「「……」」


 沙織は静かに、そして切に願うように学生達に向かって言う。


「さて陰湿な長話もこれぐらいにして、順位戦の開会宣言をしよう」


「「イェー!!」」


 気を取り直して沙織が開会宣言をすると、観客席はいままでの暗い空気を払拭するように盛り上がる。


「各クラスを勝ち上がってきた諸君。結果は形としてはあまり残らないだろうが、それぞれの経験として残り続けるだろう。組んだチームの仲間と共に死力を尽くして勝ち上がれ!」


「「はい!」」


 沙織の激励の言葉に一同声を揃えて返事をする。


 そしていま順位戦の幕が開かれる。

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