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第十三魔導武装学院  作者: 黒姫
第一章 学内順位戦編
10/35

犬猿の生徒会長

登場人物紹介


黒神刹那くろがみ せつな

 黒髪の青年で戦闘能力は高いが、魔法を数回放っただけで倒れるほど魔法適性値が低い。心優しく優柔不断な面と残忍でさっぱりとした面を併せ持つ二重人格者。八型一刀流の使い手だが、戦闘で中途半端に優しさを出すからよく負けてしまう。


ティア

 蒼白の髪の少女で刹那の妹。魔導研究所出身で研究所閉鎖の際に刹那のおかげで黒神家の養子として引き取られた。無口で何を考えてるのか分からない不思議ちゃん。常に自分の事を気に掛けてくれる刹那の事が好きで、積極的にアピールしているがいつも刹那に誤魔化されている


ステラ・スカーレット

 紅い髪の女の子で元一校のエリート。少々意地っ張りでツンデレ。自分の気持ちに素直になれないことに対して自分でも悩んでいる


小桜風香こさくら ふうか

 緑髪のお姉さん、元七校の風紀委員長であり、真面目で礼儀正しいのだが、基本的な問題解決方法が武力的なのが玉に瑕。


白神琥珀しらがみ こはく

 白髪の少女で刹那の幼なじみでティアと同い年。刹那と同じく八型一刀流の使い手。心優しく謙虚で小動物を彷彿させるような少女。刹那に対して強い憧れと恋愛感情を抱いているが、謙虚さが仇となっている。


黄瀬隼斗きせ はやと

 刹那のクラスメイト。元十二校で自称情報屋。VRゲームで鍛えた反射神経で二丁拳銃を使いこなし、また魔法による後方支援も得意としている。明るく軽い性格なのだが、厄介事によく巻き込まれる体質で苦労人。


ギルバート・エストレア

 金髪の刹那のクラスメイトで元四校出身。無愛想な性格で実力主義者。昔の事件で失った親友のことを今でも悔やんでおり、二度と同じことを繰り返さない為に強さを求めている。


鈴鹿藍すずか あい

 紺色の髪をした刹那のクラスメイト。謎が多い青年。女の子っぽい自分の名前に悩みを持っている。


碧川海翔みどりかわ かいと

 青髪の青年。元二校の生徒会副会長で実力主義者。相手を見下したような言動が多く、弱者が強者に虐げられる事を当然だと思っているが、その代わり強者が弱者を庇護するべきだと思っている


蒼崎凛あおざき りん

 蒼髪のお姉さん。元二校の生徒会長で刹那と海翔の先輩。天性の治癒能力を持っている。喋り方が独特で誰に対しても老人口調で話す。可愛いモノ好きで可愛いモノを見掛けると愛でたがる。


沢木境さわき きょう

 眼鏡をかけた真面目そうな紫髪のお姉さん。元二校の生徒会書記で戦闘歩法の縮地しゅくちを極めており、瞬間移動を基点とした高速戦闘が得意。凛の命令を絶対としている。


桃井芽愛ももい めあ

 ピンク髪の女の子。元一校出身で現代で希少な魔法使いで明るく元気な性格でドジっ子。一人ではしっかりと目的地まで辿り着くことができるが、集団で行動すると何故か方向音痴になる。


レノンハルト・フォン・イグニス

 燃える様な赤く結われた長い髪が特徴の青年。不良校で有名な元五校の生徒会長、兼風紀委員長を務めていた。まともな仕事はしていないが、人一倍仲間を大切にする人で、五校の生徒からは尊敬の意を込めて『兄貴』と呼ばれている。


氷雨閃ひさめ せん

 氷のように蒼白い髪を持つクールなお姉さん。二校の元風紀委員長。真面目で真っ直ぐな性格であり、常に率直に物事を言う。そのせいで現実的、合理的な人だと思われがち。左腕全体に大きな火傷痕があり常に包帯を巻いて隠している。凛とは腐れ縁の仲。


アルウィン・エストレア

 ギルバートの兄。秀才で礼儀正しく、誰に対しても敬意を持って接するため、とても人望が厚い生徒。容姿はギルバートと全くそっくりだが、唯一髪型だけが違う。


新規登場人物


木代嵐子(きしろ らんこ)

 黄緑色のショートヘアーと小柄さが印象的な女の子。元三校の生徒会長であり頭脳明晰、その頭脳であらゆる策略や戦略を練ることを得意としている。クールを気取っているが身長のことを言うとすぐに怒る。


湯川熱揮ゆかわ あつき

 体躯のいい青年。レノの弟分でレノの事をかなり尊敬しているため、レノに対する言動が悪いやつにたびたび突っ掛かってしまう。


内空閑暁音うちくが あきと

 小柄な青年。レノの弟分で常に前髪で目を隠れており「ッス」が口癖。耳が良く、遠くの音や小さな音など平然と聞き取ることができ、それを利用してレノにいつも情報提供をしている。


朝日向里穂あさひな りほ

 小柄でツインテールが印象的な女の子。レノの妹分で小悪魔的性格の持ち主。レノに悪戯して追いかけっこをするのが彼女の日課。ツインテールの髪紐から靴紐までほぼ全てがリボンで装飾されており、レノ以外の人間からはその容姿から『リボンちゃん』というあだ名が付けられている。

 沙織は何事もなかったかの様に刹那たちを無視し、自分の机へと向っていく。


「明日から教務の仕事に戻れ、いいな!」


「「「???」」」


 沙織が何を言っているのか理解できず、全員で不思議に思っていると。通りすぎざま、沙織の耳にカナル式の通信機が着いている事に気が付く。


「ここへ来る途中からあんな調子だよ、何か問題が発生したみたいだね」


 全員で沙織の背中を目で追っていると、不意に後ろから声を掛けられる。

 声を掛けた人物を確認しようと振り返り辺りを見渡してみてもそこには誰おらず、首を下に向けるとショートヘアーが印象的な、小さくて可愛らしい女の子がそこにいた。


「キミ、いまボクのこと小さいとか思ったでしょ?」


「い、いえ。可愛らしいなぁ、と思っただけですよ」


「フンッ。同じことじゃないか。そうやって見た目で人を判断すると、いつか痛い目に会うよ」


 まだ何も言っていないにも関わらず、この小さな子は機嫌を損ね、いきなり刹那につっかかってくる。


「ゲッ!嵐子らんこ!お前もここに編入してたのかよ」


 レノはこの嵐子という子を知っているらしく、とても嫌そうな顔をする。


「見てわからないかい。だったらボクがこんなところにいる訳無いじゃないか。だからキミはバカだと周りから言われるんだよ。バカイグニス」


「あぁん?バカじゃねえよ!ケンカ売ってんのかテメェ?」


 向こうもレノを知っているのか、息をするようにレノを罵倒する。

 そしてレノは、嵐子に罵られ、額に青筋を立てている。


「そうやってすぐ挑発に乗る.....。キミみたいな気の短いバカが生徒会長だから、五校は不良校なんて呼ばれるんだよ」


「テメェみたいに、チビのクセに無駄にプライドだけが高い生徒会長がいる三校よかマシだっての!」


「なっ!?ボクは小さくなんかない!周りが大きいだけで、ボクは至って平均的だ!キミだって無駄に身長が高いだけで頭が回ってないじゃないか!」


「テメェは頭に栄養いってて、どこも成長してねぇだろーがよ!」


 確かに嵐子の容姿は同年代の女子と比較すると、かなり凹凸が少ない。むしろ無いに等しい。

 そしてだんだんと口論は激しくなって収集がつかなくなり、刹那は困惑し、閃は沈黙、凛は呆れ、アルウィンは笑顔で見ており、この状況を止めようとする者は誰一人としていなかった。

 

「あー!キミは言ってはいけないことを言ったな!もう怒ったぞ!」


 そういうと嵐子は右手を前につき出し、魔法を放つ兆候が現れる。


「やろうってのかよ?上等だ!今日こそ決着を着けてやるぜ!」


 レノもそれに応戦し、魔法を放とうとする。


「強風よ。ここに集い嵐となり。吹き飛ばせ!『ストームブラスト』!」


「灼熱の炎。灰塵かいじんさえ残すな!せろ!『フレアバースト』!」


「母なる大地、の者を護れ『ガイアプロテクション』」


「凍てつく水は、いかなるものも通さぬ『アイスブロック』」


 二人の魔法はぶつかり合う直前に、アルウィンと凛によって作られた石と氷の壁に阻まれ、部屋に轟音と行き場のない風が吹き荒れる。


「お主ら。じゃれ合うのは良いが、ちとやりすぎではないかの?」


「そうだよ。ここがどこで、何をしたのか分かっているのかい?いくらここが魔法の使用が許された学内といえど、許可の無い使用は厳戒注意、最悪停学になりかねないのは知っている筈だよね?」


「しかもそれが、元々学校のトップに立っていた者が起こすとは……。聞いて呆れるな」


「「っ!……」」


 凛、アルウィン、閃と、それぞれがレノと木代をたしなめると、二人は苦虫を潰したような顔をして、黙り込む。


「全く、嵐子ちゃんはもう少し、大人しくしてれば超絶可愛いのじゃがのぅ」


「はぁ~。凛.....。いま私情を挟むところじゃないだろう。相変わらずお前はブレないな」


 どんな状況でも自分のペースを崩さない凛に呆れるフリをする閃。

 凛が場を和ませようとした意図を汲み取り、それに閃が乗っかったのだが.....


「いやぁ~、せっちゃんにそう言われると何だか照れるのぅ」


「……はぁ」


 凛のマイペースぶりに閃は本当に呆れる。


「リン、彼女は誉めていないと思うよ」


「あれ?そうなのかのぅ?」


 それに気付いたアルウィンが凛に言うと、やはり閃の意図など気付きもせず、素の状態で喋ってたようだった。


「フフフッ。噂通りのクセの強い奴らが集まったようだな」


 いつから通信が終わったのか、沙織が微笑しながらこちらを見ていた。


「さっきの4人の許可の無い魔法の使用は多目に見てやろう。まずは、クラス代表として、勝ち上がってきた事への称賛しよう。おめでとう」


「おめにあづかり恐縮です学院長。そして親友の愚行への寛容さに感謝します。ですがお互いに堅くなっては息が詰まってしまいますから、少し肩の力を抜いてお話しませんか?」


 沙織が様式に沿った挨拶をすると、アルウィンはそれが沙織の性分に合っていない事に気付き、普通に喋って貰うように促す。


「すまんな、堅苦しい様式はどうも苦手でな。単刀直入に言わせて貰う。君らを呼び出したの他でもない。明日『だった』学内順位戦についての話だ」


「だった?つまり日程が変わったのかよ?」


 堅苦しい話し方をやめ、普段通りの話し方をし始めた沙織の言葉を聞きレノが口を挟む。


「まあ最後まで聞け。私が君らに伝えたい事は3つある。1つ目は、今さっき言った通り日程と順位戦を行う会場の変更。2つ目は、魔導協会で決定した事案についてだ」


「学院長、魔導協会での会議内容をボク達が聞いても良いのですか?」


 魔導協会の会議で決定した事は、世界の魔導騎士が絶対遵守しなければならない。いわば魔法界の法律所みたいなものなのである。会議の中には軍事的なものもあり、それらを知られないために秘密裏にされていたりする。

 それを危惧してアルウィンは聞いたのである。


「構わん。今度の順位戦において君達に関わる内容だからな。内容は諸君らの扱っている専用武器の名称と仕様が変わることだ。今後『専用武器』から『固有武装デバイス』と呼ばれるになる」


 沙織は一度全員見渡し、異論が無いことを確認する。


「まぁ、名称なんてどうでもいいことだ。肝心なのは仕様の変更点なのだが、少々説明が面倒臭い。黒神、ここに君の固有武装デバイスがある。受け取れ」


 そう言って、沙織は1本の刀を取り出し刹那に投げ渡す。受け取った刹那はどこが変わったのかにすぐに気付いた。

 まず受け取った刀には、ご丁寧にも付属していなかった筈の鞘が付いていた。

 その鞘から刀を抜き取る。出てきたのは透き通るような、しかしどこまで深く黒い刀身。それは紛れもない刹那の固有武装デバイスだった。

 刀を受け取った刹那は、試しに右へ左へと軽く振ってみる。


「.....普通だ」


「普通、って何も変わってないのか?」


「いやそうじゃなくて、なんて言ったらいいのかな…」


 固有武装デバイスの仕様の変更、という言葉に一番興味を示していたレノが、刹那の発言を聞いて疑問を浮かべて聞いてくるが、いまいち良い表現ができずに曖昧な返答になってしまう。


「変わった点は、固有魔法が発動しないようにしたことだ」


 刹那がどう言おうか言葉を選んでいると、沙織が代わりにその答えを言う。


「通常。固有武装デバイスを顕現させた時点で固有魔法が発動されてしまうが、顕現させても発動しないようにした。つまり、他の登録した武器と何ら遜色の無いようにしたんだ」


「なんでまた、そんなややこしい仕様にしたんだ?今まで通りで良かったじゃねーの?」


 沙織の説明を聞いたレノが、何故変えたのか理解できておらず質問をすると、沙織は頭に手を当て呆れる。


「もうダメだ。誰か、私の話を聞いて理解できたヤツ。この阿呆に分かりやすく説明してやれ。」


 沙織は呆れ過ぎて、説明するのを他人投げ出す。アルウィンがレノの前に出て代わりに説明する。 


「それは間違っているよレノン、ややこしかったのはむしろ今までの方だったんだよ。レノン、君は全生徒の内、固有武装デバイスと同じ形状、もしくは部類に入る武器を持っている生徒が、何割いるか知っているかい?」


「あん?なんだよ急に。そんなの9割ぐらいだろ。」


「正解。正確には9割弱だけど。つまり似た形状の武器が十三校ここに大量に保管されている事になる。各校でもいま、武器庫の容積が足りていない問題が発生しているのは知っているだろう?同じ武器の被りを少なくする為に固有武装デバイスを常時使えるようにしたんだ。それが1つの理由。ここまでは理解したかい?」


「あぁ、一応。」


「そして、戦闘中における武器の破損がよくあることも知っているね?もし仮に、登録した武器が全部破壊されしまった場合。レノンならどうする?」


「そりゃあデバイスを出すに決まって……。あぁ、なるほどな。デバイスはデバイス同士での戦闘でしか破損は有り得ない。無駄な経費を抑えて、かつ戦闘で固有魔法を発動させるわけでは無いけど、出さざるを得ない状況に対応させるためか。納得したぜ。」


 アルウィンの誘導により、ようやく納得するレノ。


「まったく、理解力があって安心したよ馬鹿者。1つ補足しておくと、固有魔法を発動させたい場合は今まで通り、発動呪文を唱えれば良い。さて2つ目、日程と会場の変更についてだが、日時は明後日、場所は娯楽区にある闘技場で行う。君らには明日の夜から決勝戦までの3日間、娯楽区にあるホテルで宿泊してもらう。」

「「おぉ!!」」


 沙織に話に全員が驚嘆の声を出す。その理由は日本近海太平洋沖に存在するメガフロート。通称ここ六芒ろくぼうは世界一のカジノや遊技場が集中する娯楽区があり、娯楽区にあるホテルはどこも最高級だからである

 みんなが驚くのは当然の反応といっていいだろう。


「試合と観戦時以外の時間は自由だが、遊びに行くわけじゃないからな。特にイグニス、君は気を付けるように。」


「へーい。」


 一番遊びに行きそうなレノに釘を指す沙織。レノは少し残念そうな顔をしながら返事をする。


「さて、諸君に3つ目の話だが、順位戦で戦う相手を決めてもらう。…つもりだったのだが、面倒くさいからこちらの方で勝手に決めさせてもらった。」


 部屋が急に暗くなり、沙織の背後にトーナメント表が出てくる。トーナメント表には4つのチームは準々決勝から始まり、残りの2チームはどちらかが勝てば決勝戦に出れるシード枠なってるトーナメント表だった。

 そして、表にはFクラス対Cクラス、Bクラス対Eクラス、Aクラス対Dクラスになっていて、AクラスかDクラスがどちかが勝てば決勝に進めるシード枠に入っていた。


「少し待ってください学院長。これでは公平な試合ができる様には見えません。なぜこのような形にしたのですか?」


 このトーナメント表を見て、真っ先に異論を唱えたのはアルウィンだった。


「君は本物の戦場に公平性があると思っているのか?戦場では公平な戦力なんてあるわけがない。戦争には必ず戦力の差がある。そして、ここでは実際の戦闘で活かせる技術を身に付かせるための進学校だ。実戦に活かせない訓練ほど、意味はないものは無いと君は思わないか?」


「わかりました.....」


 沙織は正論を突き付け、アルウィンを黙らせる。


「学院長。ひとつだけいいかの?」


「なんだ蒼崎?」


 すると今度は凛が沙織に疑問をぶつける。


「このトーナメントの組み合わせは意図的にしたのかの?」


 凛が一番重要な疑問を沙織に聞くと、沙織が眉ひそめる。


「まさか。そこは機械抽選で公平に決めたよ」


 だがそれも一瞬。気付ける者だけが気付くほんの少しの動作だったが、この場にいる全員が気付いていた。

 そして誰も沙織に抗議しない理由は一つ。その言葉とは裏腹に「抗議したらお前らこの場で即退場させてやる」というような殺気を放った目で睨み付けているからである。


「他に異論を唱えたい奴はいるか?無いなら即時解散だ。私は見ての通り理事と学院の業務で忙しい。宿泊先の場所などは追って連絡する。ほら!ボサっとするな!」


 そう言うと沙織は学院長室から全員を追い出すと、扉が荒々しく閉まる。


「あれは、絶対何か裏で工作しているね」


「手のひらの上で踊らされるのは癪だけど、まあ難しく考える必要はねえだろ?」


 沙織の態度を訝しげに警戒する嵐子と。対照に楽観的に構えるレノ。


「出た、バカイグニス……」


「んだと?またやんのかコラ!」


「まあまあレノン落ち着いて。嵐子も。今回はレノンの言う通りだとボクは思うよ。どうやら学院長は、ボクらが思っている以上の人のようだ」


 嵐子に煽られたレノを制しながら、嵐子に率直な意見をアルウィンは言う。


「どういう意味さ?」


「そのままだよ。学院長は表向き裏向きの両方に何か手を仕込んでいるみたいだ。それが何なのかまでは知らないけど、きっと悪い事ではないだろう」


「相変わらず楽観的だね、キミも。じゃあ、ボクはもう行くよ。君達といるとボクまで頭が花畑になりそうだ」


 アルウィンの思考に呆れ、皮肉を言いながらその場から立ち去る嵐子。


「「兄貴ーーー!」」


「あにき?」


 嵐子と入れ違いで、二人の男子生徒がこちらに向かって走ってくる。一体誰の事を指しているのか分からず刹那は思わず首をかしげた。


「おう、お前らどうした?なんかあったのか?」


 二人に対してレノが返事をする。どうやら兄貴とはレノのことらしい。


「レノ。この人達は?」


「あぁん!?おめぇ、兄貴に向かってなんて口聞いてんだ!シメられてぇのか!」


「わわっ!」


 刹那がレノに放った言葉が気に食わなかったのか。走ってきたうちの一人。ゴツい体格をした生徒が刹那の胸ぐらを掴む。


「口の聞き方がなってねぇのはテメェだ熱揮。俺の親友になにしてんだよバーロー」


「あだっ!」


 レノのゲンコツが鈍い音を立てながら熱揮の頭に直撃する。


「す、すいやせん。そうとは思わなくて……」


 そう言われて慌てて手を離す熱揮。レノのゲンコツが相当痛かったのだろう。熱揮は手で頭をおさえながら刹那に謝る。


「すまんな刹那。こいつらは俺の弟分だ。こっちの体格がいいのが熱揮あつき、そこのちっせえのが暁音あきとだ。熱揮、暁音。こいつが例の一校エリートと七校の風紀委員長を倒したの黒神刹那だ」


 レノは改めて刹那に熱揮と暁音に紹介する。 


「オスっ!俺は兄貴の4番目の舎弟、湯川熱揮ゆかわ あつきだ。強いやつは歓迎するぜ!よろしくな刹那!」


「うッス。噂は聞いてるッスよ刹那さん。俺は内空閑暁音うちくが あきとっていいまッス。今後ともよろしくッス」


「こちらこそよろしく」


 お互いに挨拶を済ませるとレノが二人に聞く。


「そう言えば、お前ら俺になんか用事があって来たんじゃねぇのか?」


「あ、えーっと。暁音、俺ら何しに来たんだっけ?」


 レノの質問に対して、どうやら熱揮は忘れてしまったみたいで頭を掻きながら暁音に話を回す。


「熱揮さんリボンちゃんの事ッスよ」


「それだっ!」


 暁音の一言で思い出して、ポンと手を叩く熱揮。


「なんだよ、また里穂がなんかやらかしたのか?」


 熱揮と暁音の話を聞いて呆れるレノ。


「いや。まだ起きてないというか、これから起こるというか……」


「あ、リボンちゃんが来るッス」


 熱揮が答えに口ごもっていると、暁音が階段の方を向きながら里穂が来ることを知らせる。


「あれ?来ないけど?」


「いや、そろそろだ」


 一同が階段に目を向けるが一向に人の気配が感じられず、刹那思わず口に漏らしてしまう。だがレノだけは知っているみたいで、既に何かを感じ取っているようだった。

 すると来ると言われて20秒後、ようやく他の一同にも感じ取れるぐらいの人の気配が近づいてくる事がわかった。


「やっぱ流石だな暁音。お前の感知能力は」


「えへへ、そうでもないッスよ」


 レノに褒められ嬉しそうに照れる暁音。

 だが、そうこうしているうちに近づいてくる気配と足音は大きくなり、そしてついに気配と足音の主が階段からその姿を現した。


「おにーーーちゃーーーーんっ!とぉっ!」


「ぶはっ!」


 ティアと同じ年頃の女の子が階段から現れると、いきなり自己強化魔法を使って跳躍する。そして空中で器用に身を捻って回転すると、レノの顔面にめがけて後ろ回し蹴りを放った。

 それに直撃したレノはぶっ飛ばされて廊下を転がっていく。


「……いってぇ。里穂っ!お前はいつもいつもなんで飛び掛かってくんだよっ!」


 そういって蹴られた顔をおさえながら起き上がるレノ。


「フフーン、お兄ちゃんったら。あたしの飛び蹴りも避けられないなんて。ダッサーい!」


「うるせぇボケっ!俺が避けてたら、後ろにいたコイツらに当たってたろーがよ!そんなこともわかんねぇのか!」


「ハイハイ。もうダサいお兄ちゃんに用は無いからじゃ~ね~♪」


 里穂はレノの話を適当に聞き流して。飛び蹴りの際に抜き取ったレノの財布を手にしたまま、また自己強化魔法を使って逃走する。


「あ・の・ヤ・ロぉ。今日という今日は絶対許さねぇ。おい熱揮!お前はそのまま里穂を追え。暁音!お前は俺と一緒に来い!先回りして挟み撃ちにするぞ!」


「おうよ!」


「了解ッス」


 怒ったレノは里穂を捕まえるべく。熱揮と暁音に指示を出す。


「てことですまんなお前ら、俺はちょい用事ができた。じゃあな!里穂ぉぉぉぉ!待ちやがれぇぇぇぇ!!」


 刹那達に慌ただしく別れを告げると里穂が逃げた方向とは逆の階段に向かって叫びながら全力疾走していくレノ。


「そんじゃま!俺らも行きますかね」


 そして熱揮もそのまま里穂の逃げた方に向かって走っていく。


「お騒がせしましたッス。それじゃ俺も失礼するッス」


 暁音も刹那達に一礼して、レノと同じ方向に駆けて行く。

 この場に残った、刹那、アルウィン、凛、閃は急に静かになった空気に少々戸惑ったが、気を取り直して順位戦の話をする。


「そういえば確かあのトーナメント表では、ボクの相手はDクラス。つまりレノンになるね」


いのか?あやつは一人でもお主を圧倒できるほどの力量じゃぞ?」


 余裕で構えているアルウィンにさとす様に忠告する凛。


「今回はボク一人で戦う個人戦じゃないから大丈夫さ。そういう凛も相手は嵐子だろう?そっちは大丈夫なのかい?」


「さぁの?生憎あいにく、儂は傷を癒すのが専門での。頑張るのは儂じゃないぞ?」


「じゃあキミはなんで出場したんだい?」


 他力本願という言葉が当てはまることを当然の様に発した凛に素朴な疑問を聞くアルウィン。


「仕方がないじゃろ。儂のチームは儂がらんと勝手に火を点けて大火事にするような連中なのじゃから。儂が暴走せんようにしっかり見とかなければいかんのじゃ」


「キミのチームは一体どんな人がメンバーなんだい?まぁそれはいいとして、そういえば刹那は閃と当たることになるのだろう?」


「あ、うん。そうだね」


 アルウィンが凛の愚痴を聞くのを回避する為に振った話に刹那は少々歯切れが悪かった。


「ん?どうかしたのかの?」


「あ、いえ。なんでもないんです」


 凛は何か隠している刹那に対して興味深げに詮索を始める。


「う~ん?気になるのう。刹那、お主何を隠しているのじゃ?元からお主は隠し事が苦手ゆえ、何か隠していることはバレバレじゃぞ。さあ、言うのじゃ!」


「会長!近いです!」


「凛、やめろ。彼が困っているだろう」


「そうだよ凛。そもそも順位戦のことを詮索するのはマナー違反だよ」


 刹那を問い詰める凛に、閃とアルウィンが仲裁に入る。


「むぅ。それもそうじゃな」


 そう言うと凛は数歩下がる。


「でも、せっちゃんは気にならんのか?刹那はお主との試合で何か策があるのじゃぞ?」


「別に気にならないさ」


 凛は刹那の隠し事がどうしても気になって閃に話を振るが、閃は特に興味無さそうであった。


「彼が言いよどんだのは何か策があったのではなく、ただ……。私との約束を思い出して言えなかっただけだろう?」


「約束?」


 刹那の考えを見透かしたように、閃は刹那に目を向けながら聞く。そしてその言葉に首を傾げる凛。


「えぇ、まあその通りです」


「ちゃんと守ってくれるのだろうね?」


「はい、約束しましたからね」


「それなら私から言うことは何もないさ」


 刹那と閃にしか分からない会話をして終わると閃は刹那から視線を外し、きびすを返してその場を立ち去っていく。


「ふむ、なるほどね。そういうことか……」


「なんじゃ?なんじゃ?アルは何か分かったのかのぅ?儂にはさっぱりじゃぞ?」


 刹那と閃のやり取りで、何かを察したアルウィンに凛が食い付く。


「これは、ボクのあくまでも予想だけど。刹那と閃は何らかの約束をした。恐らくその内容が、『もし刹那と閃が順位戦で当たることがあり、そして閃が勝ったら刹那と付き合う』とでも約束したのではないかな?」


「なんじゃと!?本当か刹那!」


 アルウィンが自分の予想を口にすると凛は確証を得るため刹那に顔を向ける。


「正解です。よくわかりましたね。しかしまさか本当にこんなことになるとは、思いませんでしたけどね」


 刹那は苦笑いしながらアルウィンの予想を肯定する。


「じゃが、何時そんな約束したのじゃ?まさか儂が慰めて来いって言ったときか?」


「はい……」


「負けたら付き合うという話をしたのもお主からか?」


「はい……」


「はぁ~。全くお主というやつは……」


 凛は呆れて溜め息をつきはじめる。刹那も我ながら変な慰め方をしたものだと、自分でも呆れている。


「しかしまぁ、お主とせっちゃんが付き合うことについては、儂は別に反対という訳ではない。むしろ儂とって喜ばしいことじゃ。二人ともよく知っているおるし。互いに高めあうことができると思っておる……」


 凛は話を一旦区切ると刹那の目を見て話を続ける。


「じゃが、お主は本当にそれで良かったのか?お主はいままで散々せっちゃんの告白をフってきたではないか?今さらどうして……?」


 凛の目に一筋の光芒が宿る。そして凛は刹那の真意を聞くためにその目で真っ直ぐに見つめて刹那に問い掛ける。その目は大事なものを守る、強い意志を感じられる目だった。


(嗚呼、会長はすごいな……)


 そう感じたのもつかの間。刹那は自分の本心を凛に打ち明ける。


「僕も先輩のことは好きですよ。でもそれは恋愛感情ではなく、人としての先輩の在り方が好きなんです。真っ直ぐで、正直で、愚直でありながら己を突き通すようなところが。だから恋愛をする気もなく、ただ流されるがままに軽い気持ちで付き合う訳にはいかないと思って。いままで僕は先輩の告白を断って来ました……。正直先輩のような素敵な人と僕みたいなヤツが釣り合う訳がないと先輩に僕は言いましたよ?」


 少々卑屈になりながらも刹那は正直に自分の気持ちを凛に話す。


「でもさっき、先輩に言われたんです。『そんなことない!私は本当の君を知っている。君は自分は弱いと残虐だと言って自分を否定している!でも本当はとても強くて、誰よりも人を傷つけたがらないし、傷つくところを見たくない優しい人なんだ!』って。だから僕は先輩に約束したんです。『ならもし順位戦戦うことがあって、そして僕が先輩に勝って僕の弱さを証明できなかったら、先輩の恋人として付き合います』って」


 刹那は自分の覚悟と閃への思いを凛に伝えると、少し肩の荷が降りたような気がした。

 刹那の思いを聞き届けると。凛の瞳から光芒が消え失せ、安堵の表情を浮かべる。

 

「そうか。お主がそう言うのならいいのじゃ。というより、そう言わなければ儂が説教してるところじゃ」


 凛は安心して。いつも通りの冗談を言う。


「しかしのぅ。せっちゃんに勝って自分の弱さを証明するとは、これまた可笑おかしな事を言ったものじゃな。お主は」


「ハハハッ、確かに。人に勝っておきながら弱いと主張するとは、君は難しい事に挑戦するね。ギルが君に興味を持つ理由がわかるよ」


 アルウィンも刹那の話を聞いて失笑を禁じ得ず、笑いながら刹那に近づいていく。


「でも君のその意思と信念。しかとこの目で見届けさせて貰うよ」


 過ぎ去り際に刹那の肩に手を置いてそう言うと、アルウィンその場を去っていく。


「はい!まだ未熟だけど僕の覚悟。見ててください」


 刹那が返事をすると。アルウィンは少し微笑み手を振りながら階段を下りていった。


「さて、刹那よ。儂らもそろそろ行くとするかの」


「そうですね」


 凛にそう言われて、刹那も歩き始める。

 その歩みは不安を感じながらも自信に満ち、どこか誇らしげに感じられた。

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