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第十三魔導武装学院  作者: 黒姫
第一章 学内順位戦編
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第1話 入学式

登場人物紹介


黒神刹那くろがみ せつな

 黒髪の青年で戦闘能力は高いが、魔法を数回放っただけで倒れるほど魔法適性値が低い。心優しく優柔不断な面と残忍でさっぱりとした面を併せ持つ二重人格者。八型一刀流の使い手だが、戦闘で中途半端に優しさを出すからよく負けてしまう。


ティア

 蒼白の髪の少女で刹那の妹。魔導研究所出身で研究所閉鎖の際に刹那のおかげで黒神家の養子として引き取られた。無口で何を考えてるのか分からない不思議ちゃん。常に自分の事を気に掛けてくれる刹那の事が好きで、積極的にアピールしているがいつも刹那に誤魔化されている


ステラ・スカーレット

 紅い髪の女の子で元一校のエリート。少々意地っ張りでツンデレ。自分の気持ちに素直になれないことに対して自分でも悩んでいる


小桜風香こさくら ふうか

 緑髪のお姉さん、元七校の風紀委員長であり、真面目で礼儀正しいのだが、基本的な問題解決方法が武力的なのが玉に瑕。

「まずいな、このままじゃ始業式に遅れてしまう」


 そんな言葉とは裏腹に並木のある広い道。ではなく、芝生の広がる校庭を突っ切って走る黒髪の青年の姿があった。


「ティアは無事に着いているかな……」


 青年は現在進行形で遅刻しそう自分より、先に到着している他人の心配する。青年は走りながら精神を集中させる。すると青年の周りに風が纏わり走るスピードが上がる。

 これは魔法である。存在自体が幻だとか、お伽噺などに出てくる魔法。いまの時代では魔法を学べる。だが、学んで使えるのは魔導である。現代社会では先天的に持っているのを魔法、それ以外は魔導と分類されている。それでも魔導を魔法と呼ぶ者は多い。

 だからこの青年が使ったのは魔法ではあるが細かく分類すると魔導にあたる。


「お願いだから間に合ってくれよ」


 そう言いながら青年は更に走るスピードを上げる。走った後に砂ぼこりが舞い、道が大変なことになっていた。

 魔法は一般的に使ったら法律で取り締まられる。青年が使った場所は魔法の使用を許可されている学内、第十三魔導武装学院。

 魔法に興味がない者なら魔導学校、そこで学んでいる者なら第十三学校と呼び、日本支部の中で新しく造られ世界で最も新しい技術で魔導士を育成する学校である。


「後で理由を言えばどうにか、ならないだろうなぁ……」


 青年は何かを諦めた様子で急ぐために両足に意識を集中させ、思い切りジャンプをする。すると常識ではあり得ないほどの跳躍をした。

 魔導士が走り幅跳びなどすれば競技にならない、魔法を使わなければ一般人となんら変わらないが、使用すれば天地の差が出る。それほど魔法の効果は絶大なものである。

 舗装されているとは決して言えない畦道から跳躍し、目の前の丘を一気に飛び越える。急いでいることを忘れさせてくれるぐらいの気持ち良い風が、青年の頬を吹き抜けていくが、着地地点のちゃんと舗装のされた道に走っている人の存在に青年は気付く。


「まずいっ!避けてくれッ!」


「え?キャーー!」


 青年は走っている人に向かって叫ぶが時すでに遅し、青年は衝突を避ける為に無理な姿勢したため着地に失敗し、走っていた赤い制服を着た女の子を巻き込んで盛大に転がっていく。


「いててて、やっぱりなれない事はするものじゃないな。君、大丈夫かい?」


 なんとか、女の子をケガさせないように抱き止めていたのが良かったようでケガをしている様子はない。が、それで触っていた場所が胸であったのは。幸い中の不幸と言わざるを得なかった。


「ご、ゴメン。わざとじゃないんだ!」


 青年は慌てて手を放して離れ、女の子に向かって謝る。


「このッ!」


 不慮な出来事で怒りが一気に沸点に達した女の子は、虚空から大剣を取り出すと青年に斬りかかってきた。


「うわ!危ないっ!」


 青年はそれを後ろに跳んで避け、距離を取る。


「ゴメン!本当にわざとじゃないんだ」


 そして両手を上げ、敵意と害意があったわけではないと女の子に意思表示をし、更に誠意を込めて謝った。


「うるさい!私の胸を触ったクセに!この変態!バカ!」


「わざとじゃないんだ!始業式に遅刻しそうだったから、魔法を使って跳んだんだ。そしたら着地する場所に君がいて…」


 激情する女の子に言い訳の言葉を並べるが、言っている間にどれも犯した罪と比較すると、到底許して貰えないように思えてくる青年だった。


「……理由は分かったわ」


 しかし彼女は冷静さをを取り戻したのか、話を聞き入れてくれたようだった。


「じゃあ遅れる前に大講堂に急ごう。今ならまだ間に合うよ」


 覚束ない下手な説明に納得してくれて青年は胸を撫で下ろす。そしてそのまま彼女が大剣を降ろしてくれると青年は思っていたが……


「だけど許せない!」


「うわ!?」


 彼女は青年の思っていた通り大剣を下ろしてくれた。ただ青年に向かって振りかぶるのは予想外だった。

 彼女は冷静になりはしたが、それは青年に落とし前を付けさせる算段を思い付いたからなのだと理解する。

 そして振り下ろした大剣が地面をめくる。青年は更に後方に飛び、距離を取って攻撃を避けた。


「小賢しいわね。全てを塵にせよ『バーンストライク』」


「ちょ!待ってッ!」


 彼女は大剣では動きがにぶくて仕留めきれないと悟ると、大剣をしまい今度は手を突き出し魔法を唱えて放ってくる。飛んでくる火球を青年は跳んで跳ねて逃げ惑う。魔法が当たった地面が小さく燃え上がる。


「ちょこまかと!」


「君は僕を殺す気!?」


「当たり前よ!最も死にはしないわ。この学校の医療があれば半殺しぐらいは大丈夫よ」


 サラッと殺害しようとしていたことを認める女の子の対応に青年は愕然とする。


「こうなったら、あなたに決闘を申し込むわ!」


 青年の目の前に決闘申請の表示が映る。


 決闘とは、相手が気絶もしくは降参、または胸に付いている学校の校章を奪うか破壊するかで決着がつくようになっているシステム。

 捕捉しておくと、真剣勝負が絶対の形式で遊び半分など軽い気持ちで相手に申請するものでは決してない。

 更に第十三学校は特殊で校章のルールが何故か無く、更に実戦に近い形式になっている。

 そして、青年に送られた決闘申請表示をよく見ると意外な事が判明する。


「君、あの『深紅のお姫様』だったんだ」


「そうよ。知っているなら私との決闘を受けなさい」


 彼女の名前はステラ・スカーレット。異名は『深紅のお姫様』。一校のエリートで得意魔法は火、学内順位はトップだったはずだと、青年は記憶している。


「断る、無用な争いはしたくないんだ」


「あ、待ちなさい!」


 一校のトップと戦って無事に済む訳がないし、そもそも彼(と彼女)は大講堂に向かっている途中なのだ。そのまま身を翻して逃げようとすると……


『ピンポンパンポーン、入学式に出席の生徒は大講堂にお集まりください。繰り返します。』


 タイミングを見計らったかのように救いの放送が入る。


「ほら、遅れたら入学できないよ?」


「フン、命拾いしたわね」


 放送に便乗して言うとステラは剣を仕舞い、大講堂へ向かおうとする。戦わずに済んだと思って青年が安心してると、数歩歩いたステラが振り向く。


「あなた、名前は?」


「名前?黒神くろがみ刹那せつなだけど」


「刹那ね、覚えたわ。絶対に決闘してやるんだから、そして確実に殺すわ」


 初対面の人間に物騒な事を言い放って、そのまま大講堂へ立ち去っていく。


「はぁ、さて、僕も行かなきゃな」


 溜め息をつきながら刹那も大講堂へ向かうのだった。


□□□


 大講堂に着くと人が溢れんばかりに集まっていた。第十三校は今年から開校されたのだが、新入生を迎え入れるのではなく各校の一部のエリート達を選出したため、同じ制服でも皆色が違っていた。

 一から十二までそれぞれの学校が進んで学んでる属性に合わせた制服のデザインになっている。

 魔法は、火、水、風、地があり、火属性魔法を推しているのが、一、五、九の学校。水を二、六、十の学校。風を三、七、十一の学校。地を四、八、十二の学校がそれぞれ推している。

 更に細かく分けると、一から四の学校が文武両道派、五から八が武道派、九から十二が技術派に別れている。一応この四属性の他にも系統外魔法が存在している。

 魔法の強弱関係は普通の属性よりも属性に付く効果に依存する。普通なら水は火に強いと考えるが火水風地にはそれぞれ効果があり、火は威力、水は癒し、風は早さ、地は固さ、を上げる効果が発見されている。どちらかと言うと対抗している属性は火と地ぐらいである(それでも水が火に強い事は変わらないが)


 人混みの中、刹那はある人物を探して歩き回る。


「まったく、ティアは一体どこだ?」


 人混みの中で何やら騒がしい所に向かうと刹那は目的の人物を見つける。蒼白色の髪をした少女が呆然と立っていて、その目の前に緑髪の女の子が何かを問い詰めている。


「だから!貴女はこの学校の生徒ですか!?」


「.....うん」


「では、その制服の色はどこの学校の生徒なのですか!?」


「.....ん?.....言ってることが分からない」


「あ~、もう!」


 蒼白色の髪の女の子の反応に緑髪の女の子はイライラしているようだ。


「.....あ、にぃ」


 蒼白色の髪の少女が刹那の存在に気が付き、刹那は仲裁に入ることにした。


「ティア、探したんだぞ」


「.....うん、探されてた」

   

 刹那が心配そうに言うと、ティアと呼ばれた女の子はトテトテと可愛らしく真っ直ぐにこちらへ寄ってくる。

 

「そこの貴方」


「...何かな?」


 緑髪の女の子が刹那に声を掛ける。本当なら無視したかったところだが、ティアを庇わないといけない為、仕方なく返答をする。


「貴方もその子と同じ制服を着ているようですが、元はどこの学校の生徒なのですか?部外者であれば即刻斬り捨てます」


 確かに周りの人達の制服は赤や青や緑や黄色の制服を着ているが、刹那やティアが着ている制服は白色を基調としたモノクロに黒いラインが入ってるのみ。周りがカラフルな制服ばかりで逆に目立つ格好になってしまっている。

 つい前日になって刹那達にこの制服が贈られて来たのだが、どうやら周りの人達はそうではなかったようだ。何かの手違いなのだろうが、その事を言ってもこんなに殺気立たせている彼女が信用してくれるとは思えない。


「黙秘する。って言ったら?」


「決闘で貴方とその子を斬り捨てます」


「はぁ……どうしてこの学校はすぐに決闘を申し込む人ばかりなんだ?」


 緑髪の女の子が返した答えについ口が滑り、溜め息ついでに本音を漏らしてしまう。


「それって私の事かしら?」


 騒動を聞き付けてか、それとも始めから見ていたのか。刹那の一言を聞いて人混みの中からステラが出てくる。


「うわ!いや、僕はただ、もっと穏やかに話し合いをして解決したかっただけなんだよ」


「黙秘しようとした人が言える事ですか?」


 ステラの登場に動揺して慌てて誤魔化そうとするが、緑髪の女の子が鋭いところを突いてくる。


「うっ。別に黙秘するつもりは無かったんだけど……あはは」


 返す言葉も無く、ただ苦笑いしながらその事を否定する。


「兎に角、答えないのなら力ずくで聞き出すまでです」


「貴方、私との決闘も忘れて無いわよね?」


 緑髪の女の子にもう会話の余地は無い、決闘で全部吐かせるという意思だけが伝わってくる。そしてステラもそれにあてられ、先程の件の刹那への殺気をあらわにさせている。どうやら二人を止める方法は一つしか無いようだった。


「仕方ない、二人の決闘を同時に受けるよ」


「...にぃ!」


 刹那は覚悟を決めて二人にそう言うと。ティアが心配そうな顔をして刹那の袖を引っ張る。


「大丈夫ティア、心配しないで。あと学校でにぃは恥ずかしいからやめて欲しいな」


 落ち着いた声音でそう言い、ティアの頭を撫でて安心させる。


「ふん、やっとこれでやっと勝負ができるわね」


「待ちなさい!」


 ステラは互いに合意のもとで、こちらを消すことが出来る事に満足して大切な事を見落としていたが、緑髪の女の子はそうでもなかった。


「どうしたのかな?第七校の『風紀委員長』小桜風香さん。何か不満でも?」


「くっ!」


 風香は自分の異名を言い当てられ軽く狼狽する。小桜風香、武道派の七校で風紀委員長を勤めていた女の子で、得意魔導は風、七校で数多くの生徒を力だけで押さえつけた実力の持ち主である。


「おおありです!二対一で勝負するのですか?」


 おそらく、こちらを気遣ってくれたのだろう。一対多数で戦うということは容易ではない。ましてや自分がかなりの力量を持っているという自信がある人間からすれば、どちらが勝つかなんて簡単に想像できる。


「そうだけど……何か問題?ほら、この学校の特殊システム。部隊戦だと思ってやってくれれば良いよ……それとも知らない相手に決闘するのが怖じ気づいた?」


 だが、風香の心配が理解できないフリをしてわざと首を傾げて煽る。

 そして先程刹那が口にした十三校だけにある特殊システム、それが部隊戦である。魔導士は個々の力が突出しすぎてチームプレーには向かない傾向がある。それを改善するために十三校では入学後に部隊を組んで共に過ごし、信頼関係を築くという試みをしている。

 余談だが、そのため寮生活は個人部屋はあるもののほとんどがルームシェアになると聞いている。


「はっきり言うと、君達の個々の実力では僕には勝てない。だからほら、これくらいのハンデはあってもいいんじゃないかな?」


「何ですって?」


「言ってくれましたね。後悔しても知りませんよ?」


 刹那は迷っている風香に対して啖呵を切る。ステラをこれ以上煽る事は避けたかったが、背に腹はかえられず、一緒に巻き込んで怒りを煽る。

 刹那の思惑通り今の挑発に風香も乗って、殺気を放っている。


「にぃ……」


 ティアは頭を抱えたくなっていた。刹那が相手に喧嘩を売るのは、いつも自分の為だということをティアは知っている。普段は争い事など嫌いなのに、守るものの為なら己を省みない性格なのは、いままでずっと見てきたからこそ知っていることだ。


「外に出よう、その方がいいでしょ?」


「えぇ、今すぐに斬りかかりたい所だけど貴方の血でこの講堂を汚すわけにはいけないわ」


「私も久しぶりに頭に来ました。初対面の人に見下されるとは、私もなめられたものですね」


刹那は飄々とし、ステラと風香は殺気を放ちながらグラウンドに出ていく。ステラと風香の殺気に気圧された。他の生徒達は譲るように出口までの道を開ける。


「学院長!いいのですか!?」


 騒動を見ていた男性の職員が慌てて学院長と呼ばれた女性に問い掛ける。


「いいもなにも、彼らが始めた事だ。勝手にやらせておけばいい」


 しかし、女性は慌てる様子も無くただ平淡に男性職員にそう答えると、何か思いついたように壇上へ上がる。


「入学式は中止だ。学院長の権限を以て、いまこの場にいる全員を入学したものとする。そういうことだ。他の者も見るなら見てきていいぞ。必要なものは後で揃える。だから貴様らさっさと部隊を作れ。さもないと退学させて元の学校に送り返してやるぞ!」


 そう生徒達に言い放つと身を翻して壇上から下りる学院長。その言葉を聞いて、慌てて周りに声を掛ける者や、ぞろぞろとグラウンドへ見物しに行く者が出る。


「さて、どうか私の期待を裏切らないでくれよ。刹那」


 小さく独り言を呟くと、学院長は不敵な笑みをこぼした。


□□□


刹那はグラウンドに出るとステラと風香に決闘申請を送る。


「一応、ルールを確認しておこう。相手を気絶もしくは降参させれば勝ち、殺しはダメ、って事で良いよね?」


「……仕方ないわね。それでいいわよ」


「ええ。わかりました」


 刹那はルールの確認をすると二人ともそれに了承する。

 ステラは朝の件があって不服そうだったがなんとか承諾してくれる。

 二人ともちゃんと話をすれば話が分かる人なのに何故こうも力づくで解決したがるのか……。


「じゃあ、始める前にそっちは作戦会議でもして良いよ。そっちが終わったら始めよう」


 決闘への決意が鈍りそうだったので、ふと思ったことは心にしまい。刹那は二人に準備を時間を与えると、ステラと風香はお互いに顔を見合わせる


「ステラ・スカーレットよ。よろしく」


「小桜風香です。こちらこそよろしくお願い致します」


 お互いに軽い自己紹介をすると。準備運動をする刹那を他所に二人は話し合う。


「あんなやつ。私一人で十分、って言いたいところだけど...」


「相手の力量が分からない以上。下手に手出しできませんからね」


 ステラが言い淀んだ言葉の続きを風香は同じことを考えていたように言う。


「ステラさんは前衛、私は後衛をやります。隙があれば私も攻撃に参加しますので…」


「ええ、それがいいかしらね……。終わったわよ」


 話し合いが終わり、ステラは刹那に向かって声を掛ける。


「じゃあ始めようか。あ、先に言っておくけど僕、武器持っていないから素手と魔法でやるよ」


「「「はぁ!?」」」


 刹那はヘラヘラとした態度でそう言って、何も武器を持ってない事を表すように両手を振る。

 ステラや風香、野次馬で見に来ていた生徒すらその発言を聞いて唖然として思わず声に出す。


「馬鹿なのか?」


「あれは相当な強者とみたぜ」


「あの子、どこの学校出身よ?」


 野次馬で見ている生徒達が口々に言い合う。

 武器は登録した物しか使えないようになっている。逆に言えば登録さえすればどの武器でも使える。

 だから、その動作だけでは武器を持っていないことにはならないのだが、刹那は敢えてわかりやすく動作をいれてやった。

 しかし、ティアだけは嘘だと知っていた。相手を挑発してるわけではない、刹那が武器を使って戦闘をすれば、もう一人の自分を抑えきれなくなることを。それを防ぐ為に素手と魔法でやることをティアだけは知っていた。


「あなた、私達をバカにしてるの?」


「侮辱しているようにしか思えないのですが?」


「だってまだ武器登録してないから仕方ないじゃないか」


 二人の言い分はもっともだったが、仕方なさそうに刹那は答える。本気でやれば抑えが効かなくなる。二人の怒りを煽るのは嫌だが、傷付けるのはもっと嫌だからだ。


「だったら負けた後で"武器を持っていなかったから負けた"なんて言わないでよね。もっともあなたの言葉を信じるほど私達はバカじゃないつもりよ」


「疑ってくれて結構だよ。それじゃあ始めようか」


 そう言うとそれぞれ戦闘態勢になる。野次馬達のざわつきも収まり、周りが静かになると決闘開始のカウントダウンが始まる。


『are you ready、3、2、1、GO!』


「風よ斬り裂け『ウィンドエッジ』」


 先に仕掛けたのは風香。右手を突きだして詠唱すると、風の刃が刹那に襲いかかる。


「我が身の壁となれ『アースウォール』」


 対抗してこちらも詠唱すると目の前の地面がせりあがって壁ができ、襲いかかってくる風の刃を防ぐ。


「甘いわ!」


「くっ!」


 だがその土の壁をステラが大剣で破壊し、突撃してくる。


「もらった!」


 ステラは渾身の力を込め、刹那に向かって大剣を振り降ろす。


「君の方がまだ甘い!」


「キャ!」


 だが刹那はそれをほんの少し体を逸らして避け、そしてステラの振り降ろした腕を掴み、そのまま背負い投げの要領で投げ飛ばす。


「本命はこちらです!」


「ッ!?ハッ!」


 そしてすぐさま振り向き、大きく横に転がって風香の奇襲を避ける。元いた場所には双剣を持った風香がいた。魔法を纏って襲ったのか、地面に切り裂いたような傷が無数についていた。


「君達、ホントに初対面?」


 ゆっくりと立ち上がって服をはたきながら、呑気な事を聞いてみる。


「名前ぐらいは知ってるけど、会ったのは今日が初めてよ」


「私もお名前くらいは知っていましたが、会うのは初めてです」


 彼女達は根が真面目なのだろう。刹那の質問に二人とも律儀に答えてくれる。


「それにしては君達、息ピッタリだね」


 称賛と律儀に答えてくれたお礼も兼ねて、刹那は素直に二人を褒めるが…


「そんな事より、貴方は自分の身を心配してみたらどうですか?」


 そんなの想いを気にもせず、風香はこちらへ忠告する。

 風香に言われるように、自身の姿をよく見ると刹那の制服は、さっきの風香の奇襲で所々が斬り裂かれ、少しボロボロになっていた。


「どう考えても、貴方は劣勢です。降伏してはいかがですか?」


 風香の言う通り、第一校のトップと第七校の風紀委員長を素手だけで相手にしたら、どこからどう見ても分が悪い。

 風香も冷静に返ったのだろう。この決闘に意味が無いこと気付き刹那へ降伏を勧めてくる。


「……いや、それは断るよ」


 だが、刹那は風香の申し立てを断る。

 確かにいまここで降伏すれば、可及的速やかにそして平和的に物事を済ますことができるが。一度受けた決闘なのだ。引き下がるわけにはいかない。


「なら、絶対に殺してあげるわ!」


「愚か者ですね、一度死にかけないと分からないのでしょうか?」


 ステラは一層敵意を燃やし、逆に風香は興醒めといった風体で武器を構える。


穿うがち焼き尽くせ『フレイムショット』」


「水流放て『ウォーターフロウ』」


 ステラが魔法を唱えると、火の弾丸が刹那に向かって飛んでいく。刹那も魔法を唱え、ステラに向かって水の柱を飛ばして、襲ってくる火の弾丸を消す。


「隙だらけですよ」


「くっ!」


 その隙に風香が高速で接近して攻撃を仕掛けてくる。風を纏っている双剣を振ると無数の刃が襲い掛かってくる。

 刹那は風香が出す攻撃全てを避ける事ができず、刹那の身体中に浅い切り傷ができる。さすがに耐えきれず、風香と距離を取るために刹那は大きく後方に飛ぶが…。


「もらったわ!」


「かはッ!」


 その軽率な行動はステラに先読みされており、後ろに周りこまれる。隙だらけになった脇腹を蹴り飛ばされ、大きく横に飛ばされる。


「ぐぅッ!はぁ、はぁ…」


 自己強化魔法で上げた速度と強度よって脇腹に激痛が走る。痛みですぐに立てるような状態ではなく、刹那はそのままうつ伏せる。


「これでもまだ降参しないのかしら?」


「…………」


 ステラは近づいてこちらに問いかけるが、返答ができない。


(このままじゃまずい)


 このまま行けば確実に死ぬという直感。声が出ない刹那の頭に激しく警鐘が鳴り響く。


(何、だらだらと遊んでんだ?)


(ッ!)


 その警鐘が引き金となり、もう一つの思考が呼び起こされる。


(面白そうなことしてんじゃねぇか。俺にもやらせろよ)


 身体の制御がもう一つの思考に奪われていく。


(ダメだ!君に任せる訳にはいかない!)


 必死に抵抗するが、徐々に身体が乗っ取られていく。


(ッるせぇな、ようはケガさせなけりゃいいんだろ?)


(待って!くそ。僕はまた人が傷つくのを見ているだけなのか……)


 もう一つの思考に身体の制御を完全に奪われ、いまの思考はただの傍観者となる。


「このままだとあなた。死ぬわよ?」


 そう言って大剣を構えるステラ。ステラの後ろから風香も近寄ってくる。


「…………」


「気絶したのですか?」


「わからないわ」


 刹那から、何一つ返答もないので気絶したと思うステラと風香。しかしまだ警戒は解いたわけではなかった。


「ククク」


 だが、警戒を解いていなかったことが仇となり、刹那の笑いを過剰に反応して距離を取る二人。


「ククク、このままだと俺が死ぬだって?おもしれぇじゃねぇか」


 ゆっくり立ち上がりながら笑う刹那。その目付きは先程とは様子が違う事に二人はすぐに気付く。

     

「喋り方が変わった!?」


「貴方、一体……」


 二人は武器を構えて臨戦体制になるが。それを気にもせず端末を操作する刹那。


「そっちがその気なら、俺も本気でやらせてもらうぜ。あぁでも本気でやったら俺がうるせぇから、ちったぁ抜いてやるか。チッ、ロクなもん持ってねぇな…」


「あなた誰!?」


 ステラは警戒心を剥き出しにして刹那だった存在に問い掛ける。


「誰って言われてもな…確か俺はお前に名乗ったはずだぜ?黒神刹那ってな。もしこれが初めて名乗るのならよろしくと言っておこうか?」


 そう言って右手を胸に左手を後ろに回して、いかにも紳士がやるような礼をする刹那。そして頭を上げ元に戻ったたときには左手に刃渡り30cmほどのナイフが逆手持ちで握られていた。


「「ッ!」」


「これしかねぇがまぁいい。続きを始めようぜ?」


 そう言って体に淡い光が覆い始めると。刹那は高速移動をして二人の視界から消える。


「ッく!?」


「ハハッ!いい反応だ」


 姿を消した刹那は風香に急接近し、ナイフ一本で怒涛の攻撃を仕掛けていく。

 双剣を使っているはずの風香より、圧倒的な速さと攻撃量で風香をしていく。


「両手の剣は飾りかぁ?軽すぎるぜ」


「ッぁ!」


 刹那の猛攻を辛うじて凌いでいた風香だが、ついに猛攻に耐え切れず、手から双剣を弾き飛ばされる。


「こっのぉッ!」


「遅ぇ」


 風香を圧した直後、後ろからステラが炎を纏って大剣を全力で振り下ろすが、刹那はそれを軽々とナイフで受け止め、そのままステラとつば競り合いをする。


「いいねぇ楽しいぜ、このまま踊り続けていようか?」


「ふざけるなっ!」


 刹那はニヤニヤとした表情でステラにそう言うが、ステラは逆上しそのまま勢いで押し飛ばす。


「別にせっかちなのも嫌いじゃねぇけどな。望み通り、終わらせてやるよ」


 そう言うと、さらに刹那の体を覆う光が強くなる。ステラが直感した時にはあまりの速さに刹那の姿は消え、手に持っていた大剣が宙を舞う。


「いま……何が起こったの?」


 宙を舞っていた大剣が地面に転がる。あまりの速さに何が起きたのか全くわからず、ステラは呆然とする。


「これで俺の勝ち、っと。これで文句ねぇよな?」


「「……」」


 その言葉に二人は口を紡ぐ。別に二人に向かって言った訳では無いのだが、それを肯定と受け取りつつナイフをしまって終わろうとするが……。


「あーくそ、だりぃな。ま…た……か…」


 魔法を行使した事によるフィードバックで疲労と倦怠感が急激に体を襲う。通常ではあり得ないほどの異常な感覚に体は耐えきれず、視界は霞み、立っていられなくなった刹那はその場で倒れ込んだ。

読んでいただきありがとうございます。誤字や脱字などその他、感想を書いていただけると嬉しいです

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