4杯目
『カランコロン……』
はぁ……看板が元に戻ってて良かった。
「いらっしゃい」
「いらっしゃいませ勇者様」
「マスター“今回は”水で」
「――チッ」
普通に聞こえてるけど、めんどくさいからツッコむのいいや。
「そういえばハナちゃん。例の呪われたペンダントとかあれからどうしたの?」
「あぁ、あれは道端で水を売っていた人が欲しいとおっしゃったので譲って差し上げました」
アイツかな? アイツじゃないよな。いやアイツの気がする。
もう会うことはないかもなカイン。
「それでその日からイイ事が沢山あったんですよ。
両親はギャンブルを辞めてくれたし、ご近所さんから貰った宝くじが当たって大金持ち。実はここのアルバイトも今はボランティアみたいな感じで働いてまして」
今まで封じられてた幸運全部取り返しとるー!
いや、普通こんな事ありえねぇぜ。
本当に元からハナちゃんが幸運だったのか? それともあの装飾品たちが実は手放してから運を底上げしてくれる力があったのか。
どちらにしろ羨ましすぎる!
ご近所さん悲惨すぎる!
「ハナちゃん、あのね……」
「貸しませんよ、お金」
即答だー! バレてたー!
その笑顔が俺にはどんなモンスターの攻撃よりも痛いぞー!
『カランコロン……』
「あ、いらっしゃいまぼふっ!」
コケた。
なにもないところで転んだよこの娘。ドジッ娘属性なのは元かららしいなハナちゃん。
「お客様、何になされますか?」
マスターが俺の隣の席に座った小さな……え、ちっさ!
なにこの女の子? 子供?
いや、雰囲気からして小人族かな。ドワーフより小さいし。
そしてまた俺の隣かよ。カウンター7席にテーブル席が3つもあるんだぞこの店。
何故わざわざ俺の隣に。
「金酒のボトルでお願いしますマスター」
「イヤッッホウッ! かしこまりました!」
イヤッホウって言った? ねぇ、今イヤッホウって言った?
テンション上がり過ぎだよマスター。
つーかスゲェぞ、めちゃくちゃ値段の高い酒を注文したよ。何者だ?
この店に来てからウィスキーの水割りロック以上に高い酒を注文したヤツ初めてみたぜ。
しかしお客様の前でイヤッホウはないだろ……。
「あの……いきなりで申し訳ないのですが、あなた聖騎士団に興味ありませんか?」
おっと、本当にいきなりだな。話しかけてきたぞ、どうしよう。
「私は聖騎士ギルドに所属していますリチュアと申します。
ぜひこの国、いえ、世界の平和のために」
「お断りします」
「え? だめ? そこをなんとか。と言いますか、まだ説明している最中でして」
「お断りします、勧誘なら他をあたってください」
「あなた様なら出来ます! お願いします!」
なんの根拠! なにが出来んだよ!? 世界なんて無理じゃ!
「やるもん! あなたなら聖騎士団に入ってこの世界のために貢献するんだもん!」
「聞けよ! 服を引っ張るな! 子供かテメェ!」
駄々こねだしたよ、めんどくせぇ。
勧誘ヘタクソ過ぎるだろ。
それに俺はこういうの慣れてんだよ、散々詐欺とかにはあってきたからな。
「黙って入ってやれよ糞ニ~ト~元勇者~、どうせ毎日暇なんだろ~」
くっ……マスター。イイ酒注文されたからってなんだその態度!
「やだやだや~だ。入ってくれるまで止まりませんよ私は! 私は止まると死んでしまう生物なんですから!」
「わかったわかった。とりあえず話は聞いてやる」
「本当ですか?」
便利な脳ミソだなオイ。
つか止まったぞ。止まりましたけど。
「ちなみに言っておくが、俺から金を騙し取ろうとしても無駄だぞ。
まずまともな収入がないまま半年、数ある宿屋から宿賃を滞納し過ぎて出禁を食らい、勇者を辞めてしまったがために現役ならば難無く払っていけた勇者契約金が今は35年ローンだ……それでも俺を勧誘するかね」
「え、え~と。あれ?
あなた様はフェノクロスジャンボ宝くじで1等に当選したお方では……?」
「……」
「…………」
「あ、それ私ですよ」
いや名乗っちゃダメよハナちゃん!
「…………半獣人のあなた聖騎士団に興味ありませんか?」
「……本当のバカじゃねぇかコイツ」