3杯目
この世界でのお金の単位は『ガパ』です。
1ガパは1円となります。
『カランコロン……』
「お帰りなさいませご主人様!」
だよねー。
メイド服姿だもんね。そりゃそう言うよね。
「似合ってるよハナちゃん。可愛いんだけど新しいコスチューム? 店間違えたかと思ったよ」
「いえ。テンチョーがこの姿でお客様に向かってスカートを少し捲るだけで1000ガパはイケるだろう、と」
「マスターなに考えてんの! 犯罪! 店潰す気かい!」
「……フッ」
「……フッ、じゃねぇよ!
だいたいハナちゃん見るからにハタチ過ぎてないよね。いくつ?」
「私は今16歳です」
「ホラッ! つーか何で酒場で働けてんの! 未成年じゃん!」
「あ、半獣人は16歳から成人でお酒も大丈夫なんですよ」
なにその後付け設定みたいなの。
「はぁ……とりあえずビール。今日はちゃんと金あるから」
「…………」
「疑いの目で見ないでよマジだから!」
「…………」
「ハナちゃんまで!」
『カランコロン……』
「いらっしゃいませ」
「お帰りなさいませご主人様!」
あれ? 今入ってきた客どこかで?
「よう兄弟! 久しぶりじゃないか。元気だったか?」
「……はっ。お前カインか?」
「ははっ。元仲間の顔を忘れるなよ」
髪がスゲー伸びてるから思い出せんかったわ。
こいつは昔パーティを組んでた弓使いのカイン。懐かしいな。
ちなみに当時は確かに仲が良かったが、血の繋がった兄弟というわけではない。
「魔法使いのフェイと拳闘士のローグは一緒じゃないのか? あいつらカインといつも一緒にいたじゃないか」
「あぁ、あいつらは死んだよ。そんな事よりさ……」
ええぇぇぇぇぇぇ!
ちょっと今なにアッサリ話を片付けたの!
聞いてないし俺。コイツやべぇよ、血も涙もないよ!
「お前今なにしてんだよ。一人でメイド喫茶なんて寂しいぞ」
「は? いやいや酒場だよココ。表の看板にも酒場【シメフクロウ】って書いてあったろ?」
「いや……メイド喫茶【シメフクロウ】って書いてあったぞ」
うそ~ん! マスターもうノリノリじゃないッスか! ハナちゃん利用する気満々じゃないッスか!
「そ、そういうカインこそ今なにを?」
「俺か、俺は家族が出来てな。妻と子供が二人」
「へぇ~そりゃ良かったな。仕事は?」
「…………あぁ。まぁ……その。
水をちょっと……道のほとりで」
「水? 水を売ってるのか? 聖水?」
ここ最近街の外でアンデットの出没が目立ってるらしいからな。
確かに聖水はよく売れそうだが……。
「カイン。俺とお前は昔パーティを組んでたよな」
「おう」
「付き合い長い方だったよな」
「お、おう」
「自分から話振っといて自滅したな」
「……」
「言ってみ。何の水?」
「……リズ島で取れた神水です」
ん? 答えが普通だった? 確かその水って。
「本当ですか!? 勇者様スゴいですよ。リズ島産の神水って子供からお年寄りまで人気の飲料水なんです。
今街中で宣伝していて、飲むとお肌がツルツルになったり健康にもイイとか」
「それってさハナちゃん。偽物とか出回ってない?」
「なんだ知ってるんじゃないですか勇者様。
確かに最近その水が売れているのを利用してただの水道水を売りつけている人がいるとか……」
俺にはわかる。
カインとは“付き合い”長いからな。
「その水いくらで売ってるんだカイン?」
「……1000ガパです」
ハナちゃんのサービスと同じ値段かよ! いや、この件はマスターに後で絶対辞めさせるとして。
ビール2杯分の水って。間違いない。やっぱりコイツか。
「そろそろ行くわ。俺には養わなきゃならない家族がいるからな。今日は会えて嬉しかったぜ」
『カランコロン……』
何も飲まずに行ってしまわれた……この店来るヤツこんなんばっかな。
「マスター。
……なにか言うことある」
「はい。お友達は選んだ方がよいかと……」
「うん……。
あと早くビールちょうだい」
「勇者様? テンチョー?」