2杯目
『カランコロン……』
『キラッ』
「テンチョー申し訳ありません! 遅れました!」
いきなり店に入ってくるなり、マスターに頭を下げる女性が現れた。
元勇者は驚いた。
頭にウサギの耳を生やした半獣人の女性だから驚いたのだろうか。
いきなり店内で見事な“土下座”をしながら謝っているから驚いたのだろうか。
それとも寿司屋の大将に「へいタイショー!」と言わんばかりのテンチョーに驚いたのだろうか。
分からない。
店長でも合ってるけどね。
「またですかハナさん。面接の時も遅刻でしたよ」
面接? アルバイト?
この店アルバイト雇えるほど経営上手くいってるとは思えないけど。
無駄に他の大陸や島国の特産ワインやビールなど各種揃えてはいるけどさ。
「すみません! あの時は道でお婆さんが困ってて。
今回は頭上からタライが落ちてきて脳天直撃、先ほどまで気絶してました!」
「嘘をついてはいけません!」
「うぅ……ごめんなさい。でも本当なんですぅ」
ハナという名前の彼女、よく見れば美少女ではないか。
しかも若い。
「まぁまぁマスター落ち着いて。反省してるみたいだし、タライだって妖精の仕業かもしれないし、あまり女の子に怒鳴るのは」
「あぁん! テメェは黙ってろよ三下が!」
いやいや客! 俺客だよマスター!
いきなりキャラ変わりすぎなんですけど、混乱するからやめてくれない。
……しばらくマスターに説教された彼女は、店の制服に着替えると俺に向かって頭を下げてきた。
『キラッ』
「さきほどは失礼しました。
そしてありがとうございます。お優しいんですね。まるで勇者様みたいでした」
「うん。元々俺ソレやってたからね」
「……ソレ……?」
「うん。だから勇者」
「――えっ!? 勇者様! 本当に勇者様なのですか!?」
「いや、だから元……」
「私! 私の名前はハナといいます! 気軽にハナちゃんと読んでください!」
……ハナちゃんッスか。
うわっ! 興奮して隣の席に座ってきた!
イイ香り!
じゃねぇよ! 仕事しろ!
「聞いてくださいよ勇者様! 私の今までの不幸を!
毎日毎日なにをしても上手くいかないし、両親はギャンブル依存で借金まみれ!
働かないくせに私にアルバイトを強要し、なのに私ったらサイフを何度も落とすしっ!」
そうじゃねぇし!
まず勇者を辞めたこと説明させて! そして勇者は主にモンスター討伐とかが仕事で、個人のお悩み相談を聞く義務ねぇんだよ!
「……えっ……とね……うんうん。大丈夫。そんな気にすることないよ。
俺だって冒険してた頃はメンバーによく無視されてたし。
とことんジャンケンに負けて荷物持ちさせられるし。
周りに万能な冒険者がいて、バランスタイプというか器用貧乏な俺は今の時代イマイチな扱いだし……」
なんか思い出したら泣けてきた。
あのジャンケン絶対イカサマだったよな。
「勇者様! 今日は飲みましょう!」
「そうだな! 水だけど飲もう!」
「…………」
「ーーーー!」
「ーーーーッ!」
マスターの無言のにらみ。
迫力が……。
ハナちゃんは急ぎ足で持ち場に戻り、俺もコップに入っていた水を一気に飲み干す。
『キラッ』
「そういえばさっきからキラキラ光ってる装飾品はなんなんだいハナちゃん?」
俺は彼女が身に付けているペンダントや指輪が気になった。
イヤリングやブレスレットまで。いま思うと色々と装備し過ぎだな。
妙な術式が施されているし、特殊スキルや能力アップ……が必要そうな娘には見えないけどな。
「コレですか? 綺麗ですよね。
両親が旅行先とかで手に入れてきたアクセサリーなんですよ」
あまりにもベタ過ぎやしないか。いや……あり得るぞ。
「少し手にとって見せてくれないか?
俺アイテム鑑定の資格とか持ってるからさ」
「はぁ……」
ハナちゃんは不安そうな顔をしながら、身に付けていた装飾品を外して俺に見せてくれた。
……ふむふむ。
間違いない。
「……ハナちゃん」
「なんでしょう勇者様?」
「これ1つ残らず呪われてますよ」
「…………え?」