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たいいくの授業

「ねぇ、晴澤君。」

「ああ、健太。」


 珍しいことに、今回は晴澤が出迎えてくれた。


「あれ?珍しい。」

「いやな、次にお前に教えるべきことは何かなと考えていたところだ。」

「え?」


 健太は首をひねった。


「んと、今日は科学を教えてもらいに・・・」

「いや、健太。お前は今まで国語、算数、理科、社会、英語、と5科目制覇したわけだ。そんでもって次に何やるかを考えていたんだが・・・」

「・・・・・・」


 晴澤は言った。


「お前、運動しろ。」

「ヤダ」

「しろ。」

「ヤダ」


 健太は首を振りまくる。


「お前、仮に俺に物事教えてもらう立場でありながら、俺の教えに背くのか?あぁ?」

「いや、そう言うつもりじゃ・・・しかも何でそんな怖い口調なの?」


 健太は後ずさりした。


「い~や?別に怖いことなんて何も企んでいないが・・・?」

「うわ、絶対何か企んでる。」


 健太は図書室から出ようとした。


「待て、健太。」

「・・・・・・」


 晴澤は厳しい口調で言った。


「お前、勉強することはいいが、自分の立場の事、わかってるよな?」

「・・・・・・」


 健太は部屋から出ようとするのを止めた。


「健太、無理を承知なのはわかる。だが、お前の命を狙う連中がいるのは知ってるだろ。」

「・・・・・・」


 健太はその事件を知っている。以前、健太が初めて幼稚園に入園した際、ある園児が健太と間違えられて殺されてしまったことがある。その際、晴澤ら他の園児の協力もあって見事に真犯人を撃退したのだ。


「俺が何でお前に色んなことを教えるか、それはお前の命を守るためでもある。」

「・・・・・・」

「だが、勉強ばかり教えるのもいいが、正直お前自身の体力作りをしなきゃだめだ。最低限の防衛術という奴だ。」

「・・・・・・」


 健太は振り返った。


「・・・・・・何をするの?」

「腹を決めたな?まずは外に行こう。」

 

 晴澤は健太を外へと連れ出した。


「・・・・・・」


 幼稚園の外のグラウンドには理香がいた。


「まーた何か始めたわね、あの二人。」

「へぇー・・・・・・」


 珍しいことに明日香もいた。


「明日香、アンタまで外に出るとは。」

「私、体弱いけど“ガードビット”があるから・・・」

「はぁ、ハイテクお嬢さんにはかなわないわ。」


 二人の視線の先には、グラウンドをマラソンしている晴澤と健太がいた。


「ハァ、ハァ・・・」

「・・・・・・」


 二人はグラウンドを50周したところで止まった。


「なんで・・・何でマラソンなの・・・」

「決まってるじゃないか、体力の基礎だよ。」

「・・・・・・」


 健太はその場に倒れ込もうとした。


「待て、健太。クールダウンがまだだ。次はストレッチだ。」


 二人はストレッチを開始した。


「何でこんなことしなきゃいけないの?」

「重要だからだ。やるのとやらないのでは全然違う。ちゃんとストレッチをしておけば翌日筋肉痛になるなんてこともない。」

「・・・・・・」


 ストレッチを終えた健太は再び寝転がろうとした。 


「・・・何か寝転がりたくなくなった。」

「ほら、体が明日に向けてパワーを蓄え始めたのさ。」


 晴澤は言った。  


「明日はもう少しキツイトレーニングをするぞ。」

「えぇ・・・」

「あのさ、二人とも。」


 二人の元に理香と明日香がやってきた。


「そんなマラソンとかやってないでサッカーとかドッジボールとかしたらいいじゃん。」

「そうそう!」


 健太も便乗した。


「おいおい、この俺とドッジボールでもしようってのか?」

「そうよ、何か文句ある?」


 晴澤は言った。


「いいだろう、勝負だ。」


 こうして、急きょ幼稚園の園児たちによる、ドッジボール大会が始まった。


 ・・・・が。


「つまらん、つまらんぞ。」

「・・・・・・」


 気が付けばグラウンドは大穴が開いていた。


「ちょい、どうしてこうなったし。」

「単純な話だよ。基礎的なトレーニング、地道な努力、そして練習後のクールダウンを忘れずにやれば・・・」

「じゃあ、ボール1球で地面に大穴が開く原理を教えてください、晴澤先生。」

「ヤダ、めんどっちい。」

「・・・・・・」

 

 この幼稚園にはこんな教訓がある。晴澤君には絶対に勝負を挑まない事、イノチがいくつあっても足りない。






















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