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しゃかいの授業

この物語はフィクションです。

「ねぇ、晴澤君。」

「今度はどうした、健太。」


 今日も幼稚園は平和だった。


「社会教えてよ。」

「・・・・・・」


 晴澤は聞いた。


「社会なぁ・・・具体的には社会の何を聞きたいんだ?」

「そりゃあ、もちろん・・・歴史!」


 健太は言い切った。


「そうか・・・わかった。いいだろう。」

「えへへ。」


 晴澤を見て健太は笑みを浮かべた。


「どうした?」

「いや、なんでも。」

「・・・・・・」


 晴澤は呼んでいた本を閉じて言った。


「まあいい。心して聞けよ?」

「うん!」


 晴澤は言った。


「この宇宙がビックバンによって開闢したのが今から130から140億年前、そしてこの地球が生まれたのが40から50億年前とされている。」

「うんうん。」

「まあ、そこからの地球はバクテリアだの、水生生物だの、恐竜だの、巨大隕石だのと色々あって人類が生まれた。」

「ずいぶん端折ったね。」

「うるさい黙れ、ここから重要だからな。」


 晴澤は続けた。


「まあ、人類が生まれたのは今から約10年くらい前だが、少なくとも人類の全ての文化の起源というのが、今から1万と1000年前だとされている。」

「1万と1000年・・・何か“半端”だね。」

「その後、いろんな文化が生まれた。日本に限って言えば、最初にできた大きな政府は大和朝廷と呼ばれるものだ。その後は“794うぐいす平安京”、“1192つくろう鎌倉幕府”、瞳さわやか(1338)室町幕府、戦国王(1590)天下統一。」

「ヒーローおっさん(1603)江戸幕府、いや、むやみに(1868)明治維新。」

「そうそう、そんな感じだ。」

「ちょっと端折りすぎじゃない?」


 健太は言った。


「いや、これでいいのさ。そうだな、第二次世界大戦及び太平洋戦争が終わったのが1945年、そこから高度経済成長だのオリンピックだの色々あって西暦は無事に2000年まで達成したんだよ。」

「・・・・・・」

「そして、だ。」


 晴澤はいった。


「時を超えて2100年、ある出来事が起こった。」

「・・・人間統一化計画。」

「その通り、国際的なネット社会が充実し、全人類の教育、社会制度、法律などを統一化しようという試みがあった。一例としては、当時の世界共通語だった英語を、単一言語として英語のみに一本化しようという動きもあったとか。」

「うん、でも成功はしていないんだっけ?」

「ああ、目標には届かなかったが、国境の壁はこの時からどんどん低くなったんだ。それと同時に、世界では文化的な競争に発展したわけだ。」

「うんうん。それが・・・」

「西暦2500年、この国で施行された新たな教育制度、強化教育制度だ。」


 晴澤は座り直した。


「まあ、その中身は少年法の改正とか、成人年齢の大幅な引き下げとかが中心だった。要は社会で必要な教養を厳選して圧縮し、速攻で覚えさせるのが狙いだったのさ。」

「うんうん。」

「今じゃ“15歳から成人”だ。昔は20歳からだったらしいが、とてもじゃないが想像がつかん。」

「うーん。」


 健太は首をひねった。だが、晴澤は話を続ける。


「実際、強化教育制度は功を奏した。ここ495年の間にこの国の人類の文化は信じられないくらいに発展したと言っていい。」

「なんか含みのある言い方だね。」

「・・・・・・」


 健太が言った。


「だけど、いいことばかりじゃなかった。」

「ああ。それが今、浮き彫りになっている。」


 晴澤は言った。


「そしてだ、健太。お前もよく知っている10年前に起こった出来事・・・」

「僕たちが生まれる5年前だね。」

「その通り。それが・・・」


 周りがシュンとした。


「“大災害”と呼ばれている事件だ。」

「・・・・・・」


 健太が言った。 


「僕の・・・お母さんたちが関わっている事件・・・」

「その通りだ。」


 晴澤は言った。


「今から5年前の西暦2995年、この地球ではありとあらゆる科学が進歩し、人類は新たなステージへと歩みを進めていた。この時の地球の人口は300億人にまで登っていた。だが、そこで襲った大災害、もとい“巨大な宇宙嵐の通過”によって、人類は9割近く死滅した。」

「うんうん。」

「それだけじゃない。今じゃ形だけになった政府がこの事態に全く対応が出来ず、見兼ねた地方の知恵者共が暴動を起こし始めた。そいつらは自らが生み出した技術などを駆使して、企業ギャングなるものを作り上げた。」

「うんうん。」

「その後は各地では企業ギャング同士がぶつかり合い、毎日多くの死者を出している。今じゃ地球の人口は10億人程度にまで減少した。」

「・・・・・・」

「そして、西暦3000年。今に至る。」


 晴澤はここまで言ってようやく一息ついた。


「と、ここまでがこの国の歴史だ。」

「・・・・・・」

「なぁ、健太。お前のことだからここまでの歴史については知ってたんじゃないか?本当はもっと他に聞きたいことがあったんじゃないのか?」

「・・・うん。」


 健太は聞いた。


「そのさ、晴澤君。歴史に関わる裏事情とかってある?」

「・・・そりゃあ、もちろんあるさ。例えばだな。」


 晴澤は言った。


「2011年の初め、大地震が襲った。」

「知ってる。東日本大震災でしょ。」

「そうだ。そして・・・」


 健太は唾をのんだ。


「その4年後の2015年、さらに地球規模の巨大な地震が発生した。名前はわかるか?」

「えっと・・・あ、どうしよう、ド忘れした。」

「まあいい。ぶっちゃけ言うと、これは地震とは少し違う。それまでの地震の仕組みとは全く違う別の地震だったんだ。」

「・・・・・・」

「そのせいで、この地震の呼び方は色々出てきたんだ。だが、最終的な結論として、国際学会が陰で打ち出した名称が、“世界線大地震”だ。」

「そう、それ!思い出した!昔、晴澤君から教えてもらった・・・」

「思い出してくれてどうも、続きを言うぞ。」


 晴澤は続けた。


「その世界線大地震だが、どうやら宇宙規模で起こったらしい詳しい内容は俺でも知らんが。」

「え?そうなの?何か晴澤君と関係ありそうだと思ったんだけど。」

「知らん知らん知らん。1000年前の出来事なんざ、知るか。」


 そういって晴澤は再び本を開いた。


「・・・?」


 ふと健太は、晴澤の呼んでいる本が気になった。

 

「・・・WLR?」


 いや、何のこともない。彼の呼んでいる本の表紙にそう書かれていたのだ。


「・・・・・・」


 とりあえず、その本のことはまた次の機会にでも聞くとしよう。と、健太はそう思った。


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