こくごの授業
「ねぇ、晴澤君。」
「どうした?健太。」
「今度国語教えてよ。」
「ヤダ。」
「え。」
晴澤は言った。
「だって考えてみろよ、国語の勉強って日常会話が出来れば十分だと思わないか?」
「うーん・・・」
健太は言った。
「あのね、僕、漢字が読みたいの。日常会話はそれこそ何時だってできるじゃん。」
「漢字か・・・」
晴澤はとりあえず紙を取り出した。
「そうだな、じゃあ漢字の成り立ちってのを教えてやろう。この字は見たことあるだろう?これは“さんずい”と言ってだな・・・」
「知ってる。」
「何。」
健太は言った。
「にんべん、ぎょうにんべん、きへん、かねへん、りっしんべん、しめすへん、ころもへん、なべぶた、あくび、まだれ、やまいだれ、ぎょうがまえ。」
「お前ちょっと黙れ。」
晴澤は言った。
「もう一度聞く、お前は一体俺に何を聞きに来たんだ?」
「漢字を読みたいです、晴澤先生。」
すると健太は、今日の為に持ってきた本を取り出した。
「これ。」
「ん。」
そういって健太は、如何にも漢字で埋め尽くされた本を差し出した。
「そうか、俺としたことが・・・もっと早く気付くべきだった。要はこの本でわからない漢字を教えてほしいわけだな。」
「うん。でもこの本ちょっと変なんだけど・・・」
健太は早速本を開いて見せた。
「なぁ、健太。」
「何?」
「これ中国語の本じゃないか。」
「中国語?」
「しかも論語の原文とか、いつの間に哲学にでも目覚めたのか。」
「論語・・・?」
健太は首をひねった。
「そうだな、まあいい・・・と言いたいところだが、中国語となると別問題だ。俺もいろいろ調べてくるから、中身はいずれ教えるよ。」
「ふーん、ところでさ。」
健太は聞いた。
「中国語と日本語ってどう違うの?」
晴澤は答えた。
「いや違うも何も、国が違うし使い方も違うし漢字も日本語とは微妙に違うやつとかあるし、完全に別物だよ。」
「そうなの?」
「そもそも、中国語に平仮名はないからな。元々日本語は古代の中国から伝えられた文字で、平仮名はその一部の漢字を崩して作られたものだからな。ちなみにカタカナは漢字の部首とかから取られている。」
「ふーん、でもどうして違うの?同じ漢字使えばいいじゃん。」
「それはおそらく、当時の日本人が漢字全部覚えられなかったか、本当に必要のある漢字だけ伝えたかだろうな。」
「ふーん。」
「今じゃ日本語のほうが自由度が高くて表現豊かになったし、時代ってのも恐ろしいものだと実感できるよ。」
「・・・・・・」
すると、健太が言った。
「じゃあさ、日本語でも中国語みたいに漢字だけで文章作れる?」
「ほう?」
「あ、単語じゃなくて文章だよ?“全身打撲”とかじゃなく、ちゃんと文章になってるやつ。」
「ふむ。」
「あと、ノとか也とかも使っちゃダメ。」
「ほう・・・面白そうじゃないか。どれ、俺も試しに作ってみよう。健太、お前もやってみるといい。」
「うん!」
こうして二人は丸々一日、ただただ目に悪い文章作りに明け暮れるのであった。
「ちなみに、作者の小学校時代の教材のテストに似たような問題が出されたらしい。どんな答えを書いたかは流石に覚えていないらしいが、何だか随分変な答えを書いたらしいぞ。」
「なんかさ、物書きに興味持ったのがソレが原因らしいよ。何でだろ?」
今更だが、この嵐山健太という子は桜木幼稚園の年長組の園児である。といっても、この世界は西暦3000年という超未来なので現代の幼稚園と比べるにはちょっとアレかもしれない。しかし、この健太の学習能力は他と比べても異常なレベルである。実の所、この健太には生まれつき特殊な能力があり、ちょっとした業界では“金山の一角”と呼ばれていることを健太自身は知らない。




