神様の涙
ある日、天使は悩んでいました。
なぜなら最近、よく空の神様達が泣いているからです。
でも彼はまだ幼かったから、神様達がどうして泣いているのかわかりませんでした。
直接神様達に尋ねても、「大丈夫だよ、気にしないで」、とはぐらかされてしまいます。
そこで天使は、下界に住む知り合いの精霊に聞いてみることにしました。
「あのさ、このごろ神さま達がよく泣いているのを見るんだけど、どうしてだかわかるかい?」
「ああ、そんなの簡単さ。神様達はね、人間のせいで泣いているんだよ」
「ニンゲンのせいで?どうして?」
天使はきょとんとしました。
「だって人間は『神の名の下に』、とか、『神様の為に』、とか言って、同じ人間同士で傷つけ合ったり、殺し合ったりしているだろう?でも本当はね、神様達はそんなこと望んじゃいないんだ。ただ彼らに、平和な世界で、幸せに生きてほしいって願ってるだけなんだよ」
精霊のその言葉に、天使はショックを受けました。
自分にできることならなんでもしようと思っていたけれど、こればっかりは彼の力だけではどうにもならなかったからです。
「そっか、そうだったんだ・・・・・じゃあ神様たちはどうやったら元気になってくれるのかな?」
「んー、そうだな・・・・・。あ、じゃあさ、空にこれを持っていってあげたらどうだい?」
精霊は天使にとある物を手渡しました。
空へと帰る途中、天使は精霊が別れぎわに言っていた言葉を思い出しました。
『もしかしたら、世界で一番かわいそうなのって神様なのかもしれないな。だって神様は【誰かの】願いを叶えることはできても、【誰かに】願いを叶えてもらうことはできないんだから・・・』
思い出すたびに、天使の胸はズキズキと痛みました。
天使は空に帰るとさっそく、空の神様の一人、太陽の神様が泣いているのを目にしました。
しかし天使が見ているのに気づくと、太陽の神様はすぐさま涙を拭いてしまいました。
「太陽の神さま、また泣いていたの?」
「・・・・・。」
「・・・ねえ太陽の神さま、こっちに来てください。おもしろいものを見せてあげるよ!」
「面白い物?」
「うん、こっちこっち!」
天使はぐいぐいと太陽の神様の手を引っ張っていきました。
そこは雲の切れ間でした。
雲と雲の間から、美しい地上の風景が顔をのぞかせています。
「いったい何を・・・・おや、それは・・・・・?」
ここで太陽の神様はようやく、天使がなにやら腕にカゴを提げているのに気づきました。
カゴの中には白い、米粒ほどの小さな花がたくさん入っています。
「花の精霊さんがくれたんです。ほら、見ててください」
そう言って、天使はカゴの中の花を一掴みすると、雲の切れ間からパラパラと落とし始めました。
ふわりふわり。
風に乗って落ちゆく姿はまるで雪のよう。
「ほお、綺麗ですね・・・・・」
「でしょ?花の精霊さんが考えてくれたんだよ!」
「おや、そうだったのですか。では後でお礼を言っておかなければなりませんね。・・・・・ところでこのお花、なんという名前なのですか?」
「『オリーブ』っていうそうです。花の精霊さんが言ってたんだけどね、ニンゲンたちの間では『平和』をあらわすお花なんだって」
「平和を・・・?」
「うん、だからね、これからぼく、世界中の空からこの『オリーブ』のお花を降らしていこうと思うんです。そうすればいつかきっと、平和を願う神さまたちのココロも、ニンゲンたちに届くだろうから・・・」
「・・・え?」
「・・・花の精霊さんから聞きました。神さまたちが泣いているのは、ニンゲンたちが争ってばかりいるからだって」
「!それは・・・・・」
「ぼく、神さまたちのこと大好きだから、神さまたちのお願い、かなえてあげたいんです。・・・でもぼくたち天使には、神さまたちのような願いをかなえる力はないから・・・・・こんなことしかできなくってごめんなさい・・・・」
天使はしょぼんとしてうつむきました。
すると太陽の神様は、天使の肩に優しく手を乗せ、言いました。
「ありがとう、そのお気持ちだけで十分嬉しいですよ。―――ええきっと、あの花と共に、私達の心も彼らに伝わるはずです」
太陽の神様はにっこりとほほえみました。
どうやら天使のおかげで、ほんのちょっぴり元気が出たようです。
「――――うん!」
太陽の神様に励まされ、天使も満足そうにほほえみました。
そして二人は願いを込め、さらにもう一掴み、『オリーブ』の花を地上に向けて放ちました。
こうして天使は、神様達の心を人間達に伝えるため、今なお世界中の空から『オリーブ』の花を降らして回っているそうです。
さて、この『オリーブ』のお花、あなたの元にも届きましたか―――――?




