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陰陽師異界録  作者: TAKE
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閑話 雷の陰陽師

 奏政が死だ直後のこと。従妹の李萩アザミは彼の亡骸を前にただ茫然とダイダラボッチを眺めている。足に力が入らずトンビ座りで涙を流している。

 私のせいで奏政は死んだ。私が未熟なばかりに最愛の従弟(おとうと)を亡くした。次は私が死ぬ番だ。奏政、待っててね、今すぐソッチに向かうから。アザミが死を覚悟した瞬間(とき)、ダイダラボッチの背中が突然爆発した。ダイダラボッチの後ろから仲間の陰陽師が爆符で攻撃をしたのだ。しかし、そんな攻撃は通用するわけもなくダイダラボッチはゆっくりと反転した。


「今だ!逃げろ!!」

 仲間の陰陽師はアザミに向けて叫んだ。しかし、今のアザミの耳に届く筈も無く仲間の言葉はアザミの耳を通り抜ける。ダイダラボッチは陰陽師の元へと近づく。その間他の生き残っている巫女達も弓で攻撃するが全く歯が立たない。その時、奏政の父親であり現亜守家の当主である亜守甲源(あもりこうげん)は言った。


「今から『拘束の界』を使う。動ける者は配置に着け!」

 立っているのもやっとの状態で甲源は仲間に告げた。

「「「はっ!」」」

 すると四人の陰陽師は各々の配置に着いた。すると『拘』の文字が書かれた符を地面に置いた。ダイダラボッチがちょうど四人の中央に来た時だった。


「『拘束の界』発動!!」

 甲源は言ったと同時にそれぞれの符は光で繋がり五芒星が浮き出た。その中心にダイダラボッチがいた。この術は『拘束の界』と言い、五つの方位に符を配置し結界を発動することで対象物の動きを捕える結界術である。

 ダイダラボッチの動きは止まった。結界が成功したのだ。


「今だ、()れ!!」

甲源を合図に陰陽師と巫女たちは一斉に攻撃を開始した。爆符、斬符、弓がそれぞれダイダラボッチ目がけて降り注いだ。これだけくらえばいくらダイダラボッチと言えど無事では済まない・・・・筈だった。爆発の煙が晴れた時、一同驚愕の表情を露わにした。


 ダイダラボッチの身体には傷一つ与えることが出来ていなかった。それどころか今にも結界が破られそうである。

「馬鹿な!!」

 甲源は叫んだ。その刹那、ダイダラボッチは結界を無理やり打ち破った。

「「「!!!!!!」」」」

ありえない事だった。一人ならまだしも五人で発動した結界が破られるなど。

「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン」

ダイダラボッチからまるで地の底から湧き出るような不気味な咆哮を発した。

「無理だ。」「死ぬんだわ。」「終わりだ・・・・。」まさに絶望だった。皆武器を捨て地面にへたり込む。


「諦めるな!!」

 甲源が叫ぶが誰も耳を貸そうとはしない。突然、雨が降ってきた。雨に打たれながらもただその絶望の光景をアザミは眺めているだけだった。死がそこらじゅうに散らばっている。頭が無い者、上半身が無い者、引き千切られた者・・・・・そして今目の前にある最愛の者。全てアイツが奪った命だ。憎い、殺したい、でもできない。己の無力に苛立ちさえ覚える。できることなら私が死ぬべきだった。あぁ皆死ぬんだ・・・・・・・。


 その時、アザミの思いをかき消すが如く雷が鳴った。瞬間、甲源は言った。

「〝あの〟お方が・・・・・・。」

 突然、ダイダラボッチの目の前に雷が落ちた。雷轟と共にその〝人〟は来た。ダイダラボッチの前に一人の青年が立っていた。他の陰陽師とは異なり何かの動物をあしらえた衣を纏っている。左手には身の丈くらいの太刀を握っている。


「遅かったかぁ・・・・・。」

 辺りの惨状を見て苦虫を噛んだ表情をする。

「すまんのう、甲源。遅くなってしまって。」

 見かけとは逆に年寄めいた口調で話す。

「いえ、私たちの力不足で・・・・・このような・・・・・。」

「きにするでない、あとは儂が面倒を見よう。」

「はっ」

 亜守家の当主である甲源が見た目二十代の青年に敬語で話す光景は異様である。


「さて、よくも儂の大切な家族(なかま)を傷つけてくれたのう。その落とし前、きっちりとその身を持ってつけてもらう。」

 鋭い眼光で相手を睨む、すると全身から電気が音を立てながら出てきた。

「あれが・・・雷の陰陽師・・・・・・。」

 誰かが呟いた。彼は分家最強と言われる陰陽師。『(いかずち)の陰陽師』こと衛乃空心(えのくうしん)である。彼は五行思想に存在しない『雷』を唯一扱うことができる人物である。

 空心は太刀を抜刀する。すると刃に電気が帯びだした。


「〝可愛そうな〟ダイダラボッチよ、今楽にしてやる・・・・。」

 言葉を放った瞬間、すでに空心はダイダラボッチの後ろに立っていた。一同目を疑った。空心の素早さも当然だが、なんとダイダラボッチの左腕は切断されていた。それに断面は焼かれたように煙が立っている。

「物騒だからのう、もう一本取っとくか。」


 そう言ってダイダラボッチに向かって切りかかる。しかし、ダイダラボッチもようやく状況を把握したようで、残った右腕で空心に攻撃を仕掛ける。しかし、空心は目にもとまらぬ速さでダイダラボッチの肩ごと太刀で切り落とした。そのまま空心はダイダラボッチの鳩尾(みぞおち)に蹴りを入れ吹き飛ばした。あの巨体を吹き飛ばすなど不可能に近い筈なのに、空心はいとも簡単に一蹴りで飛ばした。


 ダイダラボッチは何とか胴体でバランスを保ちながら立ち上がった。

「ほう、なかなか骨のあるヤツじゃ。」

 空心は少し驚いた様子で言った。

「では、これで最期(おわり)にするかのう・・・・。」

 空心は太刀を構える。


「奥義・・・雷轟石火(らいごうせっか)。」

 空心が言ったと同時に空心は全身に電気を帯び一筋の閃光となってダイダラボッチに向かって突撃した。それは一瞬で終わった。ダイダラボッチは跡形もなく消し飛んだ。

 空心の通った後には地面が抉れ、所々に煙が立っていた。

「終わったぞ。」

 言いながら太刀を鞘に納める。

 気付くと雨は止んでいた。雲の間から太陽の日が射し辺りを照らす。それと同時に急にアザミの意識は遠のいて行った。


 その後アザミは自宅である李萩の神社の一室で目を覚ました。あの戦いから二日が過ぎこれから死んだ仲間の葬式を行う準備に差し掛かっていた。場所は本家土御門家が所有する葬式場で行うらしい。


 そして当日、会場位は他の分家の人たちも来て会場はいっぱいとなった。そこにはあの衛乃空心の姿もあった。会場はすすり泣く声で満ち溢れていた。中には号泣する者も絶えず会場は悲しみで溢れかえっていた。

 その後、甲源と空心は二人で何かを話していた。


「空心様、あの時言った〝可愛そう〟とはどういうことでしょうか?」

「うむ、あれは怨霊に取りつかれたのじゃよ。」

「怨霊ですって?」

「そうじゃ。あのダイダラボッチはまだ生まれて間もない状態で、その時あの山で無残に死んでいった者の魂にとりつかれ、あのようなおぞましい姿になってしまったんじゃよ。」

「そうだったのですか。よく一目でお分かりになられましたね。」

「儂を甘く見るなよ。お前もまだまだ子供じゃのう。」

「ははっ私もまだまだですね。」

「ああ、がんばれよ。・・・・その・・・息子のためにも・・・・・。」

 空心は少し言いにくそうに言った。


「・・・・はい・・・・立派な、ヤツ・・・・でした・・・・。」

 甲源は嗚咽を漏らして言った。最愛の息子を亡くした父の心は今にも崩れ落ちそうにある。

「泣け、昔からよく儂の胸で泣いておったように。」

 そう言って空心は甲源の肩にそっと腕を回して優しく囁いた。


アザミは多くの犠牲になった者が並んである写真の前に立っていた。目の前には奏政の写真が置いてある。

「ごめんね、奏政。私のせいで・・・・・・。」

 言葉が出ない。涙がこぼれ落ちる。奏政の写真を見ると昔の記憶が蘇る。アザミは誓った、これ以上大切な人を失うようなことはしない。強くなる、誰よりも。そして、奏政の分まで戦い、生きて行くことを。

 迷いのない真っ直ぐな目をしていた。


読んでいただきありがとうございました。

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