百人の侍
「馬鹿を言うな!どこの世界に、百姓に雇われる侍がある」
いかにも豪傑といった風貌のサムライが声を荒げた。それをニコニコと物分りの良さそうな白髪の老サムライが聞いている。
「その上、報酬は、飯を腹いっぱい食わせるだけだと?」
豪傑風のサムライは、しばらく思案してから、
「それもまた酔狂かも知れんな」
と、呟いた。
「しかし、相手の野武士は三十人もおるのじゃろ?だとしたら、味方になるサムライは少なくとも七人は必要だぞ」
豪傑の心配をよそに、募集をかけたとたん、続々とサムライたちが集まり始めた。皆、報酬よりも自分の腕を試したいという、ストイックなサムライばかりであった。
こうしてサムライの数が百人に達した時、募集は閉め切られた。
「サムライを雇うだよ」と言って村の使いを送り出した長老は、百人ものサムライが土煙を舞い上げて村に帰って来るのを見て、自分の言葉に後悔した。
当然、三十人足らずの野盗たちは、百人のサムライたちに、あっという間に蹴散らされた。
その日のうちに、村の食料はなくなり、村人たちは離散、村は廃村となった。