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〜シックス〜  作者: 悠栖
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共犯者

 眩しい朝に吸い寄せられるように意識を取り戻した。

 ここは、どこだろう?


 横を見ると、空いているベッドに腰掛けて雪崩れ込んだように眠る大谷と、壁にパイプ椅子をくっつけてもたれて眠る山崎の姿があった。


 コンコン、とドアをノックする音と同時に「おはようございます」と声がかかる。


「あら、起きた?」

「……い」


 声を出したくても喉が渇いて出せない。看護士はそれがわかったのか側の机に置いてある水さしをコップに注いだ。


「ここは病院。この刑事さん達が連れてきてくれたのよ。大丈夫?」

「なんで、病院……?」

「覚えてない? ちょっと体に悪い物が入っちゃったんだけどね、もう大丈夫」

「そうなの……?」

「今先生呼んでくるからね。すいません、おたくの男の子起きましたよ」


 看護士はすぐそこで寝転がっている大谷に声をかけた。


「おたくのって……いつ俺の子どもになりましたか」

「あっ、いえ、その」

「本当だ。真一、おはよう」


 看護士が慌てた様子で部屋を出ていくのを大谷が無表情で見送ると、山崎が椅子から腰を落として目を覚ました。


「山崎、真一が起きたぜ」

「え? あっ! あ、お、おはよう」

「……その反応はなんだ」

「え」


 実は山崎は、昨夜弥央が真一に会いたがっていたことを思い出していた。


 山崎が態度を取り繕えば取り繕うほど、大谷の疑いは増していく。


 医師は採血をした後、このまま順調に体内の毒を抜いていきましょうと言った。

 意識があることに安心した二人。早速ですまないが、忘れないうちに真一に犯人が誰なのか聞くことにした。


「なあ真一、誰がお前にこんなことしたんだ?」

「誰って……知らない人」

「男の人?」

「ううん、女の人。服は男の警察の人みたいだったよ」


 小杉は捕まった当時は私服だった。その小杉のものだろうか?

 大谷と山崎は目線を合わせた。だとすればその女は誰だ。共犯の可能性は高い。


「じゃあ、顔は覚えてる? 特徴とか伝えてくれたら、絵のうまい人が似顔絵を描いてくれるんだ」


 山崎が真一に問い掛ける。だが真一は心配するなと胸を張って言った。


「僕、絵描けるんだから」

「……そう? でもプロの人がちゃんと似せるまで描いてくれるから大丈夫……」


 山崎の話を聞いているのかいないのか、真一は頷きながら側にあった雑誌のアンケートページの空白に鉛筆を滑らせた。


 みるみるうちにそれは完成していく。


「すごい……」

「真一ってずっと絵を描いてたのか」

「うん、よく部屋の中を描いてた。できたよ、そっくりっ」


 差し出されたその似顔絵は実に写実的で、とても素人の絵には見えなかった。


「上手だけど……」

「見たことねえな。ありがとよ真一、受け取っておくぜ」


 大谷は原田に電話しに外へ出ていった。


「……見たことないの?」


 山崎はすかさず真一の言葉に反応する。


「もしかして真一くん、知ってるの」

「うーん……」

「よく思い出して」

「最近会った」


 そりゃそうだろう、昨日襲われたんだから。山崎は激しく突っ込みたい衝動を何とか抑え込んだ。


 もうすぐ小杉への事情聴取の時間だという頃、原田の携帯電話が鳴った。


「はい、原田です」


 電話の向こうで聞こえた声は、昨日話を聞いた記者の中村氏だった。


「どうしました? ……え? 脅迫?」


 高井がその声に反応する。原田は電話を切ったあと、慌てた様子で振り返った。


「小杉は現行犯逮捕だろ?」

「ええ、まあ……」

「中村記者に非通知で電話がきたらしい。弥央が病院に居ることを知っていた」

「電話? じゃあ、共犯者か」

「どうやらそうみたいだ。急いで話を聞こう。おい、早く部屋を開けてくれ!」


 のろのろと出て行く別件の犯人を尻目に、こちらも小杉を連れてバトンタッチした。


「焦ってますね、原田警部補……」


 小杉の含み笑いに、高井の脅しのスイッチは完全に入った。


「もう全部こっちにはばれてんだよ。大人しく喋らねえとどんなことになるのかわかってんのか!」


 だが小杉は黙秘権を押し通すと言わんばかりに口を開かない。殴ったって構わない。激しい聴取ではザラだ。


「共犯者が居るんだろ? 吐いて楽になれよ」


 小杉は目も合わさない。強硬的な態度に出ている。


「この野郎……」


 再び、原田の電話が鳴った。ディスプレイには良く知った名前が映し出された。


「大谷?」

「原田さん、真一の犯人の特徴がわかりました。女です」


 原田は高井に耳打ちをする。高井は表に何の反応も出さずに小杉に詰め寄った。


「女とはどういう関係だよ」


 誰の目にもわかるくらい、小杉の瞳が動揺した。彼は警察に向いていなかった。


「口元のほくろが色っぽかったな。乱暴に吐かされる前にお前が全部話す方が穏便に事が運ぶぞ」


 小杉に怒りの表情が見てとれる。


「くっ……」


 そしてゆっくりと 彼の口は開かれた。


「……斉藤香織。共犯。麻薬を打ちました」



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