無人駅
(今日も疲れたな)
単線上を走る列車に揺られながら、心の中で呟く。
いよいよ試合まであと数日。甲子園を目指す、最後の夏だ。野球を始めたのは小学生のころ。9年目の今年は、その集大成になる。雨の日も、雪が降り積もる季節だって、その時出来る練習を精いっぱいやってきた。連日の練習は過酷だけれど、日毎にチームの団結力は高まっている。特にバッテリーの二人は絶好調だ。もしかしたら、この夏は行けるかもしれない。期待で心が高揚している。
数人の乗客しかいない最終列車は、暗闇の中を進んでいく。やがて次の停車駅に到着した。誰もいない、無人駅。降りたのは、自分ただ一人。
やがて列車は去り、辺りは静けさに包まれるかと思いきや、姿も見えないのにカエルの大合唱が聞こえてくる。北国の短い夏を、全力で謳歌するように。
改札のない小さな駅舎を通り抜け、街灯1本しかない暗い外へと出る。その街灯の下に、1台の車が停まっている。近づいて後部座席のドアを開けると、
「おかえり。」
運転席の母が、いつものように出迎えた。
遠くの学校に通う僕を、母は毎朝、この駅まで送ってくれる。そして最終列車に乗る僕を、迎えに来てくれる。雨の日も、雪が降り積もる季節だって。
誰もいない駅は、うら寂しい。けれど駅舎を出れば、母がそこにいる。無口な母は何も言わないけれど、全力で応援してくれていることは分かっている。来る日も来る日も、ユニフォームを洗い、弁当を作り、送迎をしてくれる。
だから僕は、明日も全力でがんばれるんだ。
お読みいただきありがとうございました!




