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傷を抱く虎

夜は静かだった。


京の町はもう眠り始めている。


屯所の奥の部屋。


白瀬かのんは布団の上に横になっていた。


腕と足には包帯。


肋も痛む。


神禍に叩きつけられた衝撃だった。


障子の向こうで風が鳴る。


眠れなかった。


頭の中で。


何度も同じ光景が繰り返される。


神禍。


黒い影。


そして。


自分は動けなかった。


その時。


障子が静かに開いた。


「起きてる?」


穏やかな声。


白瀧だった。


若白髪の髪を軽く整えながら、部屋に入ってくる。


長身。


細身。


どこか力の抜けた立ち姿。


かのんは慌てて起き上がろうとした。


「白瀧隊長」


白瀧は手で制した。


「いいよ」


「寝てて」


かのんは少しだけ身体を戻す。


白瀧は隣に座った。


手には湯呑み。


「薬、飲んだ?」


かのんは頷く。


「はい」


白瀧は少しお茶を差し出す。


「少し飲む?」


かのんは受け取る。


両手で持つ。


温かかった。


それだけで、少し安心する。


しばらく沈黙が続いた。


やがて。


かのんが言った。


「……すみません」


白瀧が顔を上げる。


「何が」


「私」


かのんは俯いた。


「やっぱり」


「神選組に向いてないです」


部屋が静かになる。


白瀧は少しだけ息を吐いた。


「そうかなあ」


かのんの肩が少し震える。


でも。


白瀧は続けた。


「向いてないかもしれない」


かのんは顔を上げる。


白瀧は穏やかに笑った。


「でも」


「君がここにいる理由は」


「強いからじゃない」


かのんは言葉を失う。


白瀧は続ける。


「僕が」


「いてほしいと思ったから」


かのんの手が止まる。


白瀧は静かに言った。


「それじゃ駄目かな」


かのんは何も言えなかった。


胸の奥が、少しだけ熱くなる。


涙が出そうになる。


「……ありがとう、ございます」


小さく言った。


白瀧は少し笑う。


「そう」


「それでいい」


白瀧は立ち上がる。


「無理しなくていい」


「君は」


「君のままでいい」


かのんは白瀧を見る。


その背中は、やっぱり遠かった。


でも。


少しだけ。


近くなった気がした。


その時。


廊下の奥で。


誰かが立っていた。


白川せなだった。


暗い廊下の中。


二人の会話を聞いていた。


その目は。


静かだった。


けれど。


深く。


暗かった。


せなは小さく呟く。


「……隊長」


その声は。


誰にも届かなかった。


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