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白虎の爪

狭い路地、

夜の先斗町。


昼とは違う。


灯りはあるのに、どこか暗い。


石畳の路地。


提灯の光。


静かな町家。


その奥で。


黒い影が揺れていた。


神禍だった。


白い穴のような目が、ゆっくりと動く。


そして。


もう一つ。


影が動く。


二体。


さらに。


三体。


せなが低く言った。


「多いですね」


白瀧は静かに拳銃を抜く。


二丁拳銃。


「そうだね」


その声は穏やかだった。


けれど。


目は戦う目だった。


かのんは少し後ろに立っていた。


心臓が速い。


神禍が三体。


今まで見たものより大きい。


影が膨らむ。


腕が伸びる。


まるで人を裂くために生まれたような形。


白瀧が言う。


「かのん」


かのんが顔を上げる。


「下がってて」


「はい」


声が少し震えた。


せなは刀を抜く。


細い刃。


月の光を受けて光る。


「久しぶりですね」


白瀧を見る。


「隊長と一緒に戦うの」


白瀧は少し笑う。


「そうだね」


「懐かしい」


次の瞬間。


神禍が動いた。


黒い影が跳ねる。


白い目が歪む。


一体が白瀧へ。


二体がせなへ。


白瀧が銃を構える。


その瞬間。


背中の神紋が白く光った。


光が腕へ流れる。


拳銃へ流れる。


白虎の力。


それが弾丸になる。


パンッ。


銃声。


弾丸が神禍の腕を吹き飛ばす。


黒い影が散る。


神禍は止まらない。


さらに襲う。


パンッ。


パンッ。


白い弾丸が夜に走る。


弾丸は神禍の身体を貫き。


さらに。


分裂する。


光が広がる。


神禍の影を削り取る。


一方。


せなはすでに動いていた。


地面を蹴る。


一瞬で距離を詰める。


刀が振り下ろされる。


その瞬間。


せなの両手の甲が光った。


神紋。


白い光。


刃が神禍を斬る。


その斬撃は。


一つでは終わらない。


刃の軌跡が。


分裂する。


白虎の爪のように。


影を裂く。


神禍の身体が、複数に裂けた。


せなはもう次へ動く。


二体目。


跳ぶ。


斬る。


白い斬撃が広がる。


神禍が崩れる。


黒い影が散る。


かのんはその光景を見ていた。


速い。


強い。


二人とも。


白瀧の銃。


せなの刀。


どちらも神禍を圧倒している。


自分だけ。


動けない。


神禍が一体。


まだ残っていた。


大きい。


今までより大きい。


影が膨らむ。


腕が伸びる。


そして。


かのんを見る。


白い目。


真っ直ぐ。


かのんへ。


身体が固まる。


動けない。


神禍が跳ぶ。


その瞬間。


銃声が響いた。


パンッ。


白い弾丸が神禍を吹き飛ばす。


影が崩れる。


そして消えた。


静寂。


祇園の夜が戻る。


白瀧は銃を下ろした。


せなも刀を納める。


かのんは立ったままだった。


手が震えている。


白瀧が近づく。


「大丈夫?」


かのんは俯く。


「……私」


声が小さい。


「また」


「何もできませんでした」


白瀧は少し黙った。


その顔には。


昨日よりも、少しだけ強い感情があった。


「そうだね」


かのんはぎゅっと拳を握る。


涙が滲む。


その時。


白瀧は言った。


「でも」


かのんが顔を上げる。


白瀧は静かに言った。


「君が傷つくのは」


「僕は嫌だな」


かのんは息を止めた。


せながその様子を見ていた。


静かに。


何も言わず。


ただ。


その目だけが冷たかった。


祇園の夜風が吹く。


この時。


まだ誰も知らなかった。


この三人の関係が。


やがて。


取り返しのつかない形で壊れることを。

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