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眠る虎の心

白虎隊の朝は早い。


石畳の道を箒の音が掃いていく。


町家の格子窓が開き、暖簾が揺れる。


夜の街とは、まるで違う。


白瀬かのんは、屯所の縁側に座っていた。


湯呑みを両手で持っている。


中には温かいお茶。


でも。


飲む気分にはなれなかった。


「……はぁ」


小さく息を吐く。


昨日のことを思い出していた。


祇園の路地。


神禍。


白瀧の銃。


白い弾丸。


そして。


自分は、何もできなかった。


かのんは湯呑みを見つめる。


「私……」


小さく呟く。


「なんでここにいるんだろ」


神選組。


神紋。


神禍。


どれも自分とは遠いものだった。


その時。


後ろから声がした。


「おはよう」


穏やかな声。


白瀧だった。


若白髪の髪を軽くかき上げながら、縁側に出てくる。


長身で細身。


その姿は、どこか力が抜けて見えた。


かのんは慌てて姿勢を正す。


「白瀧隊長」


白瀧は隣に座った。


「眠れた?」


かのんは少し考える。


「……あまり」


白瀧は苦笑した。


「そうだよね」


「初めて神禍を見ると、大体そうなる」


かのんは俯く。


「私」


「本当に何もできなくて」


白瀧は湯呑みを手に取った。


少しだけお茶を飲む。


そして言った。


「昨日」


「怖かった?」


かのんは頷いた。


「はい」


「すごく」


白瀧は頷く。


「たしかに、」


「神禍は怖い」


少し間があって。


続ける。


「でも」


「怖いと思える人間の方が、長く生き残る」


かのんは顔を上げた。


白瀧は穏やかに笑う。


「怖くない人は」


「だいたい無茶するから」


かのんは少しだけ笑った。


白瀧は庭を見る。


春の光が、少しずつ差し込んでいる。


「虎ってさ」


突然言った。


かのんが首を傾げる。


「虎?」


「うん」


白瀧は言う。


「虎はね」


「普段はあまり動かないんだ」


かのんは黙って聞く。


「じっとしてる」


「でも」


「狩るときは一瞬だ」


白瀧は指で軽く机を叩く。


「だから」


「強い」


かのんは少し考える。


「じゃあ」


「私は……」


白瀧は言った。


「今は眠ってる虎」


かのんは驚いた。


「え」


白瀧は笑う。


「まだ起きてないだけ」


「そういうこと」


かのんはしばらく黙っていた。


それから小さく言った。


「……だったらいいな、」


自信のない声。


でも。


少しだけ明るかった。


白瀧は立ち上がる。


「今日は祇園の見回り」


「ついてくる?」


かのんは慌てて立ち上がる。


「はい」


二人は屯所を出た。


祇園の通りを歩く。


昼の祇園は穏やかだった。


観光客。


商人。


芸妓の姿。


普通の街。


でも。


この街のどこかに、神禍が潜んでいる。


かのんは少しだけ前を歩く白瀧を見る。


長身。


細身。


若白髪。


穏やかな横顔。


強い人。


でも。


どこか優しい人。


その背中を見ながら。


かのんは思った。


この人のそばなら。


少しだけ。


頑張れる気がする。


その時。


祇園の通りの奥で。


誰かが二人を見ていた。


長い黒髪。


鋭い目。


白川せなだった。


彼女は静かに呟く。


「……隊長」


その視線は。


白瀧ではなく。


隣を歩く少女へ向けられていた。


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