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堕ちた白虎

花見小路は

相変わらず静まり返っていた。


月明かりだけが石畳を照らしている。


白瀬かのんは、その場に膝をついていた。


腕の中には。


白瀧和一。


血が、止まらない。


背中から溢れた血が、石畳を濡らしていく。


「隊長……」


声が震える。


白瀧は苦しそうに息をしていた。


それでも。


少しだけ笑う。


「うーん」


かすれた声だった。


「ちょっと」


「失敗したかな」


かのんは首を振る。


「違います」


「私のせいです」


涙が落ちる。


白瀧の手が、わずかに動いた。


かのんの頬に触れる。


「違う」


小さく言った。


「君のせいじゃない」


その時だった。


黒い気配が膨れ上がる。


白川せなが立っていた。


でも。


もう。


いつもの姿ではなかった。


両手の甲の神紋が、黒く歪んでいる。


影が身体にまとわりつく。


神禍の気配。


せなは静かに言った。


「……やっぱり」


その声は、どこか遠かった。


「隊長は」


「あなたを守る」


かのんは睨む。


「せなさん」


せなは笑った。


「名前で呼ばないで」


「もう」


「そんな関係じゃない」


刀を抜く。


刃が震えている。


「隊長」


その目は、白瀧だけを見ていた。


「あなたは」


「私と同じだったはず」


「強さを求めて」


「戦って」


「ここまで来た」


少し間があって。


続ける。


「なのに」


「どうして」


「こんな子を」


声が歪む。


「守るの」


沈黙。


白瀧は、ゆっくり目を開けた。


せなを見る。


その目は、やっぱり穏やかだった。


「……せな」


静かに言う。


「君は」


「強い」


せなの目が揺れる。


白瀧は続けた。


「でも」


「強さだけじゃ」


「守れないものがある」


せなは震えた。


怒り。


悲しみ。


愛。


全部混ざっていた。


「黙れ!!」


せなが跳ぶ。


刀が振り下ろされる。


その瞬間。


銃声が響いた。


パンッ。


白い弾丸。


せなの身体が揺れる。


白瀧だった。


震える手で銃を撃った。


それでも。


狙いは正確だった。


せなの肩を貫く。


せなは止まる。


その目に涙が浮かぶ。


「……隊長」


小さく言った。


「本当に」


「私じゃないんだ」


白瀧は何も言えなかった。


ただ。


もう一度銃を構える。


手が震えている。


「……ごめん」


小さく言った。


パンッ。


弾丸がせなの胸を貫いた。


せなの身体が崩れる。


刀が落ちる。


石畳に倒れる。


黒い影がゆっくり消えていく。


せなは白瀧を見ていた。


最後まで。


その目は。


恋する人の目だった。


「……好き」


それが最後だった。


せなの身体から光が消える。


静寂。


祇園の夜風が吹く。


その時だった。


白瀧の呼吸が止まりかけた。


かのんが叫ぶ。


「隊長!!」


胸が動かない。


血が多すぎる。


死ぬ。


わかってしまった。


その瞬間。


かのんの視界が白く光った。


熱い。


両目が焼けるように痛い。


何かが溢れる。


涙じゃない。


光だった。


白瀬かのんの両目に。


神紋が現れた。


白い紋様。


光が溢れる。


その光が白瀧へ流れる。


傷が閉じていく。


血が止まる。


命が戻る。


その代わりに。


かのんの視界が暗くなる。


光が消える。


色が消える。


世界が。


闇と光だけになる。


かのんは倒れた。


白瀧が手を伸ばす。


「かのん!」


かのんは小さく笑った。


「……よかった」


その声は穏やかだった。


「隊長」


「生きてる」


白瀧は言葉を失った。


かのんは目を閉じる。


光は。


もう見えなかった。


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