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白虎の息吹

夜の木屋町は静かだった。


雨が止んだばかりのアスファルトが、

街灯の光をぼんやりと反射している。


人の気配はない。


その代わりに。


路地の奥で、黒い影が揺れていた。


煙のような、もやのような。


輪郭の定まらない影。


その中に、白い穴が二つ浮かんでいる。


目だった。


それが、ゆっくりと動く。


獲物を探すように。


次の瞬間。


乾いた銃声が夜を裂いた。


パンッ。


黒い影の胸のあたりが弾ける。


影が揺れる。


白い目が歪む。


もう一発。


パンッ。


黒いもやが散り、影は崩れるように消えていった。


まるで煙が風に流されるように。


静寂が戻る。


男はゆっくりと息を吐いた。


白瀧和一。


白虎隊隊長。


両手には拳銃。


二丁拳銃。


「……そうだね」


小さく呟く。


「今日はこれで終わりかな」


銃を軽く振ってからホルスターに戻す。


彼の背中の下、

シャツ越しにうっすらと光が滲んでいた。


白い光。


神紋。


四神の加護を受けた者の証。


神紋を持つ者だけが、神禍を祓える。


白瀧の神紋は背中一面に刻まれていた。


発動している間、それは白く光る。



「白瀧隊長」


後ろから声がした。


振り向く。


黒髪の少女が立っていた。


白瀬かのん。


白虎隊の平隊士。


「……終わりました?」


白瀧は頷いた。


「うん。もう大丈夫だよ」


かのんはほっと息を吐いた。


「よかった……」


少し間を置いてから、言う。


「神禍、強かったですか」


「いや」


白瀧は軽く首を振る。

歳に似合わない若白髪がさらりと揺れた。


「そこまででもないかな」


そう言って、路地の奥を見る。


さっきまで神禍がいた場所には、もう何もない。


神禍。


人の妬みや恨み。


そういった負の感情が形になった存在。


普通の武器では祓えない。


神紋の力を武器に込めて初めて祓える。


それが、神選組の仕事だった。



「……やっぱり」


かのんが小さく言った。


白瀧が振り向く。


「どうしたの」


「いえ……」


かのんは少し困ったように笑った。


「白瀧隊長、すごいなって」


「すごい?」


「だって」


彼女は路地を指さす。


「二発で終わらせるんですから」


白瀧は少し考えてから肩をすくめた。


「慣れだよ」


「慣れ……」


「そう」


白瀧は穏やかに言う。


「神禍は怖いけど、仕組みは単純だからね」


かのんは少し黙った。


そして小さく言う。


「……私」


白瀧が視線を向ける。


かのんは俯いていた。


「まだ、一回も」


「神紋、発動してないんです」


夜風が静かに吹いた。


白瀧はしばらく何も言わなかった。


そして言う。


「そうだね」


怒るでもなく、慰めるでもなく。


ただ穏やかな声。


「でも」


かのんが顔を上げる。


白瀧は少し笑った。


「焦らなくていいよ」


「神紋は、出るときに出るものだから」


かのんは少し驚いた顔をした。


「……いいんですか」


「うん」


白瀧は頷く。


「君は今、ここにいる」


「それで十分だよ」


かのんは少しだけ笑った。


「……ですか、ね」


小さく、不安そうな声。


でもどこか嬉しそうだった。


白瀧はその様子を見て、目を細める。


この子は。


まだ危なっかしい。


放っておくと、すぐ無茶をする。


だから。


守らなければならない。


それだけのことだ。


その時の白瀧は、そう思っていた。



「隊長ー!」


遠くから声が飛んできた。


別の隊士だ。


「神禍、もう一体出ました!」


白瀧は軽くため息をついた。


「……うーん」


拳銃を抜く。


「仕事はまだ終わらないみたいだ」


かのんが慌てて後を追う。


夜の街の向こう。


また黒い影が揺れていた。


白い目がゆっくりとこちらを見る。


白瀧は銃を構える。


その横で。


かのんは、何もできずに立っていた。


そして、ふと。


白瀧は思った。


――この子は、きっと神紋を持つ。


ただ。


その時が、どんな瞬間なのかは、

まだ知らなかった。


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