新撰組の縁側 鬼と豆と労働と
壬生寺の狂言を見終え、
屯所に戻った沖田総司、斎藤一、原田左之助、永倉新八は、
今日もいつもの縁側に並んで腰を下ろしていた。
まだ、境内のざわめきが耳に残っている。
「いやあ、面白かったねえ」
沖田総司が、どこか楽しそうに、豆を一つつまんで放り投げる。
「鬼が出てきた瞬間、子どもが本気で泣いてたぞ」
と、永倉新八が豪快に笑った。
「しかし、あの鬼よ。ずいぶん派手に動いてたが……隙だらけだろ」
原田が言う。
「ですよねえ」
沖田は笑いながら言った。
「普通なら、子どもが投げる豆くらい避けられません?
あんな大振りで突っ込んできて」
「甘いな。多勢に無勢だぞ」
原田が肩をすくめる。
「四方八方から、豆だ、豆だ、豆だ」
斎藤は腕を組み、静かに言った。
「……卑怯だな。人間側がずるい」
「は? ずるい?」
原田が振り向く。
「集団戦は新選組のおはこじゃねえか」
「確かに」
沖田がにやりとする。
「近藤さんに聞かせたら、怒られますよ」
「ぐっ……」
永倉が言葉に詰まる。
「なるほど」
斎藤が頷いた。
「一対一で戦う理由などない。勝つための手を尽くす。それだけだ」
「戦いっていうか……」
原田が首をひねる。
「あれ、食料差し出してるようにも見えるけどな」
「鬼からしたらさ〜」
沖田が考えるように言う。
「『え、くれるの? 投げるの? 痛い! ……けどうれしい』
って感じじゃないです?」
永倉が吹き出す。
「鬼も大変だな!」
「じゃあ、斎藤くんが鬼だったら?」
沖田が言った。
「豆を投げる前に、投げる者を制する」
一瞬、沈黙。
「……やっぱ鬼より怖ぇよ、斎藤」
原田がぽつりと言う。
「ははは」
永倉が笑った。
「まあ、人間も鬼も、似たようなもんだな」
「それにしてもよ」
原田が続ける。
「鬼って普段は隠れてるのに、節分だけ律儀に出てくるだろ。
あれ、どう考えても豆目当てだよな」
「あー……たしかに」
沖田が頷く。
「でも、あんまり食べられないですよね。
終わったらすぐ掃除されちゃうし」
「そこは何か、からくりがあるのやもしれん」
永倉が腕を組む。
「でもさ」
原田が言う。
「毎年だぞ? 毎年。
懲りずに出てくるって、よほどだぞ」
「おいおい」
永倉が苦笑する。
「あの狂言、役者だぞ」
「……ふふ」
沖田が小さく笑う。
「そうでした。つい」
「……それでもだ」
斎藤がぼそりと言った。
一同が斎藤を見る。
「鬼というのは、どこか親近感がある」
「お、斎藤がそんなこと言うの珍しいな」
原田が目を丸くする。
「あ、それ、わかる」
沖田が言う。
「働き者だよね、鬼」
「働き者、って言い方がもうな」
永倉が呆れる。
「だってそうじゃない?」
沖田は続けた。
「悪役やらされて、豆ぶつけられて、
それでも毎年ちゃんと出勤だよ?」
「ブラックだな……」
原田が呻く。
「普段はどこにいるんだ?」
永倉が言う。
「やっぱ地獄か」
「ああ」
斎藤が答える。
「閻魔大王の下で働いているのだろう」
「書類仕事、多そう」
沖田が言う。
「罪人の仕分けとか?」
原田が続ける。
「『これは針山』『これは血の池』とか?」
永倉。
「……失敗は許されん仕事だ」
斎藤が真顔で言った。
「だから節分くらい」
沖田がぽつりと言う。
「地上で豆もらって息抜き、か。
ああ、僕も投げてあげればよかったなあ」
「豆、もらえてねえけどな」
原田が即座に突っ込む。
少し間をおいて。
「……なあ」
原田が言う。
「俺たちも節分に豆投げられたら、どうする?」
「逃げるな」
永倉。
「斬る」
斎藤。
「僕は……」
沖田は少し考えてから言った。
「拾って食べるよ。こんがり炒り付けてさ」
「お前が一番鬼だよ」
原田が言った。
縁側に、笑いがゆっくりと広がっていった。




