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新撰組 折々の記

新撰組の縁側 鬼と豆と労働と

作者: 湯好き御幸
掲載日:2026/02/01

壬生寺の狂言を見終え、

屯所に戻った沖田総司、斎藤一、原田左之助、永倉新八は、

今日もいつもの縁側に並んで腰を下ろしていた。


まだ、境内のざわめきが耳に残っている。


「いやあ、面白かったねえ」


沖田総司が、どこか楽しそうに、豆を一つつまんで放り投げる。


「鬼が出てきた瞬間、子どもが本気で泣いてたぞ」

と、永倉新八が豪快に笑った。


「しかし、あの鬼よ。ずいぶん派手に動いてたが……隙だらけだろ」

原田が言う。


「ですよねえ」

沖田は笑いながら言った。

「普通なら、子どもが投げる豆くらい避けられません?

あんな大振りで突っ込んできて」


「甘いな。多勢に無勢だぞ」

原田が肩をすくめる。

「四方八方から、豆だ、豆だ、豆だ」


斎藤は腕を組み、静かに言った。

「……卑怯だな。人間側がずるい」


「は? ずるい?」

原田が振り向く。

「集団戦は新選組のおはこじゃねえか」


「確かに」

沖田がにやりとする。

「近藤さんに聞かせたら、怒られますよ」


「ぐっ……」

永倉が言葉に詰まる。


「なるほど」

斎藤が頷いた。

「一対一で戦う理由などない。勝つための手を尽くす。それだけだ」


「戦いっていうか……」

原田が首をひねる。

「あれ、食料差し出してるようにも見えるけどな」


「鬼からしたらさ〜」

沖田が考えるように言う。

「『え、くれるの? 投げるの? 痛い! ……けどうれしい』

って感じじゃないです?」


永倉が吹き出す。

「鬼も大変だな!」


「じゃあ、斎藤くんが鬼だったら?」

沖田が言った。


「豆を投げる前に、投げる者を制する」


一瞬、沈黙。


「……やっぱ鬼より怖ぇよ、斎藤」

原田がぽつりと言う。


「ははは」

永倉が笑った。

「まあ、人間も鬼も、似たようなもんだな」


「それにしてもよ」

原田が続ける。

「鬼って普段は隠れてるのに、節分だけ律儀に出てくるだろ。

あれ、どう考えても豆目当てだよな」


「あー……たしかに」

沖田が頷く。

「でも、あんまり食べられないですよね。

終わったらすぐ掃除されちゃうし」


「そこは何か、からくりがあるのやもしれん」

永倉が腕を組む。


「でもさ」

原田が言う。

「毎年だぞ? 毎年。

懲りずに出てくるって、よほどだぞ」


「おいおい」

永倉が苦笑する。

「あの狂言、役者だぞ」


「……ふふ」

沖田が小さく笑う。

「そうでした。つい」


「……それでもだ」

斎藤がぼそりと言った。


一同が斎藤を見る。


「鬼というのは、どこか親近感がある」


「お、斎藤がそんなこと言うの珍しいな」

原田が目を丸くする。


「あ、それ、わかる」

沖田が言う。

「働き者だよね、鬼」


「働き者、って言い方がもうな」

永倉が呆れる。


「だってそうじゃない?」

沖田は続けた。

「悪役やらされて、豆ぶつけられて、

それでも毎年ちゃんと出勤だよ?」


「ブラックだな……」

原田が呻く。


「普段はどこにいるんだ?」

永倉が言う。

「やっぱ地獄か」


「ああ」

斎藤が答える。

「閻魔大王の下で働いているのだろう」


「書類仕事、多そう」

沖田が言う。


「罪人の仕分けとか?」

原田が続ける。


「『これは針山』『これは血の池』とか?」

永倉。


「……失敗は許されん仕事だ」

斎藤が真顔で言った。


「だから節分くらい」

沖田がぽつりと言う。

「地上で豆もらって息抜き、か。

ああ、僕も投げてあげればよかったなあ」


「豆、もらえてねえけどな」

原田が即座に突っ込む。


少し間をおいて。


「……なあ」

原田が言う。

「俺たちも節分に豆投げられたら、どうする?」


「逃げるな」

永倉。


「斬る」

斎藤。


「僕は……」

沖田は少し考えてから言った。

「拾って食べるよ。こんがり炒り付けてさ」


「お前が一番鬼だよ」

原田が言った。


縁側に、笑いがゆっくりと広がっていった。


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