再会
痛いと思わないで聞いて欲しいのだが、俺には前世の記憶がある。
さらに気持ちが悪いなどと思わないで欲しいのだが、なんとその前世で俺は、姫だったのである。
このことは誰にも話したことはない。だが、これが妄想でなければ、俺は何処かの世界のとある西洋チックな国で、姫だった。
一番の記憶は、隣国との戦で、俺のいる国が滅亡するシーンだ。
俺は燃え盛る城の中、ある男の腕の中で絶命する。この国の騎士だった男だ。実は、俺たちは密かに恋仲だった。俺には他国に許嫁がいたから、騎士との逢瀬はたまにする会話のみだったが、それでも十分満たされていた。好きだったのだ。
俺は死ぬ間際、騎士と約束した。
どうか、生まれ変わっても必ずまた会おうと。そして今度こそ、添い遂げようと。
――しかし、俺、とか言ってることからもおわかりだろう。
今世、俺はなんの因果か、男として生を受けてしまった。
生後間も無くはショックでしかたがなく、あらぬ方向を見つめて静かにはらはらと泣いてばかりいる嫌な幼児だったが、さすがに16年も経てば諦めもつく。現在俺は男子高に通う高校2年生だ。
きっと騎士だった男も、俺に会っても、俺が姫だとはわかるまい。というか、この世に転生しているかもわからない。
前世での約束が果たされることは、きっとないのだろう。
と、思っていた。今日までは。
「――姫!!」
春爛漫、桜吹雪のなか、唐突に俺に駆け寄り、俺を抱きしめる男がいた。
俺を姫と呼ぶ者など、当然だが一人もいない。ということは、
「…騎士様?」
「はい!はい、姫!!私です!お会いしたかった!ずっとお会いしたかったです!!」
泣きながら、俺を抱きしめる腕に力を込める、男。
…いや、少年?
「…騎士様…」
「ああ、姫にまたそのように呼んでいただけるなど幸福至極。なんですか?我が愛しの姫よ」
「…ご入学おめでとうございます……」
俺は、俺の腰のあたりに抱きつく真新しい制服姿の少年に、そう声をかけた。
春4月。
今日は、常磐学園初等部の入学式である。