期待通りには行かない
新たにベテラン魔法使いを加えた、私たちのパーティは順調だった。
「俺が手を出しすぎるとお前らのためにならねぇ。加入したのはこのパーティメンバーを成長させるためだからな」
ベテラン魔法使いは、見守るだけ、危なくなった時だけ手を貸す、というスタンスで冒険に参加していた。
それでも、私たちのパーティは最初に依頼を受けた初級の討伐依頼は難なく終えられた。
「おいおい、一度も俺の手を借りずにクリアしちまったじゃねーか! お前ら、有望だぜ!」
最初の討伐が終わった後。ベテラン魔法使いは、そう言ってこれでもかと私たちを褒めちぎっていた。
ベテラン魔法使いのアドバイスを受けつつ、さらに初級と中級の討伐依頼をこなしたが、それも余裕でクリアできてしまう。
そうなると、パーティメンバーに自信と信頼が生まれていく。
「いやー。全部、うちのパーティにアニキが来てくれたおかげっスね」
パーティリーダーはベテランさんを「アニキ、アニキ」と慕っていつも一緒に行動するようになっていた。
依頼をこなした後の休みの間でも二人でベッタリだったので、他のメンバーたちから時々揶揄われているほど。
ベテラン魔法使いは、『シジマ二』という名前だったが、パーティメンバーからは『ベテランさん』と呼ばれて仲間のいろんな相談に乗り、時にはふざけて笑わせていた。
ベテランさんは、戦闘や冒険の道中に手を貸すことはなかったが、依頼が来るのはベテランさんのおかげなので報酬はみんなと等分で分け合っていた。
諍いも起きず、依頼もこなしている。
何もかも順調すぎるぐらいだった。このまま、うまく進むんで欲しいと思っていた。
……けど、そんな期待通りには行かなかった。
「どういうことですか、リーダー! 依頼報酬の半分をベテランさんに渡すなんて!!」
上級のダンジョン攻略をした後のことだった。
さすがに楽にはクリアできず、ベテランさんの力を何度か借りて達成した依頼だった。
報酬は今まで通りにメンバーの数で割ると思っていたのだが、報酬半分をベテランさんが受け取るとリーダーがみんなの前で宣言したのだ。
「あ? ダンジョンボスにトドメを刺したのは俺の魔法だぞ? なんか文句あるのか」
「確かに、ドドメはベテランさんでしたけど、いくら何でも!」
道中を乗り切ったのはパーティメンバー全員の力であり、数回魔法を使ったベテランさんが報酬の大半を持っていくのには納得が行かなかった。
前衛のみんながズタボロになりながら、私も重い荷物を持ち必死で着いて行った結果、依頼が達成できたのだ。
戦闘に2度ほど加わった人間が報酬の半分を持っていくことには素直に頷けなかった。
「アニキの魔法1回ごとに報酬1割を渡すって約束したんだよ。アニキに頼っていたら、オレたちが成長しないからな。必要な制約だろ」
「今回は魔法を6回使ったから本当は6割なんだけどよ。報酬上限は半分にしてやってるんだぜ、俺は優しいからな」
「何ですかそれ! 他のみんなもそれでいいの!?」
リーダーとベテランさん以外のメンバーを振り返って、問いかける。
すると後ろから、ベテラン魔法使いが笑いながら言う。
「あー、お前らが嫌だって言うなら、俺は素直にパーティから出ていくぜ? みんながそれで納得するならなぁ?」
すると、メンバーたちは戸惑ったように顔を見合わせる。
「俺たちの取り分が半分になっても上級依頼の報酬は初心者用の害獣退治依頼よりも多いし、な」
「まだベテランさんが居ないと、ダンジョンや討伐依頼が受けられないのは分かるだろ?」
「ごめんね。私、田舎に仕送りしなきゃいけないから……」
私以外のメンバーは、これでいいじゃないかと私に視線を向けてくる。
「そんな、みんな……」
他のみんなも「おかしい」と声を上げると思っていた。
だから、この反応はショックだった。
「いい判断だよ。俺はギルドでも顔が利くんだ。功労者を追い出すロクデナシの集まりだって評判が立ったら、仕事だってマトモなモンが回って来ねぇかもしれねぇしなぁ」
嘲笑うかのようにベテラン魔法使いが言った。今の彼からはこちらを見下す態度しか感じ取れなかった。最初の頃の気さくなやり取りは、どこに行ったのだろうと困惑する。
ねぇ。みんなは、こんな脅すような言い方をする人と一緒に働けるの? これでいいの?
『シワラちゃんが不利な立場に置かれて、利益だけを搾り取られる、不正を強いられる。そんな場所に居てはいけないよ』
ふと、『緑の風』でイブキさんに言われた言葉がよみがえって来た。
そうだ、こんな扱いで冒険が続けられるわけがない。
「あの……『功労者』って、何ですか? ベテランさんが、戦闘で魔法を使ったのは確か、2回でしたよね?」
ダンジョンへ進む道中のモンスターとの戦闘で、1回。ダンジョンボスとの戦闘で、1回。
ダンジョンボスも、私たちとの戦闘であと一撃というところまでボスの体力を削ったところで、「あとは任せろ」とベテランさんが魔法を叩き込んだのだ。それも、魔力消費が少ない初級の炎魔法。
他に使用した4回の魔法は、野営のための水の補給や焚き火、あとは寝る時の魔物避けの魔法だった。
こちらから頼んだわけでなく、ベテランさんが進んで用意してくれたのだが、今から考えると『魔法1回ごとに報酬1割』の報酬を上げるためのものだったのだろう。
「これでもギルドでの記録では、あなたも参加した『実績』になるんですよね。そうやって他の初心者パーティを渡り歩いていたんですか?」
「何ケチをつけてんだ、シワラ! そもそも、ダンジョン攻略はアニキがいないと受けられなかった依頼なんだから『功労者』だろが!!」
リーダーが、大声で吠え立てる。
格闘家でもあるリーダーに怒鳴りつけられ、身が縮こまる。でも、ここで言わなければ。
「わ、私はイヤだ。みんな頑張っているのに、明らかに見合わない待遇はおかしいよ! 不満を抱えたまま冒険なんてできないでしょ!?」
勇気を出して、皆に訴えた。
「そ、それは……そうだけど」
リーダーとベテラン魔法使い以外は動揺し困惑していた。
そして、それを見てベテラン魔法使いは「はぁーあ」と盛大にため息をつく。
「どーするんだ、リーダー? 聞き分けのないこのチビをこのまま、このパーティに置いておくのか?」
ベテラン魔法使いの言葉を受けて、リーダは静かに言った。
「……シワラ。リーダーであるオレの判断に文句があるなら、出ていけ」
そうして、2度目のパーティからも追放されたのだった。