昔のギルド
宿屋『緑の風』の夕食の下ごしらえを私とイブキさんとコーザワさんで作業する中。
私は、ギョーザの餡を皮で包みながら、これまでのパーティーでされてきたことを語った。
「新人をこき使って放り出すパーティーに、初心者パーティの報酬を掠め取る魔法使いか……」
はぁー。と、渋い顔をしてコーザワさんは大きなため息をつく。
そして、ギョーザを包む手を止める。
「そんな奴らが野放しになったまま、ギルドからのフォローもねぇとは……。すまねぇ、シワラの嬢ちゃん」
コーザワさんが私に頭を下げた。
「いえそんな、頭を上げてください! 問題があるのは、その冒険者の人たちのやり方で!コーザワさんが頭を下げる必要はないです!!」
いきなりトップクラスの冒険者に頭を下げられてアタフタしてしまう。
顔を上げたコーザワさんは、苦虫を噛み潰したような顔を崩していなかった。
「好き勝手する冒険者を管理できてねぇギルドが問題なんだがな……。今のギルドの運営者……ギルドマスターは、昔の俺の仲間だったんだよ」
「コーザワさんの元・パーティメンバーだったんですか……?」
「あぁ。俺は今は1人で冒険しているが、昔はパーティを組んでいたんだ。その時に仲間のだったのが、ラダエイって名前の男でよ。あるときに怪我をして冒険者稼業を続けるのが難しくなっちまったんだ。そこを先代のギルドマスターに誘われて、冒険者ギルドの運営に関わり始めたんだ。先代が退いた後で、ラダエイが現在のギルドマスターに就いた」
ほえー。凄い人のパーティメンバーも凄い人でしたね。
「ラダエイがギルドマスターに就いた当初は良かったんだぜ? 元・冒険者だったからな、実際に働く冒険者に寄り添ってギルドは運営されていた。ベテランから初心者まで、誰でも冒険を続けられるように、ギルドで面倒を見ていたんだ」
コーザワさんは、懐かしむように笑う。
「アイツは……『困っているギルドへの依頼者達を助けるのはもちろんだが、居場所がなくて、弾き出された冒険者の受け皿にもなりてぇ』と、いつも言ってたよ。冒険者の中にはどこにも行くアテのねぇ訳ありの者も居るからな。そいつらが生きていくための場所を作りたい、ってな」
「いい話ですぅぅ」
そんな話を聞くと、ちょっと泣けてくる。
「ギルドは色んなヤツの集まりだからな。シワラの嬢ちゃんが遭遇したような例も昔からあったんだがよ。揉め事が起こるたびにギルドが介入して収めていた。不正行為を働いた冒険者は処罰されてな。昔は公平を保つように組織は回っていたんだ」
私は、パーティメンバー募集に書かれていることと、違うことをさせられたり、報酬取り上げられたりした。
イブキさんに言われて報告はしたけれど、ギルドから相手に処罰が下されたという情報はない。
単に私の運が悪いからかなー、なんて思ったりしたけど……。
「昔と今とでは、ギルドは変わってしまったのですか?」
「冒険者ギルドがおかしくなってきたのは、今のギルドのナンバー2に当たる副ギルド長が来てからだな」
ギルドのナンバー2の副ギルド長が来た経緯をコーザワさんが教えてくれた。
もともと冒険者ギルドは、余裕のある経営ではなかったが、ある時ギルドの金を横領して逃げた者が現れた。
それで、冒険者ギルドは大きな借金を抱えてしまった。このままでは、ギルドが立ち行かなくなる。
そんな時に借金を抱えたギルドを立て直すために現れたのが、現在のナンバー2になるのスージマという男だった。
スージマは冒険者出身ではなく、旅芸人一座の興行主だったという経歴の持ち主だった。
旅の警護で世話になった冒険者ギルドの恩に報いたいと、ギルドの一員として働きだす。
スージマは、上位クラスの冒険者たちの活躍を元にした台本を作り、旅芸人たちに歌劇をあちこちで開催させ、それを広告塔にして人や依頼を集めるようになった。
広告塔としてだけではなく、大衆人気が出た冒険者たちの写し絵や名を冠した商品も販売し資金を得ることもやった。
劇の効果で依頼が増え、依頼料の一部割合がギルドの懐に入る。依頼をこなす冒険者も増える。
そして、歌劇を催すことで興行収入という新たな収入源を切り開き、ギルドの財政を潤した。
さらにその功績から、スージマはナンバー2の副ギルド長という立場になり、組織の制度を見直し大胆にコストカットしてギルドを立て直したのだった。
「歌劇は私の村にも来ていたことがあるので知ってます! あれで、子供たちはみんな冒険者に憧れるんですよねー」
「劇は娯楽として楽しむもんだ。誇張されすぎて現実とは全く違うもんになっているのによ。アレを間に受けて痛い目を見る冒険者が、最近多くてかなわん」
「あははー。ソウデスネー」
実のところ、私も歌劇がキッカケで冒険者になった面もあるので笑って誤魔化す。
そして、実際に冒険者になって大変でしたしね。歌劇は華やかですけど、実際の冒険は『危険』『汚い』『きつい』ですから……。
「貴族や富裕層の間で、冒険者の適性がない者が冒険者を同行させて冒険者になりきって旅をする娯楽も流行しているみたいですよね」
「まったく、金持ちは何を考えてんのか分からねぇ。冒険は娯楽じゃねぇ。仕事だ」
たまーに冒険者ギルドで見かける、ベテラン勢に混じったやたら小綺麗な感じの冒険者は『なりきり冒険者』だったのかな。
実際の依頼を受けるワケじゃないから、子供のごっこ遊びみたいなものだろうけど。実際にお金を掛けて冒険者を雇うのは、なんかすごい。
「上級依頼を1人でこなすコーザワさんも歌劇の題材になりそうだね」
「わわっ!私、コーザワさんの冒険劇も見てみたいです!」
「イブキの兄ちゃんもシワラの嬢ちゃんもやめてくれ。俺にも話が来たが断固拒否したんだ。あちこちで『あの劇の人だ』なんて言われてみろ。鬱陶しいことこの上ないだろ」
心底嫌そうに顔をしかめるコーザワさん。
まぁ、目立ちたくない人もモチロンいますよねぇ。
「でも話を聞くと、ナンバー2の副長は随分とやり手の人みたいですね」
「金を稼ぐことに関しては、な。だけど、副ギルド長は冒険者や依頼者の立場になって物事を見るということをしねぇ。『コストカット』だとか言って、必要なモンまで削っちまってんだ」
「その弊害が、今の問題のあるパーティーや冒険者が野放しになっている現状だね」
イブキさんが静かに言った。
「冒険者志望が増える一方で、人件費削減で事務や裏方の人数が絞られて、パーティ内のトラブルのフォローまで手が回っていないようだよ」
「金持ちの『冒険者ごっこ』にもギルド人員を割かれているのによ!そのせいで、本物の冒険者の補佐が出来ねぇってのはどういうことだって話だ」
えぇー? お金持ちの娯楽で私たちにも影響が出ているの!?
なんてことだ……。
「割を食ってるのは新人や、口下手で事を荒立てることをしない大人しい冒険者たちだ。そいつらが不当な扱いをされていようとも、ギルドは見て見ぬフリだよ。今のギルドが大事にするのは、金になる依頼をこなせるか、世間に顔が売れてるか、副ギルド長に媚を売るのが上手い一部のヤツらだけってな」
「それだと……真面目に仕事をこなしている人たちが、報われないです」
自分の過去を思い出して、キュッと胸が苦しくなる。
「そうさ。それで、真面目にやるのが馬鹿らしくなったヤツが不正に手を染めたりな。嫌気がさして、冒険者から傭兵に転向する奴も出てきた。ギルドを離れて金持ちが直接雇うお抱え冒険者になった奴もいる」
イブキさんがため息をつく。
「ウチに来てくれたお客さんでも、理不尽な目に遭って冒険者を辞めてしまった人がいたよ。何事にも真摯に向き合うな人だったから、余計に辛かったんだろね」
作業の手を止めず、棒でコロコロとギョーザの皮を伸ばしながらイブキさんが話る。
「目立たなくてもこの世の中には必要なことはあるんだ。『英雄』は華々しい活躍をする冒険者だけではないよ。真面目にコツコツ仕事をこなす『謳われない英雄』を蔑ろにする組織は長く持たないだろうね」
あ……『謳われない英雄』って、私が持っている隠しスキル『座敷わらし』の本来のスキルの名前だ……。
イブキさんは私に向かって微笑んだ。
「いいこと言うじゃねぇかよ、イブキの兄ちゃん!」
コーザワさんがイブキさんの背中をバチンと叩いた。
「痛ぁっ! 何するんですか、コーザワさん!」
「明日、ギルドマスターに活入れてくるわ。トップがしっかりしろってよ! 能力鑑定機の話もついでに付けてくるぜ」
「ついでじゃ困るんですけど、お願いしますよ」
「分かってるって!」
さっきまでの重い空気が和らいだ。
今の話の中で感じたけど、コーザワさんは冒険者全体のことを考えている冒険者みたい。
ギルドマスターも昔はそうだったって言ってたから、話し合いでギルドのやり方を考え直してくれるといいな。
「さて。お話している間に作った餃子の皮も貯まって来たので、二人ともジャンジャン包んでくださいね」
「その前に、イブキさん。コーザワさんが叩いたせいで、背中が小麦粉だらけになってます」
「……コーザワさん?」
「あ、スマン」




