頼もしい助っ人
次から次へとくる人を捌いていく。昼過ぎには売店の商品がほぼなくなり、夕方には鑑定のお客さんも落ち着いた。
まさかここまで大盛況となるとは思わなかった。
「予想を遥かに超える客入りだったからびっくりしちゃいました」
「数日中に、ドーメキさんに発注したセルフレジが届くからね。それで商品の会計の手間は減るよ。あと、臨時のアルバイトも入れようか」
せるふ、れじ?
よく分からないが、会計作業を肩代わりしてくれる物のようだ。それが届けばお客さんを待たせずに済むかもしれない。
「おうおう、千客万来。イブキの兄ちゃん調子がいいみたいじゃねぇか。いつもの頼むな」
カウンターにお酒を飲みに来た冒険者さんが、私たちに話しかける。
詰めかけたお客さんたちを整理してくれた冒険者さんだ。
「今日は手伝ってくださりありがとうございました。本当に助かりました」
私はカウンター内からお礼を言う。身長が足りないため、踏み台に乗ってぺこりを頭を下げる。
「いいってことよ。俺ぁいつもここに世話になってんだからな」
「そんな。コーザワさんにはこちらがお世話になっているじゃないですか」
「お知り合いですか?」
宿の常連さんかな? くらいに思っていたのだが、イブキさんの様子を見ているとどうも違うようだ。
「改めて自己紹介といくか。俺は、コーザワっていうんだ、よろしくな嬢ちゃん」
「コーザワさんは僕が王都に来てからの付き合いでね。右も左も分からなくて困っていた時に助けてくれて、この宿を借りるときにも保証人になってくれた恩人なんだ」
「その代わりといっちゃなんだが、王都に滞在するときにはタダでここに泊まって飲み食いしてるからよ!」
そう言いながら、コーザワさんがイブキさんからジョッキを受け取りお酒を煽る。
「後先考えずに金を使っちまうから、財布はいつもスキマ風が吹いてるぜ。当然、王都の滞在費なんて持ってなくてな。この宿がなかったら野宿よ」
「あはは……そうなんですか」
イブキさんの恩人はかなり大雑把な人らしい。イブキさんの保証人になる時には、大丈夫だったのだろうか。
会話をしている間に焼き上がった串焼きをイブキさんがコーザワさんの前に並べた。
「お、この串焼きウマいなー。嬢ちゃんが捌いたのかい?」
「はい。私が鳥を捌いてイブキさんに教えてもらって串に刺して『ヤキトリ』にしてみました。いま召し上がっている部分は尾羽の付け根の、えっと『ボンジリ』ってヤツです」
魔法樽は簡単な野菜を切ったりは出来るが、まだ複雑な肉を捌いたりはできない。
そのため、塊肉で使うのではなく細かく部位ごとに使うものは私が裏で捌いている。
「見てると冒険者の扱いに慣れているようだったが、嬢ちゃんは冒険者だったのかい?」
「いえ、現役の冒険者です。私もコーザワさんと同じく路銀が尽きちゃったのでしばらくここでお世話になっているんです」
「そうか職種は『荷物持ち』ってとこか」
「!? よく分かりましたね!」
私が小柄なところから重いものが持てるドワーフと目星をつけたのかもしれないが、それでも一発で当ててくるとは。
「手のひらに硬ぇタコがある。剣を振るうヤツや前衛で戦う奴らとはまた違う、重い荷物を持つやつに出来るモンだな」
そんなところで見分けるなんて、もしかしてこの人タダ者ではない?
訝しんでいる私に向かってイブキさんが言った。
「コーザワさんは、王都の冒険者ギルドでもトップクラスの冒険者だよ」
「えっ!?」
「んな大したものじゃねぇって。一人旅のついでにギルドの依頼こなしてるだけだよ」
「しかも、単独で冒険してるんですか!?」
トップクラスということは、上級の討伐や上級ダンジョンに潜ることもあるのだろう。
あれを1人でクリアするとは……世の中にはとんでもない人がいるものだなぁ。
「一時的にパーティを組むこともあるけどな。1人の方が気が楽なんだよ。ギルドからの仕事を請け負ってるのも旅費の工面と他国に入るための身分証明が必要だったからでよ」
「冒険者ギルドだけでなく、商業、工業ギルドでも所属するものに対してギルドが一定の責任を負いますからね」
確か、冒険者は依頼の達成に責任を持つ。その代わり、ギルドも冒険者に一定の責任を負う。
みたいなことが書いてあった書類を見た覚えがある。それに冒険者登録する時にサインした。
他の地域に行く時も『冒険者』という身分があることで比較的に出入りがスムーズだった。
「さらにコーザワさんはギルドの上位の冒険者ということで、ギルドのからの信頼がある。だから何かあったらギルドが後ろ盾になってくれるんだ」
「そうそう。だからイブキがここを借りる時にギルドをダシにして、金がねぇ俺でも保証人にもなれた」
コーザワさんはそういうと、わっはっは。と笑いながらお酒を飲んだ。
なるほど、保証人になれたのはそういうことでしたか。
それにしても、下っ端の私からしたら雲の上の人だなコーザワさん……。
「だからよ。何だかんだで、関わったこの『緑の風』が賑わってくれると嬉しいんだ。それにしてもよ、イブキの兄ちゃん」
そういって、コーザワさんは振り返って置いてある『魔法樽』を指差した。
今日も活躍したドーメキさんが作った『宿の受付』と『能力鑑定』ができる新作だ。
「あの『鑑定』ができる置き物は、一体全体どういう仕組みになってるんだ?」
「あれは『魔法樽』と言いまして、魔法や能力の一部をコピーして使える機械なんです。僕の『鑑定』能力をコピーしてこの国の言葉に訳してコーザワさん達にも読めるようにしてもらいました。『鑑定』だけでなく、『鑑定』を応用して『宿の受付』もできるようにしたのが、そこに置いてある物です」
「ほー、そうか」
しばらく、コーザワさんは考え込むように黙った。
「いっそのこと、魔法樽を冒険者ギルドに置いたらどうだ? あれ目当ての客も来るから店が混雑するんだろ」
「! それはいい考えですね! そうしましょうよ、イブキさん」
「俺がギルドに話を通しておくから、もう何台か用意できるか」
さすが、トップクラスの冒険者。ギルドには相当顔が効くらしい。
「……用意できますが、そうすると他に『鑑定』をやっている店の売上に支障が出ます。反対の声も出るかと」
イブキさんは、心配そうに言う。
「そもそも、『物品鑑定』はともかく『能力鑑定』は出来るヤツが限られているから鑑定士の負担軽減にもなるだろ。冒険者も長蛇の列に並んで高い料金取られてみんなウンザリしてんだ。ギルドに『鑑定機』があったら冒険者は両手を上げて喜ぶぜ」
私も心の中で「そうだそうだ!」と相槌を入れながら、大きく頷いた。
「ギルドの隣のボッタクリ鑑定店は気にするこたぁねぇよ。イブキの兄ちゃんの『鑑定』で、アイツらの鼻を明かしてやれ」
アイツら?
イブキさんの顔を見上げると、少し複雑そうな顔をしていた。
「イブキの兄ちゃんはな、最初はギルド横の鑑定店で働いていたんだよ。イブキの『鑑定』は周りの奴らと少し違ってな。疎まれて、店から追い出されてちまった」
「僕は王都に流れ着いたどこの馬の骨とも分からない人間だったからね。『鑑定』の結果も疑われてしまったんだよ」
「なんてことをするんですか! その店は!! 冒険者ギルドでもちゃんとイブキさんの『能力鑑定』書類は通りましたよ!」
「全くだ。そんでな、それを知った俺が「自分で店を出せ」ってけしかけて、イブキの兄ちゃんはここに店を構えたんだよ」
そんな経緯があったことにびっくりしたのと、イブキさんへのあまりの仕打ちへの怒りで感情が混ぜこぜになっている。
「わかりました! 私が明日ドーメキさんにギルド用の『能力鑑定・魔法樽』の発注を掛けてきます! 止めても無駄ですよ、イブキさん!!」
「止めないけど、それは自分でやるからシワラちゃん! しかし、ドーメキさんの所に行くのにまとまった時間を作らないといけないけれど、今日みたいな忙しさだとな……」
むぅ……。と2人で考え込むこむ。私は忙しいのには慣れているが、さすがに今日のお客さんの量を1人ではこなせない。
会計が出来る、セルふれじ? とやらも、届くまでに数日かかるようだし。
「なんなら俺が手伝ってやろうか? しばらく王都に留まる予定だしよ」
「いえいえ、コーザワさんには何から何までお世話になっているのに。そこまでは……」
「構わねぇって、水臭いことを言うなよ。保証人だからって、いつまでもタダで飲み食いするわけにはいかねぇ。嬢ちゃんもいいだろ?」
「はい! 是非ともお願いしたいです!」
今日だって見事にお客さんを並ばせて、文句が出ても諌めてくれた。
心強いことこの上ない。
ふう。とイブキさんが一息つく。
「コーザワさん。くれぐれも宿の備品は壊さないでくださいね」
「んじゃ、決まりだな! 酒とヤキトリのおかわり頼むぜ!」
「はーい!」
こうして、宿の従業員に『コーザワ』さんが加わりました。




