お仕事が……
「イブキさん、お届け物でーす!」
「あれ? シワラちゃんがドーメキさんの荷物も持ってきたの?」
カウンターの奥から顔を見せたイブキさんは、ドーメキさんと荷物を担いだ私をみてちょっとびっくりしていた。
「ここへの道すがら、押し車が壊れて困っていた所をシワラ嬢に助けてもらったのでござる」
「そうなんだ。ご苦労さま、シワラちゃん。ドーメキさんの荷物は窓辺のそこに置いてくれる? 食材は一旦、カウンターの上に並べて置いて」
「了解です。ここに置きますね、っと。えへへ。いいトレーニングになりましたー」
梱包された荷物を指定された場所へそっと置いた後、背負っていたリュックから食材をカウンターの上に並べる。
カウンターから、出てきたイブキさんはドーメキさんにお礼を言う。
「ドーメキさんもありがとう。新しい発明品を楽しみにしていたんだ」
「いやいや、今回の作品は拙者も作り甲斐がありましたとも」
二人が、荷物の梱包を解いていくと、何やら縦に伸びた大きな四角い箱のような物体が現れた。
「魔石はセットしてありますので、すぐに使える状態ですぞ」
「ふふふ。これは、お客さんびっくりするね」
何やら、コソコソと楽しそうなイブキさんとドーメキさん。
「その四角い物体は何に使うんですか?」
「ちょうどいいや。シワラちゃん試してみてよ。ドーメキさん、起動をお願いします」
「了解ですぞー。ささ、シワラ嬢。この部分に手を置いてみてくだされ。置きましたら、しばらくお待ちを」
イブキさんがカウンターの後ろから踏み台を持ってきてくれた。
それに乗って、箱を上から見ると、手の形が描かれた部分がある。ここに手を置けということだろう。
触れてみると物体の上部に透明の薄いガラスのような板が出てきた。……そして、
『いらっしゃいませ。ようこそ『緑の風』へ。ご利用になるサービスをお選びください』
「箱が喋ったーー!?」
何やら固い声が箱から声が聞こえてくる。
え? 中に何か居るの!???
「いやぁ、良い反応をしますなシワラ嬢。渾身の自動音声機能、作ったかいがありましたぞ」
「本番は、これからだよシワラちゃん。それと中に人はいないから安心してね」
私の反応をみてニコニコしている、二人。
えー、何ですかこれ。
と箱の上に表示された透明な板には、箱が喋ったのと同じ言葉が並んでいた。
その下には、何やら『鑑定』と『宿泊』と表示してある。
「うわわ。選んでくださいって、どうしたらいいですか?」
「最初は、こっちを試してみようか」
イブキさんの手が横から伸びてきて、透明な板に表示された『鑑定』という文字に触れる。
そして表示されたのは、私の名前、年齢、生年月日、性別、能力、特性値……。
あれ? これ、どこかで、よく似たものを見たような?
「イブキさんの能力鑑定?」
そうだ。これは、イブキさんに能力鑑定をしてもらった時に見たものにそっくりなのだ。
だけど、今回は私にも文字が読める。前回見たときは私には読めない文字が表示されていた。
「そう、僕の『鑑定』の能力をコピーしてもらった魔法樽なんだ」
「イブキ殿の故郷の言語を翻訳して我々にも読めるようにしたのでござるよ。そして、シワラ嬢。ここの表示に触れてみてくだされ」
空中に浮かんだ文字に『印刷』とあったので、触れてみる。
ウィーン、ガシャ。
触っていた魔法樽の内部から音がして、前部に取り付けられた四角い穴から紙が出てくる。
「はい、これ。シワラちゃんの能力鑑定書」
イブキさんが手渡してくれたのは、印刷された私の能力鑑定書だった。
「えっ! これだけで能力鑑定ができちゃうんですか!?」
「もうすぐ、ギルドでの冒険者の登録更新があるでしょ。印刷したこの紙を持っていけば通るよー」
冒険者ギルドに登録している者は、3年に1度のペースで登録している情報の更新が必要だった。
依頼をこなしていると、新たなスキルを身につけたり、特性値が変わっていく。
そのため、定期的に能力鑑定書を持ってギルド行くよう冒険者に義務付けられていた。提出された情報を元にギルドは、冒険者たちに適材適所になるよう依頼を振っていく。
ただし能力鑑定にかかる費用は冒険者持ちなので、その出費がなかなかの悩みのタネだったりする。
「お金は払います! いくらになりますか!?」
『緑の風』で働いたお金は日払いで貰っている。大通りに面した鑑定所の料金は流石に払えないけれど、前回私がイブキさんに頼んだ時の金額なら払えるはずだ。
「あ、そっちはまだ決めてなかったや。そうだなぁ……僕が直接鑑定する料金の半分でいいか。ドーメキさんあとで料金設定をお願いします」
「そちらの設定をうっかり失念しておりましたなぁ。あとで、調整しますぞ」
値段を決めてなかったって、商売する気あるのかな。この人たち。
っていうか、価格をふんわり決めてますけど……
「いやいやいや、いくら何でも安すぎませんかっ!?」
ただでさえ、イブキさんの鑑定料金は格安なのにその半分の価格にするなんて。
大通りに面したギルドの隣の鑑定所の料金に比べたら、50分の1くらいになるんじゃないの???
「ギルドの横の鑑定所は、場所代と人件費と技術料があるからねぇ。さらに冒険者ギルドへ見返りとしていくらか渡しているから高額なんだ。これは魔石と印刷費用の元が取れればいいんだよ。それに、鑑定の機能はオマケみたいなものだし」
「オマケ……?」
「ふっふっふ……。シワラ嬢、この魔法樽の真価は『能力鑑定』のみにあらず。こちらの表示に触れてくだされ」
『宿泊』という表示を押してみる。
『いらっしゃいませ。シワラ様。ただいま利用料金はこのようになっております。何泊のご利用ですか?』
またまた、箱から固い声が話しかけてきた。
「喋った! 何で私の名前知ってるの!?」
「これにコピーされている僕の『鑑定』能力で、触れている対象の情報を取得してるんだ。んー、とりあえずは『1泊2日』で」
『承知しました。部屋番号はこちらになります。料金はここに入れてください』
箱が喋ると、ウィーン……と音がして箱の上部が空いた。
「ここにお金を入れるんだ。お釣りと領収書が下の部分から出てくるよ。計算しなくていいから楽でしょー」
ニコニコとイブキさんが説明してくれる。
すごい……仕事がどんどん魔法樽に置き換わっていく。
そうなると、私がやるべきことは。
「あ、じゃあ部屋の鍵を私が受付で渡せばいいんですね」
「それもいらないよ」
「え?」
部屋の鍵がいらないってどういうこと?
「今回シワラ嬢が『緑の宿』へ訪れる前に部屋の扉の改修を行なっておりましてな。この魔法樽で受付を済ませれば、扉で利用者の認証を行いまして触れるだけで鍵の開け閉めができる仕組みですぞ!」
ドーメキさんが胸を張ってドヤ顔で説明してくれた。
「……え?」
「これで受付にかかる作業時間は、一気に短縮できますぞ。動作不良に備えて鍵穴も残してあるので、今まで通り物理鍵での開け閉めにも対応しておりますからご安心を」
「いやー、ドーメキさんのおかげでどんどん楽できるよねー。ドーメキさん、天才かー」
「はっはっは。イブキ殿のアイディアがあってこそですぞー」
えっ、えっえっえっ……?
二人は和やかに褒めあってるけど、私の心境は穏やかではない。
今のやりとりからするとですね、どう考えても。
「私の仕事無くなっちゃうーーーー!?」




