発明者
「ははぁ、なるほど……シワラ嬢も『緑の風』のイブキ殿にお世話になっておるのですね」
やはり、道の真ん中で困っていたもじゃもじゃ頭さんは魔法樽を作ったドーメキさんだった。
宿屋『緑の風』へと荷物を運ぶ道すがら、ドーメキさんにこれまでのあらましを語った。
イブキさんの能力鑑定を受けたこと、パーティ追放のたびに『緑の風』に訪れていること、今回は追放されて路銀に困っていたところを宿で雇ってくれたことなど。
ただ『座敷わらし』の能力については、秘密にしておかないといけないので伏せておいた。
「拙者も彼には大変お世話になっておりますぞ。誰も見向きもしなかった拙者の発明品の話に耳を傾け、魔法樽に新たな役割を与え買い取ってくださり、売り込むことにも協力してくれた恩人でござりまする」
ドーメキさんはちょっと独特な喋り方をしながら、感慨深そうに何ども頷いた。
「イブキ殿はとても興味深い人物ですな。彼の発想は、私に刺激と創作意欲をもたらしてくれます。今度は家事作業だけではなく遠距離での通信網にも魔法樽を活用できないかと提案を受けて、構想を練っているところでありまして……」
「あっあの、ドーメキさん! どーして、イブキさんはあんなに親切なんですかね!」
私には理解できない方向へ話が飛びそうだったので、別の話題を振ってみる。
「私を泊まり込みで宿のお手伝いに雇ってくれてますけど、よく考えたら宿の近くで人を探せばいいだけですよね。私のために部屋を1つ無駄にせずに済みますし」
「確かに。その話を聞く限り、イブキ殿のメリットは少ないようですなぁ」
うぐっ。
自分から話しておいて何だけど、『私を雇うことにメリットはない』スッパリ言い切られて、ちょっとイブキさんに申し訳なくなる。
「あぁ、シワラ嬢。気にすることはないですぞ。イブキ殿は自身に利益がなくとも、あちこちの者に対して手を貸しておりますし」
「そうなんですか……。でもどうして私たちに、そこまで肩入れしてくれるんでしょうね」
アゴに手を置き、どこか遠くを見ながらドーメキさんは言った。
「拙者、イブキ殿に質問したことがあるのですよ。なぜ、利益になるとは思えぬ赤の他人にそこまでするかと」
「イブキさんは、なんて言ってました!?」
荷物を落とさないように前のめりの姿勢で答えを待つ。
「その時、イブキ殿は『情けは人のためならず』と、答えていました」
私は初めて聞く言葉だった。
「えっと? 情けを掛けることは、その人のためにならない?」
「いいえ。『誰かにした親切は最終的には自分に返ってくる。だから見返りなどは求めない』という、イブキ殿の故郷の諺らしいですぞ」
「親切は返ってくる、ですか。ドーメキさんは発明品でイブキさんの役に立っているけれど、私はどうかなぁ」
見返りを求めないとはいえ、イブキさんがドーメキさんを助けた結果、魔法樽が出来てそのおかげで宿の作業の負担軽減になっている。
私も、いつかイブキさんに返せるのかな?
「単純にイブキ殿は、シワラ嬢を応援したいのでしょう。何でもイブキ殿の故郷には『推し活』なるものがござるそうです」
「オシカツ?」
何だろう、押して勝つ?
「確か、見返りがなくとも気に入った者を応援することで活力がみなぎるとか。なので、シワラ嬢が元気でいればイブキ殿は満足やもしれませぬぞ」
「へぇぇぇ。イブキさんは人間に見えたけど、そういう種族なんですかねぇ。そういえば、イブキさんの故郷ってドコなんでしょうね?」
「さぁ、拙者もわかりませぬ。あのような独特な文化の国を一度尋ねてみたいものですが」
ドーメキさんも知らないのか……。
イブキさんの口からは、聞いたことのない言葉や風習がよく出てくる。
てっきり、田舎者の私が知らない国や地域のことなのかと思っていた。しかし、冒険中、あちこちの土地を訪れてもイブキさんの故郷らしき所はなかったし、そんな国の話や同じ出身と思われる人物に遭遇することもなかった。
「拙者、一度だけイブキ殿の出身はどこなのかと尋ねたことがありましたが、答えてもらえませんでした。ただ、その代わり『もう帰れない場所』だと」
「『もう帰れない場所』……ですか」
戦災で故郷を失ったのか、はたまた事情があって逃げてきたのか。
もしかして、追放されたなんてことも……?
「ここ王都には、身寄りのない者も集まってきますしなぁ。あれから拙者、イブキ殿の生まれ故郷は何処かと尋ねぬようにと抑えているのでござるよ」
「私も、これからそうします!!」
イブキさんの故郷……気にはなるけど、触れないようにしておこう。
「ただ、イブキ殿の国の文化風俗には興味がありますゆえ、その辺りはどんどん詮索していきますぞ!」
ドーメキさん。そこは、抑えないんだ……。




