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天国でのうのうと暮らすより地獄を這いずり回って生きていきたい。  作者: 灰色 シオ
「天国でのうのうと暮らすより地獄を這いずり回って生きていきたい。」外伝 「太陽の子」
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Ex4 夫婦

 理不尽な暴力により住み慣れた土地を追われ、海の果ての小島に流れ着いた海神の一族。彼らは屈辱に甘んじることなく自らの手で未来を切り開くことを選択しました。

 準備を整えて臨んだ冒険でしたが、すべてがうまくいくわけではありません。数々の苦難に立ち向かい、あるときは戦って打ち破り、あるときは和して難局を乗り切ります。

 海神族の王子ヒルコは偶然出会った謎の人物ユヅルや仲間たちと力を合わせて打ち勝ち、自らも成長していきます。

 そんな王子の冒険と成長の物語。

「ゆーくん……わたしたち夫婦になっちゃたんだ」

 祝宴を終え、小屋に戻ったところでヒカリが(つぶや)いた。


 ユヅルが作った剣、布都御魂剣(ふつみたまのつるぎ)のお披露目は成功裏に終わった。褒美として結弦たちは一族入りを認められた。だが、それは綱渡りでもあったのだ。


 ユヅルは一族入りの誘いに妻ヒカリと条件を付けた。

 許嫁(いいなずけ)と紹介したヒカリを妻と呼んだことは、一族の子女からの嫁取りを断ったも同然だった。一族の重鎮は許嫁ならいつでも覆せると考えていたようだった。この半年でユヅルの与り知らぬところでヒカリも価値を上げていた。


 勉学においてヒカリは特筆するところはない。前の時代でも勉強はあまり得意ではなかった。だが、勘が鋭かった。

 かつては軍神毘沙門天(びしゃもんてん)の眷属であり、閻魔(えんま)預りになってからも月夜叉(つきやしゃ)としての本能が絶妙に危機を回避させていた。それに加えて今は月光菩薩(がっこうぼさつ)の加護もある。その直感で何度もアハシマを危険から救っていたのだ。


 うかつに触れたら危険な(うるし)毒茸(どくきのこ)から遠ざけ、猪や熊など危険な動物の気配を察知し、海が荒れることを見抜き守るべき(あるじ)を危険から遠ざけた。その結果が、客分の立場でありながら長の娘であるアハシマの侍女の立場であった。

 その信頼はアハシマ周辺だけではなかった。(すなどり)に出る男衆からも出航前にはヒカリに漁の無事や狙いどころを尋ねてくるほどだった。


 正直、ユヅルも驚いていた。

 かわいいだけの女ではないと思っていたが(贔屓目(ひいきめ)にもほどがあるが)、今は只人(ただひと)であるヒカリがここまでの能力を持っているとは思っていなかったのだ。


 つまりはユヅルの目論見が成功したのは、ユヅルだけの価値ではなく、ヒカリも一族から手放せないとの評価を得たためのものであった。

 血縁を結ばずとも一族入りを受け入れるならよしとする空気が出来上がっていたのだ。それはユヅルだけの評価ではなかった。


「ヒカリを守るため……いや、オレがヒカリを独り占めしたかった。もし、ヒカリに一族の将来有望な男子を紹介されるようなことがあったら……オレは平静ではいられなかった。それがヒルコ様だったとしても、オレは許せなかった。たとえ元の時代に帰れなくなったとしても、オレは海神(わだつみ)と決別しただろう。

 それは別の部族に身を寄せても同じことになる。オレはこの時代に逆らってもヒカリ、お前だけを愛してる」

 ユヅルの一世一代の賭けもヒカリにはピンとこなかったようだ。

「それはうれしいけど、ゆーくん自身が大王になる選択肢もあったんじゃないの?」

「そんな怖いことを言うなよ。できないとは言わないけれど、その結果、オレたちの子孫が今の日本に君臨しているだなんて考えたくもない」

「別に今が嫌だなんて思ってないよ。アハシマちゃんはかわいいし、慣れればこの時代も悪くない。わたしは今のままで幸せだよ。ゆーくんが側にいてくれるから」


 だが、幸せ絶頂のユヅルをヒカリの言葉が打ちのめす。

「でも夫婦になったらするんでしょ。夫婦の営みってやつを」


     *


「まったく男ってやつは汚らわしい。我が娘ヒルコに親しんでおきながら……あら、ヒルコちゃんは男の子よね。ああ、あの男の伴侶は黒闇(くろやみ)じゃった……黒闇は4千年後の娘じゃった……なら4千年後に黒闇と結ばれれば問題はない……のかしら?」

「なにをぶつくさ言っておる。ささ、早ようこちらへ来い」

 子孫に出会ったことで未来の記憶を思い出したイザナミは混乱していた。自分はあの男と別の娘を祝福していたはずなのにと。

 それを知らないイザナギがイザナミを(ねや)に誘う。


「我ら海神は一族を増やさなければならぬ」

「一族の繫栄はわらわも望むことです。ですが、義務のために体を開くのは女として納得できませぬ」

「すまんかった。じゃが、(わし)が好いておるのはお前だけじゃ、イザナミ」

「うれしい。今だけは信じますよ」


 女の産める子の数などたかが知れている。百人も千人も産めるわけがないのだ。だから一族を増やすために(おさ)(めかけ)を持たなければならない。征服した族の姫を犯し、子を産ませるのは長の義務だ。そこには愛情の有無は関係ない。その子を一族の将として育てれば征服された族も忠誠を誓うようになる。そうして一族は大きくなっていくのだ。

 だが、長の地位は正妻たるイザナミの腹から生まれた子に限る。そうでなくては一族の秩序が保てない。


 海神はこれからも大きくなっていくだろう。そのときヒルコを補佐する一族のものは妾腹の兄弟たちが多数含まれるだろう。それはしょうがないことだ。わらわが産める子の数は限られている。だが、これから伸張していく海神の一族にはもっとたくさんの子が必要なのだ。


     *


「ゆーくんのいくじなし」

 ヒカリの糾弾(きゅうだん)に返す言葉もないユヅルであった。

「だってヒカリはまだ中一だろ。去年まで小学生だった娘とやるのは……」

「ゆーくんだって高2じゃん。4歳差のカップルなんて普通じゃん!」

「大人だったらな。子供の4歳差って大きいんだぞ」

「体はね。わたしはゆーくんと同じ生まれ年だから、精神年齢は18歳ですぅ」

「死んでた間は精神だって成長してねえだろ。だからヒカリは子供のままなんだよ!」

「なによ! ゆーくんはちっちゃな女の子が好きだからこの年齢の体にしてもらったのに」

 完璧なボディブローが炸裂(さくれつ)した。

 ユヅルは膝から崩れ落ちた。


「そうじゃない。そうじゃないんだ、ヒカリ。確かに光月(みつき)はかわいいよ。でも、オレが愛していたのは光月がヒカリの生まれ変わりだからだ。光月がオレに懐いていたのもヒカリの記憶を受け継いでいたからだ。別に幼女ならだれでもいいわけじゃないっ!」

 墓穴であった。


「なら、わたしならいいんでしょ?」

「ふざけるな! だいたいヒカリはこの間、中学に上がってから生理きたばっかじゃんか」

「何で知ってるのよ!」

「オレも家族と一緒に赤飯食ったからだよ!」

 ……


 家族ぐるみで兄妹(ヒカリは姉弟と言い張るが)同然に一緒に育てられたユヅルとヒカリに隠し事などほとんどない。


「マジで初潮のお祝いで赤飯()く習慣なくしてほしい……」

「激しく同意する……」

 あれは付き合わされる方も大変気まずいのだ。


 結局、することはせずにいつも通り二人で抱き合って寝ることとなった。

 いつもと違う空気に反応したユヅルの体にヒカリが手を伸ばしたが、ユヅルにガチギレされたのは二人の初夜の秘密である。


     *


 その夜、アハシマはなかなか寝付くことができなかった。

 いつもは無邪気な子供として元気いっぱいに一日遊びまわって力尽きるかのように眠りにつくのに今日に限っては眠くならなかった。


 理由はわかっている。

 今夜はヒカリがいないからだ。


 今日、ヒカリは結婚した(式はまだだけど)。もともとヒカリはユヅルに許嫁と紹介されていた。許嫁っていうのはよくわからないけど、将来を誓い合った仲ということだろう。ユヅルは髭もはやさず、角髪(みずら)も結っていないけれどもう18歳。一人前の男だ。

 身の丈は6尺半と大きく、筋肉も隆々としている。さらに鉄剣を切るほどの腕前に製鉄の知識まで持ち合わせている。その功績で一族入りを許された。一家を構えるだけの資格を持っている。


 だけど血の繋がらないものが、一族に加わるということはどういうことか。アハシマにもわかっていた。7歳とはいえ(おさ)の娘なのだ。

 お父様はきっと一族の娘を結弦にあてがおうと考えるだろう。その候補の筆頭はアハシマだ。その兆候はあった。何度かユヅルにアハシマの印象を尋ねることがあった。


 海神族は小さな部族だ。

 大陸から追われるように逃げてきてこの地に移って2年。わずか30名。これは大人の男の数だ。女子供は含まれない。奴婢を入れても100人足らずの小族なのだ。

 大陸での戦闘の経験と鉄の武器を持つ優位性で他部族を圧倒してきたが、数の少なさは隠しきれない。いつか数の力で蹂躙されるだろう。そうならないためにも海神は一族を増やすことが必要なのだ。


 有能な他部族の男を取り込むことが必要だ。

 その者が夫婦であったのなら、夫婦として取り込むより、それぞれに一族の者をあてがった方が効率良い。増える家の数は倍になるのだ。

 お父様ならきっとそう考える。

 だからアハシマは二人を応援しようと決めた。


 アハシマは父にヒカリと自分が仲の良いことをさりげなく伝えた。二人の絆ははっきり伝えた。あの二人を引き裂こうとしたらきっと二人はここを出ていくと。

 やがてユヅルは長である父にも口を出せないような成果を上げた。ユヅルだけではない。ヒカリも一族の重鎮から一目置かれるようになっていった。

 そして今日、鉄剣を作った功績としてユヅルは一族としてヒカリとの結婚を許された。ただ単に数を増やすこと以上にユヅルたちの存在は大きくなっていった。

そして今度は彼らを一族に繋ぎ止めることが重要になっていた。


 ユヅルはヒルコ兄さまの与力となった。そしてヒカリがアハシマの侍女となれば一族の力がお父様に集中しすぎる。貴重な技術を持つ二人をまとめてイザナギが独占することに不満を持つものが現れるだろう。

 その不満を解消するために考えられる手はアハシマを嫁に出すということだ。


 そんなことは認められない。

 だってそうなれば、せっかく応援してくれたヒカリの思いを無にすることになる。


 出会ったあの日、ヒカリは言ってくれた。

 ひまわりの花言葉は『あなただけを見つめる』。それはアハシマのための言葉だと。


 アハシマはずっと淡い恋心を隠してきた。

 それは兄ヒルコに向けたものだった。いつからその気持ちを抱いたのかは定かではないが、そのきっかけになった出来事は覚えている。生まれて初めて出会ったとき、赤子の自分を兄がみつめてくれたときからのものだとアハシマは思っている。


 忘れもしない。あの日、兄は私に言ってくれたのだ。

「ようこそ、我が妹アハシマよ。私はヒルコ、君の兄だ。アハシマノミコト、海の一族たる海神(わだつみ)の姫らしいいい名前だ。君が一族の寄る辺(よるべ)となるならば私はそれを導く太陽となろう。二人で手を取り合い、海神を導いていこう」

 アワシマを隣に立つものと認め、夢を語る言葉を聞き、アハシマは兄に一目惚れしたのだ。


 兄も同じ気持ちだ。アハシマはそう信じている。

「天国でのうのうと暮らすより地獄を這いずり回って生きていきたい。」外伝「太陽の子」をお読みくださりありがとうございました。

 ついにユヅルとヒカリは夫婦となりました。でも、やるべきことはまだのようです。それから外伝のメインヒロインであるスーパー美幼女アハシマちゃんです。アハシマと書いて”あわしま”と読みます。わずか4歳でこんなことが言えるヒルコもすごいですが、赤ちゃんでありながらそれを完璧に聞き取り、理解するアハシマちゃんも相当です。まあ、それは神様だということで納得してください。

 投稿は毎週金曜日に行う予定です。今後もお付き合い頂けたら幸いです。

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