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◇6 レストリス商会

 シモン先生の頑張りの元、着実に体調が戻ってきて、ようやく外出許可をもらうことが出来た。



「本当に大丈夫? 体調は?」


「大丈夫ですよ。マリアもいますし」



 そして今日、私はお出かけすることになった。目的地は、お花屋さん。レストリス商会が経営している植物専門のお店だ。


 実は数日前、ラミラス畑を自分で作ってもいいという許可をもらえた。だから今日はその為に必要なお花を買いに行こうという事になったのだ。


 馬車で移動するし、一緒に行くマリアは医療の知識のある侍女。だからもし何かあっても大丈夫。それに、専属護衛騎士になってくれたジルベルトも一緒に来てくれた。



「お花を買って、寄り道しないですぐ帰ってきます」


「ん~、でもやっぱり心配だわ」


「ティア、医者も許可してくれたし、ずっと屋敷の中だと気が滅入ってしまうだろう? マリアもジルベルトもいることだし、大丈夫だろう」


「あなた……そうね、じゃあ気をつけていってらっしゃい」



 お母様の言っている事はよくわかってる。心配していることも十分に伝わってる。だから無理せず、我儘(わがまま)も言わないで早く帰ってこよう。


 行ってきます、と手を振って馬車に乗り込んだ。



 馬車なんて初めて乗ったから、実はちょっとうきうきしてる。しかもこれ椅子がふわふわで座り心地が凄くいい。まぁ、他の馬車に乗った事がないから比べられないんだけど、車とかの椅子よりは断然いい。


 あ、もしかして公爵家の馬車だからかな? 流石お金持ち。


 しかも、外装もとても綺麗だったし描かれていた公爵家の家紋もカッコよかった。あれは、ライオンかな? 剣と盾が描かれていて、ライオンも後ろから顔を覗かせた家紋だった。


 きっと力と権力を表した絵なんだと思う。だって、お父様は騎士総括、アルフレッドさんは近衛騎士団副団長。きっとこの一族は強い剣士が沢山出る家なのかもしれない。才能、なのかな? なんだかごめんなさい、アドマンス家の一員なのに剣も持った事のない小娘で。



「他のお花、何にしようかな……」


「お嬢様の好きなものでいいのですよ。庭師の方も調節してくれるって言っていたではありませんか。ですから、気に入ったものを購入しましょう」



 あ、勿論(もちろん)デザインも大切ですから、それを考えて選ぶのもいいかと思いますよ! とマリアは言ってくれた。


 どんなお花がお店にあるのかな。とっても楽しみ。


 ふと、外を覗いてみると、昼間の時間だからか人がいっぱい出歩いている。けれど、私の乗る馬車を見て驚いていた。なんかちょっと恥ずかしい。



「あぁ、我がアドマンス公爵家は由緒正しく、古くから続いている由緒正しい一族です。王家の血も入っておられるので、普通の公爵家より特別な家なのですよ」


「へぇ~」



 前から凄い家だって思っていたけれど、まさか王家の血が入っていたなんて知らなかった。


 それを聞くと、改めて私は凄い家に招かれてしまったのかって思っちゃうな。



「因みに言うと、奥様は陛下の妹君でございます」


「……えっ」



 ……ま、マジですか……い、妹……いや、待って、それじゃあ、私、養女だけど……



「私って、王太子様の……」


「はい、従兄妹です」



 そんな笑顔で言わないでぇぇぇ!!


 その私の心の叫びは、マリアの満面の笑みで誰にも届かずそのまま消し去られてしまったのだった。



「あ、到着致しましたよ」


「え?」



 馬車が止まり、ドアが開かれるとすっごく大きくそびえ立つ、綺麗な建物が立っていた。


 こ、ここがレストリス商会の、お店?


 流石、この国一の商会だ……で、でも、ここ、支店なんでしょ? 植物専門の。じゃあ、本店ってどんな所なんだろう。でも、凄い所だって事は分かる、うん。



「お待ちしておりました、アドマンス令嬢」


「あ、はい」



 ここのお店のスタッフに案内され、支店の中へ。内装もとても綺麗で、他にもお客様が何人かいる。貴族の方はいないようでだから、私、結構目立っちゃってるよね。


 こちらへどうぞ、ととある部屋に招かれる。中にいた人は男性で、ようこそ、と歓迎してくれた。



「レストリス商会経営者のマテオ・レストリスです。本日はいらしてくださりありがとうございます」


「は、初めまして。アヤメ・アドマンスと申します」



 今まで貴族ではなかったから、まだまだ作法がぎこちなくてあまりうまくいかない。けれど、事情はつい先日お会いしたご夫人から聞いているみたい。助かった……


 さぁ、そちらにお座りください。と言われ落ち着いた。目の前にある大きなローテーブルには沢山の花が並べられていた。



「ラミラスを植えたいとお聞きしましたので、そちらはもう既にご準備させていただきました。他に植えたいものがあればということで相性の良いものをこちらで事前にご用意してみたのですが、いかがでしょう」


「あ、ありがとうございます」



 そこまでして下さっていたなんて知らなかった。きっとお母様から何か言って下さったのかな。


 それにしても、とても素敵なお花達が並んでるなぁ。どうしよう……ん~。


 彼は、とても丁寧(ていねい)にお花の説明をしてくれた。中には、私が日本で見た事のある、とてもよく似た花がいくつかあった。だから、説明も踏まえてその中の二つにすることにした。



「分かりました。では後日公爵邸にお送りしましょう」


「ありがとうございます」


「アドマンス公爵家にはとてもご贔屓(ひいき)にして下さっていますし、ご縁もありますから。状態の良いものをすぐにお送りします」


「あ、すみません。ありがとうございます」


「いいんですよ。話は聞いています。こちらに来て大変だったでしょう。ですが、楽しくなさっているようで安心しました。私もお手伝いができて光栄ですよ」



 彼の奥さんであるアメリアさんもとっても穏やかで優しい人で色々と良くして下さったけど、旦那さんであるこの方もとっても心優しい人みたい。


 こちらの世界に知らず知らずに来てしまったけど、そんな優しい人達と出会えて私もとても嬉しいな。


 ではまた後日、とこの店を出た。



 ……ら、近くに停めてあった馬車に人影がみえた。それは、この前会った人。



「あ、あの、アルフレッドさん……?」



 私の兄にあたる、アルフレッド・アドマンスさん。でも、どうしてここに? お仕事中のはず、なんだけど……近衛騎士って聞いたから、王宮にいる人だよね? あ、もしかしてなにか任務とか?



「用事は済んだか」


「……え? あ、はい。これから帰るところです、が……」


「ならいい。体調は?」


「あ、大丈夫、です」


「そうか」



 馬車のドアの横に立ち、私に手を差し伸べてくれた。掴まれ、ということらしい。何が何だか分からなかったけど、でもこれは取らなきゃいけないと思い、ありがとうございます、と手を取った。


 このまままっすぐ帰れ、と一言残してどこかへ行ってしまったのだ。……何だったのだろうか。



「ふふ、坊っちゃまったら」


「マリアさん?」


「いいえ、では帰りましょうか」



 ……何だったんだろう?


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