◇13 炊飯器
【お食事処・なかむら】にお母様と二人で来店して数日後、今度はルーカス・レスリート宮廷魔術師総括と来ていた。今私が魔道具をお願いしている方だ。
私の言ってしまった〝炊飯器〟の詳細な説明をする為に来ていただいたのである。
けれど……
「お初にお目にかかります、スフェーン王国ナカムラ男爵家のタクミ・ナカムラと申します」
「妹のナナミ・ナカムラです」
き……き……貴族ぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!?
……と、だいぶ驚いてしまった。
え、どうして貴族? いや、私も貴族になったから、もしかして二人のおじい様も同じパターン?
それを聞きたい気持ちは山々なんだけど、今日の目的は違うしレスリート卿もいるから我慢した。すっっっごく気になるけど!!
「ほぉ~! なんと! 一粒一粒光っておりますな! これが〝ご飯〟というものですか!」
「はい、主食になります」
とりあえずどうぞ、と美味しいご飯をレスリート卿に食べて頂いた。この様子だと、気に入って下さったみたい。これから作っていくにあたってご飯を試食する場面が多々あると思うから、良かった。
たくあんも一緒にどうぞ、とお兄さんが出したらまたまた目を光らせて美味しそうに食べていらっしゃった。うんうん、私も嬉しいです。
「この硬い粒からこれほどまでにふっくらと柔らかいものとなるのですね」
「はい、この土鍋で水と一緒に火を入れるんです」
「なるほど!」
二人にこの店の厨房に案内してもらった。へぇ~、テレビで見るようなお店の厨房って感じ! ここであの美味しい料理達を作ってるのね!
ガスコンロ、冷蔵庫、どれも魔道具のように見える。アドマンス家の厨房と同じようなものばかりだ。そりゃそうだ、この世界にガスなんてないんだから当たり前だよね。
この世界にはガスや電気はなく、ほぼ魔道具が担ってくれている。何とも不思議な世界だ。
「じゃあ見ててくださいね」
「お願いします」
お米を計って、水で洗って、土鍋に水と一緒に入れて、と細かい説明をしながら作業をしているのを遠くから観察している。私、料理出来ないからなぁ……女子力なさすぎる。
浸水させる時間があるからそこでいったんストップ。そしてレスリート卿の質問タイムが始まり、勢いが凄かった。中々止まらなくて二人も困っていたけれど。
浸水時間が過ぎるとそれから火を付けて、と作業再開。〝始めちょろちょろ中ぱっぱ〟って聞いたんだけど……ん? ちょっと違う?
「なるほど……」
「どうでしょうか?」
「色々と検討するところがありますが、可能でしょう」
「本当ですか!」
「えぇ、難しい点が多々ありますので時間がかかってしまいますが」
すごい! 炊飯器作れちゃうんだ! あのラミネーターも私の簡単な説明だけでOK出しちゃったし、やっぱり凄い人なんだ! あ、この国の宮廷魔術師のトップか。
炊飯器があるなら、炊き込みご飯とかも手軽に出来そう! ふふ、楽しみだなぁ。
と、思っていたら私とレスリート卿の目の前に小さなお皿が置かれた。そう、三角に握られた……
「おにぎり!」
「どーぞ」
「ほぉ~可愛らしい形ですな、手でよろしいのですか?」
「はい、そのまま持っていただいて召し上がってください」
「いただきます!」
全部小さめで、のりが巻かれている。あ、こっちは焼きおにぎりだ!
「ん~~~!」
「素晴らしい! この中身は何でしょう」
「これは梅干し、梅の実を塩漬けにしたものです。こっちは昆布のつくだ煮」
レスリート卿と私で全てぺろりと食べ終えてしまった。とってもとっても美味しかった。
ごちそうさまでした、と大満足でレスリート卿は別の馬車で帰っていったのだ。帰って検討してみます! と意気込んでいた。
うんうん、これで日本食ファンが一人増えたかな? 嬉しいなぁ。
「アヤメ嬢、ありがとうございました」
「いえいえ、炊飯器製作のお手伝いが出来て嬉しいです!」
炊飯器が完成するの、楽しみだなぁ。そしたら私でも出来るって事だよね? やらせてくれるかな、コックさん達。……いや、あの人達か保護だからもしかしたらやらせてくれないかもしれない。なら、あとでレスリート卿に安全面とかについてもお話しておこう。
さて、私も屋敷に戻らなくっちゃという時、思い出した。そうだ、今日はミッションがあるんだった。
「あの、お願い聞いて頂けますか?」
「お願い?」
「私、まだお友達、いなくって……なって頂けたら、いいなぁ、って思って……」
同じ日本人の血を引く、しかも同世代の人達と友達になりたいのは普通の事だ。だから、絶対にお友達になりたいと思っていた。
「……本当にいいんですか?」
「俺達、男爵家の子息と令嬢ですよ?」
「でも、貴族でも関係ないと思います!」
「え?」
「公爵家とか男爵家、とか。そういうの無しにしてお友達になりたいです!」
そもそも、私は地球で一般家庭に生まれた。貴族とか、そういうの全然知らないからそもそも関係ないわけで。だから、そういうのはなしでお友達になりたい。
けれど、二人は顔を見合わせていた。ちょっと我儘言っちゃったかな、と今更後悔しちゃったけれど、その心配はいらなかったみたい。すぐに笑顔で私に向き直った。
「じゃあ、お言葉に甘えて」
「アヤメちゃんも敬語使わなくていいよ」
「うん、ありがとう!」
やった、お友達ゲット!
因みに妹のナナミちゃんは私より1つ上、兄のタクミ君は3つ上らしい。
そしてタクミ君より4つ上のお兄さんと、ナナミちゃんより1つ下で私と同い年の妹さんがいるらしく、今は家でお留守番らしい。4人兄妹だという事だ。まさかの大家族に驚きである。
「……はっ!! おじい様の事聞くの忘れた!!」
「如何いたしました?」
「あ、ううん、何でもないよ」
すっごく気になっていたのに美味しいおにぎりで忘れてしまっていた事を馬車の中で思い出したのであった。
仕方ない、今度絶対に聞こう。
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