(3/3)瞳だけは変わらない
目が覚めると現実に戻っていました。関係は『親子』でした。フープは朝ごはんも食べずに庭へ飛び出てしまいました。
大事な鶏を追いかけ回すから、鶏たちが驚いて逃げる。
「やめてっやめてっ」と何度言っても耳を傾ける様子はありませんでした。
許して許して許して許して! 10年分今抱きしめるから許して!!
淋しかったのね。フープ。お母さんにわかってもらいたかったのね!!
だからといって今まるで復讐のように暴れるのはやめて!!!
仕方ないじゃないの。お父さん死んじゃったんだから。お母さんだってお前に構ってやりたかったけど。誰のお陰でご飯を食べてるの?
なんでこんな獣みたいになっちゃったの? あんないい子だったのに。疲れて帰ってくればいつも「お母さん。お疲れさま」って抱きしめてくれたのに。
フープがラムリのところに走って来ました。手に白い花を握っています。グイグイと差し出す。
「マッマァ」
あっ!! 今『ママ!!』って言った。『ママ』って言ったんだわ。
花を受け取るとラムリをギューっと抱きしめました。
「マッマァ」
なんて無邪気な笑顔なんでしょう。何の思惑もなくただただ笑って。『心からの笑顔』ってこういうものでしょう。
それでいつまでも『母子』という名前の彫像のように動かないまま抱きしめあいました。
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フープは昼寝をするようになりました。
最初は何時間もかかったのに、最近は30分ぐらいで眠ってくれるようになりました。
フープがラムリの胸に頬を押しつけて2、3度こすりました。
『まだ起きていたい』『まだ起きていたい』とでもいいたげにブンブンと首を振って引きずり込まれる眠りの世界に抵抗しようとしました。
白い右手がラムリの服をつかんでギューッと布を握りしめました。
「大丈夫よ。フープ。お母さんいるわ。お前が眠っても起きてもお母さんいるから」トントンする。
ラムリは涙をこぼした。涙は雨を集める屋根の樋のようにフープの赤い髪をつたって床に落ちました。ゼリーのように固まって、一瞬跳ね上がってから廊下の端までコロコロと転げていく。
「安心して。もうお母さんどこにもいかないから」
やがてフープはスースーと寝息をたてました。
フープは変わってしまった。あんなにいい子だったのに。なんでも手伝ってくれて文句の一つも言わないで「お帰りなさい! お母さん!」て言ってくれてたのに。今は手のかかる野生児みたい。
でもこの子の目は生まれたときから同じ色です。薄茶の瞳でじっと母親のラムリを見つめるんです。
それでその瞳はずっと同じことを言い続けている。
「お母さん。大好き」
って。
(終)
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【次回】は『ナンシーの星』
『忘却の子供たち』であるナンシーはまゆから出て全てを忘れていました。でもなぜか違和感は感じるんです。ずっとお世話になっていたおばさんもずっと住んでいた家も何かがおかしい。
全12回です。
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2020年10月25日初稿