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「ラン! ルーヴァベルト嬢も!」



 受付係に招待状を渡すランティスの後ろに控えていたルーヴァベルトは、名を呼ばれ振り返った。

 会場である大広間へ続く廊下には、着飾った招待客たちの姿。玄関ホールの高い天井に吊り下げられた豪奢なシャンデリアの輝きを反射して、そこかしこのドレスや上着が眩しい。

 思わず顔を顰めかけ、慌てて微笑の顔を顔に貼りつけた。意外と顔の筋肉を使う。慣れぬ表情に、口端が引きつって頬が震えてきそうだ。

 眩しさに眼を瞬かせながら辺りを見回すと、緩慢に流れる人波に逆らいながら、こちらへ手を振るのを見つけた。

 緩くクセのある亜麻色の髪の男の姿に、小さく、ああ、と息を吐いた。



「アンリ様」



 近づいてくる相手へ、その場で礼を取る。ドレスの端を持ち頭を垂れたルーヴァベルトに、菫の双眸が優しい笑みを向けた。



「こんばんは。今夜もまた美しいね、ルーヴァベルト嬢」


「痛み入ります」


「よければ、顔を見せてくれるかい?」



 小首を傾げたアンリに、すいと顔を上げた。真っ直ぐに見上げた相手と視線が重なると、にこり、笑みを浮かべて見せる。

 彼は驚いた様子で僅かに眼を瞠り…苦笑を浮かべた。



「お化粧、とても素敵だ。色味も貴女にぴったりだ」


「アンリ様と、メイドのおかげです」


「ああ。彼女は本当に優秀だね」



 そう言ったアンリの口調が以前と違い、若干の違和感を覚えた。優しい面立ちから紡がれる言葉は、丁寧な、男性的なもの。

 口には出さず、けれど問うように猫目でじいと見やると、彼は柔く微笑んで肩を竦めた。



「早いな、アンリ」



 受付を終えたランティスが、ルーヴァベルト越しに声をかけた。

 すると、打って変わり眉を顰めた友人は、むっと口を尖らせた。



「君が遅いんだよ。時間ギリギリじゃないか」


「間に合ったのだから問題ないだろ」


「いつもそう言う…まぁ、確かに、遅刻しなかっただけマシか」


「そうだ。褒めてもいいぞ」


「褒めるか!」



 気安いやり取りをする二人に、本当に仲がよいのだなと思う。アンリも招待されたということは、件の主催も共通の友人なのかもしれない。

 顔には笑みを張り付けたまま、ぼんやりそんなことを考えていると、ふと視線を感じた。

 首を捻ってそちらを見やると、アンリの後ろに立つ少女の姿が目に入った。

 緩く巻いた長い髪は絹糸の如く艶やかで、敢えて結い上げず背へ流されている。色は亜麻色。くすんだピンクと薄紫のドレスと揃いのリボンで、髪の一部を編み込んでいるのが、可憐な印象を与える。

 白い肌に、おっとりとした微笑みを湛えた彼女の瞳は…菫色。



「久しいな、マリシュカ嬢」



 ルーヴァベルトの頭上から、親しげにランティスが呼んだ。

 ほっそりとした顎を上向かせるように男を見上げた少女は、睫毛に縁取られた木の実型の双眸を細めた。流れるような所作で礼を取ると、涼やかな声で挨拶を返す。



「お久しゅうございます、殿下。お元気そうで何よりですわ」


「ああ。嬢も益々お美しくなられて…引く手は数多だろう」


「有難うございます。けれど、私などより、殿下のお連れ様の方が、随分お美しいですわ」



 突然話題に上り、内心どきりとする。そのやり取りで、何故自分を引き合いに出すのかと思ったが、顔は平然を装ったまま、誤魔化しついでに小首など傾げて見せた。

 亜麻色の髪の令嬢―――マリシュカの視線がルーヴァベルトに向けられる。

 全体的な色合いのせいか、儚げな印象を受ける少女だった。年の頃は、ルーヴァベルトと同じ位か。面立ちは、並び立つ青年によく似ている。

 彼女は身体ごとルーヴァベルトへ向き直ると、ランティスへしたように礼をとった。



「マリシュカ・ファーファルと申します。お会いできるのを心待ちにしておりましたわ、ルーヴァベルト様」


「ルーヴァベルト・ヨハネダルクと申します…あの…」


「マリシュカは私の妹です。貴女の話をしたら、是非会ってみたいと、今夜を楽しみにしていたのですよ」



 言葉を継いで説明をしてくれたアンリへ、作り笑いを張り付けた顔を向けると、彼はやはり苦い笑みで答えた。

 マリシュカは嬉しそうにルーヴァベルトの側に寄ると、頬を赤らめ言った。



「ご迷惑でなければ、後でお話にお付き合い頂けませんか?」



 ちらとランティスへ視線を向ける。男は是と眼を瞬かせた。



「喜んで」



 練習した通り、双眸を弓なりに、唇を三日月に、笑みを浮かべて頷いた。


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