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泣いているのだろうか、と思う。


 眠る少女の脇に腰掛け、その顔を覗き込む主の姿を直視せぬよう、ミモザは僅かに瞼を伏せた。

 触れることもなく、ただ無表情にそこに座する。燃える色をした赤髪は、今はくすんで黒ずんで見えた。


 時刻は夕刻。ルーヴァベルトが眠りについて、既に数時間が経っていた。寝室の窓から差し込む光は、朱を帯びた橙。季節柄、夕陽は褪せた色合いで、世界を夜へと誘って逝く。


 一件に関し、すぐに主へ連絡が走った。戻ってこられたのは、つい今しがたの事。

 硬質な足音と共に老婆の自室へ入ってきたランティスは、ゾッとするほど綺麗な無表情であった。

 側に付き添っていたミモザは、慌ててその場を明け渡し、壁際で気配を殺す。冷えた灰青の双眸は一度も彼女を見止めることなく、ただ、眠り姫と化した婚約者殿だけに視線を向けた。


 汚れも綺麗に落とし、怪我の手当は済んでいる。けれど、彼女の顔に、腕に、足に、傷跡は生々しく。こびり付いた血は拭えても、それは拭い去れない。


 部屋に足を踏み入れてからこちら、ランティスは一言も発しない。

 ただ、静かにルーヴァベルトの寝顔を見つめているだけだ。


 主と一緒に屋敷に戻ってきた執事殿は、一旦ここまで来た後、すぐにどこかへ行ってしまった。一瞬垣間見えた美麗な横顔は、珍しく歪んでいた。


 ミモザと並び、主の様子を伺っているマリーウェザーも、随分硬い表情で男のことを睨めつけていた。普段、くるくるとよく動く表情の同僚は、どちらかと言えば笑っていることが多い。そんな彼女の、怒りを露わにするといのも珍しかった。ルーヴァベルトが襲われた現場に彼女も居合わせたというのだから、仕方がないことかもしれない。


 徐にランティスが立ち上がった。


 大股に寝室を寝室を出てゆく直前、ちらとマリーウェザーへ視線を送る。それに、彼女は瞠目した。



「ミモザ」名前を呼ばれ、視線だけ相手へ向けた。



 むっと怒り顔のまま、囁くように告げる。



「席を外す。悪いけど、ばあやさんをよろしく」



 リーヴァベルトが寝ると、暫くして老婆もベッドで眠ってしまっていた。たっぷりとしたクッションに埋もれて眠る姿は、周りで起こるあれこれを余所に、穏やかだ。

 黙ったまま、ミモザは頷く。どちらにせよ、少女が眠るこの部屋から離れるつもりはなかった。

 硬い表情のまま、ストロベリーブロンドを揺らし、屋敷の主人の後を追いかけ、マリーウェザーは駆けだした。


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