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40-2

 くすり、と笑い声が漏れたと同時に、ルーヴァベルトがジュジュへ視線を戻した。つり気味の猫目が、不思議そうに向けられている。

 何でもないと首を横に振ると、それ以上気にする様子もなく、彼女は口を開く。



「多分、わが家が、あまり信仰深くないためだと思います」



 ゆっくりと言葉を選びながら、ルーヴァベルトは続ける。「だから…知らず苦手意識を持っているのやもしれません」



 あらまあ、とジュジュが声を上げた。



「私もそんなに熱心な信者ではありませんけれど、そういう話でもないのかしら」


「はい。何と言うか…兄があまり教会をよく思っていなかった…ような」


「お兄様? 研究機関にお勤めの?」



 こくり、と頷く。合わせて、後ろで一つに結んだ黒髪が、緩く揺れた。

 ルーヴァベルトの兄と言えば、歴史に関する研究機関に務めていると聞いている。歴史学は宗教と密接な関係にある。そして、教会と言えば歴史における情報の宝庫だ。

 聞く限り相当な仕事狂いらしいが、そんな人間が「教会を嫌い」というのは、何とも腑に落ちない話である。


 ルーヴァベルトも首を捻り、さて理由は何だったかと記憶を探るが、結局見つけることはできなかった。



「ジュジュ様に問われ、言われてみれば…と思い出した程度なので」



 そう眉を寄せた。

 硬い表情で唇をすぼめた少女に、ふるふると首を横に振る。次いで、笑みを向けた。



「申し上げました通り、ただの好奇心でお伺いしただけですの。そんな顔をされないで」



 顔を覗き込むと、上目遣いの赤茶の瞳と視線が重なる。申し訳なさそうにしょげる様子に、可愛い、と口元が緩んだ。妹が居ればこんな感じだろうか。


 野良猫の警戒心は、徐々に薄れてきているらしい。そう思うと、些細な感情の機微すら、愛しいと感じてしまう。


 愛想のないこの少女が懐いた暁には、一体どのような顔をするのだろう。


 手放しの笑顔を見せてくれるのだろうか。


 考えると、腹の下あたりがもぞもぞとくすぐったくなった。是非とも見てみたい、と期待に胸が膨らむ。


 …きっと、ランティスも、そうなのだろう。


 自分が先にそうなったら、赤髪の男はどんな顔をするだろうか。地団太を踏んで悔しがるか。それとも、ふて腐れて黙り込むか。



(きっと、陰湿な嫌がらせをしてきそう)



 脳裏に浮かぶ王弟の姿に、また一つ、くすりと笑った。



「ジュジュ様」と、ルーヴァベルトに呼ばれ、何でもないと首を振ると、ふと思いついて手を叩いた。



「そうだわ。今度、王城の大聖堂に連れて行ってくれるよう、殿下にお願いしてみてはいかがかしら」


「大聖堂ですか」


「ええ。あそこの装飾は本当に素晴らしいんですから!」



 楽しげなジュジュに対し、ルーヴァベルトの反応はいまいちだ。教会に興味が無い旨を伝えたばかりであるのに、何故そんな話を、と怪訝に思った直後、ジュジュの言葉に目を見開いた。



「大聖堂は、王族が結婚式を行う場所ですのよ」



 結婚式、という単語に、喉がひゅっと鳴った。「え」と漏れた声は、蛙が潰れた鳴き声のように聞こえた。



「王弟殿下の結婚式も、もちろんそこで行われますわ。ですから、ルーヴァベルト様も…」


「ま、待ってください!」



 慌てて話を遮ると、頬をひきつらせる。



「け、結婚式って…だ、誰と誰が」


「まぁ…もちろん、殿下とルーヴァベルト様ですわ」


「…ッ」



 苦虫を噛んだように、顔を歪めた。前屈みに頭を抱えると、何やら唸りだした。

 思った通りの反応を、ジュジュは酷く楽しい気持ちで見守る。

  


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