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32-2

「それで」



 同じくクッキーを口へ運びながら、ヘーゼルナッツの小さな瞳を、興味深そうにルーヴァベルトへ向けた。



「旦那様とはどんな感じなんすか?」


「どんな感じって何が」


「婚約者として関係は進んだんです?」



 瞬間、赤茶の双眸から光が消える。すん、と表情の消えた顔のまま、口だけがクッキーを咀嚼し続けていた。



「そんな顔して…」と、呆れ調子のメイドは、二つ目のクッキーを口に入れた。顔にはにやにやと好奇心を浮かべている。



「でも、旦那様からアプローチはあるんじゃないですか? 二人っきりになったら甘い雰囲気…みたいな」



 ずいと身を乗り出してきた相手へ、更に目を細めた少女は眉間に深く皺を寄せた。そのせいで、可愛らしいピンクのドレスと顔のちぐはぐさがより際立って見える。

 二つ目と三つ目を続けざまに口に入れ、頬を膨らませながら噛み砕くと、ごくりと飲み込んだ。

 期待されるようなことは何もない、と素直に告げるべきか悩む。

 実際、あれ以降ランティスとは何もないのだから嘘ではない。が、一応婚約者として雇われているつもりであるルーヴァベルトが、一切相手に恋愛感情が無いのだと公言することは憚られた。


 それが、屋敷の使用人相手であっても、だ。


 少し考え、ぎこちない笑みを口元に浮かべ、小首を傾げて見せた。



「えー…私がまだ子供だから、様子見してるんじゃないですかねぇ」



 我ながら苦しい言い訳だ、と思う。

 案の定、マリーウェザーが声を上げた。



「あの旦那様が、そんくらいで自制心働かせるはずないじゃないっすか!」


(どんだけ女遊びしてたんだ、あの男…)



 この反応からすると、かなりの数を熟している上、すぐに手を出してきたに違いない。

 確かに、顔を初めて会わせたその日の内に、二度も迫ってきたことを考えれば、納得がいった。ともあれ、あの時言われた内容はよくわからなかったが、きっとルーヴァベルトが自分になびなかったのが面白くなかったのだろう、と勝手に解釈する。口説かれていたと言うよりは、脅されていた感覚に近かったから。


 四つ目のクッキーを半分ほどかじると、僅かに睫毛を伏せた。


 その様子を、机に頬杖をついたマリーウェザーがじいと見つめる。小さな薄緑の瞳は探る様にルーヴァベルトへ向けらえていたが、ほんの一瞬でかき消えた。


 かわりに浮かべたにんまり笑顔で、尋ねた。



「ルー様は? 旦那様の事、どう思ってるんです?」



 不意打ちの質問に、猫目をぱちくりとさせた後、酷く苦いものを噛み潰したように口を引き結んだ。舌打ちをしそうな顔でそっぽを向くと、小さな声でぼそぼそと呟く。



「…好きですぅ」


「嘘だぁ! 絶対に嘘だぁ!」



 今度こそはっきり舌打ちをしたルーヴァベルトは、剣呑な視線を向かいに座るメイドへ向けた。



「嘘じゃない」


「いやいや、嘘でしょ。その顔で好きって嘘でしょ!」


 そう言うと、硬い木椅子の背もたれに身体を預け、腕組みをする。天井を仰ぎ見やると、薄い唇を尖らせた、



「やっぱ旦那様の片思いかー」



 独りごちる。

 ルーヴァベルトからすれば「あんな凶悪な片思いがあるか」と思う。口には出さない。言えば途端に何をされたのかと根掘り葉掘りほじくられるに違いないからだ。



(あの男の真意なんて、私が知るか!)



 腹の奥底でそう悪態をつき、残りの半分のクッキーを、口の中へ放り込んだ。

  


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