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9-2

 怒らせたいのだろうか、と思った。

いっそ一発殴ってやれば黙るかもしれない、と半ば投げやりな気持ちで、サンドイッチに手を伸ばした。手にとる直前で、小さく「頂きます」と手を合わせると、一つをつまんで、マナーも無視でかぶりつく。

 きめ細かい食パンに、蒸した鳥と野菜が挟んであった。千切りしたキャベツを油と塩で揉んだものと、薄く切ったアボガド。口の中に広がるオーロラソースは、さっぱりとしていて具材とよく合う。


 一口目で、ルーヴァベルトが俄かに目を見開いた。もぐもぐと口を動かすたびに、表情がかわってゆく。ごくり、と飲み込むと同時に、ほう、と息を吐く。その視線は、残りのサンドイッチに注がれていた。


 二つ目を手に取り、かぶりついた。あっという間に食べきってしまい、次に手を伸ばす。

 無心に食べ続ける様子を、ランは面白そうに見つめていた。邪魔をしないように、黙ったままで。


 あっという間に一皿平らげ、ティーカップの紅茶も空にした。


 ふう、と息を吐いたルーヴァベルトは、茫然とした表情で空の皿を見つめる。二、三度目を瞬かせると、不意に口元を緩めた。



 一瞬のことだった。

 彼女は小さく、笑った。



「…っんっ!」



 息を飲む音に、ルーヴァベルトが顔を上げる。向かいに座る赤毛の男は、何故か両手で顔を押さえていた。


 怪訝げに眉を顰めると、顔を抑えたまま、ランがくぐもった声で言った。



「…俺のサンドイッチも、食っていいぞ」


「はぁ?」


「俺、今、全然腹減ってないから」


「はぁ」



 何なんだこいつは、と思ったが、ルーヴァベルトは素直に言葉に従った。空の皿を除けると、サンドイッチがこんもりと盛られたままのランの皿を引き寄せる。もう一度、頂きますと手を合わせ、先程と同じように猛烈な勢いで食べ始めた。


 その様子を、ランは黙ったまま見つめていた。その顔からは、いつの間にか笑みが消えていたが、ルーヴァベルトは気づかない。口元を抑えているせいで、顔に浮かぶ感情が隠されてしまっていた。



 二皿目も綺麗に平らげたルーヴァベルトは、最後にもう一度、手を合わせた。



「ごちそう様でした」



 二人分のサンドイッチに、胃が幸せな状態で張っている。少しばかり苦しいが、満足だった。


 こんなに食べたのは久しぶりだった。普段は家計を気にして、少しばかり遠慮している。職場で出る賄いは多めに食べさせて貰っているが、やはり遠慮があって「お腹いっぱい」を感じる程食べられるのは稀だった。



「満足したか」



 問いかけに、素直に頷いた。

 腹が満たされて、心に余裕ができた。あまり感じていなかったが、腹が減っていたのだなぁ、とぼんやり考える。先程まで胸の中に感じていた嫌な気持ちが、少しばかり消えた気がした。



「美味しかったです」と頭を下げた。



「ありがとうございました」


「よかったな」



 いつの間にか、笑みを顔に戻したランは、小首を傾げて頷く。それから、ゆっくりと続けた



「素直に話を受けたのは、家族の為、か」



 一瞬、少女の表情が強張る。眉を顰めた彼女に、ランは柔い笑みを返す。


 一拍置いて、ルーヴァベルトは息を吐いた。「そうです」


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